第106話
駅につき、紫苑と別れたところで電車に乗って最寄り駅近くのカラオケへと向かった。
受付を済ませて案内された部屋の中に入る。すぐに飲み物を頼んでひなの隣に座り込んだ。
ひなとカラオケに行くのは初めてではないが、二人きりで行くこと自体は初めてだったりするので少しだけ緊張する。
前来たときは中学生でみづきたちとともに来ていた。
みづきはやたらとデュエットしたがるのでひな個人の歌は聞いたことがなかったりする。ひな自身、歌いたいタイプじゃないしね。
届いたドリンクを一口飲んで、ひなにデンモクを渡す。
私はあまり曲に詳しくないのでいつも歌う曲はだいたい決まってたりする。
「あやちゃんこの曲とか似合いそうだなぁ…」
隣からボソッと聞こえてきた声に目線を移すと、デンモクにはよく知らないけど最近話題の曲の名前であろうものが書かれていた。
「…帰ったら聞いてみようかな」
ひなはまさか返事が来るなんて思ってもいなかったようで、肩を跳ね上がらせて驚いていた。
「えへへっ…声にでちゃってた、かな?」
ひなは照れたように頬を染めて笑った。
「私がひなの心を読んだのかもしれないよ」
「ふふっそれじゃあ恥ずかしいな」
「恥ずかしいこと、考えてるんだ?」
冗談を言い合いながらも最初に歌う曲は中学生の頃も何度か一緒に歌ったことのある思い出の曲になった。
ひなにマイクを渡して曲の前奏が流れ始めると自然と二人で手をつなぐ。
特に目を合わせるわけでも言葉を交わすわけでもないが、こんな時間が幸せなんだと言える時間だ。
流れてくる歌詞に沿って歌いながら隣から聞こえてくる、渡しよりも高くて可愛い声に耳を傾ける。
ひなの歌声は優しげで聞いていると胸が暖かくなってくるような癒やしの声だ。
たまに聞こえてくる低めの声もいつもとは全然違ってそのギャップにドキドキしてしまう。
一曲歌い終わるとひなと自然に目が合った。
ひなの瞳は潤んでいて、何を言うわけでもないが薄く微笑んでこちらに手を伸ばしてきた。
私の頬に触れるひなの手を掴み返すとひなは段々と顔を近づけてくる。
もしかしてこのままキスをするつもりなのだろうか。
鼻と鼻がくっつきそうな距離になった時、ひなはハッと我に返ったように私から一気に離れた。
「ご、ごめんっ」
部屋の隅でうずくまるヘタレなひなの背中を見ながら気づかれないようにため息をつく。
急にペースを乱されるとこんなにもドキドキしてしまうんだな、と痛感した。
やはり、ひなに主導権は持たせるべきじゃない。私の心臓が持たないだろうから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます