旅人メイドで力もないし魔法も使えないけど勇気と度胸だけならあります!~メイドと剣士の悪党対峙大冒険~
田山 凪
旅人メイドのサーシャですっ!
古代の道具エンシェントプレシャスが発掘されてから三年が経った。
全部でエンシェントプレシャスは二十個あるとされているが、そのすべてを探すことは到底難しい。しかし、その一つである真実の眼が見つかると状況は一変した。真実の眼は使用者が見たいものを映し出し、見つけ出すとまた次の対象を見つけることができる。これを見つけてしまった奴らが悪名高いネクロバーバリアン。
それぞれの国はネクロバーバリアンがすべてのエンシェントプレシャスを見つけ、世界に反旗を翻す前に捉えようとし全ギルドのハンターたちへ報酬を用意した。
そんな壮大なことが起きているとは知らない旅人メイドのサーシャは、鼻歌を歌いながら呑気に町に向かって歩いていた。左手に少し派手な腕輪こそつけているが、鞄すら持たずその身一つでいろんなところを渡り歩いている。
「あっ、町が見えた! 今回はどんな出会いがあるかな~」
女性一人で、しかもメイドという戦いに特化していないサーシャがなぜ一人こうも呑気に旅をしているか。それは、サーシャがこれから行く町でわかる。
町に到着したサーシャはさっそくギルドへと向かった。ギルドは人手不足なところが多く、特に調理をする人材が不足している。疲れて帰ってきたハンターに美味しい料理を提供するため、スキルもそれなりに必要なのだ。
「旅人メイドのサーシャです! ぜひ一週間ほど雇ってくれませんか?」
料理長のいる厨房に招かれ元気に頼んでみるが、料理長は明らかに歓迎ムードとは程遠い。自身のあごひげをなでながらサーシャの姿をじーっとにらんでいる。
「お前さん、メイドなのにどうして旅なんかしてんだ。危険だろ」
「意外と大丈夫ですよ。いろいろ持ってますし」
そういうとサーシャはどこからともなく剣と盾を出してみせた。
料理長含めほかのコックたちもいきなり物騒なものサーシャが出すものだから驚いた。それ以上に鞄すらないのにいったいどこに隠していたのかと不審に思ったが、ハンターの中には武器を魔力化し戦う時だけ物質化させるものもいるため、そういうものだと理解した。
「戦えるメイドか。まぁ、確かに面白そうだが。だったらどうしてハンターじゃなくて調理で雇ってほしいんだ?」
「いや、だってモンスターとか怖いじゃないですか」
「なのに一人旅かよ」
「いやぁ~、本当は友達と一緒にしたかったんですけど、メイドだけで旅なんて怖すぎっ言われて」
「友達が正しいな。ちなみにいまどれくらい旅してんだ?」
「えっと、九つの町に行きましたよ。たまに食材探しでパーティや組織の方と一緒に同行してついでにモンスター退治したりとか」
怖いとかいいながらなんだかんだアグレッシブに活動しているサーシャに対し、料理長たちはもうなんと言っていいかわからないといった風だ。実際問題人手は充分でないため、人数が増えるのはメリットしかないがサーシャの素性もそこまで明らかにはなっていない。
そのため、料理長はまだ警戒をしていた。
「あ、まだ警戒しています? だったら私の特技を見せてあげます!」
「特技? 何かできるのか」
「はいっ! 私はその人を見れば食べたいもの、食べたほうがいいものがわかるんですよ。すごいでしょう」
腰に手をあて自信満々にそういうが、むしろこれは料理長の警戒心を高くしてしまう。それは無理もないこと。急にやってきた旅人メイドがそんな才能を持ち合わせてるなど到底信じることはできない。
「だったら証明してもらおうか」
「どんとこいです!」
料理長とサーシャはハンターたちが集まる休憩エリアに向かった。
「あいつだ」
料理長が指さしたのは背中に剣を装備するどこにでもいそうなハンター。名前はジャン。一人でクエストをこなしたあとあまり食事をしないことで有名だ。しかし、食事というのは疲労を回復させ体のコンディションを整える。若いゆえに多少無理をしてもあまり支障がないから問題ないと思ってしまうが、料理長としては優秀なハンターだからこそ油断せず食事をしてほしいと考えていた。
「未来を担う若者だ。ぜひあいつが食べてくれそうな料理を……。ってあいつどこいった!?」
直前まで料理長の横にいたサーシャはすでにジャンに話しかけていた。
「こんにちは~、クエストお疲れ様です!」
サーシャはなぜか自信満々で敬礼をしながら言った。
「えっ。ありがとう。……誰だお前」
「旅人のメイドのサーシャです! 今日は私がいてラッキーでしたね。いまから料理作ってきますのでお腹を空かせて待っておいてください!」
「いや、別にいいから。って話を聞け!」
またもやサーシャは人の話を聞かずすでに調理場に戻り料理を作り始めていた。
しぶしぶジャンはサーシャが戻るのを待っていた。
「ったく。戻ってきたら料理を突き返してやる」
「できましたよ~!」
「早っ!!」
肉厚のステーキに山盛り野菜。さらに芋の冷製スープ。一人で食べるには明らかに多い量だ。
「いっただきまーす!」
「お前も食うのかよ!」
「えっ、だめですか? こんなに食べたらお腹パンパンで動けなくなりますよ」
「そうだよなぁ~。こんなに食べたら苦しく……って違う!」
「見た目に寄らずノリが言い方なんですね」
サーシャの勢いに乗せられるのを不服と感じ、ジャンはそっぽを向いて食事を食べない意思を示した。こうすればさすがに去っていくだろう。普通の人なら拒否されてると分かってひくものなのだが、旅人メイドサーシャは鉄の心臓の持ち主。この程度では一切引くことがない。
「ほ~ら、見てくださいこのお肉。ジャンさん好みのレアですよ~」
サーシャはフォークに刺した肉をジャンの目の前に近づけていく。
ここまで来ると意地の張り合いだ。ジャンは匂いに釣られそうになるのを必死に抑えていた。
「私が作った特製ソースは貴族の方にも人気ですよ。それに日々モンスターと戦って頑張っているハンターさんに合わせて、スタミナ増強、疲労回復、お肌ぴちぴちにに
に」
「後半温泉みたいになってんだろ!」
「隙あり!」
「んぐっ?!」
サーシャは笑顔でフォークをジャンの口の中へとぶち込んだ。
いきなりのことでジャンは驚いたが、口の中に広がるソースの風味、柔らかい肉、あふれ出る肉汁。このギルドで過ごして二年経つが、初めてこんなにおいしいものを食べた。
「これ、本当にお前が作ったのか?」
「もちろん! と言っても、下準備してたものもありましたけどね。ここにない調味料も使いましたし」
決してこのギルドの料理がまずいわけではない。
ただ、ジャンの口にそこまであわなかったのだ。
料理長は汗をかいたハンターたちへ塩味多めにしていたが、サーシャの作ったソースはフルーティな甘みがありながら肉のうまみも残しつつ、サラダを食べてリセットし、一口目のおいしさを何回でも楽しめるようにしていた。
「まぁ、さっきは冷たくして悪かったな。俺はジャンだ」
「いえいえ。では、改めましてサーシャです!」
これが二人の出会いであり、冒険の始まりでもある。
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