生贄志望のうさぎ王女は孤高(※嘘)の金狼陛下に美味しく食べられたい!
桜香えるる
プロローグ
ここはオオカミ獣人たちの暮らす大国・ウルファイン帝国の皇城。
歴史と伝統を誇るその白亜の城の薔薇園に設えられたガゼボでは、今日も四人の麗しき貴人たちが優雅にお茶会を開いていた。
「ねえ、ルルーリア。今日はどんなお菓子を持ってきてくれたんだ?」
瞳をキラキラと輝かせてそう問いかけるのは、帝国の第二皇弟・ソール殿下。
まだまだ悪戯盛りの御年六歳の少年は、ツンケンした言動を取ることも多いが、誰よりも私のお菓子を待ち望んでくれている可愛い弟分である。
「わたしにも少し分けてください。あなたのお菓子は、美味しい上に実に分析しがいがありますからね」
銀縁メガネをキラリと光らせながら手を伸ばしてくるのは、帝国の第一皇弟・ラザルス殿下。
研究者気質で気難しいところもある彼は人嫌いとして知られ、実際につい先日までは私も毛嫌いされていたはずなのだけれど……今ではどういうわけだか、可愛いワンコのようにすっかりと懐かれてしまっていた。
「る、ルルーリア。よ、良ければ、それを俺に手ずから食べさせてはくれないだろうか? あ、いや、ううっ、あー……」
そして自分で言ったくせに自分の言動に恥じらって顔を赤くしているのは、恐れ多くもこの帝国を統べる皇帝・フェイダン陛下。
二人の皇弟が敬愛する兄であり、対外的には国民たちから大きな憧憬と畏怖を抱かれる賢君だ。
……今の姿からは、あまり想像がつかないかもしれないけれど。
――と、その時。
「……っ、あ……!」
突然吹いてきた突風に私が被っていたつばの広い帽子が巻き上げられ、手を伸ばしても届かない高さへと飛んでいってしまう。
「僕が取りに行ってくる!」
そう叫ぶやいなや、何の躊躇もなく駆け出していったのはソール殿下。
「急に風が冷たくなりましたね。城内に入るまで、これで少しでもしのげれば良いのですが」
自らが肩にかけていたショールを脱ぎ、私の膝元にそっとかけてくれたのはラザルス殿下。
「体を冷やしたらいけない。これも羽織っておいてくれ!」
そう言って、自らが身につけていた豪奢な上着を優しく着せかけてくれたのはフェイダン陛下。
すぐにぱたぱたと駆け戻ってきて私に帽子を手渡してくれたソール殿下を含め、傍目には期せずして三人の高貴なる美男子を侍らせているような格好になってしまった私は――。
(……うん、どうしてこうなったのだったかしら?)
――少し遠い目になりながら、自らが置かれた状況を客観的に振り返ってみようとする。
そもそも私、この国には死ぬために来たつもりだったのだけれど。
そして私は麗しの猛獣たちとは対極に位置する、しがない一匹のウサギにすぎなかったはずなのだけれど。
(それが一体どうして、今ではまるでこの手で
――これは、生きることに後ろ向きだったウサギのお姫様が
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