第1話 過去から逃げて、生きれるか


1943年、日本で初となる「魔法」を使う人間が観測された。

一人に一つだけ固有の能力が宿り、「異能」とも言えるその力を性別、年齢問わずのごく少数の魔法使いたちは世界の概念を行使して、見事日本の戦勝に貢献した。

まだ魔法研究の発展していないこの時代、彼らは八百万の神の生き写しや人の依り代として、国内外で尊敬と畏怖の対象となった。


それから暫くした後、魔法は大きく分けて4つ種類があること、魔法を究めた者には紋章が顕現し、それに宿る対価など…様々な魔法研究が、極秘裏に進められていた。

その頃の日本では、戦勝と世界1の大国となった浮かれから、研究は停滞する。


そして、その後の日本は、巷ではまことしやかに囁かれる都市伝説にして、人類の魔法顕現の黒幕と噂される…「魔法」の固有魔法を持つ人間を探していた。


2023年、魔法使いの総数は爆発的に増え、日本だけでは無く世界各地にも数多誕生していた。

日本の覇にも曇りが見え、各地で反乱が起きることになる。

そのほとんどで勝利することが出来たものの、人員もそれなりに消耗した。

じり貧のこの状況に早急に対策するために、魔法使いの組織の再編と研究に莫大な金を使い、その裏では法に触れてクローンもとある存在を作っていた。



―――神の権能のみを人に降した存在を。




    ◇



「どうですか?創神のほどは?」

「十二分だ。魔力もそれなりにある。今後は能力の研鑽を主に行う予定だ。」

「まあ、時間も惜しいですし、さっそく始めましょう。」


研究員たちは少年を溶液の満ちる箱の中から引っ張り出し、開けた場所に連れ出す。

少年は力なく、ただ大人たちに引きずられていった。


「さて…今からお前の骨を抜く。新しい物を[創造]してみろ。」

「え…………やめ…」

かすむ懇願の声を無視して、研究員の男は少年の腕を逆さに折り曲げ開放骨折し、肘のあたりから見える太い骨を強引に引き抜いた。


「あっ…あああ!!」

神経と肉も強引にブチブチと抜かれ、地面にへたり込む少年。止めどなく滴り落ち流れる血を抑えるために、皮を作るのが限界のようだ。


「チっ!使えない奴め!おい!こいつを医務室にやれ!」

「はっ!」

「おいガキ。これをよく見ておけ!。」

手渡された写真には、人間の内臓と重要な血管が全てが写っている。

「え…………えっ…」

「見たらわかるだろ。内臓だよ。その傷が治り次第、どこかの内臓を抜いてやる。これでも見ておいてイメージしろ。足りない内臓はどうやって[創造]するか、な。」

そのやり取りを終えた直後、少年は担架に乗せられ運ばれた。



   ◇



「痛いでしょう!?痛いでしょう!?あ~クソがぁ!」

何時だったか。とある研究員が降格処分を受け、その後釜は自分の後輩となった。

苦悶を挙げる少年は都合のいいサンドバッグ以下だった。


「チェーンソーが痛い?なら治してみろよ!?いつもやっているだろ!!?」

そのうっぷんを育成と称して非検体の少年に八つ当たりをする。

「おい。何しているんだ。それはお前の仕事ではないだろう?」

「え…やめてくだあっ!!」

その男の顔は、それ以降誰も見ていない。


「ア…………ありがとう………」

「…はあークソが!1日無駄じゃねえか!」

少年の声を無視、いや、被検体の感情自体を考えもしない筋骨隆々の大男はすでにボロボロな少年に拳を浴びせる。

「い…痛い!………言い方が悪かったの?ねぇ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

「クソ!時間無いのに!バカしやがって!クソ!クソ!」


彼はその後、ボロボロの少年を放置して気が済んでどこかへ去った。



   ◇



ある日、研究所から大声が飛ぶ。

「山崎所長!山崎所長!大変です!研究所に侵入者が!」

その男の顔からは、笑みがこぼれていた。

「フン。総員!侵入者を掃討せよ!」

そう言った後、少年を箱から出し、告げる。

「俺たちは用事があるから待ってろ。それに、自分の身は自分で守れ。」

そういって、部屋からは全員が抜けた。

少年は、逃げた。

出口なんて知らない。道を進み、扉を蹴破り外へ出た。





「本当にこれで良いのですか?山崎所長。」

「ああ。心を殺しては些か魔法の行使が鈍る。今後からの計画は彼自身で乗り越えてもらおう。」

「あ、でも追手の雑兵は用意しておけ。」



少年は逃亡を続けるも、追っ手に追いつかれた。

それを血をまき散らしながら迎撃する。

無我夢中で戦闘し、逃げた。

