第三話 村を発展させよう

仲間たちの働き

 俺は新しくきたドズルとリックのためにまずは仮設住居を作ることにした。

 とはいえ、魔法を使えば一瞬で……。



「今日はもう魔法ダメなの」



 俺の目論見はあっさりフィーに止められてしまう。



「なんでだよ。さっきまでゆっくり休んだだろ?」

「ユーリ様、今日は朝早くまでずっと魔法を使ってたの。まだまだ休み足りないの」

「そんなことないぞ。魔力はしっかり回復してるからな」

「無茶した罰なの。とにかく休むの。今日のことはフィーたちに任せるの」



 フィーによって無理やり休みを取らされることになる。




 でもフィーたちに任せてしまって本当に大丈夫なのだろうか?



 一抹の不安を拭いきれない。

 こうなればこっそり……。



「おうちはリックさんが作ってくれることになったの。フィーはユーリ様を見ておいてほしいって」

「あ、あははっ、魔法なんて使おうとしてないぞ?」

「まだ何も言ってないの」



 慌てて墓穴を掘ってしまった気がする。



「やっぱりフィーが見てないとなの」

「わかったよ。それなら遠くからリックの仕事を見てるだけだ。それならいいか?」

「それなら許すの」



 何故かフィーの承諾を得ないといけなくなったが、それでも新しくきたリックの働きを見れるのは良いことだった。


 仕方なくフィーを連れて俺はリックのところへと向かう。



 するとリックはすでに家を作りはじめていた。

 とはいえ丸太を組み合わせただけのログハウス風の家で簡易的なものではあるが。



「リック、困ったことはないか?」



 この領に住むことになって不便はないかと声をかけてみると声にならない声を上げる。



「……っ!?」

「わっっと、危ない」



 リックが落としそうになっていた丸太を魔法で浮かび上がらせる。

 フィーはムッとしていたが、さすがに緊急だったので何も言ってこなかった。



「気をつけろよ。落としたら大変だからな」

「す、すみま……」



 さすがにまだまだ緊張しているようで、俺が注意をすると身を縮こめていた。

 俺よりもはるかに大きいはずのリックが何故か小さく見えてくる。



「いや、俺も急に声をかけてすまなかったな」



 なんだかあまりにも恐縮されてしまうので、俺の方が申し訳なく思えてくる。



「そ、そんなことない……」

「それで早速家を作ってくれてるのか? この領地に来たばかりだろう? 疲れてないか?」

「おで、力だけが取り柄だから……」

「確かにすごい力だな……」



 鬼人というだけあってその力は本物だった。

 戦えないのが少し残念だが、それも仕方のないことだった。



名前:リック

性別:男  年齢:25歳 種族:鬼人

職業:農家

レベル:12

HP:113/113(A)

MP:5/5(E)

攻撃:26(A)

防御:13(B)

敏捷:7(D)

魔力:3(E)

【スキル】

優しき心:10(EX) 農業:3(D) 大工:1(E)

【魔法】

土:1(E)



 力は怪力スキルを持っているフリッツ以上の数値なのはさすが鬼人と言える。

 しかし、それ以上に原作では一度も見たことのないスキルを持っているのが気になるところだった。



 一体どんなスキルなんだ?



