Card No.04:レベル1
学校まで、あと1駅ほどの距離で、渋滞にはまってしまった。空からはけたたましいヘリコプターの音も聞こえる。既に報道陣が学校に集まってきているのだろう。ここで失敗に気付いた、戻るのは電車の方が早かったかもしれない。
「すみません、ここで降ります。お釣りは結構です!」
五千円札を置いて、タクシーを飛び降りた。
ここからなら、電車を使うより走った方が早いだろう。幹線道路沿いの歩道を延々と走る。体育でもこんな一生懸命走った事は無かったと思う。心臓が張り裂けそうになる。
校門前は警察と報道陣で、予想以上にごった返していた。生徒手帳を見せて理由を説明をするが、中々学校に入れてくれない。
「こんな所で何してるんだ? みんな体育館に集まってるぞ、早く行かないか!」
教育指導の先生だったかと思う。キツい口調で言われたが、学校へ入れるキッカケとなった。仕方なく警察も僕を通し、校内へ向かって走った。だが、体育館へは向かわず、教室を目指す。体育館からは中庭が見えないからだ。
幸い、教室に鍵は掛かっていなかった。ヘリコプターなどから撮影されないよう、教室の一番後ろから慎重に窓際まで移動する。カーテンで隠れる事の出来る場所に身を滑らせ、中庭を見下ろした。
居た。
僕が送り込んだモンスターも既に中庭に来ている。あの人集りをどうやってくぐり抜けたのだろうか。
“目の前の戦士と戦うんだ”
カードを入れたポケットに手を突っ込み意思を送ると、モンスターは戦う姿勢を取った。だが、とてもじゃないが強そうには見えない。
モンスターの姿勢が変わったのに気付いたのか、レベル1の戦士も戦闘体勢を取った。片桐は待っていたのだ、僕がモンスターを動かすのを。
中庭に戦士が来た時に思ったのだが、片桐はこの近くにはいないはずだ。戦士の到着直後、ただ突っ立て居るような状態だったからだ。
憶測ではあるが、戦士を送り込むだけ送り込んで、今はテレビ越しに意思を伝えているのだと思う。
僕は闇雲にモンスターを戦士に突進させた。
戦士の弱点が分からないのと、弱点だらけのこのモンスターでは勝ち目がないからだ。昨日のように勝敗がつけばバトルは終わるはず。僕には勝敗への拘りは無い。
戦士はひらりと躱すと、振り向きざまにモンスターの右腕を剣で切断した。
モンスターはその場でもんどり打った。切断された右腕からは、
戦士はジリジリとモンスターとの距離を詰める。早くモンスターを楽にさせてあげたい、僕はもう一度モンスターを戦士に突進させた。今度はすれ違いざまに、右足を切り落とされた。
そうだ……今思い出した。
この戦士には、レベル1にも関わらず、最高レベルの剣を持たせていた。小学5年生だった僕たちにゲームの常識は関係無い。常識を破れば破るほど、僕たちは楽しかった。
もう、モンスターは立ち上がる事さえ出来なかった。早く楽にしてやれ、片桐。何をしている……モンスターは息も絶え絶えで、緑色の液体を絶え間なく吹き出していた。
その時、スマホから着信音が響いた。片桐と使っているアプリのみ着信時に音を出すように変更しておいたのだ。
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何やってる、大野。
手を抜くとどうなるか見せてやる。
目を離すなよ。
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モンスターに近づいた戦士は残った左腕と左足を順に切り落とした。
左足を切り落とされたモンスターは、ほぼ反応が無くなっていた。
中庭の隅にいた、盾で身を守っている機動警察隊も動けない。昨日のモンスターに銃弾が効かなかった事から、怒りの矛先が自分たちに向かっても困るからだろう。
そして最後に、モンスターは体を縦に一刀両断された。
バラバラの体になったモンスターは、光りの粒となって消えていった。地面に流れていた緑色の液体と一緒に。
そう、これで良かったんだ。戦士も光りの粒になって消えるはず。
そう思った次の瞬間、戦士は盾を持った機動警察隊に突っ込んでいった。そして、機動警察隊の一人を盾もろとも縦に切り裂いた。レベル1の戦士は、剣を振り下ろした姿のまま、光りの粒となって消えていった。
切られた警察官は、体を庇うように下がったため、顔を守った腕を切られただけで済んだようだった。だが、頑丈なはずの盾は綺麗に真っ二つになっていた。
何を考えている片桐……
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分かった? 大野が手を抜いたらこういう事になる。
僕たちが一枚一枚、一生懸命描いた絵じゃ無いか。無駄に消費することは僕が許さない。昨日は挨拶も兼ねたから別としてね。
勝者だけ消えるまでにタイムラグがあるから。よく覚えておいて
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どう返事をすればいいか分からなかった。
どんな言葉を並べても、片桐は聞く耳を持たないだろう。今、テレビやネットは昨日のように、いや昨日以上に大きく伝えている事は間違い無い。
こんな大事件の行方を左右するのが、僕に掛かっているだなんて……どうすればいいんだ、僕は……
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片桐、もう止めてくれないか。昨日も言ったが、君がバトルを求めるなら僕はどこへでも行く。
頼む、この通りだ。
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やめてよ、そんな大野見たくないよ。
ずっと、ひとりぼっちだった僕を救ってくれた君に、今回も期待してるんだよ。それとも僕と遊ぶことで、また友達を失いたくないのかい?
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なんの事だ……?
もしかして、片桐が転校してからの事だろうか。
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何のことだ!? 何が言いたい!
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余計な事を言ったようだ、忘れてくれ。
明日は気合い入れて戦ってくれよ。じゃ。
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その時、廊下からガヤガヤという声が聞こえていた。体育館から生徒達が戻ってきたのだろう。一瞬どこかに逃げようと思ったが、今からじゃ間に合わない。
「優也!? 何してたんだよ、いつ戻ってきたんだ」
光希だった。その後ろには教室に入ってきた紗耶も見える。僕に気付いて驚いた顔を見せた。
「……後で、後で説明する。ちゃんと」
「今言えよ。俺には後でもいいけど、『モンスターが出たから逃げた臆病者』って思われてるぞ。自分だけ逃げたらいいのかって、言ってた奴もいるし」
「……そうか。でも、今は言えない。ちょっと時間をくれ光希」
光希は大げさに手のひらを上に向け、分からないという表情を見せた。続いて担任も入ってきたので、休んでいた生徒以外は皆、席に付いた。
「大野君いつ戻ってきたの!? こういう時って、団体行動が大事なの。あのタイミングで学校を飛び出したのは、全校生徒で大野君だけよ。無事だったから良かったけど、次からは絶対許しませんからね!」
担任の古田は強い口調で言った。他の生徒も少しざわついていた。光希が言った、臆病者と思われているのは本当なのかもしれない。
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