真夏の訪問者
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第1話
『真夏の訪問者』
~ルーナの森~
<目次>
第一章 憂鬱
第二章 養子話
第三章 疑惑
第四章 継母の愛情
第五章 保護のお礼
第六章 お盆
第七章 競争心
第八章 団欒
第九章 実家
第十章 瞼の母
第十一章 星屑の町
<登場人物>
・高木洋一
高校二年生。再婚した父が死亡後は継母の夏江に育てられる。
勉強嫌いで部活もしない。恋人やガールフレンドもなく、男友達もいない。無趣味の帰宅部。ただ、年が一番近い叔母の雪子に淡い気持ちを抱いていた。彼女には「お姉さんと呼びなさい」と言われるほど可愛がられていた。夏休みに入り、迷子の『真夏の訪問者』を契機に、退屈で平凡な生活が一変する。瞬く間に童貞を失い、一週間の間に六人の年上の女性と肉体関係を結ぶ。その果てには、生みの実母とも禁断の関係ができてしまう。ついに彼は出奔を決意し、星屑の町へと消えていく。
・高木夏江
洋一の継母(36歳)明るい性格の肝っ玉母さん。
豊満な肉体の熟女(松下家の長女)。パートをしながら三人の異母兄弟を差別することなく育てる。洋一の成長する若い肉体を見るにつれ、忘れていた女の性が芽生える。その愛欲の暴走列車に自ら乗ってしまう。ついには相思相愛の男女の関係になり、精神的にも肉体的にも激しく愛し合う。
・佐谷千恵子
松下家の二女(32歳)東京・阿佐ヶ谷の建設会社の社長夫人。
お金持ちの色白の美人だが、姉に似て肉体派。お盆で習志野市の鷺沼にある実家に帰省中に、隣町の袖ケ浦で一人留守番をしている甥の洋一を訪ねる。男にモテル自負心から、成長した洋一を巧みに誘導していく。少年が世間に疎いとみて、屁理屈で誘惑して男女の関係を結ぶ。
・松下雪子
松下家の三女(26歳)東京の時計会社に勤務する。
勝気な性格、洋一を弟のように可愛がってきた。見た目は女学生のように可愛い。色白の瓜実顔の絹肌の持ち主。姉二人と体形は異なるが、その二人には女としてのライバル心を燃やす。彼女は、継母と洋一の関係には気づいていないが、二女の千恵子のお盆の行動には不審を抱き、洋一のことを心配する。その真相を突き詰めるため、洋一を訪ねるが、ライバル心と勝気な性格から、洋一を独占するために肉体関係を結ぶ。
・松下幸恵
夫が亡くなってからは松下家の家長となっている洋一の義理の祖母(58歳)。
小太りで肉付きが良い体形。三女の雪子と暮らしている。隣町に住んでいる長女の三人の孫達を可愛がっている。この夏休みも洋一を除き、二人の孫たちが泊りがけで祖母の幸恵の家にやって来る。
他方、実家の跡取り候補として、血の繋がらない孫の洋一を養子にする考えを持っている。ふとしたことで、夏江と洋一との禁断の関係を知ってしまう。しかし、叱ることも咎めることもなく、自分自身もその孫と激しく久々の性交を楽しむ。
・高木菜七子
洋一の実母。小柄で痩せ型の美人(37歳)。東京の下町のマンションに一人住まい。
離婚後は独身を通し、これまで洋一とは一度も会っていない。しかし、実子の洋一が突然訪ねて来る。涙の再会の直後は母親として振舞うも、その日には洋一の甘えに、禁断の道に陥ってしまう。二人は傷つき後悔をするとともに、共に暮らすという親子の道もあきらめる。
遠い長野県の地に出奔し、一人で生き抜くと言う我が息子を送るが、いずれは老いた母の元に戻れと説く。
・石田久美
洋一が保護した幼子の若い母。同じ団地に住むが、棟が違う近所の主婦。
小柄で痩せているが、少女のような快活さと、ドライな性格を持ち合わせた現代的な気質がある。喜怒哀楽の感情も激しいが、憎めない面もある可愛い女性。
はじめに
この世の恋愛は、千差万別で多種多様な実態がある。
その中で、人々の多くは清らかな『純愛』を範とする風潮がある。
一方、多様な人種の中で隔たりのない自由な男女の出会い、あるいは同性のカップルの存在など、まさに現代では奔放な恋愛の空間が世界に広がっている。その中で避けてはいけないのが、資産の多寡、身分や階級、皇族か一般人などによって、自由な恋愛を否定してしまう差別的な人権問題である。特に、高齢者や障害者などの恋愛については、否定的で隠蔽体質が今も継続している。
従って、我が国では、世界的な自由恋愛の潮流にも拘わらず、実質的に自由恋愛を否定するとともに、それらを社会的かつ意図的に埋没させ、あるいは隠蔽させてしまうことが多い。こうした伝統的かつ保守的な思想概念が、本来の自由で平等であるべき恋愛概念を非道徳的かつ非人間的な扱いにしてしまう悪癖の社会的な構造がある。我が国の『恋愛概念』は、あまりにも硬直的のままで、真の自由恋愛を阻んでいる。この主張は、直近の話題にのぼるような性の開放や同一性婚だけを強調しているものではない。また、その逆の位置にある遠距離恋愛におけるプラトニックな愛などの、より精神的な恋愛も否定するものでもない。むしろ、こうした心の繋がりの美しさを、より大切にする『愛』そのものを恋愛の礎に置いている。
我が国の恋愛観の些末な状況を打破するためには、月並みではあるが、学校(小学校、中学校、高等学校、大学)における『性教育』と『恋愛教育』の実践的な授業の拡充こそが必要なものと考えている。そして、それらのバックボーンには、学問としての『性学』や『恋愛学』の確立が不可欠にもなってくる。これらのWスタンダードによって、世の性犯罪防止にも貢献するものと期待される。
特に、未だに金銭で性を売買する行為などの犯罪が横行し、さらに女性の体を金銭で実質的に支配するような『めかけ』的な支配関係を隠れて行う男も多い。古くは世界的に、十六世紀以降の戦争(アメリカ軍、ドイツ軍、フランス軍等)で事実として存在した慰安婦(Military prostitutes)がある。軍属に対する売春業又は性奴隷や戦後に横行していた売春婦問題などがあった。こうした女性の人権を軽視した社会的な問題は今もその影を落としている。現行の教育委員会や文部科学省の施政も、こうした性犯罪の摘発と防止をする観点からも、上記に掲げた学問としての制度確立に前向きな姿勢へと転換されることを期待したい。
最後に、抽象的だが極論は『愛』が全てある。ただその愛には、時間、環境、空間などに大きな影響を受けて、儘ならない現実の壁もある。愛の中で、最も華麗で美しくも悲恋という悲しみや苦しみを有するのが『青春時代の恋愛』だと思う。
当小説は、年上の女性に誘惑されつつも、次第に愛するようになる少年の恋心に焦点を当てている。それも、家族や親戚といった身近な環境の中で、複数の熟女に翻弄される少年の思いの丈を綴っている。
特に『性愛』や『禁断の愛』に焦点を当ててはいるが、身近な近親者との恋愛模様や性問題を、一般的な先入観による嫌悪感のみで、それらを異文化として恋愛観の埒外に置かないでいただければ望外の喜びである。
第一章 憂鬱(ゆううつ)
高木洋一は高校二年生の十七歳。
彼が習志野市袖ケ浦にある賃貸の公団住宅に引っ越ししてきたのは、七年ほど前に父親が肺ガンで急死した後のことだった。
もう少し正確に言えば、父が亡くなり東京を離れた直後は、父の再婚相手である継母の夏江の実家である松下家に、一カ月ほど家族四人で居候をしていた。
その実家は同じ習志野市にあって、袖ケ浦とは隣町になる鷺沼にあった。
洋一の生みの母が父と離婚したのは、洋一が四歳頃のことで彼は実母の顔やその姿、声の記憶などがほとんどない。
離婚後は父に引き取られ、再婚相手の夏江に育てられた。
その後に妹と弟が生まれた。
従って洋一の家族は、継母と五歳年下の義妹、九歳離れた義弟の四人暮らし。未亡人となった夏江は三人の子供を養うため、今は団地内のスーパー・マーケットでパートとして働いている。
しかし、その家計は苦しく度々実家から仕送りを受けていた。
ただ、その松下家も家長であった夏江の父が病死した後は、名家として所有してきた不動産、株式、社債から派生する僅かな収入と、夏江の母である幸恵自身の預貯金で生計を立てている。
そのため現在は、それほど裕福な家計状態ではなかった。
夏江は松下家の長女で、まだ三十六歳の女盛りで妹が二人いる。
二女の千恵子は夏江の四歳年下だが、良縁に恵まれ東京・阿佐ヶ谷にある中堅の建設会社の社長夫人になり、子供も三人授かっている。
三女の雪子は、二十四歳で年の離れた末っ子。
東京の時計メーカーに働く独身。
彼女は、長姉の夏江の子供三人には、時々お菓子の差し入れやお小遣いをくれるなど、自分の子供のように可愛がってくれる。
明るく勝気なこの若い叔母は、貧しい甥っ子や姪っ子に慕われていた。
特に、洋一とは七歳違いの叔母であることから、彼女は叔母と呼ばせずに洋一には「お姉さんと呼びなさい」と、命じて弟のように可愛がってくれる。
洋一もこの明るく活発な雪子を姉のように慕うとともに、淡いほのぼのとした想いを抱いていた。
さて、十七歳となった洋一は夏休みに入ると、何故か元気がなく食欲もない日が続いていた。本人もその原因がどこにあるのか分からなかった。
ただ以前よりは、明らかに毎日が憂鬱だった。理由のない憂鬱ともいえた。
県立高校の成績はクラスで下位グループ。それでも本人は勉強嫌いなので、あまり気にはしていない。部活も当初柔道部に所属していたが、最初から練習にも身が入らず、柔道着が買えないこともあって、三カ月ほどで退部していた。従って今は帰宅部。
親友も友人もなく、ガールフレンドも恋人と呼べる異性もいなかった。
少し可愛いと思う異性はクラスメートにはいたが、恋心を抱くほどのこともなかった。それよりも若い叔母の雪子の笑顔にときめきを感じている。
ただ、もしもこの憂鬱に原因あるとすれば、夏休みに入った七月末にオートバイで交通事故を起こし、全身打撲の軽傷を負ってしまったことだろうか。
