第99話

 長かった…この45分間、人の多さもだんだんと増してきてなかなかに忙しかったためほとんどひなと話すことができなかった。


 そのため段々と体力が減っていって、まだ一時間も経っていないのにもう疲れてしまった。


「いやぁ〜疲れちゃったねぇ」

「うん…」


 途中でひなのご両親まで来ちゃって余計に緊張したな…。


「前売りチケット買った分の商品だけ受け取ってどこかで食べながら休憩しよっか」

「そうだね」


 前売りのチケットで買った分の商品を受け取るために模擬店を行う外のほうへ向かう。


 3年生だけの模擬店だからあまり多くもないけど、ドーナツと焼きそばだけ買ってある。


「わぁ!人も多い…」


 ひなに言われて改めて廊下を見てみるとかなりの人数がいて、流石に怖気づいてしまう。


「あ!あやしろじゃ〜ん!」


 急に声をかけられ、そちらのほうに目を向けるとそこには翡翠さんが立っていた。


「紫苑の迎えですか?今あっちで引き継ぎしてますよ」

「お、さんきゅー」


 これ以上変なダル絡みされないように翡翠さんの気が逸れたうちにひなの手を引いて移動することにする。


「あれ?あやしろたちも一緒に行かないのー?」

「私達、これからデートなんで」


 これを言えば流石の翡翠さんも無理についてこようとしないはずだ。


 翡翠さんの反応を見ると目をパチクリさせた後、頬を膨らませてつまらなそうに目を伏せた。


「ちぇー!いいもんっ!これからうちもしおたんとデートだしぃ!」


 翡翠さんは拗ねたように来たばかりでよく分かっていない紫苑の腕を自身に引き寄せ、私達とは反対方向に向かって歩き出した。


「私達もいこっか」

「う、うん」


 ひなは少しうれしそうな様子で繋いだ手を少し引き気味に歩き出した。


 何か嬉しいことでもあったのかと思ったが、聞いても特に笑うだけで答えてくれなかったが、ひなの機嫌が良いのなら別にいいか。


「さ、焼きそば売り場はこっちだってー!」


 やたらと元気なひなに連れていかれるがままにひなについていく。


 俯瞰してみると今の私とひな、大分カップルらしいのではないかと思い、私もテンションがあがってくる。


 恋人繋ぎ、距離感の近さ、話す口調。


 段々と私にとってのカップルの理想が現実になってきて、私自身、付き合った当初よりも胸が軽くなった気持ちだ。


 これからもこんな感じで親しくて仲もよく、それでいてずっとお互いに依存し合う。


 そんな理想的なカップルになっていきたいものだ。

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