第24話


そう言い聞かせて心を強く保とうとしていた。

動物のアンデッド達もヴィヴィアンの真似をしているのか、瓦礫を集めている。

先ほどモネの髪飾りを持ってきてくれた狼も懸命に材料を集めてくれたのか、大きな枝をもってきてヴィヴィアンの前に置いた。



「みんな、ありがとう……」



ヴィヴィアンの心が温かくなる。

こうして誰かがそばにいてくれることが嬉しいと感じる。

今度は心から笑顔になれた気がした。

「がんばらないとね」と、ヴィヴィアンが気合いを入れながらそう声を上げようとした時だった。



「屋敷にくればいい」



サミュエルの呟くように言った一言にヴィヴィアンは目を見開いた。

ヴィヴィアンが振り返ると、サミュエルは真っ直ぐにこちらを見ている。

やはり先ほど言った言葉は聞き間違いではないようだ。

すかさずキーンが何か言おうとしたのをアーロが口を塞いで引き留めている。



「……屋敷に?」


「ああ」


「わたしが、屋敷にいてもいいのですか?」


「このような場面を見て放ってはおけない。それに古い屋敷でも、ここで野宿するよりはいいのではないのか?」


「…………!」


「もちろん、どうしてもここがいいと言うならば止めはしないが……」




サミュエルはヴィヴィアンから、そっと視線を外す。

自分の気持ちを伝えなければとヴィヴィアンは口を開く。



「いいんですか?わたしがサミュエル様のそばにいても」


「ああ、もちろんだ。逆に何故、そんなに遠慮する?」


「そ、それは……」



これ以上、サミュエルと一緒にいると甘えてしまう。

ヴィヴィアンを受け入れてくれる彼といると心地がいい。


(サミュエル様は、わたしのことをどう思っているのかしら……)


何だか恥ずかしい気持ちになりヴィヴィアンは赤くも熱くもならないが頬を押さえた。



「では、お邪魔します」


「ああ」


「それと……改めて御礼を。混乱するわたしに色々と優しく説明してくださったこと感謝しております。またよろしくお願いします」


「ああ……」



頭を下げるヴィヴィアンにサミュエルは頬に指を添えて、顔を上げるように促す。

頬の横から黒い煙が上がっているが、サミュエルは気にする様子はない。

ほんのりと焦げ臭い匂いが鼻につく。



「あ、あの……サミュエル様?」


「……」


「なにか?」


「っ、すまない」



サミュエルは慌てて手を引っ込める。

なんだか二人で照れてしまい、サミュエルと目があったがすぐに逸らされてしまう。



「とりあえずは屋敷に行こう」


「……はい。お世話になります」



こうしてヴィヴィアンは再びサミュエルたちが住む屋敷に戻ることになった。

キーンは相変わらずヴィヴィアンが気に入らないのかずっと文句を言っていたが、アーロが「キーンは冥王様のことになると冷静でいられないからヴィヴィアンちゃんは気にしなくていいよ~」と言って笑っている。


ヴィヴィアンの前に伸ばされた手。

掴もうかと迷っていると、サミュエルが掴めと言わんばかりにもう一度手を前に出す。

ヴィヴィアンが恐る恐る手を取ると黒い煙が出る。

しかしサミュエルは気にする様子はなく、屋敷まで歩いて行くつもりのようだ。



「サミュエル様、ちょっと待ってください!」



背後を振り向くとヴィヴィアンがこの一週間で仲良くなった動物達が列をなしている。

寂しそうに潤んだ瞳でこちらを見つめていた。


ヴィヴィアンは動物達にサミュエルの屋敷に行くことを説明する。

ヴィヴィアンについて行けば、またアンデッドになることがわかっているのだろう。

ヴィヴィアンが戸惑っていると「そこまで遠い距離ではない。すぐに会える」というサミュエルの言葉に瞳を輝かせた。


ヴィヴィアンは「また明日、会いに来るから」と声を掛けて歩き出す。

アーロがキーンを押し除けながら「ヴィヴィアンちゃん、仲良くしよう!よろしくね」と言ってはしゃいでいる。


屋敷に到着したがヴィヴィアンは中に入る前に尻込みしてしまう。

今にも壊れそうな建物は黒く汚れていて、割れた窓から揺れるボロボロなカーテン。

黒い泥が波打ち、今にも城の壁を覆い尽くそうとしている。

あの時は怒りと悲しみでよく見えなかったが、改めて見ると凄まじい迫力である。


ヴィヴィアンはサミュエルに手を引かれるまま進んでいく。

ギシギシと軋む床に蜘蛛の巣が張り巡らされて、カサカサと何かが蠢く音。

ヴィヴィアンは肩を揺らして驚きつつも足を進めていた。

ブニッと何かがつま先に当たる感触がして、ヴィヴィアンが恐る恐る下を見ると、大きくて黒い塊があり、よく見ると足や手、目や口があるように見えなくもない。



「ヒィ……ッ!」



目玉がギョロリとこちらを向いて目が合うとと『ギィエェエエ!』と聞いたこともない、けたたましい悲鳴が上がる。

ヴィヴィアンは声にならない悲鳴をあげていた。

あまりの恐怖に鳥肌が立ち、思わず近くにいたサミュエルに抱きつく。

しかしサミュエルからもジュワアアアァッと黒い煙の柱が上がりヴィヴィアンは慌ててしまう。



「キャアアアッ!助けてくださいっ、助けてぇ!」


「キーン、コイツを城の外に放り投げろ」


「かしこまりました!」



キーンは名前を呼ばれるとすぐに動き、頭を掴むとひび割れた窓から放り投げる。



「ヴィヴィアン、もう大丈夫だ」

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