第11話



「この馬鹿のせいで片付けたところで無駄だ」


「おっ!可愛い女の子発見ー!どこなら来たの?なにしてたんだ?まともに喋れるアンデッドなんてオレ達以外に初めて見たんじゃね?」


「え、えっと……」


「名前は?あ、オレはアーロね」


「わたしはヴィヴィアンでっ……「ヴィヴィアンちゃん、可愛い名前じゃん!」



ヴィヴィアンが戸惑いつつ、サミュエルを見ると彼はゆっくりと頷いた。

そして案内されるがまま先ほどとは違う部屋に入る。

キーンが紫色の毒々しい色の瓶を持ってきて、少し曇ったグラスに緑のような茶色のような濁った液体を注いでいく。

ヴィヴィアンはそのグラスを見ながら固まっていた。



「こ、この液体は……」


「まぁ、色はアレだけど味は保証するぜ」



アーロはそう言うとグラスを傾けてている。

ヴィヴィアンも恐る恐る口をつけてドロドロとした液体を飲み込んでみると、意外にも爽やかで美味しいことに気づいて驚いていた。


キーンとアーロは双子だそうだ。

お喋りで明るいアーロに促されるまま、自分が死ぬ前に起こった出来事を少しだけ話していく。

すると再び目頭が熱くなっていく。

信頼していた婚約者と友人に裏切られて殺されてしまったこと。

ヴィヴィアンの話を聞いたキーンとアーロは顔を合わせて申し訳なさそうにしている。


サミュエルは目を閉じてヴィヴィアンの話を聞いていた。

重たい空気になってしまったことが申し訳なく思ったが涙が止まらない。

三人はヴィヴィアンの話を最後まで聞いてくれた。



「というわけで、この森にっ……投げ捨てられたというわけです」


「ひっでぇ……そんなことやるよな。その婚約者もずっと嘘ついてたってこと?親友だと思っていた女、めちゃくちゃ怖いなぁ」


「人間は欲深い生き物ですからね」



サミュエルに話す時よりもずっと落ち着いて話すことはできたが、やはり胸が痛い。

涙が溢れないように堪えていると、スッと差し出される布。

ヴィヴィアンが顔を上げるとサミュエルと目があった。

「ありがとうございます」と言って、サミュエルから布を受け取り涙を拭い、思いきり鼻をかんだ。


それにヴィヴィアンはサミュエル達を見て思ったことがある。


(あんなに恐れられているアンデッド達を統べる人たちがこんなに穏やかだったなんて意外だわ)


ヴィヴィアンはこの場所に居心地のよさすら感じていた。

アンデッド同士、仲間としてすぐに受け入れてくれたのだろうか。

ヴィヴィアンは自分の手のひらを見た。


(本当にアンデッドになったのね)


自分の意志で動かすことができるのは幸運なのだろうか。

しかし見た目と冷たいこと以外、生前となにも変わらない。


アーロのマシンガントークを聞いていたヴィヴィアンの口から疑問が飛び出た。



「あの……アンデッドとは、なんでしょうか」



ヴィヴィアンがそう問いかけると三人はピタリと動きを止めた。

サミュエルはじっとヴィヴィアンを見たまま動かない。

そして静かに口を開いた。



「気づいたらこうなっていた」


「気づいたら?」


「ああ、何も思い出せない」



サミュエルの言葉にアーロもキーンも同意するかのように頷いている。



「オレ達以外のアンデッド達と意思疎通するのは難しいんだよね」


「そうなのですか?」


「ああ、だが何かを取り戻さなければいけないような気がするんだが……」



そう言ってサミュエルは額を押さえている。

何を思い出せないのか聞いてみても、全く思い出せないのだという。



「……どうしてでしょうか?」


「いや、わからない」



サミュエルが思い悩む姿を見ていると、どうにかしてあげたいと強く思った。

それは初対面にも関わらず、ヴィヴィアンの話を最後まで聞いてくれて優しくしてくれたからだろうか。



「ヴィヴィアン、行くところがないのなら城に泊まっていくといい」


「……!」



どこまでも優しいサミュエルに胸が苦しくなる。

提案はありがたいと思ったが、ヴィヴィアンは今だけは一人になりたいと思っていた。

それとずっと気になっていたことがある。

それはヴィヴィアンより前に死の森へと言った騎士のマイケルと侍女のモネの存在だ。


(この泥に飲み込まれたったことは、二人もアンデッドになってしまったのよね?)


二人を助けたい……ヴィヴィアンはそう思った。

アンデッドになったとしても大切な存在だ。



「いえ……お気遣いありがとうございます。それにわたしを守ろうとしてくれたマイケルとモネがこの森の中にいるかもしれないので探したいんです」


「マイケルとモネ?」



ヴィヴィアンはサミュエルとキーン、アーロの三人にマイケルとモネについて話していく。


あの二人も死の森へと連れて行かれてしまった。

安否が気になるのと同時に、彼ならば何か知っているかもしれないと思ったが今はわからないようだ。



「もちろん、ここにいることが嫌とかではないんです!でも……二人が心配で」


「いや、構わない。一人になる時間が必要だろう?それにアンデッドは仲間同士ならば襲われないからな」


「サミュエル様……助けていただき本当にありがとうございました。キーンさんもアーロさんも話を聞いてくださってスッキリしました」



ヴィヴィアンはサミュエル達に頭を下げる。

あんなことがあった後に、こんなにも優しくされてしまえば、また泣いてしまいそうだった。

ヴィヴィアンはグッと唇を噛んで涙を堪えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る