黒幕一家に転生したけど原作無視して独立する
空野進
第一章 原作無視して辺境の地で独立します!
プロローグ
プロローグ
栄華を極めたインラーク王国。
しかし、その王国を衰退させようとする組織がいくつも存在していた。
ただし、その元を辿るとある一家に辿り着く。
ルーサウス公爵家。
国王の兄ながらも日々の生活態度が悪く能力も劣るということから廃嫡された父バランを当主とする一家であった。
主に暗部での仕事を任され、表立っては有能(と当人は思っている)な参謀を担う。
ただし、父はかなりの野心家でもあった。
『真に国を継ぐべきは自分達である!』
というのが父バラン・ルーサウスの口癖である。
そんな家の三男に生まれた俺、ユーリ・ルーサウスはこれからこの一家が待ち受けている未来について誰よりも詳しく知っていた。
それもそのはずで、ユーリというのはRPGゲーム『セイントクエスト』の黒幕。
鬱ゲーとも呼ばれた作中の国家転覆を狙った事件の全てに関わっているとも言われる黒幕一家の一員であり、終盤まで主人公の味方でありながら黒幕の一人が判明した際にパーティー離脱し、後ほどラスボスとして、主人公の前に立ち塞がる人物だった。
そのことに気づいたのは俺が十歳になった日のことだった。
最初は信じられなかったが、調べれば調べるほどここがセイントクエストの世界であることは疑いようがなかった。
つまりこの国家転覆は失敗する。
どれだけ策を弄しても全て主人公たちによって阻まれてしまう。
そうなると黒幕である父バランはもちろんのことながら、連坐で俺たちルーサウス家の家族全員処刑されてしまう。
特にラスボスとして君臨する俺はその運命は避けようがないものだった。
それは前世で何度もやり込んだゲームだけあって、その詳細までしっかりと記憶に残っている。
せっかく好きなゲームのキャラに転生したのに、よりによって確実に破滅する黒幕のユーリなんだよ!?
もっとゲームに一切関わらないモブで良かったんだ。
今の自分の境遇に思わず嘆いてしまう。
しかし、こうしている間にも刻一刻と破滅への時間は進んでいる。
なんとしても早期に破滅回避の手を打たないといけない。そのためにできること……。
独立……するしかないか。
物語に関わらないのは大前提だが、それでもルーサウス家にいたままだと連坐で処刑される。
それから逃れるにはルーサウス公爵とは別の家を興すしかない。
その上で原作に一切関わらない。
そうなると独立して騎士爵をもらうのが一番早い。
ただ、騎士爵を得るにはそれ相応の功績が必要になる。
例えば
最強種であるドラゴンの討伐とか。
大盗賊の壊滅とか。
辺境を開拓し国土を広げるとか。
国家転覆を狙う賊を倒すとか。
つまり、俺の家族を差し出せば爵位は簡単に手に入るわけだ。やったね。
って、そんな簡単にいくはずもない。
父を訴えようとすると逆に俺自身が全ての罪を被らされて、そのまま処刑されるだろう。
すでに信頼のある父と十歳の俺。
どちらの言を信用されるかといえば結果は簡単にわかることである。
せっかく生まれ変わったのだから俺は死にたくない。
そのためには一刻も早くここを抜け出す必要があった。
時間は有限である。
方針を決めた俺は早速、原作を無視するために行動を始めるのだった。
◇ ◇ ◇
夕食時。
幸いなことにルーサウス家では家族が揃って食事を取ることになっていた。
もちろん談笑の一つもなく沈黙の中、黙々と目の前に置かれた料理を食べるだけ。
こんな緊迫した空気の中だと食事も全く味がしない。
物音一つでも鳴ろうものなら、鋭い視線を向けられ、罵倒の言葉を浴びせられるのだからそれも無理はない。
それはその昔、カトラリーを落として音を立てたと言うだけでクビにされた使用人がいたほどだった。
とにかく父は自分の思うようにいかないことをとことん嫌うのだ。
いっそ別で食事をしてくれたら良いのに。
でも、父バランにとってはこの食事は家族の現状を知る唯一の機会でもあるために、家にいる時は必ず皆で集まる。
