独立違い

「お肉めぇー。やっためぇー!」



 ラムが今夜はパーティーだと言うことを聞いて跳びはねて喜んでいた。



「新鮮な羊肉があるからな。切り分けて貰ってこい」

「わかっためぇ。……ちょっと待つめぇ。もしかしてうちを食べる気じゃないめぇか?」

「……」



 俺は無言で肯定する。



「う、うちは食べ物じゃないめぇ! 善良なうちを食べ物にするなんて酷いメェ」

「羊なら食いもんだからな」

「酷いメェ。酷いメェ」

「とりあえず俺たちは大事な話がある。アルにでも頼んで食い物をもらってこい」

「分かったメェ」



 ようやくラムを追い払うことに成功する。

 そんな俺たちのやりとりを見ていたティアは苦笑を浮かべていた。



「あ、あの……」

「気にしないでください。本当にあいつの肉が出てくるわけではありませんから」

「そ、そういうわけでは……」

「とりあえず、うちに来てください。婚約の話は他に相談しないといけない人もいますので」

「わ、わかりました。頑張ります!」



 グッと両手を握りしめるティア。


 一体何を頑張るというのだろうか?

 むしろ彼女は俺に対して伝言を預かっているだけじゃないのか?


 いや、もしかするとそう思わせることすら父の思惑なのかもしれない。

 さすがに王女を襲わせるなんて下の下の策を父が取るはずがないと思っていたが、なるほど、むしろここでティアと仲良くさせること自体が策ならありえることだった。


 例の婚約云々もそれに付随したものなのだろう。

 しかし、全てを読み切るには情報が少なすぎる。


 もう少し詳しい事情をティアから聞く必要があった。

 それと情報の精査のためには色んな視点が必要ということもあり、エルゥやルナ、あとはサーシャに来てもらった方がいいと判断したのだ。


 応接間へと彼女を案内するとすでにエルゥたちはソファーに座っていた。

 エルゥの表情は真剣そのものである。

 一方のルナは人形を弄っている様子だった。

 人形遣いパペッターである彼女は自由に人形を操ることができる。

 もしかするとここで暗殺を仕掛けるかもしれない、と一応注意しておくことにする。


 すると少し遅れてサーシャが小走りでやってくる。



「申し訳ありません、お兄様。雑務に手間取って遅れてしまいました」

「俺たちも今ついたところだから問題ないぞ」

「そう言っていただけるとありがたいです」



 当たり前のようにサーシャはティアの横に座る。

 さすがに四人並んでティアと向かい合うのは威圧を与えすぎるだろう、と自然とそう言った対処を自然と取ってくれたのだろう。


 俺はティアと向かい合うようにエルゥ達の間に座る。

 フィーがお茶やお菓子を持ってきてくれると自然と俺の後ろに立ち、話し合いが開始される。



「それでティア様はどうしてこんな辺境の片田舎まで来られたのですか?」

「もちろんユーリ様に会うためですよ」



 ティアの曇りなき表情を見ていると嘘偽りはないように思える。

 ただ中身に対する言及があまりにもなさ過ぎて一体何のことを言っているのかさっぱり分からなかった。



「それは何か俺に用事があった、ということですか?」

「えぇ。あっ、そうでした。お父様からお手紙を預かっているのでした」

「拝見させていただきますね」



 むしろこれがメインであることは容易に想像がついていた。

 そして、父の策略もおそらくはこれを読めば推察できるだろう。


 ティアから手紙を受け取ると中身を読み始める。



『ユーリ・ルーサウス殿。貴殿の要望を受け、慎重に精査した結果、アルフの村一帯の土地を与え、貴国の独立を認めることになった。また、貴国との友好と親愛の証として第三王女フォロレンツィア・インラークとの婚約を望み、一足先に彼女を使者として送らせていただいた。正妻でなくて構わないので一考いただけるとありがたい。今後とも良き隣人として共に平和への道を歩んで行こうではないか。インラーク国王』



 よし、独立の許可を貰うことができた!!

 これから俺の破滅はもうない!

 これからは一貴族として、領主として頑張っていこう!



 思わずガッツポーズをしたくなるのをグッと堪える。

 すると隣でエルゥが喜んでくれていた。



「良かったですね、ユーリ様。これでユーリ様も一国家の王ですよ」

「あぁ……、えっ? 国家の王?」



 独立の文字ばかりに視線が向いてしまい肝心な内容が飛び飛びになってしまっていた。

 もう一度よくよく読むと確かに独立は独立でも国家の独立と書かれている。


 こんな周りを様々な国に囲まれている中で建国?

 しかも領土規模はアルフの村一帯だけ?

 これだとむしろ破滅が早くなっていないか!?


 満足げに見ているエルゥ達。

 サーシャですら納得しているように頷いているが、どうみてもこれだとトカゲの尻尾切りのようにしか思えない。

 もしかして、どうしても邪魔で、でも対処できない俺を他国に潰して貰おうと策謀したのだろうか?



 と、とにかくこのままではダメだ! こんな独立、絶対に認められるはずはない!!



 冷静を装った俺は内心焦りながらすぐに手紙を認めていく。

 もちろん身に余る恩賞のために辞退させていただきたい旨を書いたものである。

 それと同時に獣王国、帝国、聖公国にも同様に国として認められそうな旨を伝える手紙を先立って送っておくことにするのだった。




―――――――――――――――――――――――――――――

【作者からのご報告】

皆さんの応援のおかげで『黒幕一家に転生したけど原作無視して独立する』が書籍化、コミカライズ化することが決まりました。

本当にありがとうございます。


レーベルや詳細については追ってご報告させていただきますので、のんびりお待ちいただけるとありがたいです。


また他作品についてもご報告がありますので、気になる方は近況ノートの方をご確認いただけますと幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いします。



【作者からのお願い】

 これからも頑張って続けていきますので、よろしければ

「応援したい!」「続きが気になる!」

 など、思っていただけましたら、下にある『☆で称える』のところにある『+』ボタンを押して応援していただけると嬉しいです。


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