家族会議

yasunariosamu

第1話 彼

彼を讃える歌が流れ始める。

私は、この歌が大好きだ。この覚えやすいメロディーラインは、完璧なハーモニーだと思う。宇宙と調和しているといってもよい。歌が終われば、彼の業績がわかりやすく語られる。なぜ、彼は、我が身を犠牲にしたこれらの英雄的な行為ができたのだろう。本当に信じられない。


「また、見るの?」上の姉が後ろでめんどくさそうに言う。彼の魅力がわからないなんて、ほんとかわいそうだと思う。いや、私が持っている彼の業績を記した本は、元は姉のものだったと聞いている。ボロボロになったそれは、かつては姉も彼の魅力に虜になったことがあるに違いない。姉の伴奏で、一緒に歌ったのは、そんなに前じゃない。今は、少し休んでいるだけだろう。


「もう二回目よね。流石に、いい加減にしないと。」母が言う。初めは一緒に見てくれた母も、二回目になるといなくなってしまった。何回見てもいいものはいいのでしょう。大きなお世話だ。


「そろそろ風呂に入りましょう。」二番目の姉が言う。姉をお風呂に入れるのは私の重要な仕事でもある。私は渋々、彼を見ることを諦めることにした。


『愛と勇気』だけを友達とする彼の孤独を私以外の誰が理解しているだろう。私に、彼の隣に立って彼を癒せる日が来るのだろうか?彼に会ったときは、それを伝えないといけない!そんな使命感に溢れてくる。そんなことを考えながら、姉に抱っこされて風呂に向かった。


その後の会議で決まったことは、テレビを見るのは一日一時間までと言うことだ。

なんて横暴な。

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