秋のセールに行ってみよう!

小道けいな

上:武装探偵社

 泉 鏡花は武装探偵社の建物に向かう途中、一つのポスターに気付いた。

「この時期に特売がある?」

 夏や年末年始はよく見るが、残暑の中、秋が深まり始めるこの時期なのだろうか、と。

「鏡花ちゃんどうしたの?」

 中島 敦が買い出しの荷物を持ってやってくる。

 鏡花は「なんでもない」というが、視線を逸らす前を敦はとらえる。

「へぇ、商店街で特売の催しがあるんだ……夏じゃなくて?」

 やはり同じ感覚であり、鏡花は同意するようにコクッとうなずく。

「行ってみようか」

「でも、買いたいものない」

 敦は鏡花が見ていたことを考えて、行ってみることを検討する。

 催しは10日間開催され、まだ始まったばかりだ。

 二人は、どちらとなく、建物に入ろうとした。


「国木田くーん、服が伸びちゃうよ」

「伸びる素材じゃない!」

 という、聞きなれた声がしたので、敦と鏡花は壁に寄った。

 国木田 独歩と太宰 治が出てくるのだが、太宰は国木田に首根っこをつかまれ引きずられているのだ。

 仕事に出かける予定なのは敦も鏡花も日程として知っていたし、まだいたのかという気にもなる。とっとと通す方がいいに決まってる。

「敦くーん、国木田君がひどい」

 太宰がそう訴えるが、これまでの状況を考えみれば、出かける時間を伸ばしたのは太宰だろうと分かるため、敦は何とも言えず見送るにとどめる。

 引きずられる形で太宰はポスターに気付く。

「おや、商店街で催しがあるんだね」

「貴様は今から仕事に行くんだ! もう、一分、いや、一秒たりとも無駄にできん!」

「ええー? ま、仕方がないか……敦君と鏡花ちゃんはいっておいで」

 太宰が手をひらひらさせる。

「世の中にはウインドウショッピングというものもあるからねえ、行ってみればいいんだよ」

 太宰の声は徐々に遠ざかる。

「ウインドウショッピングなど勧めれば、余計なことに金を使うことになる」

 国木田が振り返り、敦と鏡花に念を押した。

 それでも歩みを止めない中、太宰が「その口調だと、行ったことがある? そして、何を買ったのだね! 教えたまえ」と言葉の裏を捉えた。

「さっさと行くぞ」

「ええ、国木田くーん」

 鏡花は無言を貫き、敦はどうしていいか考えている間に、二人の姿は消えたし、声も雑踏に消えた。

「国木田さんの無駄遣い……気になる……」

 理想を掲げ、予定をこよなく愛する人が何を唐突に買うのか。

 唐突に買うほど魅力をその瞬間には見つけたのだろう。

「……気になるけど、まぁ……中に入ろうか」

「うん」

 二人は、建物に入った。


 敦と鏡花は探偵社の廊下で、与謝野 晶子と会う。

「お帰り。敦、あったかい?」

「はい、これでいいんですよね」

「上出来」

 与謝野が荷物を受け取る。

「先生、そこの商店街、なんで、この時期に催しするんですか?」

「ああ、あれ? 山の手のお屋敷があるだろ? 昔はね、夏になると休みもあるから山の手の人は常時いる。その御用があるため、商店街は休めない。それに、セールなんてやっている余裕はないんだよ。秋になって仕事がひと段落したときに、催しをするようになったと聞くよ。今は、山の手のお屋敷っていっても、商店街が一手に引き受けるってこともないけどね」

 敦と鏡花は説明を聞いて納得する。

「ちなみに、方々から大型バスで団体で来ることもあるっていうくらい賑わうよ」

 敦と鏡花が理解できないというような顔をしているため、晶子は苦笑する。

「見てくればいいじゃないか。どうせ、今日はもう、仕事終わっているだろう?」

 実際見ればあちこちからやってくる理由がわかる、かもしれない、か。

「じゃあ、鏡花ちゃん、行ってみようか」

 敦が言うと、どこかそわそわした雰囲気の鏡花は手にしている書類袋を「私はこれを置いてくる」と急いで事務所の方に向かった。

「行ってみるだけでも楽しいし、人込みが嫌なら、とっとと帰ればいい。気軽に行けば、そこなんだし」

 徒歩で行けるのだから、団体旅行と違って好きな時に帰れる。

「そうですね」

 敦も退社の準備をして、鏡花と商店街に向かう。

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