勇者パーティを追放された【費消士】、商人と組んで最強に至る
CURRY ICE
一万 追放
「ヴァル、お前はクビだ」
レベル上げための
「何故……って、聞くまでもないか」
「ああ。お前は俺の勇者パーティには力不足だ」
この世界には【称号】というものがある。
生まれた時に神から授かるとされていて、称号に合った行動を強化することができる。
【農民】なら他の称号より早く作物を育てられ【剣士】なら、すぐに無称号十年分の腕が手に入る。
そして、ヒリックの称号は【勇者】。
魔王に対抗する人類の希望であり、数多の称号の中でも最強と言われている。
それに対して、ヴァルの称号は【費消士】といい『お
使う金を多くするだけ、その強化幅も大きくなる。
なんとか消費する金の量を調整してやりくりしてきたが、他のメンバーとステータスの差が大きくなってしまい、最近はそれも追いつかなくなってきた。
「金を払ってやれることが【戦士】系統とほぼ変わらないなんて、勇者パーティの面汚しです」
「明日には新しい人が来る予定だし、さっさと出てってくんない?」
敬語で毒を吐くのが、同じく勇者パーティの回復、支援担当の【聖女】セインで、高圧的な態度でヴァルを追い出しにかかっているのが、上級魔法を数種類も操る【賢者】ウィズマだ。
彼女らもヴァルの追放に賛成らしい。
まあ、当然だ。
実力不足はヴァルも認めるところで。誰よりも辞めたがっているのはヴァル自身なのだから。
しかし、今までここに残っていたのには理由がある。
「……父さんは何て言ってたんだ、兄さん」
ヴァル・アスターとヒリック・アスターは、腹違いの兄弟だった。
ヒリックの方がアスター男爵家の正式な跡継ぎで、ヴァルはほぼ同時期に生まれた
そして二人の父であるアスター家当主は『兄弟での魔王討伐』という史上初の快挙に惹かれ、そこまで戦闘に秀でている訳でもないヴァルも同行させた。
一応、その指示に従って今まで勇者パーティの一員でいたのだが――
「何の問題もねえよ。元から『使えないなら捨てて良い』って言われてたんだ」
「なら早く言えよ。分かった、このパーティから抜ける」
「じゃあこれ書いて」
ウィズマが差し出した紙は、ギルドのパーティ脱退用書類だった。
内容を確認しながら、そこにサインしていく。
これで、正式にヴァルは勇者パーティから脱退だ。
「これでいいだろ。じゃあな」
「待てよ」
書類を差し出して、少ない荷物を纏めようとしたところ、ヒリックに止められた。
「お前、俺達に借金あったよな」
「……退職金と相殺だろ」
【費消士】のヴァルが勇者パーティと肩を並べるには多大な金が必要で、足りない分は他のメンバーから借りるしかなかった。
最近はさらに敵も強くなっていて、金が足りないので活躍できない→給料を減らされる→金が足りないので――という負のサイクルが続いていたのだ。
これでもかなり節約してきた自負はあるが、かなり溜まっているだろう。
「でも、使える分は全部使ってるから、所持金はほぼゼロだぞ」
「あるじゃねえか、高く売れそうなのが」
ヒリックの視線は、ヴァルの剣に注がれていた。
正確には、二本の内の一本、純金99%の黄金剣カリバーンに。
純金なだけあって、その時価は数百万ランに登る。
「さすがにこの剣は……」
「じゃあ他に差し出せるものがあるのか?」
ヒリックは勇者の迫力を出しながら、聖剣の柄に手を掛ける。
街中での暴行はリスクが伴うが、ヒリックならやりかねない。
手持ちの金も無く、称号の力も使えない。
「……分かった、やるよ。売るなり使うなり好きにしろ」
剣は記念品でもあるのだが仕方ない。
柄ごとカリバーンを取り出し、ヒリックに渡した。
「余計な手間かけさせんなよ」
「まあいいじゃないですか。さっさと出て行って下さい」
「……はいはい」
最後まで悪態をつかれながら、ヴァルは店を出て行った。
◇
「ッシャア、上手くいったなぁ!」
「そうだね。ビールもう一杯!」
ヴァルが居なくなった後の店内。
大金が入ったことで、三人は一層けたたましく騒いでいた。
「ホスト行って良いですか?」
「えー、もうちょっとこのメンバーで飲もうよ」
「仕方ないですね」
「ったく、少しは自重しろよ。もう少しで一文無しだったんだからな」
勇者パーティの資金は尽き欠けており、次の討伐の食料すら買えない状態になっていた。
原因は、一年ほど前からヒリックとセインが性に溺れて夜の街で金をばら撒くようになっていたこと。
そのせいで、慢性的な金不足が続いていた。
ヴァルの分け前を『活躍していないから』とほとんどいちゃもんの様な形で減らすほどに。
さらに、ウィズマが悪質な詐欺に引っかかったことで、借金まですることになってしまった。
これが国王の耳に触れれば、何を言われるか分からない。
そこで一発で借金を返すために、高く売れそうなカリバーンをヴァルから奪い取ることにしたのだ。
「っつーか、このカリバーンだっけ? 幾らで売れるんだろな」
「どうでしょう? 百万は下らないと思いますが――」
「すみません、少しいいでしょうか?」
その時、初老の男性がカリバーンを持ったヒリックに話しかけてきた。
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