ラム羊に乗った領主様
向かってくる気配を探っていた俺は突然、その気配が殺気を出したことに驚き、慌ててその場に向かうことにした。
ただ、人の足ではとてもじゃないが追いつけない。
魔法で空を飛んでいっても良いが、障害は避けられるものの速度は走るよりも少し早い程度。
それを考えると適任は……。
「おい、起きろ!!」
「な、なんだメェ!? もう朝かめぇ!?」
「とっくに朝だ! むしろ昼だ!」
「それなら朝ご飯を食べないと行けないめぇ」
「そんなものは後からだ!」
「そ、そんな……。朝ご飯を食べないと死んじゃうメェ」
「安心しろ。死んだら夜のパーティーに使ってやる!」
「わーい。ってそれどうみても焼き肉パーティーだめぇ!?」
「そんなことよりも時間がない。すぐに行くぞ!」
漫才を続けるラムの上に無理やり乗る。
「行くってどこに行くんだめぇ!?」
「場所は気にするな。俺の言った方向へ全力で入ってくれたらいい」
「分かったメェ。その代わりに後から
「任せておけ。
「それなら本気を出すめぇ」
こうしてラムは襲撃者の下へと全力で走るのだった。
◇◇◇
俺としてはこうしてやってくる王族が家としての独立を宣言してくれるだけだと思っていたのだが、まさか護衛の騎士がその王族を……、それも王女を襲っている状況にやや困惑していた。
「これも父の陰謀か? それにしてはあまりにも稚拙で、成功するとは思えん策だな。つまりここで俺が助けることも見越しているのか?」
まざまざと父の策に乗るのは腑に落ちないが、それでも王族を見殺しにするとむしろ破滅へ一直線である。
つまりとれる行動はただ一つだけだった。
「だ、誰だ、おま……ぐはっ!?」
俺の方へと視線を向けてきた騎士にたいして思いっきり魔法で作った岩をぶつける。
「盗賊相手にのんきに名前を名乗るはずないだろ?」
さすがに相手が騎士と分かっていて攻撃したとなるとそれはそれで問題になるかもしれない。
そう考えた俺は騎士たちを盗賊として対処することにしたのだった。
「あ、相手は一人だ! 囲めばなんてことはない!」
「一人? あぁ、
「ぷぷぷっ、王女様を非常食扱いは酷いメェ」
「誰が人を非常食扱いするか! おまえのことだよ!!」
「ら、ラムは食べ物じゃないめぇ」
「な、舐めやがって!! 巨大羊なんて食用肉にしてやれ!」
「うるさいメェ! 今、大事な話をしているから邪魔しないで欲しいメェ!!」
ラムはそういうと騎士たちに体当たりをする。
超巨大な物体がすごい速度でぶつかってきたのだからただで済むはずもなく、騎士たちは瞬く間に星へとなるのだった。
◇◇◇
「た、助けてくれてありがとうございます。そ、その、王子様?」
「いえ、私はただの貴族子息にございます。フォロレンツィア様」
「えっ、誰メェ!?」
ラムが俺の豹変ぶりに驚きの声を上げる。
さすがに王族相手に普段通りの対応をするはずないだろ!?
俺は笑顔のまま隠れて、ラムの体を抓る。
「い、痛いメェ!?」
「あははっ、さすがに白馬様には人のことなんてわかりませんよね。私はインラーク王国第三王女、フロレンツィア・インラークと申します」
先ほどの戦闘で少し汚れてしまっていたが、それでも彼女からは気品さが漂っていた。
「これはご丁寧に。私はユーリ・ルーサウス。この辺りの領主を任されております。っとちょっと失礼しますね」
俺は水魔法と火魔法を合成させ、軽いシャワーを作ると王女の服についた汚れを落とし、すぐに風と火の合成魔法で服を乾かしていた。
「えっ?」
「少々服に汚れがついておりましたので」
「ユーリ様は賢者様並みの魔法使いでもあらせられるのですね」
賢者というと揺れる塔に住み続けるメルティ・ベルモルトという変人のことだ。
今は俺の領内に住んでいるのだが、新しい場所を用意しようとしてもすぐに揺れる塔へと変えてしまうのだ。
むしろ、あの揺れが大事なのかもしれない、と俺からはもう何も言わないようにしている。
外から来た人の観光スポットにもなっているのだからそれはそれでいいのだろう。
でも、彼女と一緒にされるのはあまり褒められた気持ちにならない。
いや、この言葉にも裏があるのかもしれない。
「いえ、私はまだまだですよ。ルーサウス家でも特に能力が低くて勘当されそうになるほどですから」
「そ、そんなことありません!! さっきのユーリ様はとってもかっこよくて、その……王子様みたいって」
フロレンツィアは顔を真っ赤にして、手で隠してしまう。
ころころと顔が変わってあまりにも腹芸が苦手に思える。
でも、この表情すらも作り物だとしたら?
俺が独立をすると言った以上、必ず父の手が入っていることは想像がつく。
思わず頬が緩みそうになるのを引き締める。
「ありがとうございます。フロレンツィア様を守るために必死に戦った甲斐がありました」
「そ、その、私の事はティアとお呼び下さい。お父様とかはそう呼びますので」
「さ、さすがに王女様のことは……」
「ティア、です」
「わ、わかりました、ティア様」
「はいっ。いずれ様もとってもらいますから」
なぜか上機嫌になるティア。
「とにかくここで立ち話も何ですから領へと向かいますね。乗って下さい」
「えっと、どうやって乗ればよろしいでしょうか?」
確かにあまりにも自然と乗っていたから気にしてなかったが、ラムはデカい。
普通に乗る方法はほとんどなかった。
「では少々失礼しますね」
俺はティアを抱きかかえるとそのままラムの背中へと乗るのだった。
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