ただ、今日に限っていえば家族みんなで集まるこのタイミングはとてもありがたい。
いつもののように沈黙の中で進む食事。
その緊張感に俺は思わず息を飲むが、覚悟を決めて声を発する。
「父上、ご相談したいことがあります」
俺が沈黙を破ると兄弟たちは目を大きく見開き驚いていた。
しかし、誰も口を挟まない。
食事中に声を発すると父からどんな罰を与えられるかわからない。
そのことを兄弟たちはよく知っているためである。
長男のノットは何も聞かなかったフリをして、黙々と食事を取っている。
次男のマルコはこれから罰を受けるであろう俺のことを憐れみの目で見ている。
長女のミランダはニヤニヤと嫌味な笑顔を浮かべている。
唯一、次女のサーシャだけが心配そうに俺の方を見て首を横に振っていた。
今喋ったらダメと教えようとしているのだろう。
母のマーサは興味がないといわんばかりに無視を決め込んでいるし、父のバランは眉をひそめていた。
「……食事中だぞ?」
「申し訳ありません。ですが、ぜひお話ししたいことが……」
バランが音を立てて食器を置くと、鋭い視線を送ってくる。
「……なんだ?」
「私も十歳になりました」
「あぁ、聞いている」
有無を言わさずに話を終えようとする態度がありありと見てとれる。
その迫力に負けないように俺は言葉を続ける。
「後学のために外の世界も学んでみたいと思うのですが……」
父の手が硬く握られ、はっきりとその怒りを見て取ることができる。
しかし、それも一瞬ですぐに冷静な父の姿へと戻っていた。
「……わかった。辺境で小さいところだが、私の持っている領地を分け与えよう。領主としての在り方を学ぶと良い」
「あ、ありがとうございます、父上」
まさかこうもあっさり領地までもらえるとは思わず、嬉しさのあまり少し声が上擦ってしまう。
領地があればそこを発展させると功績を認められることが多いため、独立するにあたってかなりの近道になる。
分けてくれるほどなのだから、お世辞にも良い状況の地ではないだろうが、マイナスであればあるほど、正常化するだけでもう功績となってくれる。
「では、早々に支度をしてなるべく早く発つといい。領主任命の書類は後ほど渡す」
こうして俺は原作を回避するために辺境の地へ行くことを決めるのだった――。
◇ ◆ ◇
食事を終え、執務室に戻った父バラン。
すぐさま執事を呼び、先ほどの出来事について話していた。
「あの辺境地の領主にユーリ様を、でございますか?」
「彼の地には統治者が必要だったのだ。ちょうど良いではないか」
バランが嫌味な笑みを浮かべる。
それで執事は全てを察していた。
「
「それではまるで私が息子を暗殺しようとしているようではないか?」
「申し訳ありません。少々浅はかでございました」
「放っておいてもどうせ滅びかけている村だ。私に痛手はない」
「滅びかけている村ならばいつ魔物に襲われるかわかりませんね」
執事の言葉にバランは笑みで返す。
「かしこまりました。そちらは手配しておきます」
執事は頭を下げて部屋を出て行く。
一人残ったバランは口元を吊り上げて笑みを浮かべる。
食事での出来事はほんのきっかけでしかない。
兄たちに比べて一回り素質の劣る子など、ルーサウス家の汚点になりかねない。
いずれ処分しようと考えていたのだが、まさか自分から去ろうというとは思わなかった。
――もしかすると私に排除されるかもしれない、と悟ったのかもしれんな。
自分からこの家を離れる話しをしてくるほどだ。
素質はなくても案外危機察知能力だけは高いのかもしれない。
「自ら表舞台から去るなんて殊勝な考えを持つではないか。もしあの辺境地で生き延びるようならそれはそれで使い道があるであろう」
バランは笑いが堪えきれずに執務室に怪しげな声が響くのだった。
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