第3話
「ヴィヴィアンはアンデッドにやられてしまったんだ」
「……!?」
「な、なんだその顔は……!ヴィヴィアンはアンデッドから僕達を守って殺されたんだ」
「そんなことありえませんよ!今までアンデッドたちはヴィヴィアン様を避けていましたから!」
「そうです!ヴィヴィアン様にはアンデッドは近寄らないはずですよね?」
「……っ」
マイケルとモネはジェラールの言葉を疑っているようだ。
納得する様子がないからか苛立ちを滲ませたジェラールは舌打ちをしている。
「チッ……僕の言っていることを疑うのか!?」
「嘘はやめてくださいと申し上げているだけです。やはりジェラール殿下達がヴィヴィアン様を?」
「その剣の傷は違いありません!やっぱりヴィヴィアン様を裏切ったんですね!?」
マイケルとモネの言葉にピリピリした空気が漂う。
「……ヴィヴィアンはアンデッドに殺されたと言っただろう!?このままではアンデッドになってしまう可能性もあるから刺したんだ。ヴィヴィアンを〝死の森〟に捨てておけ。今すぐにっ」
「ヴィヴィアン様はこの国、唯一の聖女でなくてはならない存在ですよ!?こんなこと許されません!」
「もう一度言う。ヴィヴィアン・ラームシルドを死の森に捨てろ」
「できませんっ!俺の母はヴィヴィアン様に救われたんだ」
「私も嫌です!このことは国王陛下に報告させていただきますから!なんとかヴィヴィアン様を救わなければっ」
引く気のないマイケルとモネにベルナデットが我慢できないとばかりに声を上げる。
「お黙りなさい!たかが侍女と騎士の分際でジェラール殿下に意見するなんて生意気なのよッ!」
ベルナデットの息は次第に荒くなっていく。
「どこに行ってもヴィヴィアン様、ヴィヴィアン様って……もうウンザリだわっ!もっと王族や貴族を敬いなさいっ!あの女は聖女の皮を被った悪魔なのよ……!?」
「な、なんてことを!」
「この女のように死にたくなければ言うことを聞きなさい……!一族もろとも根絶やしにしてやりましょうか!?」
「……っ!?」
「お二人はヴィヴィアン様を殺したと認めるのですね!?」
「お、お父様に頼んだらあんた達なんて一瞬で消え去るんだからっ!」
「ごちゃごちゃうるさいっ!ベルナの言う通りにしろッ!」
吐き捨てるように言ったジェラールはもうヴィヴィアンの知っている彼ではなかった。
マイケルとモネはジェラールとベルナデットと激しい口論を繰り返していた。
前々からマイケルとモネはジェラールとベルナデットに警戒心を持っていたことを今になって思い出す。
しかし後から複数の騎士が来たのと同時にマイケルとモネが責められている声が聞こえる。
「マイケルとモネ、この二人は反逆者だ!ヴィヴィアンがアンデッドと戦っていたのに加勢することなく見捨てたぞ」
「二人がヴィヴィアンを見殺しにしたのよっ」
「ジェラール殿下、ベルナデット様、それは本当ですか!?」
「二人はヴィヴィアンを罠に嵌めたの!わたくし達が証人よ」
「ああ……まさか一番身近にいた二人がヴィヴィアンを裏切るとはっ!何故こんなことにっ!ヴィヴィアンが僕達を守ろうとしていたのに。二人を許すな!」
ジェラールの声色は怒りがこもり、微かに震えている。
ベルナデットも涙ながらに二人がヴィヴィアンを殺そうとしたと訴えかけている。
マイケルとモネを庇いたくてもヴィヴィアンは指一本、動かせない。
「なっ……!我々がヴィヴィアン様を裏切ることなどありえません!」
「ヴィヴィアンを剣で殺しているのを私達は見ましたっ!信じてください」
「俺はこの二人を許せそうにないっ!今すぐ死の森へ追放しろッ!今すぐだ」
「か、かしこまりました」
騎士達が返事をした後に、二人が抵抗していることがわかる。
「ヴィヴィアン様ッ、ヴィヴィアンさまぁ!」
「キャアアアアッ!?」
「なるべく、森の奥深くに捨ててこい。お前たちがアンデッドに食われるなよ」
モネの悲鳴とマイケルが必死にヴィヴィアンを呼ぶ声が聞こえた。
(マイケル、モネッ……!どうしてこんなことにっ)
二人の声が聞こえなくなり、また周囲が静かになる。
小さなジェラールの声が上から聞こえた。
「コイツと一緒にいると疲れるんだ。勝手に理想を押し付けられていい迷惑だった。理想の王子様からやっと解放される。人気を得るためとはいえ……疲れたな」
「ジェラール殿下、それも今日で終わりですわ」
「ああ、そうだな。これでヴィヴィアンを守ろうとした僕たちの株も上がるだろう。父上もベルナデットを選ばないなんて見る目がない。いくら聖女としての力を持っていたとしても、この僕を平民と結婚させるなど……!」
「えぇ、お父様にもちゃんとできたって報告できるわ!きっと、わたくしを褒めてくださるでしょうね」
「父上はヴィヴィアンが天からの贈り物で一生城にいてもらわねば困ると言って聞かなかった。馬鹿馬鹿しい限りだ……ベルナデットには苦労をかけてすまなかったな」
「いいのよ。必ずこうなるとわかっていたわ。だからヴィヴィアンが尚更惨めだったけど。貴族達に認められるように頑張っていたみたいだけど、所詮は低俗な平民なのよ……まぁ、馬鹿女を騙せて面白かったけどね」
「そうだな。これで証拠もなく僕達が疑われることはないだろう。ああ、騎士達が戻ってきたようだ」
ジェラールは先程とは違い、悲しそうな声で鼻を啜りながら喋りはじめた。
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