第105話
打ち上げが終われば二次会に行く人やそのまま帰ったりする人もいる。
私達三人は後者である。
厳密には後者でもないのだが、紫苑はともかく、私とひなはこのあとは二人でカラオケにでも行って二人きりになる予定である。
そう、デートである。
こういう集まりから二人だけ抜け出すっていうの、少し憧れがあったりする。
「田代さんたちもカラオケ行くっしょー?」
そこで立ちふさがるのは鈴木さんである。
ニコニコとしながらもこちらの行く手を塞ぎ、まるで確定事項かのようにカラオケに誘ってくる。
ひなの歌声を他の人にそう安々と聞かせるわけにはいかない。
「行かない。ここで解散。それじゃ」
確固たる意志をもち、それでいて少ない言葉数で明確に拒否をする。
私はひなの手を取り、紫苑も引き連れて駅方面へと歩き出す。
カラオケのある中央通りの方面とは真逆の方向なのでこのまま付きまとわれるということはないはずだ。
「え〜行こうよ〜」
「鈴木〜?もう行っちゃうよ〜?」
「今行く〜!……次は絶対、ずぇ〜ったい参加ね!」
結局最後まで粘っていたが、なんとか解放された。
「あはは…あやちゃんったら、もっと断り方があったんじゃないの?」
「鈴木さんにはあれぐらい冷たいほうが効果的だよ」
「…随分と仲良くなったね」
それはひなも同じだろう。いつの間にか下の名前で呼ばれるようになってたし、正直言って鈴木さんがひなの名前を呼ぶたびに嫌な気持ちが沸々と湧いてくる。
親しい人とかならまだしも、知り合って間もないチャラい人が相手だとどうしても嫌な気持ちが強くなる。
「紫苑はこのまま帰るの?」
「あっううん。お姉ちゃんが駅の方に来てるみたいだからこれから合流して一緒にショッピングかな?」
ずっと黙ってついてきていた紫苑のほうを向くと、紫苑もさっきよりずっと顔色が良くなっていた。
紫苑と鈴木さんは仲が良い訳では無いから隣に座ってこられたりして、ストレスになってたりしてたのかな。
私もこういう集団での打ち上げとかは初めてなので結構疲れてしまった。
「ひな、私達は近所のカラオケにでも行こうか」
「うん、そうだね」
ひなもやはり二人きりのほうがいいようで、さっきよりも顔色が明るく見える。
うんうん、やっぱりひなは私と二人のときのほうが可愛い。厳密には今、三人だけどそれでも大人数よりかはずっと可愛い。
私もひなから見たらそうだったりするのかな?そうだとちょっと…いや、かなり嬉しい。
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