探索
正午の一時間ほど前に、メンバーはデパートに来ていた。
「まったく普通だね。この下に吸血鬼のねぐらがあるなんて、ホントにここなのかな?」
梨花が呟く。
「一見普通のデパートの風景だけど、微かに血の臭いがするわ」
そう言うエリゼの顔色はまったく普段と変わらない。
「姉さんの鼻は信用できます。わたしも凄く嫌な予感がします」
エリカは少し怯えているように見えた。見た目はよく似た姉妹だが、表情のせいで全然違う人物に見える。
(し、しかし、俺たちの様子は変に見えないのかな?)
当摩達は完全武装で現地入りしていた。
バッグに入っているとは言え、神奈はライフルを持っているし、梨花ちゃんは拳銃を持っていた。京史のクボタンなど可愛らしく思えるくらいだ。エリカは真剣を持っているしアリスに至っては自動小銃をぶらさげている。周りの人間にはエアガンか何かと思われているのだろうか。
「まずはエレベーターから調べるわよ」
ツカツカと歩いて神奈はエレベーターに入る。
「地下五階……は無いわね」
「えっ⁉ あるよ」
当摩の目にははっきりと地下五階の押しボタンが見える。
「幻術かの、わらわにも見えなんだ」
「押してみる?」
当摩が訊くと。
「いや、エレベーターから行くと罠があるかもしれん」
と、アリスが言い。
「階段なら罠が無いという保証は?」
エリゼが訊いた。
「解らん、ただ獲物はエレベーターを使って地下に誘導していたようじゃ、獲物用のトラップがある可能性は高い」
「階段以外には乗用車用の通路を通って入るくらいかしら」
「それが一番安全そうね」
一同は階段で地下四階まで降りたあと、駐車スペースへ出た。
「一見したところ、下へ続く道は見当たらないわね」
「えっ⁉ こっちにあるよ」
「何と言うか……当摩……今日は凄く役に立つのね」
「そ、そうかな?」
「やっぱり勝機は当摩が
そう言って神奈はバックから武器を取り出した。
「白木の杭に……ハンマーか」
杭は三本あり革のベルトに装着されている。
「たぶん、これを打ち込める人間はあなただけだと思う、チャンスだと思ったら
「うん……」
小さく頷いて受け取る。
「で……通路はどこじゃ?」
「こっち」
当摩は迷いなく歩いていく。
「ここにあるけど」
「壁にしか見えないわね」
神奈が歩いて行って、途中の空間でコツンと頭をぶつけたみたいなリアクションを取る。
「壁じゃない」
「え、でも」
神奈が頭をぶつけたあたりの空間に手を入れる。当摩にとっては何もない空間だ。触れた直後に魔力が弾けた。
「えっ⁉」
「おおっ! 確かに通路だね。すごいすごい」
梨花がはしゃぐ、一同からも感嘆の声があがる。
「最強クラスの魔術結界をこうもたやすく解くとは、たしかに凄まじい力よの」
一同の目の前に暗い闇の空間が広がる。
「昼間の吸血鬼はかなり力を落としているけど、それでも恐ろしいバケモノであることは変わらないわ。ブラッディ・マリー自体もそうだけど、使徒のブードゥーのバーサーカーも
神奈の言葉に一同は深く頷いた。
「先頭は僕が受け持つ」
マグライトを構えた京史がゆっくりと暗闇へ入っていく。マグライトは一時期警察官なども使用していた警棒にもなるライトだ。京史が持つと恐ろしく様になる。
「銃を持っている人は、むやみに発砲しちゃダメよ。この暗闇の中では同士討ちが一番怖いわ」
暗闇の中でライトを持つ京史はかなり目立つ存在だが、これは
京史はメンバーの中でもかなり厳重に魔法による保護がかけられていた。先制攻撃の銃弾などはまず当たらないだろう。矢除け以外の加護は平均並みだが、この場合狙撃をもっとも警戒しての装備だ。
闇の中をしばらく進むとビーと警報音が鳴った。何かが近づいてくる。
「侵入者を補足しました。ノンゲスト、敵性対象と判断」
無機質なAIの声がする。声を発している物体はスターウォーズのR2D2を思わせるような、筒形の胴体に車輪の付いた足があるロボットだった。
「カラクリ使いのドローンよ」
全員が一斉に戦闘態勢へ入る。
「モード、スタンバトンで鎮圧します。ご注意ください」
ドローンの胴体からにゅっと手の様な部品が伸びる。先端には警棒のようなものが付いていて、バチバチと電気を帯びているようだ。
「シッ!」
京史がドローンの頭頂部めがけて、マグライトを振り下ろす。
ガキンッと大きな音が鳴った。
「※!! ‼ ⁉ !」
それなりに効いたようだが、ドローンは止まらない。
続いてガーンと音が鳴った。神奈のライフルだ。ものの見事にドローンの中心部に命中させる。
「ビッ! ガガッ! 継戦不能」
「皆っ! そいつから離れてっ! 自爆よっ!」
皆は素早く物陰に隠れたが、梨花だけが一瞬遅れた。
(あっ! まずいっ!)