そのため、新聞配達のバイトを中断して収入がなくなった。
そのことから、原付バイクだったけれども、好きなオートバイに乗って走り回ることもできなくなった。
確かに突然のアクシデントではあったが、それほど深刻に落ち込むほどのことでもなかった。
ただ、真夏の暑い中一日中家に籠っていることが、ストレスと言えばストレスになる。
特に、高木家には一台もエアコンが設置されていない。一台あった扇風機も故障中。うだるような暑さとムシムシする湿気に毎日息苦しさを感じている。
しかし、それとて毎年のことであって、思い悩むほどのことでもない。
要するに何もする事のない退屈な毎日をすごしているのだ。
第二章 養子話
洋一の父が夏江と再婚したとき、夏江の実家の松下家には、女系家族で跡取りの男子がいなかった。そのため、二人が結婚した際には、いずれ洋一の父が松下家の婿養子になることが、口約束ではあったが両家の間に成立していた。
ただ、その父が急死したことと、その直後に夏江の父も後を追うように病死したため、その養子話しは立ち切れていた。
養子話の途絶を心配した松下家では、慌てて血のつながりのない高木家の長男の洋一を養子にしようとする話が急浮上していた。
二女の夫は代々の建設会社を継いでおり、養子話は当初から否定していた。
一方、三女の雪子はもともとドライな性格で、自由恋愛を主張し婿養子は嫌だと、公言していたことも影響していた。
その結果、当時は洋一の異母弟も生まれておらず、松下家とは血が繋がってはいなかったが、洋一に松下家への養子縁組の話が浮上していた。
だが、父と松下家の祖父が相次いで死亡したその翌年に、忘れ形見のように夏江に男の子が誕生した。
そのため今では、松下家では夏江の長男である洋一の異母弟を養子にすることで話が纏まりつつあった。
当時、夏江は大切な人を相次いで失った悲しみで、冷静さを失っていたのか、自分の妊娠にもすぐには気づかなかった。
また、お腹の子が男子とは限らないこともあり、口を閉ざしたまま、洋一の養子話には否定的な意見を言わなかった。
ここで戸籍上の法律を少し整理すると、今の高木家には戸籍上二人の長男が二人いる。一人は洋一、もう一人は異母弟。
但し、戸籍上には血の繋がった母体を基本として、長男、次男などが明記されている。
従って、洋一は父の前妻の血を引く長男であり、異母弟は夏江の血を引く長男として、高木家の戸籍簿にはそれぞれ記されている。
その結果、高木家には、二人の長男が戸籍上に存在している。
このように松下家の養子話をベースに考えると、今の高木家と松下家にあっては、前妻の子で松下家と血の繋がりのない洋一は、浮いてしまった存在になっていた。
もしかすると、今の洋一の憂鬱は昔の自分の松下家への養子縁組の話が、今となって心の傷になっている可能性もある。父が急死しその後に異母弟が誕生した以降、洋一の心の闇には、この養子話が暗い陰を落とし続けていたのかもしれなかった。
ただ、十七歳の夏を迎えた洋一の胸には、高木家の家族の一員として何の違和感も持っていない。
継母の夏江から、これまで継子(ままこ)虐めや、異母妹や異母弟との差別を受けたことは一度もなかった。
むしろ肝っ玉母さんのように、口やかましく大声を張り上げて叱る時もあれば、気落ちしている時には、やさしく励ましの言葉をかけてくれる。
こうした夏江の分け隔たりのない母性愛があって、高木家は母子家庭にあっても明るく温かな家族といえた。
洋一は何のわだかまりもなく、一般的な家庭に見られるような、愛の絆で結ばれている。
第三章 疑惑
八月中旬の金曜日。
その日は朝から一度も風が吹かない特に蒸し暑い日だった。
異母妹と異母弟の二人は、鷺沼の祖母の家にしばらくの間お泊りに出かけた。
洋一は、オートバイの事故で新聞配達のアルバイトを辞め、打撲傷もあって夏休みはほとんど毎日自宅で暇を持て余していた。
いつもように、母の夏江は朝から団地内のスーパー・マーケットに出勤し、午後四時半を過ぎないと自宅には戻らない。
ここの団地の多くは3DK。
団地サイズなので四畳半でも実質的には四畳以下の狭さだ。
夏江と洋一はそれぞれ一部屋あるが、机や本棚を置くと布団を敷くのが精いっぱい。
妹弟の二人は、一部屋に二段ベッドを置いて二人で寝起きしている。
この集合住宅は、かなり大規模な公団の賃貸団地。
当初からエレベーターもなければ、オートロック・システムも整備されていない旧式の建物。団地内には賃貸の他、買い取り式のマンションも併設されているが、建物の構造はほぼ同じものであった。
さらに、洋一の高木家にはエアコンもない。
ただ四階だったので、風さえあれば南北の両窓を開けると、遠い東京湾からの涼風がたまに通り過ぎる。
特に中央に位置するダイニング・ルームは最も風通しがいい。
このところ洋一は、ダイニングの床に寝そべってうちわを揺らしている。
