A級ダンジョン魔石争奪戦

 そのダンジョンは石造りの神殿を思わせる廃墟だった。


「うわっ! あっちにもこっちもモンスターが」

 モンスターの多くはゴブリンやオークといった人型モンスターだった。普通のダンジョンにいるのが小学生くらいの体格だとしたら、このダンジョンのゴブリンやオークは白人のボディビルダーのような筋骨隆々きんこつりゅうりゅう体躯たいくをしている。


「よっしゃぁっ! 食らえ、魔物ども」

 さすがに剣が得意で異世界慣れしているだけあって、加賀谷は強かった。次々とモンスターが倒されていく。


「うう……俺だって」

 当摩も意を決してゴブリンに斬りかかるが、相手の魔法障壁を破れない。

 ゴブリンの反撃を受け、当摩の魔法障壁がごっそりと削られる。


 危なくなったと見るや、梨花が土の巨人タイタンでフォローしてくれるので、怪我こそしなかったが、魔石は全然集まらなかった。


「神奈ちゃん、ちゃんと魔石を数えておいてくれよ」

 加賀谷は勝ち誇り、完全に勝利を確信しているようだった。

「ええ、もちろんよ。不正なんてしないわ」

 最後尾から魔石を拾いつつ歩く神奈、特に動じた様子もなく淡々としている。


「だいぶ差を付けられちゃったけど……大丈夫なの? これ」

(まずいよ……でも全然倒せる気がしない)

 当摩は焦りはじめていた。心臓は高鳴り、緊張に冷や汗が滲む。


 結局、当摩はひとつも魔石を手に入れることなく、ついに最深部まで来てしまった。


「さて、いよいよラスボスね。ここのボスはちょっと特殊だから、公平をきすために少し説明するわ」


 石造りの大きな魔法陣があり、その中央にガーゴイルというやつなのだろうか、羽が付いた悪魔のような石像がある。


「あの石像がラスボスよ。あいつはあそこから動くことはないわ、そして奴の魔法障壁は敷かれた魔法陣の一番外側にある。障壁は普通に素通りできるけど、弓や魔法で攻撃しようとすると完全に弾かれるわ。そして、魔法陣の中に入るとやつは魔法で攻撃してくるの」


「短期決戦で一気に片付けるのが正着か」

 加賀谷はまだまだ余裕がありそうだ。対する当摩は一匹もモンスターを倒せなかったが、すでに疲労困唄ひろうこんぱいだった。


「当摩」

「な、何? 神奈ちゃん」

「自分を信じて突っ込みなさい、あなたなら大丈夫」

「へっ⁉ う、うん」


「はっ! さっさと始めるかよ」

 加賀谷が先陣を切って、当摩もすぐあとに続く。魔法陣を越えた瞬間、ガーゴイルの目が光り、光線が放たれた。


「ひっ! ひいぃぃぃっ!」

 悲鳴をあげたのは加賀谷だ。見れば光線の一撃で加賀谷の魔法障壁は完全に打ち砕かれていた。次にあの光線が来たら黒焦げになるだろう。

 加賀谷は腰を抜かしつつ、魔法陣の外へ這い出る。


 対する当摩は。

「うわぁ……びっくりした」

 光線が直撃しても、肌に火傷ひとつ付かなかった。


 そのまま当摩はガーゴイルに近づいていく、ガーゴイルは何度も光線を放つが、当摩にはまったく効かなかった。


「えいっ! えいっ!」

 当摩はガンガンと石像を剣で叩く、しかしかなり硬く傷もつかない、このままでは剣の方が刃こぼれしそうだった。


 当摩はとっとっとと歩いて帰ってくる。その背中にも何度も光線が直撃するが、やっぱり傷ひとつ負わない。


「ダメだ……硬い」

「のみとトンカチならあるわよ」

「サンキュ~借りてく~」


 そうしてのみとトンカチで削ること数十分、バカッと音をたてて石像は崩れ落ちた。

「やったっ! 倒した」


 石像が塵のようになって崩れ去ると、一際大きく輝く魔石が残された。

「おお~すごい、大物だっ!」

「これで決まりね。この魔石の価値は加賀谷君が集めた魔石の合計の価値より上だわ」

 対する加賀谷は顔を真っ赤にして怒りだした。


「こんなのは全然公平じゃないっ! 当摩のよくわからんチートみたいなエクストラスキルのおかげだろう!」

「でも、あなたはそのスキルに負けたのよ」

「くっ! 納得できんっ!」


「じゃあ、こうしましょう。加賀谷君にチャンスをあげるわ。これから当摩と一騎打ちをして勝ったら当摩を追放しましょう。そしてあなたを正式にブラックマジシャンズに加入させるわ」

「おおっ……おおっ」

「当摩もそれでいいわね?」

「えっ⁉ よくないよ」

「いいから、黙っていうことを聞きなさい」

 神奈がにらみつけると、当摩はしぶしぶと同意した。


「先に相手の魔法障壁を破壊した方が勝ちよ。相手を傷つけてしまったら反則負けになるから注意なさい」

「ふふっ……さっきはよくわからんエクストラスキルにやられたが、剣で俺が村人に負けることなんて有りえない」

「うう……俺、剣の試合なんてしたことないよ」

 当摩は明らかにビビっていた。そして、神奈はなにかよくないことを企んでいるような顔をしていた。


「さあ、行くぞ村人ヤロウ、俺の剣を受けてみろ」

 加賀谷は余裕たっぷりに大上段から剣を打ち下ろしてくる。

 しかし。

「なっ! 俺の剣が弾かれる?」

 加賀谷の剣は当摩の魔法障壁に弾かれた。障壁を削ることもできない。


「あれっ? なんだろう……えいっ!」

 当摩が適当に剣を振って斬りつけると、加賀谷の魔法障壁は一撃で破れた。

「そこまでよっ! 勝者当摩!」


「な……なんでだ?」

 加賀谷はその場にへたりこんだ。


「ここのガーゴイルを倒したことで当摩の魔力はB+冒険者並みに上がっていたのよ。B-の加賀谷君では太刀打ちできないくらいにね」

「俺は……当摩ごときに負けたのか……」

「あなたの慢心まんしんがまねいた敗北よ」

「くっ……」

 よほど悔しかったのか加賀谷の目から涙がこぼれた。


「神奈ちゃん……修行して出直してきます」

「あなたにも常人にはない才能があるわ、それを磨くといいわ」

 加賀谷は神奈に頭を下げると、その場を去った。


 ※


「さて、再度のジョブ鑑定よ。B+だからかなり進歩しているはずよ」

 神奈はウキウキと嬉しそうだ。


 冒険者ギルドの一角で当摩の再審査が始まった。僅か数日での当摩の進歩ぶりにギルドのお姉さんもおどろいていた。


「たしかに魔力量はB+ですね。冒険者ランクはBで問題ないですよ……さて、ジョブですが……出ましたっ!」

 オカ研一同の目がお姉さんに注がれる。

「見習い戦士……ですね」

「はぁ……すっごく期待してたのに」

 と、梨花は苦笑気味、神奈は明らかに落胆していた。


「おかしいですね。Bランクで見習いなんて聞いたことがありません。ポテンシャルの上限がかなり高い可能性もあります」

「そう……ね。これからもっと伸びるのかもしれないわね。鍛えがいがありそうでよかったわ」

「また戦わされるのか……」

 当摩はがっくりと肩をおとす。神奈の魔眼はイキイキと輝いた。


 余談だがこの日以降、加賀谷が寺島をいじめることはなくなった。

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