第16話

 城に着いて馬車から降りた後、会場へと向かった。



「バーマイヤ公爵家のご入場です」



 そう言われたので私も一緒に入場してもいいのか迷ってしまったがすぐさまエリザが私の手を握ってくれた。



「一緒に行きましょう」


「…うん!」



 本来はエスコートが必要なのだがエリザと私は一応王太子の婚約者と婚約者候補だ。最初から王太子にエスコートしてもらうつもりはないが、他の誰かに頼んでしまうと王太子から難癖をつけられるかもしれないのでエスコートは無しでの入場だ。


 会場に入るとすでにたくさんの人がいて驚いた。



「爵位の低い家から入場になるから公爵家は最後に入場するのよ」


「そうなんだ。人がたくさんいるし、みんなこっちを見てるからなんだか落ち着かないや」


「ふふっ、みんなオルガのことが気になっているのよ」


「え、私?」


「ええ。聖魔力に興味を持っている人と、オルガのドレス姿に見惚れている人よ」


「ええっ!?聖魔力のことは分かるけど私の見た目なんて誰も興味ないよ。むしろ見苦しいのかもしれない…」


「そんなこはないわよ、もう。…お兄様。お兄様からもあとでちゃんとオルガに言ってあげてください」


「ちょ、エリザ!」


「あぁ、任せておけ」


「ルシウスまでっ!」


「ふふふ」



 今のところ入場してからは何も変わったことは起きていない。



「ねぇルシウス。お城でのパーティーなのになんだか物足りなく感じるんだけど、他のパーティーもこんな感じなの?」



 私は入場してから気になっていたことを聞いてみた。



「!すごいねオルガ。初めての参加なのによく気がついたね。オルガの言うとおりこのパーティーは他のパーティーと比べてかなり見劣りするパーティーだね」


「お城で王族が開いているパーティーなのに?」


「あぁ。…あいつらは浪費癖がすごいからな。おそらく国庫にまで手をつけているんだろう。国庫だって無限にあるわけじゃないのにそれを理解していないんだ。まぁ準備をするのは本人達じゃないだろうからね。予算が無いなかで城の人達がなんとか準備したんだろう」


「国のお金がなくなりそうってこと?それじゃあこの国はどうなっちゃうの?」


「心配はいらないよ。国庫のほとんどは別の場所で管理されているからね。あいつらが手をつけたお金はほんの一部なんだ。それだけあいつらは誰からも信頼されてないのさ」


「でもほんの一部だったとしても国の、それも国民の税金があの人達のためだけに使われたのは許せない」



 王家のせいで魔物の被害や作物の不作といった苦しい状況になっているのに、自分達だけがのうのうとフェニ様の加護を盾にして贅沢三昧だなんて許されることではない。



「そうだね。一部と言ったって少なくない額だ。この罪は償わせないと…」


「国王陛下ならびに王太子殿下、側妃殿下のご入場です!」



 ようやくご登場のようだ。



「よくぞ集まってくれたな。今日は楽しんでいくといい。それとこの後余興を用意しておるから楽しみにしているがいい。はっはっはっ!」



 そう言って国王と王太子、それに側妃までもがこちらを見て笑っていた。間違いなくその余興で何かするのであろう。



 そうして始まったパーティーではたくさんの人が私に挨拶をしに来たので驚いてしまった。


 中には一応王太子の婚約者候補である私に自分の息子を勧めてくる強者もいたが、ルシウスとエリザが私に代わって対応してくれたので助かった。



「パーティーってすごいね…」


「どうしたの?まだ始まったばかりよ?」



 知らない人との挨拶は想像以上に体力気力共に消耗しているようでもう帰りたくなってきた。



「挨拶がこんなに大変だなんて知らなかっ

 た」


「そうね。ただ挨拶といっても順序やマナーがあるから慣れるまでは大変かもしれないわね。でも慣れてしまえば大したことないわよ。半分以上は終わったからもう少し頑張りましょう」


「うぅ、はーい…」



 そしてようやく一段落し飲み物で喉を潤しているところで例の余興が始まった。


 国王が宣言する。



「さぁこれから余興を始めようではないか!…エリザベート・バーマイヤ!リュシアン・レイコールド!そしてオルガ・ミストリア!こちらに出てこい!」



 (きた!)



