第11話失意の帰り道、僕は追いかけられて異変を聞いた。

校門を出ると、桜並木が続いている。

昨日と今日の朝までは、幸せな桜吹雪。

でも、今は、見上げるのも辛い。

(僕には似合わない美しさ、と思うから)


「傲慢で身の程知らずのバカ」

「調和を乱す」

「お前なんて、百害あって一利なし」


コンマスの佐々木さんや石川先生に叱られた言葉が、何度も僕の心を刺す。


「パートリーダーの指示に従っただけなのに」

「でも、それは、本当は、他の先輩の気持ちを考えて、遠慮しなければならなかった」

「他の先輩も、吹いていいよ、と言ったのに」

「結局、騙されたの?」

「それとも、やはり謙虚さに欠ける人間なの?」


4月なのに、まだ冷たい風が僕の頬に当たる。

泣きたい、でも、泣くほどの価値がない人間と思った。

「しっかり反省」しなければならないほどの、無価値な人間と思った。

これを母さんに「どう言おう」と不安。

厳しく叱られるか、ガッカリされるか、その両方になるのか。

家への足取りも重くなった。


うつむき加減で歩いていると、後ろから里香先輩の声。

「瞳君!待って!」

振り向くと、トランペットパート全員が追いかけて来た。


もう一度、「謝れ」、と言うのかな。(僕はそう思った)

だから、また、「申し訳ありませんでした」と、謝った。


「そうじゃないの!」

頭を下げた僕を、里香先輩が、抱き起した。


「え?」


頭を上げると、(驚いたけれど)トランペットパート全員が、僕に頭を下げている。


パートリーダーの翔太先輩。

「今から、瞳君の家に行く」

「お母さんにも事情を説明する」

「もう、連絡した」

(おそらく里香先輩が母さんからアドレスを聞いたと思った)


他の先輩も頷いているので、僕は困惑した。

「傲慢で身の程知らずで、僕は退部届を出してしまいました」

「今さら、説明してもらっても、意味ないです」


華奈先輩が、僕をギュッと抱きしめた。(泣いていた)

「ごめんなさいは、こっちのほう」

「すごく上手だったから聴きたくなって」

「それで楽譜を渡したの」


僕は、困惑した。

「でも、コンマスと石川先生は、傲慢で謙虚さに欠けるって」

「しっかり反省しろと、クビになりました」

「みんなの前でも、謝りました」


敏生先輩は、蒼い顏。

「あの時のコンマスと石川先生の指示に納得しない部員が多くて」

「実は瞳君が退部届を出した後、管楽器と弦楽器のほとんどが退部届を出した」

「もちろん、トランペットパートは全員」

「だから、俺たちは、もう、音楽部員ではない」


パートリーダーの翔太先輩。

「音楽部に残ったのは、コンマスと、ベースが一人、ヴィオラが一人だけ」


僕は、また困惑した。

「石川先生は、止めなかったんですか?」


華奈先輩が、説明してくれた。

「止めないよ、むしろ、音楽部がなくなれば、残業も減って楽になるんだとさ」

「もともと、やる気がない人」

「だから、部員も、何かのきっかけで、どんどん辞める」

「瞳君だけでなくて、酷い目にあって辞めた人も、他にも何人かいるの」

「腰ぎんちゃくは、コンマスの佐々木君だけ」

「石川先生のコネで音大を狙っているから」


里香先輩が僕の手を握った。

「ごめんね、辛い思いを」

「瞳君は、何も悪くないのに」


その時、里香先輩は、大泣きになっていた。

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