婚約?

 その後、準備ができたとメイドたちに言われて俺とフィーはその場所へ向かったのだが、なぜか控え室のような部屋に連れてこられた。



「ここでお待ちください。出番が来たらお呼びしますので」



 なぜ待たされるんだ?

 と不思議に思いながらも言われたとおりにその場で待つことにする。



「大丈夫か?」

「だ、大丈夫なの」



 なぜかすごく緊張しているフィー。

 その動きはかなりぎこちないものだった。

 それもそのはずでフィーの姿もいつもの姿ではなく用意された服装を着ている。


 それが動きにくく恥ずかしいようで着替えてからずっとそわそわとしていた。



「そんなに緊張するなら俺のところじゃなくてみんなのところへ行ってても良かったんだぞ?」

「ユーリ様はフィーが離れたら何をするかわからないの」

「さすがに他国では何もしないぞ?」



 ちょっと獣人みたいに耳と尻尾を認識させる魔道具とか作れないか試したいと思っているが、まだ何も作ってないぞ?

 そんな怪しげな目をしても何も出ないぞ?

 ポケットにはこれから魔力を込める空魔石しか入ってないし。



「やっぱり何かする気だったの」



 がっくりとあからさまに肩を落とすフィー。



「やっぱりフィーが付いてないとダメなの!」



 グッと気合いを入れるフィー。

 そんな他愛もないやりとりのおかげでフィーの緊張は幾ばくか取り除くことができたようだった。



「ユーリ様、そろそろお越しいただいてもよろしいですか?」

「あぁ、わかった。すぐに行く」




       ◇ ◇ ◇




 ようやく呼ばれたので俺たちはメイドに案内されて大広間の扉の前へと案内される。



「謁見の間じゃないんだな?」

「そうみたいなの」



 早速扉を開けようとしたのだが、俺たち同様にエルゥが純白のドレスに身を包んでやってくる。

 その姿はどこからどう見ても花嫁衣装である。



「エルゥ様、すごく綺麗なの」



 ただ、フィーが驚いた様子はなくただただ感動しているようだった。


 これも俺の感覚がおかしいのか?

 それとも獣人族の常識がこれなのか?


 フィーの反応を見る限りこれが普通のように見える。

 念の為にエルゥにも聞いてみることにする。



「その服……」

「あっ、ユーリ様。その……、とてもお似合いです……」



 顔を真っ赤にしてうつむき加減にしながら言う。



「あ、あぁ……」



 思わず息を漏らすとフィーが俺のことを睨んでくる。

 ただ何も言わずにフィーの視線はエルゥの服の方を向いていた。



 なるほど、そういうことか。



 俺はフィーが言わんとしていることをなんとなく把握する。



「エルゥもその服、すごく似合っているぞ」

「はわっ!? あ、あ、あ、ありがとうございましゅ」



 嬉しそうに顔を真っ赤にしながら頭を下げてくる。

 そして、なぜか手を差し出してくる。



「んっ、これは?」

「その……」

「あぁ、そうだな。では私めがエスコートさせていただいてもよろしいですか?」



 こういう場だと紳士的に女性をエスコートするものだった。

 その答えで正解だったようでこれ以上何も言われることはなかった。


 そっと手を取るとエルゥは頷いていた。



「はい、よろしくお願いします」




       ◇ ◇ ◇




 エルゥをエスコートして大広間へと入るとそこはどう見ても結婚式のようにしか思えない装飾がなされていた。



「おいっ!」



 思わず俺はエルゥの方を見ると彼女は悪戯がバレたとわかり、かわいく舌を出していた。



「えへへっ」

「笑っても誤魔化されないからな。これはどういうことか教えてくれるよな?」

「それは俺から説明しよう」



 俺の前にやってきたのは獣王だった。

 がたいの良いその体にぴっちりしたスーツを着ている獣王。



「愛しのエルゥが婿を見つけてきたと聞いたから既成事実こうゆうを深めようと思ってな」

「これが……ですか? 無理やり結婚させようとしているだけに見えますけど?」

「ちょっと悪戯心を見せただけだ。安心しろ、婿殿」

「全然安心できないですよ。あなたの中では既に俺は婿になってますし」

「違うのか?」



 獣王は拳を握りしめ、威圧を放ってくる。

 エルゥのことをすごくかわいがっていたので、悲しませる相手には容赦しない、ということだろうか?

 でも今の状況は完全に誤解である。



 それをエルゥに解いてもらえば簡単に解決するだろう。



「違わないです、お父様!」

「いやいや、全然違うだろ!?」



 思わずエルゥに対して言ってしまう。



「違うのか?」



 すごい迫力で獣王から睨まれる。

 ただ、今の状況だと俺の連坐で更にエルゥにまで入らない危険を負わせる羽目になるかもしれない。


 だからこそ俺はここで引くわけにもいかなかった。



「違います。そもそも俺はどくり……」



 はっきりと口にすべきか一瞬迷ってしまう。

 むしろこの状況を受け入れた上で獣王国への亡命を受け入れてもらう方が良いかもしれない、という考えが一瞬よぎったからだ。



「がははっ、聞いていた通りの男だな。だからこそエルゥを任せるにふさわしい! そこまで言うなら婿殿が独立を果たすまでは婚約にとどめる! それでよいな」



 有無を言わさない迫力と独立までは待ってもらえると言うことで逆に後ろ盾ができることを考えると俺の返答は首を縦に振ることしかできなかった。



「よしよし、エルゥも少し気が早かったみたいだが、それで構わないな? 独立後に国を挙げて盛大に式を挙げる! 獣王国とそちの国が密接な関係にあると他国にけん制したほうが婿殿も動きやすいだろう」



 確かに他国の姫と密接な関係にあるとわかるとインラーク王国での地位も上がり、俺の生活も安定するだろう。

 騎士爵で十分と思っていたが、もしかするともっと上の爵位をもらえるかも知れない。



「わかりました。少しだけ不服ですけど今はそれで我慢します。それにユーリ様に似合ってると褒めてもらいましたし」



 エルゥが嬉しそうに頬を染める。

 その姿を見ただけで獣王は満足そうな表情を浮かべていた。


 更にそんなエルゥを見てエミリナも笑みをこぼしている姿がチラッと見えた。


 それを見てこの状況は彼女が仕組んだものではないか、と予想が付いてしまう。



「いったい何を考えているんだ?」

「はいっ? どうかされましたか?」



 思わず呟くと隣にいるエルゥが不思議そうに聞き返してくる。



「いや、何でもない」



 最近はエミリナを信用しすぎたかも知れない。

 でも聖女たる彼女は俺を破滅へと向かわせる敵になり得る。

 少しだけその近辺を洗い直す必要があるかもしれない。



「フィー、頼めるか?」

「わかったの」



 こういった危険な仕事をフィーに任せるのは心苦しいが、策謀に優れたエミリナの手にかかっていない人間、と考えるとフィー以外に思いつかなかった。



「危険があったらすぐに撤退だぞ? 怪我をすることは許さないからな」

「もちろん気をつけるの」



 念のために注意をしておく。

 安全重視をすれば敏捷の高いフィーならば最悪逃げ帰ることもできるはず。


 あとはフィーも側からいなくなることで俺の魔道具作りも捗るという一石二鳥の作戦である。



「ユーリ様も戻ってきたときに魔道具を作ってたら全部取り上げるの」



 俺の最高の作戦ははじめからフィーに筒抜けだったようだ――。

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