スマホは持っているが、友達もいないので交信はしていない。
もっぱら家族や親戚との交信で利用する程度だった。
今日も一人で昼ごはんのカップラーメンを食べ終わると、いくらか温度が低いダイニングの床に再び寝ころぶ。
迷子
すると、階下にある共同の裏庭からあたりから幼子の泣き声が聞こえてきた。この暑さの中を泣きながら走っているようだ。
尋常でない大きな泣き声に驚いて、ベランダに急ぎ走り下の庭を覗き込んだ。
そこには男の幼児が大声で泣きながら走っていた。
その前後には全く人影がなかった。
エレベーターのないこの団地の階段を降りて、裏庭に廻り幼児の保護に駆け込むのも面倒だった。この芝生の庭には団地の住人以外は先ず立ち寄らない。
まして、あの大きな泣き声なら、住人の誰かが心配していずれ出てくると高を括る。
その内に、遠くに走り去ったのか泣き声が止んだ。
再び寝ころんでうちわを忙しく扇いだ。
そのうちに眠気に誘われて一瞬うたた寝をしてしまった。
すると、再び幼児の泣き声が飛び込んできた。
目を覚ますと、もう一度ベランダに駆け込んだ。
やはり先程の幼児が泣きながら懸命に走っている。
やはり保護しに行くべきかと考えているうちに、幼児の姿が視界から消えて行った。
(まあいいか。放っておくことにしよう)
再び寝ころんだ。
今度は十五分ほど寝入ったようだ。
だが、三度目の幼児の泣き声がけたたましく聞こえて来た。
どうも今度の泣き声は階下の庭ではなく、四階当たりの階段の踊り場から聞こえてくる。もしかしたら隣のお宅と洋一の家の共用の踊り場あたりではないか。そう察すると、急いで玄関のドアを開けてその先にある共用の踊り場に飛び出した。
案の定、幼児が一人突っ立っていた。
瞼に手を当てて泣いている。幼い真夏の訪問者である。
その小さな訪問者に声をかける。
「どうしたの?迷子かな」
男の子は洋一を見上げながらベソをかき続ける。
グッシュン、グッシュンと鼻水も垂らしながら「ママあ~、ママあ~」と、目に可愛い手をあてて泣いている。
「ママがいないの・・・どうしたの、ママはどこかな?」
洋一はどうやら母親と、はぐれたらしいと判断した。
「それじゃ、お兄さんが家まで送ってあげるから、お家を探そうね」
「うん」とコックリをした。
洋一はいじらしさを感じた。
自宅の鍵を閉めると、短パンとランニング姿のまま男の子を抱きかかえて階段を下った。
まだ交通事故の後遺症で力を入れると手足の筋肉が痛んだ。だが幸いに子供は軽い。
一階に出ると、先ず自分の住む棟の各出入り口を幼児に確認させようと思った。
公団の各棟はすべて同じ構造で、大人でも棟を間違えてしまうことがある。
ただ出入り口の状態は、千差万別で各々特徴がある。自転車、乳母車、三輪車、植木鉢なども色々置かれているが、全く同じ造作のものはない。似たような風景だが、実際にはそれぞれ特徴があり、色自体も違っている。果たしてその違いが幼児にはわかるのだろうか。男の子を抱きながら、各出入り口を歩きながら確認して歩く。
「坊や、ここかな?」と聞くが、子供は首を横に振るばかり。
やがて自分の住む棟のチエックを終えると、次は両隣の棟へのチエックを開始した。
幼子を抱いて一時間ばかりその作業を繰り返した。
若いとは言え、次第に打撲傷の腕が疲れて痺れてきた。
各階段下の出入り口に立って「ここかなお家は?」と聞くが、答えは「ワカンナイ」か、首を横に振るだけだった。
何とか名前は聞き出したものの、名字や部屋の番号も判らない。
「何階なの?」と聞いても答えはなかった。もしかしたら、この子は夏休みでこの団地に遊びに来ているだけなのかもしれない、と思い始めた。
二歳前後の子供がどの程度、自宅についての認識があるものなのか、洋一にはそれすら知る由もなかった。
やがて洋一は決心した。交番に迷子として届けよう。
団地の近くの千葉街道沿いには常駐の交番がある。
彼は、幼子を抱きかかえて交番に向かって歩き出した。
誘拐
千葉街道に出るには、団地の中央にある商店街を通る。
その商店街には継母の夏江が勤めるスーパー・マーケットもある。
洋一は人通りも多い商店街の横にある団地の主要道を、幼子を抱きかかえながら歩いていた。洋一も子供も汗だくだった。
その時、商店街の方向から若い女性が飛び出して来た。
血相を変えて走ってくる。
「そらちゃん~」大声を上げながら、二人の方向に全速力で走ってくる。
手にはスマホを持っている。
そして、そのスマホは走りながら耳に傾けてもいた。
誰かに架電中のようだ。
洋一と幼児の前に駆け寄ると、我が子を洋一の腕からひったくるように取り戻し、自分の腕に我が子を抱きかかえるのであった。
「大丈夫!そらちゃん!? よかった~」
洋一には一瞥(いちべつ)することもなく、そのスマホに出ている。
そしてすぐに、電話中の相手に「無事です。今、息子は戻りました。はっはい。今私が抱きかかえています。そうです。若い男の子が抱きかかえて歩いていたのです~」
