VS工作員
現実世界と一緒で異世界グレイルも春なのか、桜とは微妙に違うピンクの花が木に咲いている。明るく暖かくいい陽気だ。
いつものように冒険者ギルドでクエストを受け、オカ研メンバー四人で街の中を歩いている。
「どうやら釣れたみたいね」
神奈が嬉しそうに笑う。
「尾行は二人いますね。
(ええ~全然わからん、この二人どうしてわかるんだ)
当摩が二人を化物を見る目で見つめると、梨花が面白そうにクスクス笑いをする。
「大丈夫、あたしもわかんないから」
どうやら武術の達人や魔術の達人には気配が読めるらしい。
現実世界で警察やスパイ、探偵なんかの技術に長ける人間は異世界グレイルでも
「尾行は二人だけみたいだけど、たぶん十数人のグループね」
神奈が軽く髪をかき上げ、続ける。
「仮想敵ともいえる独裁国家でもこんな過激な暗殺にGOサインを出すの小国だけだと思ったけど、この洗練された動きの感じ大国の諜報員が絡んでるわね」
「だ……大丈夫かな?」
当摩は少し怯えていた。
神奈は立派な日本国の重要人物だ。ショッピングモールで一般人の相を見て、災難の相が出ている人間にはお守りをあげたりしているが、神奈の顧客の大半は超VIPな人物ばかりだ。それだけ神奈の魔術は色んな意味で恐れられていた。
「でも、異世界で暗殺ができるなんて、しかしこれって国際法違反なんじゃ」
「異世界だろうとリアルだろうと、国内でも国際的にも呪殺は犯罪よ。でもまあ検挙なんてほぼ不可能だけどね」
「そんなのに狙われ続けたらいつかはやられちゃうんじゃない?」
当摩は半分泣きそうになっていた。
「まあ、今回の蟲毒を作ったやつはアメリカの黄金の魔女が特定してくれて、体毛まで採取してあるみたい」
「えっ! そうなの?」
「ええ、後でくれるらしいから、日本国のお墨付きで堂々と呪殺できるのよ。楽しみ♪」
神奈の笑顔が怖かった。
「ちゃんとした蟲毒が作れるやつなんて、ユーラシア大陸中探したって、一人いるかいないかくらいだから。そいつが死んだら、もう、こんな真似はできないわ」
「そっ、そうなんだ」
自分には効かないことがわかっているが、神奈の呪殺は怖かった。
「さて、敵も
「う、うん」
当摩はかなり緊張していた。他の三人がまるで平然とした顔をしているのもちょっと怖かった。
街から少し離れた原っぱにでると、どこに隠れていたのか、頭巾を深々とかぶり口元も布で隠している黒づくめの忍者みたいな男たちがワラワラと現れる。その数十三名。
「黒の魔女、黒崎神奈だな。悪いがその命、
他の黒頭巾より一回り背の高い男がそう言った。表情はうかがえないが、どこか笑っているように見えた。
「いかにSランク冒険者と言えど、我ら十人以上の連携攻撃には耐えられまい、毒針を一刺しされたらそれで終わりなのだからな」
男たちが一斉に腰から毒針を抜く。
「よし、当摩、突撃よ」
「えっ! ええっ! えええっ!」
「いいから突っ込む」
神奈は容赦なく当摩の尻を蹴る。
「うわ~ん」
当摩はヤケクソになって走り出した。
男たちが手に持った毒針で当摩を突き刺す。
「いて、いてててて」
「ははっ! これでこいつはお終いだ」
「うっ……うううう……って何ともない?」
当摩はケロリとしていた。
「馬鹿なっ! 即効性の魔術毒のはずだぞ、刺されれば一息の内に死ぬはずじゃ」
男たちがもう一度突き刺す。
「いてっ! 痛いよもうっ!」
やっぱりなんともない。
当摩が剣を振って暴れると、工作員たちは当摩を囲み、なんとかその動きを押さえようとする。
「当摩っ! 時間稼ぎご苦労様……今、魔法が
「行きなさいっ! 天の
みるみるうちに空が赤くなり、異様な雰囲気が辺りを支配する。
ごごごごごっ! と空が鳴る。
「
次の瞬間、閃光と
「うっ! うわぁ! ちょっ! これって! 当摩君っ!」
爆心地から離れた場所にいた梨花と京史の魔法障壁もごっそりと削られる。
凄まじい爆風が過ぎたあと爆心地は塵も残らず粉々になって消滅していた。
爆発のあと辺りは静まりかえり、眼前にはクレーターができている。
「ひどいよ神奈ちゃん、こんな死に方させられたら、当摩君だってトラウマになっちゃうよ」
梨花が神奈に食ってかかる。本気で怒っているようだ。
しかし、次の瞬間にはポカンと口を開ける。
「うわぁ……びっくりしたぁ、神奈ちゃん隕石おとすなら、先に言っておいてよ」
「イヤよ。言ったらあなた逃げたでしょ」
「そ……そうだけど」
そこには、針で刺された傷以外、完全に無傷な当摩がいた。
※
(ヤバイ……ヤバイぞ。三大魔女なんかに目を付けられたらどんな目にあわされるか)
多額の報酬に目がくらみ、神奈の毒殺に協力したはいいが、結果は失敗。今度は逆に自分の命が狙われることになった。
地下鉄の駅で電車が来るのを待つ。このまま空港に行って、三大魔女の影響が少ないと言われる東南アジアへ逃げるつもりだった。
「見つけた……あはぁ♪」
耳のすぐそばで女の声がする。
「ひっ! ひいいっ!」
突然身体が動かなくなる。
「逃げようったってそうはいかないわ、あなたはもうわたしの呪術の射程内」
女がそう言うと足が勝手に一歩前へ進む。
そこへ電車がやってくる。また足が一歩前へ進む。
(嫌だっ! 頼む死にたくないっ! 助けてくれ)
男は叫ぼうとするが声が出ない。
「人のことを殺そうとしておいて、自分が殺される時は命乞い? そんな虫のいい話があるわけないでしょ」
そのまま線路へ落ちていく、高鳴る
「うっ! うわぁぁぁぁっ!」
全身に恐るべき激痛が走ったあと、男の意識は闇に落ちていった。
ふと……目が開く、自分はまだホームに立っていた。乗ろうとしていた電車がちょうど走り去るところだった。
冷や汗を恐ろしい量かいていた。ゴクリと喉が鳴る。
「この通り、あなたの命はわたしの
赤く目の光る黒髪の女が後ろに立っていた。女は美しすぎるくらい美しく、それが逆に怖かった。
「ど……どうすれば助けてくれる?」
「このままアメリカに行き、ニューヨークのUSWS(合衆国魔術協会)に出頭なさい、そこであなたは協会の犬になって働くの。あなたの
「か……寛大な処遇……感謝する」
中国最強の魔術師といわれ、有頂天になっていた。時の政権の敵を散々呪殺し、金を荒稼ぎして自身の能力に酔った。しかし、自分など三大魔女と比べれば子供のようなものだった。
※
後日、神奈は無事に大元帥法を終え、今回の騒動は一応幕が下りた。あまりに見事に修法を行う神奈がすごくカッコよかった。
この修法を恐れたのかどうかはわからないが、その後、周辺国との外交は友好的に進められたという。
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