 スキル名を注視するとその詳細が表示される。

 この辺りは原作と同じで助かる。



 優しき心:相手を重んじる優しき心の持ち主。戦うことを嫌い、戦闘では力を発揮できず全能力値が十分の一になる。

 ただし、仲間が傷つけられた時には優しき心が爆発し、全能力値が三倍になる。



 デバフの効果の割にバフがかかった時の数字が低い気がするが、それでも元々の力がかなり高いことを考えるとその効果はとんでもなかった。



 まぁ、でも無理に使わせることはないだろうな。

 本人も戦いたくないと言ってるわけだからな。


 それよりも農業スキルを持っていたのは俺にとっては嬉しい誤算だった。



 とはいえ、今は畑ではなくて仮住まいの家を作ってもらってるわけだが……。



「何か手伝えることはあるか? 力を貸すぞ」

「おでなら大丈夫」



 確かにこうして話している方が迷惑をかけているかもしれない。



「何か足りないものがあればいつでも言ってくれ」

「わがった」



 確かにこれは俺が無理して魔法を使う必要がないかもしれない。

 頼れるところは頼ることも覚えないといけない。

 もしかしたらフィーはそれを俺に教えようとしてくれたのかもしれない。


 そんなことを考えながら次はドズルのところへと向かう。




        ◇ ◇ ◇




「さて、そろそろ家に帰るか」

「それがいいの」



 ドズルを見つけた俺たちはすぐさま回れ右をして自分たちの家へと帰ろうとした。



「待て待て! 何故帰る」



 ドズルに見つかってしまった。



「なんか忙しいかなと思ってな」

「お前さんがこの冷蔵庫もどきの作り方を教えてくれないからだ!」



 アランからもらったのか、ドズルは俺が作った冷蔵庫の箱を頬ずりしていた。

 流石に邪魔をしたら悪い、というかあまり近づきたくなかったので離れたかったのだが……。



「だから作ってるところは見せただろう?」

「あんな魔法で作ったのでは、儂が作れんではないか」

「さすがにドズルに作ってもらうために作ったものじゃないからな、あれは……」



 そんな冷蔵庫も今ではかなり巨大な冷凍庫になっている。

 あれを見せたらドズルは入って出てこなさそうである。



「それよりも鍛治はできそうか?」

「鍛冶場もないのにできるはずないであろう? あの商人と鬼人に準備させている間に儂は鉱石集めだな。せめて鉄を探したい」

「そうか……。それならこれを使うか?」



 俺は石造りのツルハシを取り出すとフィーが怪訝そうな表情を見せる。



「また知らないものを作ってるの……」

「た、たまたまできたものだからな」



 俺が必死にフィーに言い訳をしていた時、ドズルは地面に向けてツルハシを思いっきり振っていた。

 するとまるで落とし穴のような大穴が開いてしまった。



「おぉ、これは伝説のツルハシか!?」



 ドズルは俺が渡したツルハシを掲げ、涙を流していた。

 さすがに大袈裟すぎるのだが……。



「ただのツルハシだ。石で作ったものだからすぐにダメになっても怒るなよ?」

「これがただのツルハシだって!? そんなに儂の目が節穴だと思ったのか!?」

「いや、本当に石と魔石くらいしか使ってないからな……」



 本当のことしか言ってないのだが、なぜか信じてもらえない。



「とにかくこれは返せと言われてももう返さないからな? いいんだな?」

「もちろんだ。これでたくさんの鉱石を取ってきてくれ」

「ヒャッハーーーー! 掘って掘って掘まくるぞー!」



 ドズルがツルハシを掲げながら嬉しそうにどこかへ走り去っていった。


 その様子に少し引きながらも喜んでもらえったのなら幸いだった。




        ◇ ◇ ◇




 来てすぐのリックやドズルだが、意外とこの領地に馴染んでくれているようでよかった。



「さて、それじゃあそろそろ俺も――」

「ダメなの」

「まだ何も言ってないぞ?」

「ユーリ様も働こうとしたの。みんなに任せるのも領主の仕事なの」

「でもせめて俺しかできないことをさせてくれ」



 掘で囲ったこの領内はだいぶ安全になりつつある。


 リックが家を作ってくれているおかげで俺は街の環境や外敵からの防御について考えることができていた。

 町で使う道具についても環境さえ整えばドズルがどうにかしてくれるだろう。



 そうなると今俺がすべきことは……、やはり上下水の完備か。



 近くの川から水道管を使い水を引く。

 これは古代ローマでもされていたことで、今の俺でも石管を使えば同じことができるだろう。

 下水も同様だ。



 その二つを整えられたら街の環境は一段階良くなるだろう。



 ただ、それをするにしても周辺の測量できる人間が必須である。

 周辺を見れば俺でもできるかと思ったが、細かいところはさすがに専門家ではないのでよくわからなかった。


 アランに測量道具でも持ってきてもらおうかと考え始めた程だった。



「フィーはどう思う? 井戸でもいいとは思うけどどうせなら水道まで完備したいんだよな」

「フィーはよくわからないけど、あの冷たい箱みたいなのはダメなの?」

「魔石に魔力を込めて……か。それでもいいとは思うんだけど、それだと俺かサーシャが常に全員の家に魔力を込めて回らないといけないだろ?」

「そうだったの? それならダメなの」

「まぁ、水道管を作るのも俺が魔法で作らないといけないけどな。でも、一度作ってしまえばあとは誰でも使えるから。だからな……」

「明日から頑張って作るの」



 やはり今日はどうやっても魔法を使わせてくれなさそうだ。



「仕方ないな。それは気長に作ろうか」



 諦め気味に家へと帰ろうとすると何故かフィーが立ち止まっていた。



「どうかしたのか?」

「そこにいるのは誰なの!?」



 フィーが声を出すまで全く気づかなかったが、確かに俺たちの他に微かに何者かの気配を感じる。


 巧妙にその気配を隠そうとしているところから味方とは考えにくかった。



 フィーの声に反応するように誰もいないと思っていた建物の影から漆黒の服を着た悪魔の青年が現れる。



「おや、気づかれないかと思っていましたが、獣の鼻は思いのほか良いみたいですね」



 現れた悪魔の青年が気配を消すのをやめると、次の瞬間に後ずさりしてしまいそうなほどの威圧を感じる。



「お前は誰だ?」

「申し遅れました。私、トリスマリス魔王国にて参謀をしているサジェスと言います。とはいってもここで消えてもらう貴方たちには関係のないことですが」



 にやり微笑んだサジェスは鋭い爪を見せると一瞬で俺たちの方へ向かってきて、そして姿を消していたのだった――。

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