母親らしき若い女は、洋一に子供の保護に対する礼も言わずに、命令調で洋一に「電話に出て頂戴!」と、彼女のスマホを手渡す。
失礼な女性だと思ったが、仕方なく彼女のスマホを手にした。
電話の相手は警察だった。千葉街道にある交番の巡査。
団地のまわりを泣きながら何度も走り回っているので、一緒に自宅を探してあげたが、結局、分からないので交番に連れいくところだった、と説明した。
すると巡査は「詳しく状況を聞きたいから、交番に寄ってくれないか」と告げる。
洋一はスマホを女性に返すと、素直に巡査の指示に従い交番に向かった。
幼児は笑顔を向けて「バイバイ~」と手を振っていた。
しかし、母親はニコリともせず、怪訝そうな顔をして子供を抱いて立ち去った。
迷子の子を保護したのに、何のお礼も言わない母親に腹が立った。
おそらくあの母親は、自分のことを誘拐犯だと疑っているような気がした。
ともあれ洋一は交番に出向いて、細かな状況を説明した。
警察は疑ってはいない様子だったが、氏名、年齢、住所、電話番号や学校名や家族構成までも聞かれた。
善行を施したつりだったが、犯人扱いされたような気がした。
気分を害したうえに疲労もあって、首をうなだれて自分の棟の前に辿り着いた。
短パンの後ろポケットからスマホを取り出した。
時刻を確認すると、もう午後四時半をまわっていた。
母の夏江からの電話とメールの着信があった。
それらを確認すると、よけいに気が重くなった。
フラフラしながら、四階まで重い足取りで階段を登った。
そして、静かに鍵を開けて玄関に足を踏み入れた。
入ると夏江の履物が玄関にある。彼女はすでにパートから帰宅していた。
なぐさめ
忍んで入ったつもりだったが、すぐに夏江がダイニングから小走りで玄関に出てきた。
いきなり大きな声を張り上げて「一体今までどこに行っていたのよ!!」と怒鳴られた。
「何度も電話しても出ないし、心配していたのだから!」
怒りと心配の混じった顔つきで洋一を睨んだ。
「ああ、ごめん・・・」と、不機嫌な声で口を開いた。
実際に長時間の間、幼児を抱きかかえ、その上、若い母親と警察官に疑惑の態度をされたことで心身共に疲れ切っていた。
「一体どうしたのよ、何かあったのかい?」
すぐにはそれに応えず、立ち塞ぐ夏江の横をすり抜けてダイニングに速足で向かった。
そして、すぐに台所の水道の蛇口に顔を寄せて、水をガブガブと勢いよく飲み干した。
手で顔に飛びついた水を拭うと、ヘタヘタと椅子に倒れるように座り込んだ。その様子を夏江が心配そうに見つめていた。
しばらく二人は無言のままだった。
夏江は立ったまま、洋一の陰のある後ろ姿をじっと見つめて、彼が落ち着くのを待った。
五分ほど沈黙の時がすぎた。
そして口火を切ったのは夏江だった。
「洋一、ねえ洋一聞いて頂戴。今日はお母さんにとって特別の日だったのよ。長い間この日を待っていたの。子供達がおばあちゃんの家にお泊りに行って、ようやく洋一と二人だけの時間ができたの。これは初めてのことなのよ。これまで私たちは親子なのに、じっくりと話し合うことができなかったでしょう。・・・お父さんと結婚して、お前の妹や弟が生まれた。そうしたらお父さんやお爺ちゃんまでもが急死して、お前とゆっくりと話をする機会が一度もなかった。とても二人だけですごす時間なんて、なかったでしょう」
続けて言う。
「それが、今日ようやく実現できたの。初めてお前の気持ちを聞けることを、どんなに楽しみにしていたことか。パートからすっ飛んで帰ってきたら、お前はいなくて留守じゃないの。すぐに洋一のスマホに連絡を入れたけど、全然出ないじゃないの。何度もコールしたのよ」と言うと、もう泣き声になっていた。
一呼吸おいて、再び「アルバイト先の新聞屋さんにも連絡したし、実家のおばあちゃんにも連絡したけど、来ていないと言われた。家出でもしたのかと、もう母さん心配で、心配で・・・」と言う。
すると堰を切ったように、立ったままで嗚咽を繰り返した。
その後は、しばらくの沈黙が続いた。
ようやく、洋一が静かに重い口を開いた。
夏江に背を向けたままボソボソと喋り出した。
「迷子の男の子がいたので、一緒にその子の家を探してあげていた・・・」
「どこにいたのその子?」
「階下の裏庭を泣きながら何回も走り回っていた。そのうち泣き声が止んだけど、しばらくすると、今度はうちの玄関の踊り場に登って来て、ワンワン泣いていた。それで家を探しに、隣近所の棟を抱っこしながら歩き回っていたわけ・・・」
「そうだったの。偉かったね。やさしいお前らしい。それでどうしたの?その子は幾つぐらいなの?」と言うと、夏江は洋一の座っている椅子の後ろに近づいてきた。
「二歳ぐらいだと思うけど、自分の名字も住所も判らないようだから、まだ二歳前かもしれない・・・。一時間以上も家を探ししたけど、埒(らち)が明かないので交番に連れて行くことにした」
