FINAL basketball+(カクヨムコン9応募作品試し読み版)

上村栞(華月椿)

第1話

榊原さかきばら中高一貫校の中等部・高等部、揃って10年連続全国一位】

県立榊原中高一貫校の中等部・高等部が令和X年度全国中高男子バスケットボール大会で、脅威の20年連続の優勝を果たした。

その個々の選手の強さは留まることを見せず、国際体育大会の出場メンバーはなんと榊原中学校・高等学校の選手のみから選出された。


中等部では今年度はスターティングメンバーの三年生が3人が卒業だが、来年の中等部はどうなっていくのだろうか。高等部はさらなる力を持つことは確実だが、中等部の戦力は落ちるか、増すか、はたまた同じ程度か。


今後の展開も目が離せない。


◇◇◇


冷たい冬の夜のような風が、楽しそうに笑い合う生徒たちの間を吹き抜けていく。


図書室で静かに読書を続ける者の間には、枯れ葉や紙の匂いが運ばれていて、4時を過ぎた外の世界では、スピーカーを使って拡声させながら石焼き芋を売る音が響き渡り、小腹の減っていた人々の食欲を大いにくすぐっていた。

イチョウやモミジが下校する生徒たちの前を通り過ぎ、葉たちは地面へと舞い降り色とりどりの天然の絨毯を引いていた。


見上げると、透けそうなほどに淡い水色の晴れの空が広がっていた。あちこちにチョークで描いたようなうろこ雲が浮いていて、夏の真っ青な空に浮かぶ入道雲とはまた違った美しさを見せている。


涼しく過ごしやすい季節になったからか、今までは半袖に短いスカートや半ズボンといった涼しそうな格好で統一されていた生徒たちの格好は、長袖や半袖にと思い思いの格好へと変わっている。


女子生徒たちは今日の十五夜の話題や韓国アイドルの話、推しの話題で盛り上がっており、男子生徒は崩した制服を着て馬鹿騒ぎをしながら部活動へ向かっていた。


そんな中、1年C組の掲示板には在校生にとっては見慣れた、今年入ってきた1年生にとっては驚く朝刊の記事が切り抜きで掲示されていた。

それが20年連覇達成のバスケ部についての記事だった。


榊原さかきばら中高一貫校の中等部・高等部、揃って10年連続全国一位】とでかでかと書かれた記事に、朝からクラスメイトは興味を示していた。


朝のホームルームでは担任が男子バスケットボール部を数人立たせ、クラス全員が拍手を送っていた。



白黒写真の中には一人ひとりの顔はよく見えないが、榊原バスケットボール部の全員が写っているのが分かる。中心にいる『SAKAKIBARA 4』とユニフォームに印字されている体格のいい男子が、豪華な優勝トロフィーを掲げていた。


その中に1年C組の生徒でありバスケットボール部の青野優斗あおのゆうとはいた。

優斗ははしゃぐ生徒たちを横目に見ながら、新聞の切り抜きを一瞥いちべつしてスポーツバッグを手に取ると、今日の部活動へと向かった。


その表情には満足感などさらさらないといった感情に溢れていた。

インターハイを制覇したのだ。飛び上がって喜んでも無理はない。


いないものとされていたかもしれないが、新聞の切り抜きには白黒写真だと一人ひとりの顔はよく見えないが確かに彼もスタメンのところに写っていたはずだ。




――――そう、



生徒たちは脳の勝手な意識で『』と思っている。


実際は、部員たちは0.1ミリたりとも笑っていなかった。



榊原中・高バスケットボール部。



この二つで一つのチームの10年間で最大の目標は、聞いた者の脳天を貫くほどの衝撃を与えるとともに、耳を疑うようなものだった。

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