【電子書籍化決定】婚約者と親友に裏切られて殺された聖女はアンデッドとして蘇ります!〜冥王様と共に絶望をお届けする予定ですけど……覚悟はいいですか?〜
やきいもほくほく
プロローグ
第1話
───今日、ヴィヴィアン・ラームシルドは婚約者と親友を守って死ぬ……はずだった。
「───ヴィヴィアン、危ないッ!」
背中に激しい痛みを感じて、ヴィヴィアンはその場に倒れ込む。
真っ白な聖女服が背から赤く染めていく。
「アンデッドめっ!よくもヴィヴィアンをっ!」
「許さないわ!」
アンデッドは死の森と呼ばれる場所から湧き出る化け物の総称だった。
どうやらヴィヴィアンはアンデッドに襲われてしまったらしい。
(わたしはアンデッドからジェラール殿下とベルナデット様を守った、ということ?でも……アンデッドはわたしに近づけないはずじゃないの?)
様々な疑問が頭に過ぎるが、背中の激しい痛みに意識が遠くなる。
ヴィヴィアンが咳き込むと、口端から血が流れた。
なんとか体を起こして様子を見るために仰向けになる。
「ヴィヴィアンッ、ヴィヴィアン……大丈夫か!?なんでこんなことを」
「ジェラール、殿下は……ご無事、ですか?」
「僕とベルナデットは無事だ!だが、ヴィヴィアンがっ」
ヴィヴィアンはなんとか自分の力を使って背中の傷を治癒できないか試していた。
しかし傷は思ったよりも深いようで自分の力で最後まで怪我を治すことはできないだろう。
死を意識した瞬間、手足が急速に冷えていくような気がした。
ヴィヴィアンはこの国の王太子、ジェラールの婚約者だった。
いつか素敵な結婚式を挙げて、二人で永遠の愛を誓い、国を守っていくことを夢見ていたが、それはもう実現できないのだろう。
今までの人生に後悔がないと言ったら嘘になる。
「わたくし、人を呼んでくるわ……!」
「ヴィヴィアン、頑張れるか?」
ヴィヴィアンはベルナデットの言葉に緩く首を横に振った。
その瞬間、二人の唇が大きく歪んでいるように見えたような気がした。
(……気のせい、よね?)
ジェラールがヴィヴィアンの名前を呼んで必死に叫んでいる姿を見て、そんなはずはないと思った。
誰かを呼んだとしても、このままでは間に合わない。
ベルナデットを引き留めるように「待って」と口にする。
最後にジェラールとベルナデットに言葉を伝えたくて、ヴィヴィアンは口を開こうとするが、うまく言葉を紡げなかった。
ジェラールは眉を顰めながらヴィヴィアンの言葉を待っている。
「わた、しは……ゴホッ」
「ヴィヴィアン、もう喋るなっ!」
「ごめんなさいっ、ヴィヴィアン!わたくしが探し物があるなんて言ったからこんなことに」
ジェラールの隣で瞳を潤ませているのはヴィヴィアンの親友、公爵令嬢のベルナデット・スタンレー。
モカブラウンの髪とバイオレットの瞳がぼやけて見える。
公爵令嬢でありながら、平民出のヴィヴィアンに優しく接してしてくれた。
ヴィヴィアンは令嬢達から馬鹿にされていたが、ベルナデットと仲良くするようになるとそれも少なくなる。
ベルナデットはヴィヴィアンにとって大切な友人だった。
ヴィヴィアンは自分の治療を諦めてベルナデットに手を伸ばす。
しかしベルナデットはヴィヴィアンの手を取ることなく、口元を両手で押さえて目を見開いているだけだった。
力なくヴィヴィアンの腕が地面に落ちる。
「ベルナデット、さま……この国を、ジェラール、殿下をっ、お願いします」
「わかっているわ!大丈夫、安心して。わたくし達に全てを任せて……早く休んでちょうだい?」
「よか、った……」
安心感から体の力が抜けていく。
ジェラールがヴィヴィアンの頭を撫でていることがわかった。
ヴィヴィアンが瞼を閉じると頬から涙が伝う。
ジェラールの指が、ヴィヴィアンの頬を優しく拭ったような気がした。
(よかった……大変な人生だったけど、最後に大好きな二人の役に立てた)
自分がいなくなってもヴィヴィアンが信頼している二人ならば、きっといい国を作ってくれるだろう。
ヴィヴィアンが目を閉じていたが、なかなか意識が途切れることはない。
聖女の力を使って無意識に体を治しているのだろうが、今のタイミングで逝けなければどうすればいいのだろう。
(あーあ、ジェラール殿下との結婚式、楽しみにしていたのに……。国王陛下はすぐにでも式を挙げたいと言ったけど、マイロンお兄様やお父様が反対するんだもの。聖女服じゃなくて素敵なドレスを着てみたかったのにな)
目を開けるタイミングを失って、ヴィヴィアンはそのまま死んだフリを続けていた。
するとジェラールが立ち上がったのがわかった。
(そういえば、死ぬ前にキスして欲しいと言ってみてもいいのかしら……!だって一度もしたことないんだもの)
これが最後だと思うと寂しく感じて、ジェラールに「やっぱり最後にキスをしてください」と言って目を開けようと思っていたヴィヴィアンは二人の『裏の顔』を目の当たりにすることになる。
いっそのことそのまま死んで聖女の力などない方がよかったと後悔するくらいに……。
「はぁ……これで僕とベルナデットを邪魔する者はいなくなったな」
───僕と、ベルナデット?
「そんな言い方をしたら可哀想よ?ヴィヴィアンはジェラール殿下とわたくしを体を呈して守った、ということになっているのに……」
───これは、誰が言っているの?
「皆から愛されているヴィヴィアンとの婚約を破棄するにはこうするしかなかった。仕方ないだろう……?」
───婚約を破棄?私と、誰が……?
「ふふっ……悪い人。聞こえていたらどうするの?ジェラール」
───ジェラール、殿下が……私を裏切ったというの?
「聞こえているわけないじゃないか。ヴィヴィアンは死んだのだから」
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