「じゃあ、交番まで連れて行ったのね」
「違う。交番に行く途中でその子の母親に出会った。その人は交番に通報していたみたいで、ボクがその女の人の携帯電話に出るように頼まれた。電話に出たら交番に来てくれと言われ、いままで交番でお巡りさんに色々と聞かれていたわけ」
「まあ!そうだったの。それは大変だったこと。それでそのお母さんはどこの人だったの?」
「近所の棟だと思うけど、名前も住所も知らない。お礼だって言われなかったよ」と、口を尖らせた。
「ひどい女ね。子供を助けられたのにお礼も言わず、名前も名乗らないの・・・洋一は善行したのよ。自分の子供を助けてくれた恩人なのに!」
「それにあの母親は自分の子供が誘拐された、と思っているようだ」
「まあ何てひどいこと。洋一は悪くない。正しいことをしたのだから自信を持ちな。元気出しなよ・・・母さんが慰めてあげるから」
「ありがとう母さん」と言って、悲しみに歪む顔を後ろに立つ夏江に向けた。
すると夏江の両腕が伸びて洋一の顔をやさしく撫で始めた。
そしてその手は、髪も一緒に撫でまわしていた。
洋一もそのやさしい母の仕草に応えるように、髪にある夏江の手のひらを掴んで撫で返した。夏江の顔が洋一の髪に触れてきた。
「あら、すごい汗。髪の毛もビッショリ、それに汗臭いわね。すぐにお風呂に入りなさい!」
第四章 継母の愛情
母の励ましに気持ちが少し落ち着いた洋一は「ああ、そうだね。お風呂入ってくるよ」と言うと、すくっと、立ち上がり玄関の横にある風呂場に向かった。その右隣の奥がトイレと洗面所で、玄関の正面は妹と弟の部屋。
ダイニングの左右には和室が二つある。一つは母の部屋、もう一つは洋一の部屋になっている。二つの和室の南側には繋がったベランダがあり、二つの部屋はベランダからも行き来ができる。
いたわり
冷たいシャワーを全身に浴びた。ボディ・シャンプーを体と頭にも塗りたくって、手洗いで全身を洗い始めた。
すると静かに浴室のドアが開き、夏江が「入るわよ」と言って入ってきた。
「あら、もう洗っているの、早いのね。お母さんがシャンプーしてあげようと思っていたのに・・・」洋一の後ろに立って声をかけてくる。
「ああ・・・もう流すだけだから、すぐに出るから」と、せわしく手を動かした。
「待って頂戴、お母さんが体を洗ってあげるから」と、言って後ろから身を寄せてきた。手にボディ・シャンプーをたっぷりとのせると、息子の背中を手洗いで洗い始めた。
「自分でやるからいいよ」と、恥ずかしさもあって小さな声で言った。
しかし、母の手はその声を無視して、背中、尻、足を手で洗い続ける。
「今度は前よ、こっちを向いて頂戴!」命令調だった。
しかたなく体を反転して母の前に立った。
母は裸ではないかと想像していたが、やはりそうだった。
いつものむっちりした裸体がタオルを羽織ることもなく、そのグラマーな肉体美を誇るように遠慮なく立っている。
洋一は視点をどこにしたらよいのか分からず、顎を少し上にあげて風呂場の天井を見た。
すぐに母の手は、首筋、胸、腹と忙しく動かす。その手は遠慮なく、かつ間断なく動き続ける。
股間のものにもさらりと触れって、洗うのだった。
洋一の体が一瞬プルプルと震えた。母の手はそれを知りながらも、構わず太腿から足元へとどんどん手洗いの手を移動させていった。
「さあ、仕上げよ。流したらもう終わりだよ・・・風呂を出たらコーラが冷蔵庫にあるから、飲みながらダイニングで待っていてね。母さんも早く汗流して出るからね。今夜はゆっくりと二人だけの慰労会をやろうね。子供達もいない二人きりの夕べなんて、初めてのことだろう」
と、二人きりを強調して陽気に話しかける。
言い終わると、洋一の全身に冷たいシャワーを流した。
「洗ってくれてありがとう。僕初めて母さんに洗ってもらったね」と言った。先程までの憂鬱(ゆううつ)な気分が吹っ飛んで、爽快な気分になって風呂場を後にした。
風呂から出た洋一は、冷蔵庫からコーラを取り出しダイニングの椅子に座ってくつろいでいた。夏の夕日も沈みかけ、ベランダからそそぐ風は少し涼しさが出てきた。
いつものように、短パンを穿いて上半身は裸になってリラックスしていた。
今日一日の出来事が脳裏をかすめたが、いつもとは異なる継母のやさしさに洋一の心は和んでいた。
しばらくすると母がダイニングに戻ってきた。
服は着ていない。
風呂上がりの体にバスタオルを巻いて、笑みを浮かべて椅子に座った。
「ああ、さっぱりしたわ、やっぱり日本人は風呂が一番ね」と、ほほ笑む。
洋一は「今は風呂でなくて、シャワーだろう・・・」と言う。
「ハハハッハ」と夏江は笑った。
しばらくすると、彼女は少し真面目な顔つきを作って喋り始めた。
「実は母さんね、本当に今日の日を楽しみにしていたの。下の子供達がお婆さんの家にお泊りに行って、洋一と初めて二人きりの宵(よい)ができた。今夜はじっくり親子の話をしましょう」
