新たな仲間
フリッツを見送るとその隣にはいつの間にかフィーがいた。
「行っちゃったの……」
「すぐに戻ってくるらしいけどな」
「それとユーリ様、目に隈ができてるの」
「さすがに少し無茶をしたからな」
「今からでも寝ると良いの」
「いや、これから水道管を作るところだ」
フィーから険しい顔を向けられる。
どう見ても体調が悪いのに何を言ってるんだ? と声に出していないのに聞こえた気がする。
「大丈夫だ。無茶はしないぞ?」
「もう全然寝てなくて無茶してるの」
フィーが有無を言わさずに布団へ連れて行こうとする。
「そういえばどうしてお前たちが俺の布団にいたんだ? 昨日は二人で寝たんじゃないのか?」
「な、なんのことかわからないの……」
フィーが少し慌て出す。
その態度で勝手に潜り込んだことがすぐにわかる。
「まぁ、俺も男だからな。そういうことはほどほどにしてくれ」
「……わかったの」
フィーが目に見えるほど落ち込む。
これ幸いと俺はその隙に水道管を……。
「でもそれとこれとは話しが別なの。ユーリ様はいったん寝るの」
別の話題で気を逸らす作戦は失敗して、俺は無理やり自分の小屋へと連れて行かれるのだった。
◇ ◇ ◇
案外体は疲れていたようで布団に押し込められた俺はそのまま昼まで眠ってしまった。
そして目が覚めると何やら外が騒がしかった。
「何かあったのか?」
俺はフィーに確認すると彼女の視線の先にはサーシャがいた。
そして、彼女の向かいにはアランの姿がある。
「お兄ちゃん、怪しい人がいたよ!」
「ユーリ様、こちらの方が私のことを盗賊と言ってくるんですよ」
これは完全に俺の説明不足だった。
サーシャからすればこの領地を守るために自分のできることをしてくれただけなのだ。
一方のアランも俺が頼んでここに物を運んでもらっている。
まともな来客がなさそうな地なのとサーシャ自身の命が狙われるかもしれないという話をしたタイミングだったためになお警戒してしまったのだろう。
「この人は大丈夫だ。俺たちお抱えの商人だからな」
「ユーリ様、フィー様、お久しぶりにございます」
「久しぶりなの」
「元気そうで何よりだな。あれから何もなかったか?」
「えぇ。むしろ子爵が優しすぎて怪しいくらいですね」
俺たちが親しげに話してると、一人置いていかれていたサーシャが言う。
「お兄ちゃ……、兄のお抱えってことはこの領地に商店を出すのですか?」
「いずれは、な。さすがに今はこの状態だからな」
とてもじゃないが、まだ店を開いたところで客がいるとも思えなかった。
「でも私が前に来た時よりも建物は増えてますよね? なんか村を囲う堀もできていましたし」
「人手が足りなくてまだこれだけしかできてないんだ」
「そう思って強力な助っ人を連れてきましたよ」
アランの馬車から出てきたのは見上げないと顔が見えないほどに大きな男と逆に俺と同じくらいしかない男だった。
「鬼人族のリック殿とドワーフ族のドズル殿です。やはり他種族の方は王国では住みにくいようで、それならと勧めてみたんです」
「それは助かります。リックさん、ドズルさん、はじめまして。ここの領主をやらせてもらってますユーリ・ルーサウスです。よろしくお願いします」
なるべく親しみを持てるように笑顔を見せながら言う。
やはり初めて会う人は初対面の印象が全てとも言う。
ここを大事にしていきたかった。
「り……」
まずは鬼人族のリックが何か言おうとしていたが、まともに言葉を聞き取ることができないほどに小声だった。
それでも自己紹介してる風に思えるだけまだマシだった。
「そんなことよりもあの冷蔵庫もどきとやらはどうやって作ったんだ」
ドワーフ族のドズルに至っては自己紹介すらすっ飛ばしてきた。
なかなかにクセの強い面々が集まったようだ。
「ドズルは魔道具が作れるのか?」
「魔道具? 儂がやるのは鍛治だけだぞ? あの見事なまでの箱状の物体はどうしても作れん。早く作ってくれ」
すでに同じことしか言わなくなってしまったので、話を進めるために仕方なく俺は魔法を使い、土の箱を作り渡す。
「おぉ、これが噂の冷蔵庫もどき! 土というところはマイナスだが、それでもこの見事な直線美。これを超える逸材はそう簡単には出てこんだろう」
まるで宝の如く崇め始めるので、ドズルは無視してリックを見る。
「リックはやっぱり戦闘メインか?」
巨大な体つきと鬼人といういかにも強そうな種族名でそう尋ねる。
ゲームでも終盤のエンカウントでよく現れた鬼人は体力の高さと圧倒的な攻撃力でボスに行くまでに何度も泣かされた。
リックもそういうタイプかと思ったが、一瞬驚いたリックはうずくまり、必死に首を横に振っていた。
「もしかして、戦いは苦手か?」
すると首を縦に振っていた。
そして俺の方をじっと見てくる。
「だめ……?」
もしかすると戦えない鬼人は役立たずだから、と追い出されるとか考えているのかもしれない。
もちろん俺はそんなことをしない。
それどころかどんな仕事でも今はとことん人がいないから大歓迎だった。
「いや、問題ない。力仕事ができるなら住宅建築とか土木作業を頼みたいが、他にもなんでも手は足りてないからな。やれることを見つけていこう!」
俺の言葉を聞き、リックは嬉しそうにそのまま俺に抱きつこうとする。
ただ、それは鬼人族の攻撃技にも等しい。
なんとかその攻撃を躱したあと、思い出したかのようにアランが言う。
「そういえばここでドラゴンスレイヤーが生まれたのですね。今、よその街は大騒ぎしてますよ」
「へっ?」
さすがに情報が早すぎないか?
