8月52日
露野茉乃
1.レモンティー額の汗と結露する
「人生の半分、損してるよ?」
女性に言われた。私と同じ空間にいて、私と同じ制服を着ている。
ーーークラスメイトだ。
私はレモンティーを飲んだ事がなかった。
そんな私に彼女が言った言葉だった。
高校は夏休みに入ったが、すぐに課外がある。なんだか今年の夏は非常に暑くて、何かしらが地球のツマミを間違って弄ってしまったのではないかと疑ってみたりした。
幸い、駅から学校まではバスが出ている、が、
私はバスに乗らなかった。バスが生徒でいっぱいになって出発して学校へ到着するまでの時間は、私の早歩きより五分ほど遅いのを知っていた。
その日、私は汗だくで学校に着いた後で、制服のポケットから200円を取り出し、自販機の前で少し悩んでから、好奇心に負けてレモンティーを買った。
夏がそのまま落ちてきたような音がした。それから少し遅れて、小銭が落ちる音がした。全部十円玉だった。
結局、私は人生の半分を損していなかった。
なんともない味がした。夏みたいな明るい黄色の液体が、私を感動させることは無かった。
結局は、夏なんてそんなもんじゃないか。
それでも、机の上に水滴の輪を描いた黄金色の液体は、湿度の高い空気でぼやけた教室と、薄い青色のつまらない空の下で、一番冷たい物体である事だけは間違いなかった。
____暫くして、私の友人がジュースを片手に持って教室へ入ってきた。 彼は気だるそうな声で
「汗かいちまった」
と言って、額の汗よりも先に結露したペットボトルの汗を、水滴を、タオルで丁寧に拭いていた。
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