「うん、いいよ。確かに母さんと二人だけで、話をしたことなかったものね」
「そうよ、初めてのこと」夏江の目が輝いていた。
それを見つめた洋一は、こんなに相好を崩して喋る母を初めて見た。二人には、新鮮な雰囲気が包まれていた。
それにしても今夜の母は綺麗だ。
いつもは美人だとは全く思わなかったが、今夜は瞳が輝き整った顔が美しい。これまで母に感じたことがなかった魅惑に吸い込まれていた。
「話を始めていいかい洋一?」
「いいよ」
「一つは高校卒業後のことよ。お前が勉強嫌いなのは知っているけど、昔と違って今は進学率も高い。だから洋一が進学したいなら、母さんは賛成する。家は貧しいけど、入学金なら何とかなるから、実家のおばあちゃんは資産家だし・・・すぐに答える必要はないけど、担任の先生に相談するなりして、自分の意志を固めて欲しいの。家庭や金銭のことは気にしなくていいのよ。母さんは洋一の本心を知りたいだけだからね」
「ありがとう母さん・・・今は全く進学なんて考えていないけど、マジに考えてから、結論を出しておくよ」と、いつになく真面目な顔つきで応えた。
ブレゼント
「そうね。いいわよ、じっくり考えなさい。・・・それからもう一つはね」
一呼吸おいてから喋り出す。
「プレゼントがあるのよ」
笑みを浮かべて、すくっと立ち上がった。
包装された紙包みを食器戸棚の上から取り出し、テーブルの上に置いた。
「ええっ、これプレゼント!!」
「そうよ、プレゼントなんて初めてだね。中学校の入学も高校入学も、誕生日さえプレゼントをあげることができなかった。小さい子供たちには、お菓子など安い物でも買ってあげたけど・・・お前には何もしてあげられなかった。これまで本当にゴメンナサイ」
「謝る必要なんてないさ。ボクはプレゼントなんて、いつも望んではなかったし、でも今夜は嬉しいよ、ありがとう母さん」
「気に入るかどうか、心配だけど開けてみて」洋一はすぐに包装を解いた。
それは、外国製のスポーツタイプの半袖Tシャツとオシャレな短パンだった。公式的にはスタンドカラー襟の半袖Tシャツと、それとセットになっているスエット・ショーツ。半袖はマリンブルー、ショーツはグレー色。勿論、外国メーカーのロゴが入っている。
「いつも夏は、ランニングと安物の短パン、外出は着古しのジーンズだもの。オシャレの一つもしたかったろうに・・・」と言って涙ぐんだ。
「うれしい母さんありがとう」
プレゼントの品物を手にした洋一も感激の涙をもらした
「ああ、そんなに嬉しいのかい。よかった、よかった・・・サイズはMでいいはずだけど、今すぐに着てみて頂戴」
洋一は立ち上がると、その場で着ている物を脱ぎ捨てて裸になった。
継母が見ているのも構わず、歓喜してプレゼントの新しい物に着替えるのだった。その姿を見と、夏江は先ほど風呂場で息子の体を、直に洗った手の温もりを想い出していた。
新しい夏向きのスポーツタイプの上下をまとった洋一は、嬉しそうに夏江に若い体を見せつける。
「サイズはピッタリねえ、よかった。よかったわ」彼女も喜んでいた。
その母の笑顔を見た瞬間、洋一は思わず彼女の前に小走りに近づき、あっという間に彼女の額にキスをした。
女性にフレンチキスでも口付けをしたのは初めてのこと。
それも自分でも分からないほど、咄嗟に出た自発的な一瞬の行為だった。
それでも、それは母親に対する子供の愛情表現のキスにすぎないもの。
さらに続けて、二回目のキスは両手を彼女の頬に添えて、再び額に少し長いフレンチキスをした。
二人は笑顔を浮かべて、初めて心を共にした喜びを味わった。
それから、しばらくしてから二人は夕食に入った。
夏江は薄いワンピースに着替えていた。
高木家では珍しく牛肉が焼かれていた。
ステーキにはなっていないが、二人の皿には五枚ほど焼いた小さな肉がコーンや野菜とともに盛られていた。おいしそうな匂いがテーブに漂う。
洋一が感嘆の声を上げた。
「すげえ~これ牛肉のステーキだ」
笑みを浮かべて、夏江が「ステーキではないけど、牛肉を焼いたものには違いないわね」と話す。同じ皿の横にはウィンナ・ソーセイジがベーコンに挟まれていた。
「こっちもうまそう、俺ベーコン大好きだ!」
若者の食欲は旺盛。洋一は珍しくごはんを三杯も食べた。
夏江はふだん飲まないが、今夜は赤ワインを一人で二杯ほど飲んでいた。
二人は今までにはなかった新鮮な気分で、灯された親子の絆(きずな)に穏やかなひと時をすごす。
「もう腹一杯だ~・・・もう食えねえ。母さんおいしかったよ!」
「そうかい、よかった。母さんも久しぶりに幸福な気分だよ。洋一が喜ぶのが一番うれしいよ」と言うと、残っていたグラスのワインをグイッと飲み干した。
肩揉み
二人の食事が終わると、洋一はそのままテレビでナイターの野球中継を見ていた。
夏江は、台所に立って食器を洗っていた。洗い終わると、すぐに自分の部屋に入っていった。
