ハガルとサラ 



https://kakuyomu.jp/users/sepstar/news/16817330665171748816



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サンフランシスコの美術館には、バレン・ファブレティウス(1624-1673)というオランダの画家の作(1650-1660)で、

「アブラハムのもとを去るハガルとイシュマエル」があります。

私はその絵がきっかけで、「ハガルとサラ」の絵について知ることになりました。


まずは旧約聖書にあるハガルの話から始めます。

カナンに移ったアブラハムは八十五歳、妻のサラは七十五歳でした。サラはもう子供が産めないと思い、世継ぎを残すために、夫にエジプト人の若い奴隷ハガルを妾にすることを薦めます。アブラハムはしぶしぶだったのですが、それを聞き入れ、ハガルは妊娠します。

すると、ハガルの態度が大きくなったのか、サラが嫉妬したのか、サラがハガルに何かと冷たくあたります。アブラハムに訴えても、法には正妻に従うようにとあるので、何もしてくれません。耐えられなくなったハガルは家を出ます。


私はそれまで、サラってパーフェクトな女性のように思っていたので、そんな意地悪をするんだと驚きました。その場面を描いたのが、上のルーベンスの絵です。



ルーベンス、1615~1617年作、

エルミタージュ美術館所蔵 63x76cm

お腹の大きなハガルが、犬に別れを告げて、家を出ようという場面です。

サラは「さぁ、出ていけ」というような態度。アブラハムは途方に暮れて、天を見つめていますね。


さて、一度は家を出たハガルでしたが、天使に説得されて家に戻り、そこで息子のイシュマエルを出産します。

しかし、それが十数年後、九十歳になったサラが妊娠し、イサクを産むのです。(年齢の数え方については、今と違うとか、当時の人は長生きしたとか、いろんな諸説あるようです)

しかし、イシュマエルがイサクをいじめるのを見て、サラは夫に、ふたりをどこかにやってほしいとと頼みます。アブラハムはその気はなかったのですが、仕方なく、ふたりを追い出します。


その別れを描いたのが、サンフランシスコの美術館にある作品です。

またこの画家ファブレティウスが同じテーマで描いた絵が、ニューヨークのメトロポリタン美術館にあります。

 ☆

50x36cm


こちらのほうがハガルが別れたくないという悲しみが伝わってきますし、背景も詳細に描かれています。水入れをもった子供の表情もわかり、より完成した作品に見えます。同じ、画家が描いたとは思えないくらいです。


アブラハムはハガルとイシュマエルが家を出る時に、食料や水を持たせるのですが、それもやがて尽いてしまいます。いくら水を捜しても見つからず、ハガルはイシュマエルを木の下に寝かせて、死ぬのを待ちます。

しかし、その時、天使が現れて、水のありかを教えてくれます。


グエルチーノ(1591-1666) 、ロンドン・ナショナルギャラリー蔵。

この絵の中では、手に白い布をもって泣いているハガル、そばには空になった壺が倒れています。後ろの木の舌にはイシュマエルがぐったりしています。その時、天使が現れて、水のありかを教えてくれます。これは天使が泉を指さしている場面です。


それから、ふたりはバランという荒野で生活し、イシュマエルはエジプト人の妻を娶り、十二人の子供を産みました。その彼らが、アラブ人の祖先だと言われています。


ちなみに、イスラム教の人々は一生に一度はハッジ(巡礼)ら行かねばならないのですが、その中に、サムザムの泉を往復するという行があるそうです。それはハガルとイシュマエルが水を求めて歩いた時の体験をしているのだそうです。


シャガールに、こんな一枚がありました。

「砂漠のハガル」、1960年


左上に天使がいます。

タイトルを見なければ、ハガルのことを知らなければ、マリアとキリストだと思ってしまいますよね。


さて、イサクのほうはアブラハムの故郷であるカルデアの女性リベカと結婚し、エサウとヤコブという双子の兄弟をもうけます。このヤコブは後にイスラエルと改名しました。ユダヤ人はみなヤコブの子孫です。


つまり、アラブ人も、イスラエル人も、どちらも、アブラハムの血が流れているのです。

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