傷を治す方法なら教えてもらっている。

でも魔力は日々のトレーニング暴力、拷問でほぼ空だ。

この山場を越えるには…どうすれば。



  ◇



そのころ、暗闇が降り注ぐ街で。

色とりどりのトタン家は、すべて黒色に染まった街。

そこでは珍しい金目で、絶対零度を思わせる表情の男と、地面にへたり込む貧相な2人組の男がいた。


一方は直立不動、冷徹な眼差しで見下ろし、もう片方は恐怖で足がガクガクと震え、諦めか、若しくは言い訳をつこうとしているのだろうか、口が半開きになっている。


「お前ら…このブツ魔道具はどこで手に入れた。」

「い…いえ!滅相もありません!それはただ…落ちてたんですよ!」

「フン。そもそも魔法を扱えない人間は魔道具を所持すること自体が犯罪だ。

それすら知らないのか。」

「は…はあ。では…どうしろと?」

「死ね。社会の爪弾き物が二人。牢に入れる分が無駄だ。」


そう言ったが最後、彼らは夜の明かりにされた。


この男は、魔道第2課の1人、斎炎 焼佳さいえんしょうか

彼は若くしてこの課のナンバー3を任される優秀な人物であり、徹底的に悪人を裁いてきた。

彼らの仕事は中部地方の警護、観察。それに、魔法を使うか否かにかかわらず、罪人を扱う仕事が政府から与えられている。


夜に燃え盛る明かりに引き付けられた人間が彼の周りに集まる。しかし、彼の勲章と表情を見たとたんに大半の人物は蜘蛛の子を散らすように去っていった。

しかし、ある少年―――ボロボロで今にも砕け散りそうな子供だけが、斎炎に向かい歩いてきた。その手には、血濡れのナイフが握られていた。

「おい、そこの奴。これ以上は近づくな。」

どうせ親が殺された子供なのだろう。と思い込み、斎炎は冷徹に反応した。

しかし、少年の足取りは早くなる。

「チっ。どうなっても知らんぞ。」

そういって、斎炎は自身の魔法である「炎」を矢のような形にして、その少年の脇腹向けて放つ。

「ッ………!」

だが少年は脇腹を貫かれながらも、ひたすら斎炎に向かい、走る。

「なっ!?」

そして、困惑の隙を突かれて抱きつかれて、少年はこう言う。


「助けてください!助けてください!お願いします!お願いします―――」

「あのなあ。何言ってるんだ。俺には無理だ―――」

はもう嫌!お願い!あなただけが頼りです!」

「(まさか………)…あーあー。俺の言う事、聞こえないのか?」

涙でぐじゅぐじゅに濡れた少年を引き離そうとする斎炎。だが、


「はぁ…はぁ…おお。暁の魔導士ではないか。その少年をこちらへ。」

研究所からの追手が追い付く。

「そう言う貴様は生憎知らんのでな。この少年がどうかしたのか?」

「いえ…もう少しトレーニングが足りないんでね。補習させに来たのだよ。」

冴島と名乗る研究服に身を包んだ男は、ゆっくりと斎炎に近寄る。

「いや…いや…助けて―――」

そう大粒の涙を流して気絶するその時まで懇願してくる名も知らない少年と、その子の血で染まった自身の両手を見て、斎炎は何を思ったのか。この子の保護を決断することにした。


「…あーあ。これが言ってきた俺への罰か。いいよ。お前の道。見せてもらうぞ。」

「おやおや。貴方とあろう御方が反逆、ですか。」

「いいや、普段のように執行するだけだ。」

そう頭を搔きながら隠すように答える斎炎。

「貴方らしくないなぁ。ま、私も普段通り処分やりますか。」


冴島はそう言い、先ほどまでの穏やかな表情を一変、捕食者の容貌で斎炎との距離を詰める。露出した手から、黄色と黒色の毛、それに爪が現れた。

冴島の操る魔法は身体強化系のチーター。数秒だけなら最速といわれる動物。

この狭い場所では圧倒的な有利となる…はずだった。


「下らん。」

そう言い、いつも通りの冷徹な声で斎炎は少年を肩に担ぎながら詠唱を行う。


「暁。」 

「沈む大炎だいえん。」

「明ける大日たいじつ。」

「ひゃぁっ!!」

詠唱の途中を突き、冴島が襲うも、斎炎は難なく躱し、その際に蹴りを入れた。


「ガッ!?」

「フン。遅いな。黎明の狼煙アケルナル」。


そう唱えると、高層ビルほどはあろうかという炎の柱が上がる。

振り向いて再度走り出した冴島はスピードを緩めることもできず、火の中に消えた。


「あーあ。こればれたら大変だな。」

冴島の死を確認した斎炎は、少年を抱えながら闇に消えた。

とあるで保護するために。


この世の地獄しか知らない子に夜明けを見させてやるために。









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