谷崎潤一郎文学の女性崇拝

夢美瑠瑠

第1話 ☆

いわゆる、所謂、「文豪」という呼称を冠せられる作家の、共通項は、なんだろうか?

かなり広義で、広く人口に膾炙していたり、かなり有名というだけでも「文豪」と呼ばれうる。松本清張の「文豪」には、明治の古い伝説的な、幸田露伴や漱石、鴎外等のバイオグラフィが引用されている。わりと語源として古いニュアンスでもある。

だから名声が確立していて、ひとつの、いわゆる「レジェンド」として尊ばれる存在というか、床の間に飾れるような由緒正しい?そういう存在だから、文学のエリアで人気と実力を兼ね備えている不滅のヒーロー、アイドル、そういう感じが文豪だろうか?しかし「豪」という表現の使われる所以が多少微妙で曖昧、マニアックなニュアンスの話になってくる。


音楽だと楽聖、野球も球聖になる。

学問の分野のエラい人は「泰山北斗」とか言う。略して「泰斗」はカッコいい熟語です。「人間国宝」というのもある。

重要無形文化財のことで、至宝、というのも似た用法で、貴重な人間の比喩。

豪を使うのは、「性豪」とか「酒豪」、あと…富豪、少しくだけた世間的なタイプの大立者?に使う感じかと思います。


英語にはbigshotという慣用句があって、これも偉い人、大物のこと。


閑話休題。


で、要するに「文豪」を使う場合はまた変な連想になるが、いわゆるデュオニソス型の偉人、これは酒神バッカスの別名で、ニーチェの用語ですが、そういうイメージになる…ボクの場合そうです、

神格化されている、漱石、鴎外あるいは外国人ならゲーテとか、「人生のことなら小説家に聞け」と昔は言ったらしいが、文学者の文豪にはそうした器の大きい、清濁併せ呑む?という人格者を超えた神格者?大げさに言うと、そういう絶対的な特別感がある。


芥川龍之介氏の随筆で、夏目漱石の葬儀で受付をしていた時のエピソードがある。ある非常に風采の立派な人物が弔問に現れ、「その人の顔、神彩あるというべきか、世の中に普通にある顔に見えず」。で、一体誰だろうと思って署名を見ると「森林太郎とあり」だったそうなのだ。これは言うまでもなく鴎外さんの本名です。いやしくも文豪であればそうあって欲しい…


で、日本で文豪と呼ばれる数少ない一人に谷崎潤一郎氏がいる。

谷崎潤一郎文学はまあ比較的愛好している方で、代表作を全部上げて解説しろと言われれば、半時間は喋れそうだ。ノートを作れば大学でも講義できるか?笑

で、谷崎氏の作品の特徴は、その女性崇拝、女性愛好癖、性愛嗜好です。と思う。

この間久しぶりに図書館に行くと、浩瀚な谷崎全集が、そう…20巻以上揃えてあり、全集だとこんなに沢山作品があるのかな?と改めて目を見張る思いでした。


谷崎氏の代表作、最も有名なのが、既に「痴人の愛」というタイトルで、これは主人公が若い女性の色香に迷い、追いかけ回し、さんざん煮え湯を飲まされたり浮気されたり、多分実話に基づくものだろうが、そういう寧ろ滑稽で悲惨な顛末記です。

何故こういう言ってみれば「単なる色ボケの恥?」をわざわざ書いたものが名作文学として称揚され、いまだに読み継がれているのか?


私見ですが、やはりその場合のキーポイントは谷崎潤一郎氏という人物の類稀な文才、文学的な才知、文章力や発想の深さ、ユニークさ、時代や社会に対する明敏な感性、そういう総合的な能力がやはり、誰しもが一目置くらいに飛び抜けていて、だからこそ「文豪」と呼ばれた…


それがあったからこそ、比較的に軽蔑されそうな題材でもそこには深い文学的感興と芸術的真実があって、それはつまりヌードデッサンであってもダ・ビンチはダ・ビンチ、ピカソはピカソ、だから陳腐な話に過ぎないと言えば、この文全体が常識的なありふれた帰結かもしれない。


そうして、これを書いた時点での僕の谷崎潤一郎氏の理解、鑑賞、それはそういう陳腐な程度のものなのですが、僕は、人間や文学というものを本当に理解するには従来の自分は未熟過ぎたのではないか?そういう風にも最近思い始めたのです。

分かっているつもりだった谷崎潤一郎文学ですら、まるで生半可で、ただの豚に真珠?だったかもしれない…自分に極めて相似形の趣味嗜好の作風の性豪にして?文豪…自分の涵養や研鑚の恰好の作家として、また出来れば谷崎全集を読み直したい、解説書や研究書を読みたい、きっと裨益するところがあるだろう、文学のみならず人生にも…そう読書の秋、に思い耽るのでした。





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