第119話
あの後は悲惨だった。
ホラーが苦手な姫華に抱きつかれまくって映画に全然集中できなかったし、途中から涙で私の顔までベシャベシャ。最悪。
「あ〜怖かった…」
「……」
「姫、大丈夫か?待ってろ、今お兄ちゃんがティッシュ出してやる」
賢治に差し出されたちょっと良いティッシュで涙を拭く姫華。こうやって甘やかされるから駄目になるんだよ。
「ちょっとお化粧直ししてくる!あ、ギミーちゃんのキーホルダー買っといて!」
姫華はそれだけ言い残すとトイレの方へと速歩きで向かっていった。
ちなみにギミーちゃんとはさっきの映画に出ていた敵役の猫みたいなやつ。背中から出てる赤い綿で攻撃してくるんだよね。
「なぁアヤねぇ…姫が言ってたやつってこれか?それともこれ?」
賢治はまるで犬のように従順だ。姫華に言われたとおりにギミーちゃんのキーホルダーを探している。
ちなみに手に持っているのはギミーちゃんではない。あるキーホルダーでもない。
「はぁ……こっちだよ」
私は仕方なく賢治の手から商品を取って元の場所に戻し、ギミーちゃんの商品がある方の棚に引っ張っていく。
「さっきのは別の映画のやつ。これが姫華が言ってたやつね」
「おう、これか!確かにこんな感じだった気がする!サンキュ!」
賢治は早速ギミーちゃんグッズを探り始めた。こいつ、また姫華に貢ぐつもりだ…。
まあいいや。私もせっかくだし、なにか買おうかな。あんまり内容に集中できなかったけど、結構良い演出だったし、登場人物も良い設定だったし。
「よし!それじゃあ会計に行ってくる!」
選び終えた賢治が会計へと向かおうとするのを止めて姫華が戻るまで待つように促す。
この間も頼まれたもの以上のものを買ってきて姫華に怒られていた。学べ。
『そ、そうか…』と大人しくなった賢治を横目に再び商品選びを再開させる。こういうときの姫華は長い。暇つぶしも重要だ。
一通りこの棚を見終わったところで別の棚を見てみようと顔を上げると、視界の端に見覚えのある顔が写ったような気がした。
そちらを見てみるも、ちょうどなにかの映画が終わったところのようで人がとても多かった。
世間は広い。きっと他人の空似だろう。
結局姫華は10分近くメイク直しをしていた。これだから甘やかされたお嬢様は。
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