早稲田と慶応 V.3.1

@MasatoHiraguri

第1話 エピローグ

  大学生(1978年)の頃、早稲田の友人が秩父宮ラグビー場で行なわれたラグビーの早慶戦に連れて行ってくれました。

早稲田の応援席で観戦していたのですが、私は早慶どちらも関係ないので、たまたま慶応が数十メートルを連係プレーでつなぎトライした時、ガッツポーズで歓声を上げてしまいました。大学日本拳法の試合で、仲間がいい面突きをぶち込んだ時に「よし!」と叫ぶ感じです。

すると、周囲の観客(半径5メートルくらい)が、一斉に暗い顔になり、もの凄い形相でにらみつける人もいます。

私の友人は、小中学校時代、イギリス・エジプト・インドと父親の転勤で移り住んだ経験のある国際人です。エジプトでは、ピラミッドへ向かう途中で、駱駝の馭者から、先払いした料金を更に追加で請求されたり、インドでは、毎朝、学校へ行く時と帰宅する時に乞食に追い回されたりと、ずいぶん難儀に遭遇してきた人間です。

浪人すれば東大へ行けると言われたほどインテリでしたが、恐ろしく足が速くて腕っ節が強いのはそのせいでした。毎日数人の乞食に追いかけられ(乞食というよりも追い剥ぎ)、蹴りを入れたり突き飛ばしたりしながら逃げた経験が彼を強くしたのです。

ところが、そんな男がこの時はうつむいてしまい「ぼくは関係ありません。」という態度(まあ、あの状況では当然であったかもしれませんが)。

試合が終わってから、近くのラーメン屋での会話。

友人「お前なぁー、気をつけろよ。早稲田の奴らは、普段は温和しいが、こと『慶応』となると、人が変わるんだ。」

私「おう、オレもビビったぜ。ちょっとガキみたいに喜んだだけで、周り中が魂のないゾンビみたいになって睨むんだからな。」

友人「まあ、早稲田っていうのは、そういうところは新興宗教じみてるかもしれんな。」と、麺をすすりながら、信濃町の方を見上げました。

(彼があの宗教団体を意識してそう言ったのかどうかはわかりませんが、最近になって、早稲田というのは本質的なところで、かの国と「立ち位置」が似ているような気がします。)

私「じゃあ、慶応はどうなんだ ? 彼らも早稲田というと、カッカするのかな。」

友人「あぁ、彼らは別格だよ。」「慶応は早稲田がいなくても慶応だからな。その点は早稲田と違う。」


  彼は、国際社会で揉まれた「骨太リベラル人」で、全寮制の高校時代、人の噂に流されず自分の目と頭で判断できる、地に足のついた・うわつかない男でした。

また、父親が外交官で、頭は良い・育ちも良い・カネもあるということで、慶応ガールズを含む幅広い交友関係を持っていたという事実から、私は彼の言葉にかなり信頼をおいています。


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