おとなり
戸賀瀬羊
「おとなり」
小学2年生の時、おとなりの家の子が急に転校した。幼稚園からずっと一緒で、昨日も放課後「また明日ね」って言ったのに、意味が分からなかった。
その後おとなりは、誰かが来ても数ヶ月で居なくなった。親に「次は誰が来るんだろうね」と聞いてもぼんやり返事をされるだけだし、周りの大人に話しても、不思議な顔をされるので、言わないようにした。
5年生になって、そこは公園になった。ブランコだけの公園だった。他の公園と違って、不思議なことに昼間はなんだか近寄りがたくて、でも夜は吸い寄せられる所だった。
6年生になって、深夜そこに人がぽつぽつ集まるようになった。表情も服もわからないけれど、夜、部屋の窓から黒いぼんやりとした人影を見てる内、自分も混ざりたくなって家を抜け出したくなった。
そわそわしたけれど、親が心配するから中学生になったら混ざろうと決めた。わくわくした。
ちょうどその時、学校では逆に公園の噂が広がっていた。その内容が、ブランコが誰もいないのに動いてたとか、誰もいないのに話し声がするとか、犬が目の前を通ると怯えるとか、なぜか行こうとしても辿り着けないとか、あり得ないものばかり。
好きなものを否定されるのが嫌なわりに、反論する勇気も出なくて、だんだん学校を休みがちになっていった。
そろそろ卒業という頃になって、母と休みが被った日、だらだら話してる時に聞いてみた。
「そういえば昔隣に同級生住んでたよね?」
「あんたまだそんなこと言ってんの?」
「まだ?まだって、何?」
「いつまで冗談言ってんの。あそこはあんたが生まれる前からずっと寂れてるじゃない」
言われて、変な汗をかいて、思い出した。
私以外にその子と話しをしている子がいなかったこと。授業の間はずっと保健室に居ると言っていたけれど、いくらクラスが多いと言っても、誰もその子の名前を知らないこと。そしてあれだけ会っていたのに、その子の顔も名前も、覚えていないこと。
慌てて2階に上がり、震える手で、自室のカーテンを開ける。
そこには、寂れて草も育たない公園があった。
ブランコがあるにはあるけれど、何十年も前のものに見える。錆びついて、もう前後にすら機能していないもの。
ところがもう一度瞬きをすると、綺麗な物に戻る。
瞬きの度、景色が入れ替わる。頭がぐるぐるする。
やがて右と左で違う景色か゛見えて、景色が重なって……もう、何も、分からない
遠くで悲鳴がしたと思ったら、背中から引っ張られ、どんと鈍い音と背中の痛さに目が覚めた。
気づいたら窓の外に上半身を乗り出していた、らしい。「もうそんなことしないで」と泣く母にそう言われた。
綺麗な公園もそこに集まる人影も、その時から、もう二度と見られない。
おとなり 戸賀瀬羊 @togase
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