第9話僕は、屋上での練習で評価された

トランペットパートの練習は、屋上になった。

(金管は全員、そうなった)

音楽室での各パートの練習を一緒にすると、いろんな楽器のパートの音が混じってしまうので、音が大きな金管は、広々とした屋上のほうがいい、との理由だった。(里香先輩に聞いた)


僕(瞳)は屋上から、校庭やキャンパスを眺めた。

すでに夕焼けが始まっていた。

風は、春特有の柔らかさと、ほんの少しの肌寒さ。

その風に、満開の桜が、そよそよと揺られている。

それだけでも、いい感じ、と思った。


トランペットのパートリーダーは翔太先輩(3年生)。

「好きに吹いていいよ、様子を見て、最後に何か合わせる」と言ったので、僕は鬼母に習った通り音階を少し吹いて、リップスラーの練習。

最初はゆっくり目に、だんだん、速くした。(スムーズにできるようになった)

高音は、ハイCも楽に出た。


敏生先輩(2年)がびっくりした顔で、寄って来た。

「よく、そんな高い音を出せるね、俺出せないよ」


僕は、返事に困った。(楽に出たから、何の苦労もなかった)


華奈先輩も来た。

一緒に、リップスラーの練習をした。

(これも、あまり困らなかった)

「お母さんに習っていたの?実は?」


僕は、素直に答えた。

「うーん・・・小さな頃から手ほどきはされて、昨日から、しごかれました」

「でも、ピアノが中心で、トランペットはバンドも吹奏楽も経験ないです」


パートリーダーの翔太先輩は、ニコニコ顏。

「ファーストトランペットがいいかも」

「アンサンブルしてみようか?」


他の先輩も、すぐに乗った。

早速譜面台と楽譜が配られた。

(僕は翔太先輩の隣、ファーストトランペットの楽譜)

(里香先輩は、華奈先輩、敏生先輩は、セカンドトランペット)

楽譜を見る限り、ファンファーレのような曲。


トランペットの合奏は初めて。

とにかく、周りの先輩に合わせて、間違えないように吹いた。

楽譜は、全く困らなかった。(ピアノに比べれば、楽)


最初は慎重だったけれど、途中から、息をしっかり吸って、大きい音を出した。

(翔太先輩は、びっくりした顔になった)

(それ以上に、里香先輩の笑顔が、キュンキュンするほどうれしかった)


初めての合奏が終わった。

翔太先輩は、ニコニコしている。

「鳴るねえ、いい音だよ」

「さすが、名手の子」(名手って、母さん?単なる鬼だよ)

華奈先輩

「宝石を見つけたって感じ」(わ・・・喜ばれている?)

敏生先輩は苦笑い。

「負けそう・・・俺も瞳君の母さんに習うかな」

里香先輩は、僕の頭を撫でた。(・・・子供扱い?少し辛い)

「私、もう弟子入りしたよ」


翔太先輩

「音は鳴るし、きれいで、リズム感もいい」

「楽譜には苦労しない、アンサンブルもできる」

華奈先輩

「もう、タンホイザー吹けるよ」

敏生先輩

「ファーストでいいよ、俺は高音苦手だから」

里香先輩は、またうれしそうに、僕の頭を撫でた。(・・・子供扱い決定・・・)


そんな話をしていると、トロンボーンパートとホルンパートが寄って来た。

翔太先輩と「金管アンサンブル」の話をしている。


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