 やはりというか予想通りというか私達三人の名前が呼ばれた。


 ここで無視するわけにもいかないので仕方ないがエリザと一緒に前へ出ていった。


 別の場所からリュシアンも出てきた。



「ふん、逃げずに来たことは褒めてやろう。しかしお前達は罪を犯した!今からお前達に罰を与えてやろう。さぁ息子よ、こちらへ」


「はい、父上」



 そう言って王太子が国王の横に並ぶように前に出てきた。


 王太子の姿を見るのはあの試合以来だ。



「お前達は我が息子である王太子に対して無礼な態度を取ったそうだな。聖獣の加護を持つ我ら王家の、それも王太子に対してのその行いはとても許されるものではない。王家に対する反逆と言っても過言ではない!…だが王太子は極刑までは望んでいないからとお前達の減刑を申し出たのだ。なんと寛大なことか!わしはそれを受け入れた。その代わりに王太子が罪人達に罰を与えるようにと申し伝えた。お前達は己の行いを反省しながら王太子からの沙汰を受けるがよい!」



 とんだ茶番だ。


 無礼なのはこの国の王太子のくせに学園のルールを守らなかった本人の方である。


 それなのになにが『減刑を申し出た』だ。


 学園の授業中に起こったことに対して反逆などとあり得ない言いがかりをつけてまで私達を痛めつけたいのだろう。


 本当にこの王太子、というか王家は腐っている。


 このままではフェニ様の加護が消えるのも時間の問題だろう。



「まずエリザベート・バーマイヤ!お前は俺の婚約者であるにも関わらず、傲慢にもその勤めを放棄してきた。先日の一件もお前が俺を立てて素直に負けを認めればよかったものを生意気にも認めなかったな。これは王太子である俺に対しての不敬である!俺はそのような者を王太子妃、ひいては未来の王妃にすることはできぬ!よってエリザベート・バーマイヤの有責による婚約破棄と国外追放を言い渡す!この国の外で己の行いを反省するんだな!」


「…」


「ふん!まぁどうしてもと泣いて頭を下げるのであればお前を俺の側妃にしてやらなくもない。そうすれば薬も今まで通り提供してやる。あぁそうだ、バーマイヤ公爵には娘の管理ができていなかったことに対して慰謝料を俺に支払うように!これだけで済んだことに感謝するといい!」



 どうやらまだエリザを側妃にするのを諦めていなかったようだ。


 王家の秘薬を餌にするつもりなのだろう。


 側妃にならなければ薬がもらえないのであればそうならざるを得なくなる。


 だが王太子は気がついていないのだ。


 ロカルド様の隣にいる女性が公爵夫人のアゼリア様であることを。


 もしも病気が治っていなければこの場にいることなどあり得ないのだが王太子も国王も気づいていないようだ。


 それについでとばかりにバーマイヤ公爵家にまで慰謝料を請求するだなんて呆れてしまう。



「…」

「…」



 ロカルド様もエリザも無言だ。


 きっと二人も私と同じく呆れていることだろう。



「何も言わないなんて相変わらず生意気なやつらだな。…まぁまだ他に罰を与えなくてはならないやつらがいるからそれまでの間にしっかり考えておくんだな!次にリュシアン・レイコールド!お前は俺の側近にも関わらず、俺の意に反してあの女をかばった。これは明らかな裏切り行為だ!俺の側近であるならば俺の言うことを最優先するべきなのにな!よってリュシアン・レイコールドを俺の奴隷とする!これからは奴隷として俺に誠心誠意仕えるんだな!」



 奴隷という言葉に会場がざわめいた。


 それもそのはず、この国には約百年前までは奴隷制度があったそうだが今は制度が撤廃されており奴隷はいないのだ。


 時期から推測するとおそらくフェニ様との約束を守るために例の王子が国王になった際に撤廃したのだろう。


 国の制度を変えてまでもこの国を護ろうとした王家の者がいたのに、その王家の子孫によって蔑ろにされようとしている。



「それとレイコールド公爵には息子の教育が足りないことに対して慰謝料を請求する!公爵の教育が間違っていたからこんな愚かな男に育ってしまったんだろうな!そんな愚かな男を俺が引き取ってやるんだ。感謝しろよな」


「…」

「…」



 リュシアンもレイコールド公爵も口を開かない。


 さぞ怒りに震えているだろうがそれを我慢しているのだろう。



「はっ!お前らもだんまりか。謝罪すら出来ないとはな。こんなやつらが公爵家だなんてこの国の恥だな!」



 おそらくこの会場にいる王家の者以外は『国の恥なのはお前だ』と思っているに違いない。



「もういい、次だ次!オルガ・ミストリア!お前は平民なのに俺の婚約者候補にしてやったのだから俺に感謝して当然なのに、あの女と一緒になって俺に無礼な態度を取り続けてきた。さらにあの試合はあの女ではなく俺を守るべなのに守らなかった!これは俺を馬鹿にしているとしか思えない!よってオルガ・ミストリアに再教育を施すので今日から城に入るように!そして聖魔力で我ら王家のために尽くすようにするために、ここで王太子である私アバカルド・カルディナとの婚姻を発表する!」


「は?」

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