第51話 ジェラールside9
「お二人はわたしが死んだと勘違いして、目の前でペラペラと喋ってくださいましたわ。それと口封じに何の罪もないマイケルとモネを死の森に投げ捨てたのです」
「……っ!」
「決して許されることではありません」
マイロンとラームシルド公爵がヴィヴィアンの隣に向かう。
まるでアンデッドではないと証明するようにマイロンがヴィヴィアンの肩に手を置いた。
背後には騎士達に命令して死の森に投げ込んだマイケルとモネも立っている。
「わたしは死の森で冥王様に救っていただきました。死の森に滞在してアンデッド達に関わるうちに……彼らの正体を知ることになったのです」
ヴィヴィアンが何を言っているのかわからなかった。
しかし父の悲鳴にも似た声がジェラールの耳に届いたような気がした。
「それからスタンレー公爵はお父様に毒を盛り、マイロンお兄様を追い詰めるための細工をしたそうです」
ヴィヴィアンの後ろにいたマイロンが一歩前に出る。
その手には分厚い資料が手に握られていた。
「時間はかかったが、ジェラール殿下とベルナデット嬢の密会や会話内容、スタンレー公爵が毒を入手した経緯や犯人だとという証拠を集めていた」
「マイロンお兄様、さすがです」
「ヴィヴィアン、お前を救えなかったこと……申し訳なく思っている。まさかジェラール殿下がここまで愚かだとは思わなかった」
「いいえ、わたしの目が節穴だっただけです。こんなクズ、好きになるんじゃなかった」
「ヴィヴィアンが守られるならと結婚を了承したがやはり間違っていたな」
マイロンの話を聞いた瞬間、会場はザワザワと騒ぎ出す。
「……なんて罪深いことを!」
神官がそう呟いてジェラールに軽蔑した視線を向けている。
周りの貴族たちもヴィヴィアンの言葉に騒ついている。
そしてヴィヴィアンの背後には、いつ現れたのか真っ黒な獅子と金色の髪をした端正な顔立ちの美しい男性が立っている。
パチンと指を鳴らすと暗くなっていた教会が明るくなる。
ステンドグラスの光に照らされた男性は神々しい。
男性は愛おしそうにヴィヴィアンの肩に手を置いている。
そんな二人にジェラールは釘付けになっていた。
「ヴィヴィアン、大丈夫か?」
「サミュエル様……!」
「こいつらがヴィヴィアンを裏切り甚振った奴か」
ヴィヴィアンにサミュエルと呼ばれた男性はジェラールやベルナデットを鋭く睨みつけて、ヴィヴィアンを大切そうに抱き寄せた。
二人が特別な関係であることはジェラールにも理解できた。
「もうヴィヴィアンの前に二度と顔を出すな。下衆が」
「なっ……!」
「己の欲望のために罪を犯し、国民を欺いた。ヴィヴィアンが邪魔だからと彼女の善意を利用し騙すクズにはヴィヴィアンはもったいない。これだけ醜態を晒した後ではもう表には出てこれまい」
「……っ、貴様は一体なんなんだ!」
初対面にも関わらず、悪く言われたジェラールは苛立っていた。
罵倒されてプライドが許さない。
ジェラールは己の立場も忘れて問いかけると予想外の言葉が返ってくる。
「ベゼル帝国の皇帝、サミュエルだ」
「~~~っ!嘘を言うなっ!ベルゼ帝国は冥王によって滅びたはずだろう!?」
「それをヴィヴィアンが救ってくれたんだ。冥王になりかけた俺を救ってくれた。彼女こそ俺の女神だ」
「意味の分からないことを言うな!それにヴィヴィアンも……」
そう言いかけたジェラールの頭にあることが過ぎる。
(もしかしてヴィヴィアンはアンデッドになったのではないか!?だからこんな風貌をして、指が落ちたとしてもくっつくのではないのか!?)
ジェラールはこの展開をひっくり返すある方法を思いつく。
「お前がヴィヴィアンをアンデッドに変えた冥王だなっ!」
「ッ、サミュエル様達は騙されて冥王となってしまっていただけなんです。現に……!」
ヴィヴィアンの言葉を遮るようにしてサミュエルが手を前に出した。
「……何故そう思う?」
「この風貌を見ればわかるっ!先程、ベルナデットの前で指が落ちて今は治っているじゃないか。青白い肌に服に血がついて怪我をしていても生きているなんておかしいと思わないのか!?」
「それがなんの証拠になるというんだ?彼女はいつもと変わらない」
「この姿が普通だというのか!?あり得ない……!」
「何故だ?大体、こうして生きて喋っているではないか」
「生きている!?そんなわけ……っ」
「ああ、ヴィヴィアンはここにいる」
「──ヴィヴィアンは俺が殺したんだッ!だから生きているわけな……っ」
ジェラールはハッと息を吸って口元を押さえた。
背中にじっとりとした汗が滲んでいる。
「今、なんと言った?」
「ぁ……っ、あっ」
「──ジェラールッ、お前はなんてことを!」
国王の怒鳴り声が耳に届く。
ジェラールは耳を押さえながら震えていた。
(まさか、まさかこんなことになるなんて……!)
ベルナデットはその場で項垂れて何かを呟やきながらヘラヘラと笑っている。
ジェラールは意気消沈していた。
父はサミュエルを見て恐怖に慄いており、ジェラールの首元を掴み上げると鍵があるかどうかを確認している。
しかし鍵がないと気付いたのか父は肩を乱暴に揺らしながら「お前のせいだ」とジェラールを責め立てる。
サミュエルは父を冷たく見下ろしている。
その金色の瞳は憎しみが込められているような気がした。
右手を父に翳しながら、バチバチと電気が弾けるようにしている。
「その顔、見覚えがあるな」
「ひぃっ……!」
「覚悟はできているんだろうな?」
サミュエルの言葉と共に金色の光が弾け飛ぶと父はその場で気絶して崩れ落ちた。
そしてサミュエルはジェラールの前に立つ。
ジェラールは恐怖に震えながらゆっくりと顔を上げた。
「……報いを受けろ」
ジェラールの前で金色の光が弾け飛んで、激しい痛みと共に視界が真っ白になった。
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