第48話 ジェラールside6

あの後、スタンレー公爵と父は話し合い三日後に国葬が行うことが決まった。

ラームシルド公爵の元に早馬でそのことが伝えられて、ヴィヴィアンは地下で腐らぬようにすると返事がきた。


(素晴らしい……!これでバレることはないはずだ)


今は急いで準備が進められている。

父もヴィヴィアンがアンデッドになることを恐れていたし、何よりヴィヴィアンを慕う国民がそう望んだのだ。

ジェラールも率先して準備の指示を出す。


まだジェラールと結婚しておらず、王族でないにも関わらず、国葬を行うというのは異例だった。

それにラームシルド公爵やマイロンが、何も言わずに静かなことも不気味に思えた。

ジェラールや王家が責められることもなく、スタンレー公爵が疑われることもない。


(考えすぎだったのか……?ははっ、そうだ。そうに違いない)


国民達は悲しみに包まれているものの熱量は高く、どれたけヴィヴィアンが慕われているのか改めて理解できる出来事となった。


父は何度も何度も「ヴィヴィアンが生きていれば」と呟いている。

ジェラールは「そうですね」と悲しげに呟きながら、その内心は穏やかではいられなかった。


(これが終わればもう大丈夫だ……早く解放されたい)


早くこの件を片付けてベルナデットと結ばれてこそ、ヴィヴィアンから解放されるような気がしたからだ。



──三日後


国葬の準備が整い、王城の隣にある大教会でヴィヴィアンの葬儀が行われることになる。

喪服に着替えたジェラールはドキドキと激しく脈打つ心臓を押さえていた。


今日、ヴィヴィアンの死体と初めて顔を合わせることになる。

教会の周りには献花が山のように積み上がり国民が虫のように群がっている。

そして大きな十字架の下には棺桶が一つ。


ベルナデットは先に椅子に腰を掛けて俯いている。

視線が合うとその顔色は青ざめていてかなり悪いことがわかる。


ジェラールが入ってくると、こちらに向けられる同情の視線。

こうしてヴィヴィアンを愛しているいい王太子を求められることにジェラールはうんざりしていた。

だが、今だけの辛抱だと我慢をして悲しんでいる表情を作る。


車椅子に乗ったラームシルド公爵は、回復したのか顔色がよくなっているような気がした。

その隣にいるマイロンはジェラールに気づくと殺意の篭った視線を送り、鋭く睨みつけている。

まるで全てがわかっていると言いたげな態度に怯えることしかできないジェラールは表情を取り繕うのに必死だった。


そんな時、ジェラールは神官から真っ白な花を受け取った。

ジェラールを震える手で花を受け取る。


そしてヴィヴィアンの棺桶に向かって一歩、また一歩と足を進めていく。

汗ばむ手を握り込みながら棺桶の中を覗き込んだ。



「───ッ!?」



そこには青白い顔をして目を閉じたヴィヴィアンが真っ白な花に囲まれて眠っている。

三ヶ月も前に死んだはずなのに肉は腐っているどころか、人の形を保っている。

今にも動き出そうなヴィヴィアンを見てジェラールは恐怖を感じていた。


(意味がわからないっ!確かに、あの時っ……僕がこの手で!剣で刺して騎士たちが死の森に投げ捨てたはずだろう!?)


そんな時……ふと視線を感じて下を向く。

見間違いかと思ったが、ヴィヴィアンの閉じているはずの目が開いているではないか。

エメラルドグリーンの瞳と目が合い、真っ赤な紅が塗られた唇は綺麗に弧を描いている。

それを見たジェラールの体は反射的に飛び跳ねた。



「──ヒィッ!?」



恐怖から全身に鳥肌が立った。

ジェラールは後退して足がもつれてしまいその場で尻餅をつく。

周囲が騒ついたことに気がついたジェラールは直ぐに表情を作り悲しげに目を伏せて誤魔化すように口元に手を当てた。


(いっ、いま、今、ヴィヴィアンの目が開いていた……!?こんなことはあり得ないはずだ。今のは幻に違いないっ!)


ジェラールは肩を揺らしながら荒く息を吐き出していた。


(ヴィヴィアンはもういない!死んだっ死んだんだっ!)


ジェラールは必死に自分に言い聞かせていた。

周囲には感動的なシーンに見えているのだろうか。

啜り泣く声がそこら中から響いている。

ジェラールは震える手で棺桶を掴み、足に力を入れてなんとか立ち上がり、花を投げ入れるようにして棺桶に入れてからフラフラとした足取りで自分の席に戻った。


正気ではいられなかった。

ジェラールの異様な様子に気づいているのは、ベルナデットとスタンレー公爵だけだろう。


ジェラールの番が終わり、そのままヴィヴィアンの棺に花を添えていく。

先ほどジェラールの見たものが本当かどうかわからない。

わからないけど胸騒ぎがして仕方なかった。


国王と王妃に続いて、大臣達もヴィヴィアンに花をたむけていく。


そしてベルナデットの番になる。

肩を大きく上下させながら震える手で花を握るベルナデットを見てジェラールは心配していた。


(大丈夫だ。ベルナデットとヴィヴィアンが仲がよかったことは皆が知っているはずだ。動揺するのは当然だろう!?)

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