第35話 イカロスの探求者
「ベルくん! ベルくん!」
ローの声にベルに何かあったのかと思い、ルフはそちらに駆け寄る。すると、口の端から赤い血を流し、眠るように横たわるベルの姿があった。
「ソフィア! ベルが! 早く治療を!」
「……ルフちゃん。これはね、私でも治せない。死を覆すことはできない」
ソフィアは首を振って治せないと伝える。ルフはそんなわけないと信じたかった。ベルの柔らかい手を握った。だんだんと奪われていく熱。動かない身体。死だと脳が察するとルフの瞳から大粒の涙が流れてくる。
「ベル……?」
ルフの声に返事はない。駆け付けたアランもベルの死を察して帽子を深く被る。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
ルフの哀哭が響き渡る。太陽を見たいと言った幼馴染の約束は果たされることはなかった。無念の亡霊がルフの背後にへばりついて離れない。暫くの間、悲しみが世界を支配したのであった。
それから、一日が過ぎた頃だろうか。ルフはベルから離れようとしなかったので、皆でベルの葬儀をした。ランタンに火を灯し、ベルに捧げる鎮魂歌を奏でて終わった頃。ルフはアランの元に訪れていた。
「アラン。一緒の地上に行きたい」
「いいが、大丈夫なのか?」
「うん、もう決めた。俺、ベルと一緒に眠るよ。ベルが見れなかった太陽を見て、空にいるベルに話してあげるんだ」
「……そうか。ソフィア達にも伝えよう」
ルフとアランはソフィア達がいる所へと向かった。ソフィア達は近づいてきたのに、気付いたようでそちらを向く。
「どうしたの?」
「今からルフと地上に出るが、ソフィアとローはどうする」
「私はベルちゃんとの約束があるから、地上には行かないよ」
「ソフィアくんが行かないなら、ぼくがソフィアくんを守らなきゃだから行かない」
その答えを聞いてルフは、寂しそうにしながらもローに紫色のナイフを授ける。
「ソフィア、ロー今までありがとう。これからも生きてくれ。ローは立派な戦士になるんだぞ」
「勿論! 貴方達がびっくりするぐらい長生きしちゃうから」
「うん、ぼくルフくんやアランくん、ベルくんみたいにみんなを守れる存在になるよ!」
最後の別れだというように三人は抱きしめ合って別れを惜しむ。太陽を見なくても、これまでの旅は輝かしいものだった。どうか、願うならば自分やベルを忘れないで欲しいとルフは強く願い、名残惜しそうに二人から離れた。
「アランちゃんはまただね。帰ってこなかったら、殴るからね!」
「分かっている。ルフ行こう」
ソフィアに脅されても相変わらず無表情に近いアランに、変わらないなと思いつつベルの遺体をルフは背負った。
「いってきます」
泣きそうな顔で手を振る二人に手を振り返して、ルフとアランはエレベーターへと向かって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます