水道建設

 翌日になると俺は魔法が解禁されたこともあり、思う存分魔法で水道を作り始めていた。



「全く、結局昨日も魔法を使ってたのに今日も使ってるの」



 あきれ顔のフィーが俺の見張りとして付いてきている。

 そして、なぜかサーシャも付いてきている。


 でも、これが俺としてはとても助かることでもあった。

 それはサーシャが今俺の欲しいスキルの一つを持っていることに起因している。



名前:サーシャ・ルーサウス

性別:女  年齢:8歳 種族:人族

職業:公爵の次女

レベル:3

HP:16/16(D)

MP:32/32(B)

攻撃:4(D)

防御:3(D)

敏捷:8(B)

魔力:12(A)

【スキル】

水準測量:1(B) 隠密:1(D) 指揮:1(C)

【魔法】

水:1(C) 土:1(C) 闇:2(B)



 水がしっかりと流れるように傾きを調べることのできるスキルで、町に上下水を引く上で必須のスキルとも言えた。

 まさかスキルとして存在しているとは思っていなかったので、大体の傾きでいこうと思っていたのだがスキルがあるのならぜひとも使いたい。



「お兄ちゃん、なんで穴なんて掘ってるの?」

「町まで水道を引こうと思ってるんだ。サーシャから見てこの掘ってるところはしっかり水が流れるような勾配になってるか?」

「んーっ、どうだろう? まだあまり掘れてないからわからないかも」

「そうか。それならもう少し頑張るかな」



 土魔法を使い、落とし穴を何度も作り水道となるように作っていく。


 さすがにこのまま水を流すのではなくて、地中に水道管を埋めて、そこに水が流れるようにする。

 地上を流すと魔物が汚したりする恐れがあるし、不純なものが混じる可能性もある。

 安全に使える水を流すにはこれが一番であった。


 肝心の水は川の先にある湖から流す。

 さすがに村長たちはこの湖までは来たことがないようだが、川を辿っていくと大きな湖があった。

 もちろん周囲に魔物たちがいたようだが、以前のスタンピートですっかりなりを潜めていた。


 ここから領地まで水道を引くのが一番だろう。



「お兄ちゃん、これって別にお兄ちゃんが魔法で掘らなくても良いんじゃないの?」

「掘るのはサーシャの協力があればできそうだな。でも、実際に水道に使う管はまだ俺しか作れないだろうし、最初は調子を見ながら作りたいんだ」

「そういうことなんだ。私にできる事があったら言ってね」

「フィーもやるの!」



 二人が積極的に協力してくれようとしている。

 でも、できることってあんまりないんだよな……。



「それならサーシャは水準測量のスキルを使う特訓をしてくれ。フィーは周辺を警戒してくれるか?」

「わかったの!」

「任せて!」



 やる気を見せる二人と共に俺は水道工事に勤しんでいく。




        ◇ ◇ ◇




 工事を始めて一月が経とうとしていた。

 途中から皆の仮設住宅を作り終えたリックや村長たちの協力もあり、予想よりも随分と早く水道工事が完了するのだった。



 領内を流れる綺麗な水を見て、感慨深く思っていた。

 つい自由に使えるようになった水に感動して、領地の中央に噴水なんて作ってフィーを呆れさせたのはご愛嬌である。



「それにしても土特攻のスコップを使えば村長たちですらかなりの戦力になるのは驚いたな」



 これほど早く終える事ができた要因の一つに俺が土を掘る必要がなくなった、というのが大きかった。


 リックが先陣を切っていたが、村長たちもかなりの速度で土を掘ってくれたのだ。

 そのおかげで後半はほとんど水道管しか作っていない。


 ドズルが俺の作った水道管を見て興味を持っていたようだが、さすがにまだ鍛冶場が整っていないので諦めて掘削に勤しんでいた。


 サーシャはメキメキと力をつけていき、今では俺の指示なく勝手に領地の至る所に水道管を通している。


 しっかりと沈殿槽を設けて、水中のゴミを落とすのはもちろん、所々に貯水槽を設けたのもサーシャの提案だった。


 もはや水道関係だと俺では太刀打ちできないほどの能力を発揮している。


 なんでも今度は下水管の設置に移るらしい。


 下水を完備できたら伝染病などの心配が比較的少なくなるので、是非ともやり遂げてほしい。



「でも、俺の仕事がなくなってしまったな……」



 管だけ作ればあとはもうサーシャが勝手に工事を進めてくれる。



「そういって手を止めていないの。みんなもっとユーリ様に休んでほしいの」

「せっかくみんなが頑張って水道を通してくれたからな。より良く使えるようにするのは俺の仕事だ」



 そう言いながら作っていたのは大衆浴場である。