まだ聖女エミリナが出発して一日なんだが――。
◇ ◆ ◇
いつの間にか勝手にドラゴンスレイヤーに祭り上げられているとも知らずにフリッツはもらった剣を見て、笑みをこぼしていた。
「ふふっ、こんなに良いものがもらえるなんて」
意味もなく素振りをしたり、剣を仕舞ったり、でもやっぱりまた出したり、を繰り返している。
「早く試し切りをしてみたいな。こういう時に限って魔物が出ないよな」
それもそのはずで先日のスタンピードで周囲のウルフたちは一掃された。
更にアースドラゴン襲来で残った数少ない魔物たちも逃げ去ってしまった。
今この辺りはほとんど魔物の生息していない比較的安全な地になっていた。
ただ、いなくなっているのはあくまでも魔物だけ。
盗賊たちはまだまだ隠れ住んでいた。
そんな盗賊に目をつけられたフリッツは瞬く間に彼らに囲まれていた。
「へへへっ、兄ちゃん、金目のものを置いていけ。命までは取らないからな」
「ひひっ」
フリッツは鉄製の剣や短剣を向けられる。
対するフリッツの武器は石造りの大剣。
「そんな石ころで俺たちに勝てると思ってるのか?」
「こいつ、もしかして貧乏なのか?」
「仕方ないな。奴隷として売り払うか」
周囲を囲まれていることで逃げることはできない。
武器の性能でも負けている上に多勢に無勢。
それでもこんなところで捕まるわけにはいかない。
自分は再びユーリたちのところへ戻るんだ!
襲いかかってくる盗賊たちに向けてフリッツは剣を振るう。
すると何故か石造りの大剣が鉄の剣をスパッと切ってしまう。
「へっ?」
「はぁ?」
何が起こったのか分からずに固まる盗賊たちとフリッツ。
――い、いま、鉄の剣が切れなかったか?
確かに剣同士であることを考えるとより性能の高い剣ならそういうこともあるかもしれない。
しかし、自分のはあくまでも石である。
頑丈ではあるものの間違っても鉄を切れるような代物ではない。
何か夢でも見ていたのだろうか?
そんなことを思いながら気を取り戻した盗賊が短剣で斬りつけてくるのを大剣で防ぐ。
すると大剣にぶつかった瞬間に短剣が砕け散る。
「なっ!?」
再び場が凍りつく。
そこでフリッツはあのスコップみたいにこの大剣にもとんでもない能力が隠されていることに気がつく。
まだどういう能力かは分からないが、一つ、相手の武器を壊す効果があることだけはわかる。
「ふふふっ、まだやるのか?」
この武器の性能に気付かれたら終わりである。
精一杯のハッタリをかますと盗賊の一人が指差してくる。
「こ、こいつがあの噂のドラゴンスレイヤーじゃないのか!?」
「た、確かにこの強さなら納得だ」
「こ、こんなやつに勝てるはずない」
「に、逃げるぞ!」
盗賊たちは一目散に逃げ去っていった。
一人ぽつんと残されたフリッツは「ドラゴンスレイヤーって誰のことだ?」と不思議に思いながら盗賊たちが戻ってこないから、しばらくその背中を眺めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます