第95話
私は『正樹くん』という文字が見えた瞬間、体が熱く燃え上がるような腹立ちを覚えた。
「…ひな、この『正樹くん』って誰?」
私は怒りを抑えながらできるだけ優しい声でそう聞く。
ひなは目をパチクリとさせながらも『あぁ』とつぶやいて私からスマホを取り、スイスイと操作をして一枚の写真を見せた。
その写真にはひなと一緒に笑顔で写る図体のデカい男性とキレイな顔立ちの女性がいた。
「その人はね、私のいとこのお姉ちゃんの旦那さん!もうそろそろお姉ちゃんの誕生日だから『どんなプレゼントが良いと思う?』って相談されてたの」
ひなは続けて『私とお姉ちゃんって本当の姉妹みたいに仲良しだから』と朗らかな顔で微笑んだ。
確かによく見ると女性のほうは目元とかひなと少し似ているような気がしなくもない。
「…そう」
ひなに返されたスマホをいじり、再び『正樹くん』という表示を見る。
トーク履歴を見てみるとひたすらに惚気話が書かれており、正樹くんとやらがひなの従姉妹にベタ惚れなのだとわかる。
まだ安心しきれるわけではないが、既婚者なので少しホッとした気持ちになる。
「そ・れ・よ・り!あやちゃん、これってなに?」
ひなにズイッと見せられた私のスマホには私が今まで撮ってきたひなの写真がずらりと並んでいた。
「これって私の写真だよね?」
私は背中を冷や汗が伝う感覚を覚えながらも、必死に言い訳を考える。
「それに、どれも撮って良いって言った覚えのない場面ばかり」
ひなは薄く微笑みながら私を逃さないと言わんばかりに座る私の目の前に膝立ちで立つ。
「こ、これはね、ひなの魅力に惹かれてつい撮っちゃったっていうか…」
「それって盗撮ってことだよね?」
私はぐうの音も出ずに俯く。
まさかひなが写真フォルダを覗くとは思わず、油断してしまった。
「ねぇ、盗撮って犯罪なんだよ?」
「…………ハイ」
ひなの圧に叶うはずもなく、私は自分の非を認めて受け身になることを決心する。
ひなは結構こういうのに厳しい人だ。普段から交通ルールなどにも厳しいのだから盗撮となれば怒られるに決まっている。
となれば私が現在進行系でひなの部屋にカメラを仕掛けているのを知ればどうなるか。考えたくもないな。
「ねぇあやちゃん、ちゃんと目を見て説明して?どうしてこんなこと、しちゃったのかな?」
「…………」
……コンナハズジャナカッタノニ
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