NTRで強くなる勇者の寝取り役になった俺、勇者LOVEの聖女様を純愛堕ちさせてしまった件。

ゆきゆめ

聖女編

Prologue『魔王と勇者』

 人間と魔族。 

 いつの世も彼らは争い、いがみ合ってきた。


 そんな長い歴史の中でも極めて稀有な事態が今、起ころうとしている。


「くふふっ、勇者くんったらよっわ〜い♡」


 現・魔族の王である魔王リリスは胸を強調するかのように大胆な衣装に身を包み、背中から生える巨大なコウモリのような翼をはためかせて宙を漂う。艶やかなロゼ色の髪は甘く濃厚な香りを撒き散らし、ニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべながらしなやかな尻尾を揺らしていた。


「私が女だからって油断しちゃったのかな? それとも力の弱いとされるサキュバスだから? 取るに足らない存在とか思っちゃった?w」


「くっ……」


 両手両足を魔法によって拘束され、空中で磔にされた勇者アランは苦々しく呻く。額から血が流れ、防具はボロボロ、剣は折られた。共に旅してきた仲間たちはとうに倒れ、地べたに伏している。アラン自身も意識を保つのでやっとだった。勝機はどこにも見当たらない。


「貴様のような淫魔ごときに勇者が負けるはずがない。いい気になるなよ。殺してやる。絶対に、ぶっ殺してやる……!」


 それでもアランは吠える。

 低級魔族であるサキュバスに自分が負けるはずがないと。

 今にも折れそうな心を、これまでの冒険で培ってきた勇者としてのプライドが支えていた。


 人類の希望である勇者に敗北など許されない。


 そんなアランの様子を見て、リリスの瞳は興が乗ったとでも言うかのように妖艶な光りを宿す。


「淫魔ごとき、かぁ〜。ふーん?」

「ぐああああああああああ!?!?!?」


 リリスがサッと手をかざしただけでそこには強力な電撃が発生し、アランを襲う。


「人間からも馬鹿にされるような、そんな雑魚淫魔であるはずの私が、どうして魔王になれたかわかる? 勇者くん?」

「ぐ、あ、ぁ……?」

「強いからだよ♡」

「あ゛ああああああああああ!?!?!?」


 繰り返される悪夢のような痛みと苦しみ。


「私は温厚で、ときに人間に対して友好的でさえある他のサキュバスたちと違って、こういう攻撃的な魔法が特に得意なんだよね。レベル上限だって存在しないみたいだし」


 生まれてからまだ年月の浅いリリスが新たなる魔王の座に就いたのは今からたった数年前にすぎない。にも関わらず、ほぼ全ての魔族は彼女を崇拝し、跪く。それほどまでにその力は圧倒的であるとされていた。

 それは彼女が単騎で先代魔王を殺したことからも証明されている。


「つまり、このまま勇者くんを殺しちゃうのも簡単なわけ♪」


 実際リリスにとっては、人類最強の勇者でさえも赤子を相手にするのと大差なかった。それは彼女にとって退屈であり、失望でもある。


「でもそれじゃつまらないし勿体ないよね。勇者くんみたいな玩具、次いつ手に入るか分からないわけだし。うーん……」


 宙に浮いたまま足を組み、手首を顎に当てながら子供のように唸って考える素振りをみせる。

 アランにはもはやそれを黙って見届けることしかできなかった。


「そうだ、私の性奴隷になる? きっと楽しいよ♡ あーでも、どうせすぐ壊れちゃうしな〜。勇者くんってそっちの方も弱そうだしw」


 移り変わって再びの思案顔。チャームの瞳を伏せたその姿はまさしく美少女の佇まい。それが再び開いたとき、なぜかアランにはリリスの姿がひどく大人びて見えた。


「……それならいっそ、帰してあげようか。うん。いいね、それがいい」

「は……? な、なにを————んむっ!?」


 思わず問いかけようとした口を突如、リリスの唇によって塞がれる。


「ちゅ。れろ、ちゅぱ、れるぅ……♡」


 それはアランが未だ経験したことのないほど濃厚な、舌を絡め合うディープキスだった。同時に、何かが身体を蝕んでいくのを感じる。


「ぶはっ。き、貴様、いきなりなにを——」


「呪いをかけてあげたの」


「の、呪いだと!?」


「私もたまにはサキュバスらしいチカラを使ってみようと思ってね。くふ、どんな効果だと思う〜?」


「…………っ」

 

 愉快そうに笑みを深めるその表情からは、とても良い想像ができそうになかった。


「あのね」


 ふわふわと浮遊して、リリスはアランの耳元へと口を寄せる。


 そしてねっとりと脳を蕩けさせるような、甘く可愛らしい声で告げた。


「勇者くんはこの先、女の子を寝取られることでしか強くなれない。レベルアップできない。そういう呪いだよ♡」


「な、に……?」


「寝取り役は……そうだ、勇者くんには幼馴染の男の子がいたよね。その子にしよっか♡」


「ひ、ヒスイのこと、か……くっ」


 リリスは肯定するようにニッと笑みを浮かべ、両手を広げた。


「さぁ、解放してあげるね。勇者くん」


 拘束が解けて、アランはそのまま力無く地面へと倒れる。

 

「私って優しいよね。だって勇者くんは寝取られるだけで、自身の才能の限界を超えてレベルアップできるんだから。今の勇者くんよりもっともっと強くなれるよ。いつかは私だって超えちゃうかも? さすがにそれはあり得ないかw」


 アランとその仲間たちの身体が鈍い光を纏い始める。


「呪いにはおまけの効果もあるけど、それはまだ話さないでおくね♡」

「なっ……!?」

「再会が楽しみだね、勇者くん♡」


 そう囁いた魔王リリスは、彼らを近くの街へとテレポートさせたのだった。


 その無邪気で、悪戯で、蠱惑的で——ドロドロと煮えたぎるマグマのように赤黒く爛れた■■を宿した瞳の意味を知るものはまだ、いない——。



 ◇◆◇



 ——1ヶ月後。


 舞台は勇者アランの故郷、ソクボ村。


「聖女ルチア。彼女をオマエに寝取ってほしい」


 セラトネル大陸の東の端に位置するこの小さな村で、新たな物語が幕を開ける。

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