とんでも魔力を隠していたのに、なぜか王子に目をつけられました。

黒い猫

第1話 秘密


「えーっと……?」


 私『ソフィリア・ヴァイオレット』は、どこにもでもいる「平民」なのだが、人に言えない秘密がある。


 それは「人よりも魔力量が多く、最大の威力もものすごい」という事だ。


 普通の人の魔力量が十だとすると、私はその五倍はあるらしい。しかも、魔法の最大出力も相当なのだそうだ。


 ――どちらも五倍って……。


 それならば「普通」はどのくらいなのだろう……と思ってしまう。


 でも、もしこの事が世間に広まってしまった場合の事を考えると……きっと貴族がこぞって私を養子に迎えようとするだろうと告げられた。


「そう……なんだ」


 口ではそう言ったけど……。


「ソフィ。あんた、あんまり分かってないだろ」

「あ、バレた?」


 実はその時。説明を受けたにも関わらずあまり……どころか全然ピンと来ていなかった。


 ――だって、小さい頃に調べて「魔法が使える」って事は知っていたけど……。


 正直「魔力量が多い」と言われても……というのが私の素直な感想である。


「はぁ、全く」


 そうため息をつくのは、私を育ててくれているお婆ちゃん事『エヴァ・ヴァイオレット』だ。


「でも、一つだけ分かったよ」

「何がだい?」


「もし、私の魔法に関する話が表に出たら、お婆ちゃんが一人になっちゃうって事」

「……」


 お婆ちゃんはその昔。この国で起きた大災害を守った優秀な魔法使いの一人だったらしい。


 ――まぁ、昔の話だから今じゃおとぎ話みたいな扱いだけど。


「それは……そうだろうけどねぇ」

「だったら私が自分からこの話をするつもりはないよ」


 元々お婆ちゃんは欲のない人で、その災害が治まった後の王国からの謝礼を受け取る代わりに「ずっと穏やかに暮らしたい」という事を願った。


 一緒に国を救った魔法使いの中のほとんどの人は貴族になったらしいけど、お婆ちゃんはそんな事よりも「平穏」を望んだ。


 ――でも、多分。面倒事を避けたかった……っていうのもあったとは思う。


 正直、貴族様の生活なんて全然分からない。でも、何となく……本当に何となく、面倒そうとは思っている。


 ――目に見えている事が全てじゃないって事なんだろうなぁ。


「でもねぇ」

「もう。私がそれでいいって言っているんだから気にしないで!」


 そして、お婆ちゃんに育てられたその結果が今だ。


 ただ、私とお婆ちゃんに血のつながりはない。私は元々捨て子で、お婆ちゃん曰くお婆ちゃんが住んでいる森の中に私は捨てられていて、近くには誰もいなかったらしい。


 もし、お婆ちゃんが気が付いてくれなかったら……拾ってくれなかったら……私はここにいる事すら出来なかっただろう。


 言ってしまえばお婆ちゃんは私の命の恩人なのである。


 そんな恩人を一人置いて行くなんて事は出来ないし、そもそも選択肢として考えられない。


「それに、どちらも自分で制御すればそう簡単にはバレないし。そもそも人なんてほとんど来ないし」

「それも……そうだねぇ」


 そもそも、私とお婆ちゃんが生活をしているのは人里離れた深い森の中。


「だから、お婆ちゃんは何も気にしなくていいって!」


 何かしらの事情がない限り人前にすら出ないのに、こんなところでお婆ちゃんを一人にするなんて事は私自身許せない。


 だから私は、この事実を「隠す努力」という形でずっとひた隠しにして生きていこうとこの時決めた。


「いや、でもねぇ」


 ――もったいないって思っているのかなぁ?


 明らかにお婆ちゃんは何か言いたそうだ。


 でも、私にとって「お婆ちゃんのいる生活」が私の全てで、決して贅沢が出来るほど余裕のある生活ではなかったけれど、確かに幸せだったから――。

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