特訓
「なかなか呑み込みが早いわね」
訓練開始時には素人同然だった当摩の動きは、三人のコーチによってめきめきと成長を見せた。
「自己流で崩れていた型も、思いのほかすぐに綺麗になりましたね」
とエリカは満足げ。
「フットワークもぼちぼちだ。素人くさいところがだいぶ無くなってきた」
京史の目から見ても当摩の成長力は大したものだと思った。
「でも……」
やっぱりジェシカの教え方が物凄く上手いのだった。
(達人なのに素人の俺のこと、まるで全部わかっているみたいだ。いや、これが本当の達人ってやつなのかな)
しかし、実践形式の練習を始めると、さっそく壁に突き当たってしまった。
「戦士当摩。あなたの剣は素直すぎる」
「う……」
「ただ真正面から攻めて、倒せるのは格下だけ。戦いには何というか……こう駆け引きがあるの」
「でも……そんなのどうやってやればいいのか解んないよ」
ジェシカはう~んと唸る。
「戦士当摩。例えばフェイント一つとっても、初心者と達人とでは全然違う。達人はより真に迫った斬撃を見せるだけじゃなく、フェイントのつもりだった斬撃が有効だと解ったらそこからすぐに攻撃に移れるの」
そこへエリカも割り込んでくる。
「当摩君のフェイントは一見するだけですぐにブラフだと解る。性根が素直ですから。それはそれで剣道だったら直さなかったかもしれないけど、当摩君の敵は魔王教団と教祖のブラッディ・マリー。率直に言って凄く
「とりあえず。これを見て」
エリカの手にはスマホがある。
「当摩君の動きを動画にしてみたの。これを見れば自分を客観的に見られる」
「ほう……確かエリカちゃんの世界のコンピュータとやらの仲間か」
「ええ、スマートフォンって言います」
ジェシカは興味深そうにスマホを眺めた。
「これは、戦士当摩の動きがよく撮れている。やはりエリカちゃん達の世界は技術が進んでいるな。一般人は魔法はおろか魔術さえ使えないと聞くが、わたしから見ればその技術がすでに魔法のようだよ。月にさえ行けると聞いたけど、一度そちらの世界へ行ってみたいものだ」
「召喚勇者マジックシステムが存在しないから、
「そう、でも今、当摩君はこっちに集中」
「う、うん」
そんな感じに当摩のトレーニングは一週間ほど続き、短期間で覚えられるテクニックは全て叩き込まれた。
「一応、一人前と言ってもいいんじゃないかしら。戦士当摩、よく頑張ったな」
「うん、ありがとうジェシカさん」
汗に濡れた当摩は荒く息をつきながら、ジェシカに礼をのべた。
すべての課題をやりとげた当摩の顔には自信に満ちた笑顔があった。
「戦士当摩にはハーフエルフ流の最期の試験、百人組み手をやってもらう」
「百人ってそんなに人いるの?」
「ふふっ、百人と言ってもハーフエルフではない。モンスターだ」
ジェシカいわく、この付近にリザードマンの沢山わくダンジョンがあるという。リザードマンは意思疎通こそできないが、高い知能をもちそこそこのレベルで剣を扱うという。
モンスターのランクはBランク、今の当摩なら一対一なら楽勝な相手だが、百となると魔法障壁を持たせたまま勝つのは難しいくらいの試練だ。
「斬撃を効率よく受け流して、相手の隙を見て素早くそこを突く。今までの訓練がきちんと身に付いていれば何とかこなせるはずだ。戦士当摩」
「う、うん」
※
「なんだかダンジョンも久しぶりだな。最近はずっと訓練だったからクエストも溜まってるのかな?」
「溜まってないですよ。神奈ちゃんと梨花ちゃんがバリバリとクエストをこなしてお金を貯めているそうですよ」
そのダンジョンは石造りの廃墟で、その昔はコロシアムだったそうだ。当時の残酷な風習で賭けのために奴隷同士や奴隷とモンスターを戦わせていたそうだ。
そのせいでマナが汚染され、モンスターが
まずは感触をつかむため道中のリザードマンと戦ってみたが。
「うん、一匹なら楽勝だな」
(思ったより動きの切れもいいぞ、朝も快食快便だったし、これはイケるか)
「そうだな、当摩もかなり成長した。加賀谷とやりあっていたころとは別人のようだな」
「えへへ、そうかな?」
当摩は褒めれば木に登る性格だ。早速油断していた。
「当摩君! 気を引き締めて下さい。わたしたちは試験に失敗しても魔力を使えば蘇生できますが、今はジェシカさんもいるんです」
「えっ! う、うん。ごめん」
「はは、わたしはリザードマンには後れを取らないよ。ここの百人組み手くらいは余裕をもって出来るくらい鍛錬は積んでるわ」
異世界人のモンスター狩りは、かなりの安全マージンを取って行う。一度死んだらそれきりなので当然なのだけど。
このダンジョンくらいならジェシカにとってはかなりぬるい部類に入る。
「さあ、コロシアムが見えてきたぞ」
小さな入り口の向こうに、開けた空間が見える。そこにはかなりの数のリザードマンがいた。
「当摩君、突撃よ」
「うん、行ってくる」
当摩が先行し、コロシアムへ躍り出ると、さっそく近くのリザードマンが反応した。
そして、残りの三人がコロシアムへ入ると、突然入ってきた通路のゲートが閉じた。
「なんだっ!」
「まずい……ハメられましたね」
コロシアムにはリザードマンの他、身長五メートルほどのゴーレムと動物の革のマスクを被り、巨大な剣をたずさえた男が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます