優秀すぎるサポートAI

平中なごん

01 スマートすぎるルーム

 大学を卒業し、わりとブラック気味な企業に就職してから気づけば早や三年……遊ぶ時間もないので小銭も溜まったし、ボロアパートからそろそろ引っ越そうか考えていた矢先、ラッキーなことにも超格安な築一年という物件を不動産屋のサイトで見つけた。


 最初は施工ミスがあっただとか、陽当たりが悪いだとかいう問題のある物件なのかと疑っていたが、試しに内見に行ってみるとまったく問題は見当たらず、それどころか各部屋は照明や空調、据付の家電など、すべてをサポートAIが管理する最新の機能を標準装備したスマートルームになっているではないか!


 加えて最上階の五階部屋で眺めはいいし、防犯の上でもバッチリだ。


 さらには501号という片側にしか隣人のいない角部屋である。


 これでなぜ家賃が安いのかと当然、疑問も湧いてくるが、もしかしたらそうしたAI開発企業や家電メーカー、建設業社などから補助金の出ている実験的なマンションなのかもしれない。


 悪くいえばまあ、住人はモルモットということだ。


 それでもこんないい掘り出し物、そうそうお目にかかれるもんでもないだろう。


 一瞬でも迷っていてはすぐに横取りされてしまう……俺は速攻で契約し、すぐに引っ越しも済ませると住み始めた。


「──カエサル、明かりを点けて」


 俺が某アレ◯サのようなサポートAIのスピーカーに語りかけると、部屋の照明がゆっくりとスムーズに明るくなってゆく。


「おおおお……!」


 そうしたハイテク初体験だった俺は、思わず独り、部屋の真ん中で感嘆の唸り声をあげる。


「よし! カエサル、今度はテレビをつけてくれ。チャンネルはそうだな…なにか笑えるバラエティやってるとこだ」


 近未来を垣間見せる文明の力に、すっかり魅了された俺は片っ端からいろいろ試してみた。


 目覚まし代わりに、その日の気分でチョイスそた曲を流させたり、エアコンを適温になるよう管理させたり、風呂も帰宅時間に合わせて沸くようにしたり……すべてを音声一つで設定できるというのはなんとも便利なものである。


 毎日社畜としてこき使われ、家事などに割く時間のない俺にはまさにピッタリなシステムだ。


 それに、さすがAIといったところか、しばらく使っていると〝カエサル〟は自主的に俺の好みを憶え、いちいち指示をしなくともそれに合わせて働くようになる。


 例えば、帰宅すると俺の求める明るさに照明を調節して灯し、テレビ番組とネット動画も俺のよく観る傾向のものを先回りして選択しておいてくれる。


「缶ビールガアリマセン。購入ヲオネガイシマス」


 さらには冷蔵庫によく入れてあるものがなくなると、どこか機械的な女性の声でその補充を促し、レンジは俺の好む温度でコンビニ弁当を温めてくれる。


 お掃除ロボットも常時や定時にではなく、俺が出かけたり、睡眠中や風呂に入っている間にだけ動くようにして、けして邪魔になるようなことはしない。


 俺はこの新居にたいへん満足すると、家では仕事の疲れも忘れて快適な日々を過した……。

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