第14話石川孝雄の失脚②

杉沢大先輩の舌鋒は、厳しく鋭い。

しかも、都の教育委員だ。

(まさか、と思った、とても太刀打ちできる立場ではない)

私の心は、ガラスのように、砕け散った。


「石川君、あなたの教育って何なの?」

「長幼の序?先輩後輩のケジメ?」

「それが出来れば、音楽が調和するの?」

「そうではないでしょ?」

「音程、リズム、音量、ニュアンスが揃って調和するの」

「ラの音なのにドを出していても、先輩なら許されるの?」

「いい?これが最近貴方が指揮したタンホイザーの録音」

(誰が録音したかわからないが、確かに最近指揮したタンホイザーが流れた)

(確かに、音楽ではない、単なる騒音だ)

(学園長は両手で耳をふさいでいるし・・・)


杉沢大先輩は、次に問題となった「屋上での、金管アンサンブル:トランペット吹きの休日」を再生。


学園長は、急に笑顔だ。

「ほお・・・これはいい」

「楽しい、第一トランペットも上手いなあ」

「うん、曲の中盤から、大きな輝く音に」

(私も、音楽そのものは、評価していた)

(翔太より、音が伸びやかで、響いたから)


杉沢大先輩は、表情を厳しくした。

「石川君は、この第一トランペットを、叱ってクビにしたの」

「彼はパートリーダーの指示に従って吹いただけ」

「しかも、他の先輩にも、勧められて」

「彼が遠慮しなかった、それはあなたの指示も不徹底なの」

「その指示も、音楽とは関係の無い酷い指示」

「そして、何の罪もない彼を何度も謝罪させ、心に傷をつけ、退部を強要した」

「その貴方のやり方に反発して、ほとんどの部員が退部届を出した」

「完全にパワハラ案件、モラハラ案件として、都の教育員会は対応します」

「そして、文科省にも、あなたの名前、学園長の名前を書いて、報告します」


私は、ここまで言われては、どうにもならなかった。

杉沢大先輩と学園長に深く頭を下げた。

「私が、退職届を出します」

「申し訳ありませんでした」


失意の私に、杉沢大先輩が、ますます追い打ちをかけた。

「あなたが酷い対応をした、本田君は」

「大先輩、トランペットの名奏者本田美佳さんの息子さんよ」

「あなたは、大先輩の息子さんを、傷付けてしまったの」

「まさに、恩をあだで返したの」


私の心は、この言葉で、完全に壊れた。

敬愛する美佳先輩に、申し訳なくて、涙まで出て来てしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る