 やはり疲れた後には風呂に限るのだが、水が貴重であるこの世界だと風呂に入れるのは比較的余裕のある貴族だけだったのだ。


 しかし、水道が完備された今、水不足を気にすることなく風呂に入る事ができる、ということでフィーと話ながらも俺はひたすら手ではなく魔力を動かし続けていた。


 当然ながら男女別々で大浴場の他にサウナや露天風呂も作る。

 それなりに雰囲気を出すために大木を切り、木材を使用したりもした。


 燃料は基本魔石だが、魔力を使えないことも考えて薪で温められるようにもする。



「ユーリ様、ここって……?」

「あぁ、大衆浴場だな。皆がんばってくれてるから少しでも疲れが取れるように、な」



 そう言いながらも自分が入りたかったから、というのが一番大きな理由だった。



「わかったの。側付きとしてユーリ様の背中を流すの!」



 なぜかやる気を見せているフィーに俺は呆れながら言う。



「男女で別に入るんだぞ?」

「それはおかしいの!」



 なぜかフィーが膨れっ面になりながら言う。



「当たり前だろ? 俺以外にもみんな入るんだぞ?」

「わかったの!」



 やけに聞き分けが良いなと思ったら全然そんなことはなかった。



「お風呂に入ろうなんてする不届者はフィーが倒すの」

「倒したらダメに決まってるだろ!」



 フィーだと本当にやりかねないので一応注意をしておく。

 すると、落ち込んでしまう。



「とにかくこのあと試しに風呂を入れてみるから入ってみるといい。気持ちいいぞ」

「わかったの……」




        ◇ ◇ ◇




 実際に風呂を入れてみたあと、大浴場に入ってみた。



「ふぅ……、ちょうどいい温度だな」



 ずっと働きづめだった疲れが風呂の中に溶けていくような気がしてくる。



「本当に気持ちいいの」



 女湯の方からフィーの声が聞こえてくる。

 どうやら気に入ってくれたようでよかった。



「本当にこれは気持ちいいですね。いつまでも浸かっていたくなります」

「だろう。……えっ?」



 突然すぐ隣から女性の声が聞こえてくる。



「ど、どうしてお前がここにいるんだ!?」



 俺のすぐ隣に入ってきたのは聖女エミリナだった。

 確か王都へドラゴンを持ち帰ったので、もう二度と会うことはないだろうな、と思っていたのにどうしてここに?



「ユーリ様のお願いを聞いてきたのですよ」

「俺の願いだと?」



 俺の願いと言えば独立して、原作キャラと関わることなく平和に暮らすことだ。


 ……ここに聖女で原作主人公パーティーの一人であるエミリナがいる限り俺の願いは永遠に叶わないんだけど。


 いや、もしかすると別れを言いにきたのだろうか?



「そういうことか。もう二度と会えないだろうけど元気でな」

「なんで永遠の別れみたいな話になってるのですか!? 違いますよ! この領地に来たい人を探してほしいって言ってたじゃないですか?」

「そういえばそうだったな。でもそれがどうして男湯にエミリナが入ることに繋がるんだ?」

「あれから色々と聞いて回ったのですけど、ここに来たいっていう人が全然見つからなかったのです。まるで前もって断るように言われてるみたいに……」



 まぁ、あの父ならそのくらい動いていてもおかしくないな。

 だからこそ今いる人たちは貴重なわけで――。



「そこで思ったのですよ。行きたい人を呼んでくる。それって私でもいいんじゃないかなって」

「……何を言ってるんだ?」

「そ、そんなこと言わないでくださいよ……」



 エミリナが目に手を当てて嗚咽を漏らす。



「うっ……」



 流石に少女を泣かせたことに罪悪感を抱き、声を詰まらせる。


 でも、原作キャラなんかがこの領地に来てしまったらいつ破滅フラグに繋がるかわからない。

 それがここに居座るつまりなんていったら……。


 俺が必死に悩んでいると、エミリナがクスクスと微笑む。



「冗談ですよ。私の教会での仕事がありますから流石にずっとここにいることはできないですよ」

「……驚かすなよ。それで本当のようはなんなんだ?」

「ここで預かってほしい子がいるんです。王都だと少し危険でこちらに連れてきてるのですが……」

「そういうことか。それならもちろん構わないぞ」

「ありがとうございます」

「それで一体どういう子なんだ?」



 聖女と繋がりのある相手なら黒幕の心配がないので安心だ。

 だからこそ即答したのだが、これが間違いだった。



「はい、それは勇者様です!」

「……えっ?」



 聖女が連れてきた相手は俺が最も警戒すべき相手でもある勇者だった――。

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