俺をフッた奴が、なぜか迫ってくるんだが

盗電一剛

第1話:告白、それは…

「俺、お前が好きだ。俺と付き合ってください。」


 告白。


 それは、人の心を弄ぶ邪悪なものだ。


 するまではその人を惑わせ、悩ませる。


 そして、成功すれば彼は最大の幸福を得、失敗すればそれと同等の気まずさや悲しさを生む。


 ここに来る前、幼馴染の沙織に告ることを川口(俺の旧友)に言った。


『ラーメン、奢ってやるよ』と返された。


 失敗する前提なのは癪だが、俺だってわかってる。


 成功するわけがないってことくらい。


 沙織──倉石沙織くらいしさおりは、何をとっても良くできた人間だ。


 それこそ、こんな完璧人間がこの世にいていいのかってくらい。


 テストは毎回全教科満点、運動神経は校内トップ、顔も全校生徒が知っているほどの美貌だ。エトセトラ、エトセトラ。


 対して俺はどうだ。


 俺、日村弘毅ひむらこうきのスペックは、テストは平均点、運動神経はクラスでド真ん中。顔は中の下(川口評)。


 こんな男とあいつが、釣り合うわけがないだろう。



 だが、俺は告白する。


 告白、それはギャンブルだからだ。


 賭ければ一定の確率で成果を得る。やらなければ何もない。


 なら、やるしかねーだろ。


 かの人は言った。「当たって砕けろ」と。


 かの人は言った。「逃げれば1つ、進めば2つ」と。


 要するに告白は、シュレディンガーの猫みたいなものだ。


 蓋を開けてみないと猫の生死は確定しない。


「ええと──」


 目の前で沙織が混乱している。


 そりゃそうだ。もともと眼中になかった男が、いきなり賭けに出てきたのだから。


 俺たちは幼馴染。その事実は変わらない。


 だが、あれほどスペックに差がある俺たちだ。集まってくる人の数もレベルが違う。


 俺のほうはせいぜい数人だが、あっちはまさに烏合の衆。


 そうなりゃ自然と距離が遠くなるのは当たり前だ。


 沙織が口を開こうとしている。


 さあ、結果は──



「その、ごめんなさい」


 ……………………………………。


 まあ、そりゃそうだよな。当たり前だよな。


 つまり今、俺はフラれたんだなと俺は冷静に考えた。


 まったく動揺もせず、悲壮感に浸ることも、悔しさで崩れ落ちることもなかった。


 自分でも驚くほどに、言葉が口からするっと出てきた。


「ま、そりゃそうだわな。わり、困らせちまって」


 沙織の顔が申し訳なさそうなものから驚きへと変わる。


「え、予想していたのと違う!なんでそう平然としていられるのよ!?」

「いやまあ、最初からわかってたし」


 言いながら空を見る。


 一点の汚れもない晴天。まるで、こいつの心を映し出してるみたいだ。


 何で晴れてんだよ、ちくしょう。自分の愚かさが丸見えじゃねぇか。


 どんどんいろんな感情がせり上がってくるのを俺は感じた。


「俺なんかが釣り合う訳ないってな」


 俺は空から視線を下ろさずにそう答えた。


 今視線をもとに戻せば、俺は感情を制御できる自信がない。


 でも、俺は負けたんだ。


 このギャンブルに。性悪野郎に。


 それでも最後まで、道筋を歩くのが道理だろう?なあ、俺。


 俺は必死に平静さを保つと、顔を見て一言。


「ありがとよ、答えてくれて。じゃあな」


 言いながら思わず笑みがこぼれた。


 久しぶりだな、と思った。


 こんなに自然に笑ったのはいつぶりだろうか。


 そんなことを考えながら、俺は放課後の学校を出た。


 沙織をほったらかしにしてしまったが、今の俺にはそんな余裕はなかった。


 荒ぶる感情のうねりを何とか抑えながら、俺はダッシュで家まで帰った。


 今度、ラーメン奢ってもらおうと心に誓いながら。

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