休息

 帝国へ旅立つまで少しだけ時間が空いてしまった。


 せっかくならエルゥと城下町でも見てくるといい、と獣王に唆されてエルゥがその気になってしまったので、俺とフィーは三人で絶賛公開処刑デート中だった。


 右には俺が魔石を使わないようにという理由でフィーがガッチリとホールドしており、左にはエルゥが嬉しそうに全身で腕を掴んでいる。


 見る人が見たらまさに血涙が流れるほどに羨ましい状況なのだろう。


 もちろん俺はそんなことを羨ましいとは思えなかった。



「エミリナめ。最後の最後まで笑いながら見送りやがって」



 部屋を出てすぐにエミリナが見せてきた嘲笑を忘れられなかった。

 絶対に同じ思いをさせてやる! と強い決意の下、俺は公開処刑デートにきていた。



「エミリナ様も私たちのことを祝福してくれてるんですよ」

「祝福も何も俺が独立してからの話で……」

「お父様が力を貸してくれると言った以上、そこはもう確定ですよ」



 仮にも一国の王だからな。

 たかが一人を騎士爵程度に任命するくらいならできるわけだ。


 いくら他国とはいえ、王女との婚約ともなればその有用性は計り知れない。

 適度に重宝すれば甘い汁を吸えるとわかるのだからさっさと爵位を持たせて逃げられなくするのだろう。



「まぁ、そうだろうな。俺が王だとしても同じ事をすると思う」

「ですよね。ユーリ様が王ですよね」

「……変なところだけ切り抜いてないか?」

「えへへっ」



 可愛らしく笑みをこぼすエルゥ。

 もしかすると彼女は俺のことを獣王国の王にしようと企んでいるのかも知れない。


 そう考えるとこの世界には何かを企ててる人間が多すぎる気がする。


 黒幕は父だけかと思っていたが、帝国とか獣王国とか聖女とか……。

 みんな自分なりの思惑があるところが現実感がある。


 どれだけこの世界がゲームであればいいと思ったことか……。

 やはりまだ独立の道が見えたからといって油断すべきではないな。


 失敗は自分の命で払わないといけないのだから万全を期すことを心がけないと。


 獣王国では最高の結果で終わったからこそ、次の帝国でも同様の成果を上げられるように対策をしておかないと。


 ただ、帝国は魔王国並の実力主義である。


 果たしてどのような結果になるのか……。



「ユーリ様、こんなのもらっちゃいました」

「たくさんもらってとっても美味しいの」



 嬉しそうに笑みをこぼす二人。

 そんなふたりを優しい視線で見守りつつ、屋台の店主に礼を言う。



「すまないな」

「いえいえ、この街で無事に商売ができるのは獣王様のおかげですから。些細なお礼ですよ」



 それなら直接獣王に返してやれよ、と思わなくもない。



「獣王様はご自身では何も受け取ってくれませんから」



 俺の気持ちを察したのか、屋台の店主が教えてくれる。



「なるほどな。だから娘のエルゥにお礼をするわけか」

「それにあなた様も先の内乱で先陣を切ってご活躍されたわけですから」

「……どうしてそれを?」



 俺の参加は王族とか一部の人間しか知らないはずである。

 それなのになぜ一屋台の店員が。



「だって、白い綿飴に乗って空を飛ばれていたじゃないですか?」



 あぁ、ラムに乗って移動していたところを見られたのか。

 確かにあの姿はラムだけが目立つのはよくわかる。

 でもそこからよく俺まで見つけられたなと感心してしまう。



「獣人は身体能力に優れていますから、その目も良いのですよ」



 エルゥが隣から補足してくれる。

 それにしても白い綿飴か……。相変わらず食べ物なんだな。


 思わず笑い声を上げてしまう。



「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。俺にも一つもらえるか?」

「もちろんでございます」



 俺は屋台の店主から肉が刺さった串を一つもらい、代わりに金を払おうとする。

 しかし、「恩人からお金はもらえません」とそれだけは断固として拒否されてしまうのだった。




       ◇ ◇ ◇




 それからも食べ物屋を何軒かハシゴし、俺はすっかり腹が膨れてしまった。

 それでもエルゥたちはまだまだ食い足りなそうだったので、未だに両手一杯に串を持っていた。



「あの……、たくさん食べる子はお嫌いですか?」



 不安げにエルゥが聞いてくるので軽く頭を叩く。



「いたっ」

「そんなことで俺が人を判断すると思うか?」

「そうでしたね」



 安心して微笑むエルゥ。



「そうなの。ユーリ様はこんなことで人を判断しないの」



 フィーは食べながらもジッと俺のことを見ている。

 いや、正確には俺のポケットの膨らみを凝視していた。


 残念だな。これは魔石ではない。ただの無限魔力吸収石ただのいしだ。


 これならフィーにも怒られずに魔力を使えるのだから公開処刑デート中も欠かさずに使用をしている。



「無理してないの?」



 心配そうな声を出してくる。

 なんだかんだで何度も俺が魔力切れを起こして倒れているのを見ているフィーだ。

 余計に心配してしまう気持ちもわかる。


 ずっと無茶をして心配掛けてきた俺のせいなのだから。



「あぁ、もう心配いらないぞ。フィーにも色々と迷惑掛けたな」

「大丈夫ならいいの」



 笑顔を見せてくれるフィー。

 それに吊られるように俺も微笑みかえすのだった。




       ◇ ◆ ◇




 帝国の城内。

 一桁ナインスからの報告を受けた第一位ファーストは険しい表情を見せていた。



「なんだ、この報告は!」

「えっと、錬金術師である第五位のマグナ様からの報告と人形遣いである第三位のルナ様からの報告を合わせたものになります」

「それはわかっている! 俺が聞きたいのはどうしてたかが一貴族子爵ごときに帝国の誉れある一桁ナインスが半壊しているのだ!」

「そ、それは……」



 確かに一桁が一人くらいなら落とせる人間がいるかもしれない。

 しかし。この一桁ナインスは広大な帝国の中でも選りすぐりの精鋭。それが半壊させられるなど、帝国自身が半壊させられたにも等しい衝撃の事実であった。



「しかも第三位のルナまで」



 一桁ナインスが別次元の力を持っているとは言えそれはあくまでも人として、だった。

 第三位以上はそれこそ人外の力を持っている。


 ルナで言うならば人では到底相手にできないような巨大な人形を操り、一方的に相手を倒すことができる。


 当然ながら人形なので疲労を感じることはないし、傷によるダメージもない。

 更に超巨大な人形から繰り出される一撃はまともな兵なら一撃で吹き飛ばされるほどの力がある。


 そんな彼女から是非とも帝国の一桁ナインスに勧誘したい人物である、という推薦を受けている。

 それほどの傑物ならば会ってみるのも悪くない。



「鬼が出るか悪魔が出るか。どちらにしても俺を楽しませてくれるといいが」

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