当摩も物陰に隠れていた。手を伸ばそうにも、ここからでは間に合わない。
その時、一つの人影が梨花の元に走り寄って、とっさに
続いて爆発音が鳴り響く、それほど大きな爆発ではなかったが、パイナップル手榴弾程度の威力はあったようだ。
爆発が治まると当摩はすぐに梨花の元へ駆け寄った。
梨花を庇ったのは京史だった。背中を負傷している。
「護符のおかげか……何とか軽傷で済んだ」
「どこが軽傷なの酷い傷よ」
神奈が叫ぶ、金属片が背中に食い込んでおり、かなり出血している。
「ごめんなさい……あたしのせいで」
梨花が泣きそうな顔で、京史を抱きしめる。
「仕方ないわ、梨花は京史を連れて脱出して」
「で、でも」
「どのみち京史君はもう戦えない。この場に残して人質にされるのが一番まずい」
エリゼの冷静な判断だ。
「う、うん。あたしの責任だもんね、必ず無事地上まで連れて行く」
「護符の魔力が切れてなければ、たぶん脱出は上手くいくと思うわ」
梨花はコクリと頷くと当摩の前に来た。
「これ、持って行って」
当摩に拳銃を渡す。部活の時間にいじったモデルガンよりずっしりと重かった。ブローバック式の自動拳銃だ。
「使い方、わかる?」
「部活の時に教えてくれたよね」
「そう、基本的には教えた通り、セーフティを外して、スライドを引いて弾倉に弾を入れて、引き金を引く」
「たぶん、出来ると思う」
「うん、地上に出たらダメ元で陰陽寮に応援を呼んでみる」
「そうだね……頼んだ」
政府陰陽寮は千年生きる吸血鬼を討伐することなど不可能だと判断していて、今回の討伐任務にも人員を寄こさなかった。
「当摩君たち皆も気を付けて」
梨花の肩を借り、京史は歩き去った。去り際に振り向いて当摩を見た。
「当摩、お前ならきっと勝てる」
「うん……ありがとう」
当摩はバシッと顔を叩いて気合を入れる。
「さっきのドローン、魔術の仕掛けじゃなくて、完全な機械仕掛けみたいです。この一帯の電波通信をジャミングします。当摩君、魔術の使用許可を」
「いいよ。やって」
エリカがノートパソコンとアンテナの付いた機械を取り出して、凄い速さでそれを操作した。これも自動書記だ。
「それで動けなく出来るの?」
「今、ドローンをハッキングしてます。あれ、五つもあったみたいです。主電源を落として……よし! これでしばらくは動かせないはずです。対策される前に奴らを倒しましょう」
(エリカちゃんも何気に凄い女の子だな)
こんな娘を性奴隷とかいって、エッチしまくっているのが未だに信じられない。
「ライトはわたしが持ちます」
予備のマグライトをエリカが構えた。
「進みましょう」
駐車場の奥はもっと闇が深かった。なにか生き物の体内に入ってしまったような気がした。
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