第108話

 今日は鈴木さんたちとカラオケに行く日。ひなとは帰れない日。心底憂鬱である。


 帰りのSHRが終わり、号令が終わったところで斜め前の席で荷物をリュックに詰めるひなに声を掛ける。


「あ、あやちゃん、今日の委員会は当番がなくなってね…」


 ひなは嬉しそうに報告をしてくる。少し胸が痛むが、なんとか耐えながらひなに断りをいれる。


「今日はね、用事があるからひなとは帰れないんだ。ごめんね」


 ひなの頭をぽんぽんと撫でながら帰れない由を伝えた。


 ひなは一瞬ぽかんとしながらも、すぐに悲しそうな顔で『そっか…』とつぶやいた。


 すぐにでも抱きしめて家に持ち帰りたいところだが、今日はそういう日なんだと覚悟を決めていた。後に引けない。


「ごめんね…?」

「いやいや…用事なら仕方ないよ!また明日だね?」


 少し高くなった声になりながらも早口で取り繕い、ひなは私に別れを告げた。


「田代さーん!行こーぜ!ちゃ〜んと駅前のとこ予約しといたから!」


 別れを告げたところで鈴木さんとその他A、B、C、Dがやってきた。


 だるいけど自分の席からリュックを背負って鈴木さんに連れられるがままカラオケへと向かう。


 しばらく質問攻めされながら歩いていると駅前の栄えている通りに到着し、とあるビルの中に入る。


 受付を済ませて通された部屋はかなりの大部屋で無駄にテンションが上がっている鈴木さんたちを横目に端の方のソファに荷物を置いた。


 ドリンクだけ注文し、鈴木さんたちが歌っている様子を眺めながらひなの様子について思い馳せる。


 多分鈴木さんたちとカラオケに行くことはバレてる。ひなが教室出る直前に声かけられたし。


 用事があると断っておきながらその用事が他の女とのカラオケだなんて、私だったら嫉妬で狂っているだろう。


 ひなは今、家に帰った頃だろうか。


 今すぐにでもカメラを見たいという強い衝動に耐えながらもスマホに手を伸ばそうとしていると鈴木さんに強制的にデンモクを渡された。


 仕方がないのでデンモクでこの間も歌った聞き馴染みのある、歌える曲を探し、入れておいた。


 私の番になり、マイクを持つと変に注目されている空気がビリビリと伝わってくる。


 心を無にして歌いきり、おだててくる鈴木さんをいなしていると部屋の扉が開かれた。


 そこには先程まで部屋を出ていたA子さんと他校の制服を着た知らない男子×4人が入ってきていた。

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