野球中継を見ながら洋一は、満腹と今日の一日の疲れが出たのか、椅子にもたれて眠ってしまった。三十分ほど熟睡したようだ。
母の甲高い声で目が覚めた。
「洋一!こっち来て頂戴!」と、母が部屋から呼んでいる。
起き抜けなので、ふらりとした足取りで夏江の部屋に入って行った。
そこにはバスタオルを上半身に巻いた裸身が背中を向けて座っていた。
大きな腰と臀部がバスタオルからはみ出しいる。
「母さん何の用事?」
寝ぼけまなこで洋一が言う。夏江が笑みを浮かべてこちらを振り向いた。
「肩揉んで頂戴!」ぶっきらぼうに言う。
「いいとも、今夜は親孝行しなくちゃね」と笑顔で答えた。
夏江の背中に近寄ると、シャボンと香水がまじわったいい匂いがした。
その匂いには女の柔肌の匂いもまじっていることを少年は知らない。
「シャワーをまた浴びたの?いい匂いがするね」
「そうかい。さっき酔いさましに、また冷たいシャワーを浴びたのよ、女の肌の匂いがするのだろう。もっとそばで匂いを嗅いでごらん」
洋一は言われるままに、夏江の襟足あたりに鼻を近づけた。
「本当だ~、いい匂い。いつもはこんな匂いはしないよね」
「女はねえ、特に生理が近づくと芳香するのよ、保健体育で習わなかったかい?」
「習わないと思うけど・・・」
「それにセックスもしたくなるのよ」
「へえ~そうだったの。全然習っていないよ、それじゃ肩揉むからね」
「お願いするわ」
洋一は父母の肩たたきを小さい頃からやっていた。
父が亡くなった後も、中学生までは夏江に肩叩きをしていた。
久しぶりの肩叩きだった。だが今夜は叩かずに、肩を揉んでくれと言われた。肩揉みは初めてのこと。
夏江は身長が一メートル七十センチ近くある。スポーツ選手のような筋肉質の肉体美。ただ着痩せするタイプなのか、洋一は、母が平均的な背丈で普通の体形だと思っていた。おそらく、いつも地味な服装だったことが、バランスの良い肉体美を隠していたようだ。
肩は本当に凝っていて肉が固まっていた。
洋一は指に強い力を込め、母の両肩を揉み解す。
彼は膝を折って座り、十五分ほど懸命に母の肩を揉み続けた。
すると夏江は「次は腰を揉んで」と言う。
バスタオルを胴と胸に巻いたまま、腹這いに寝ころび、自分の両腕に顔を伏せた。洋一は、どこに座って揉むのか分からなかった。
それを察したのか夏江の長い両脚が開いた。
指圧
「母さんの両脚の間に入って、膝をついてそこから揉むのよ」
「ああ、わかったよ」
母の両脚の間に体をおさめると、隠れていない腰と臀部が面前に山の如くそびえていた。
だが、それを支えるウエストはくびれ、臀部からつながる両脚の太腿の裏側もみごとな肉質。だが膝裏からの支肢は細くて長い。
ふくらはぎから踵までも美しく、まるで外国人のよう。
モデルのようなプロポーションの良さに息をのむ。
母の体がみごとなまでに、均整がとれていることを初めて目の当たりにした。
大きな桃尻の下方は見えにくい。
何やら神秘的な秘密の場所のようで、若い洋一には具体的なその姿・形が見た目にも、頭の中でも認識することができなかった。
ともあれ、初めて見る女体の裏側にある下半身のド迫力に、少年は思わず唾をゴクリと飲み込んだ。
そして一呼吸してから、両手で母の腰を揉み始めた。
しかし、腰の筋肉は固くて揉み上げるのが無難しかった。
「凝っているでしょう? 腰は親指を立てて強く押し込んで、腰骨と肉に圧力をかけるのよ、それを指圧と言うのよ」
「わかった」すぐにそれを実行した。
「ああ~気持ちいいわ、それ効くわよ。母さん一日中立ち仕事だから、肩よりも腰が一番つらいのよ」
「そうなの、指圧で揉み解してあげるからね」と、張り切り腰への指圧を懸命に続けた。
しばらくすると、次の指令が飛んだ。
「その次はお尻のあたりもやってね。そこはやさしく撫でるように揉んでマッサージね」
大平原のような迫力のある母の腰への指圧が終わると、最もボリューム感のある臀部に手のひらを広げて、肉を掴んでは揉み上げた。
それを両手で、同時に何度も繰り返した。
圧力をかけては、肉のすべてに指を使い柔らかく揉み上げた。
それにしても母の腰と臀部は肉厚で大きい。
そして、それに繋がる両脚は長く細く伸びている。
洋一は、その度迫力に感動さえ覚えるのだった。
「ああ~、気持ちがいいわよ。すごく効く。まるで魔法の指使いだね。上手だよ」
夏江は腰揉みの効果はあまり期待をしていなかった。
若い洋一に自分の肉体美を晒す下心があった。
だが予想以上に、洋一の手と指の動きがしなやかで力強い。
まるで官能のツボを心得ているように、上手に強弱を使いながら、女の肉がとろけるような揉み方をする。
「疲れたでしょう。そろそろ一休みするかい?」
正直疲れてはいなかった。ただ肩のように揉み易くはなかったが、腰揉みが慣れてきたところだったので「全然疲れていないよ」と答えた。
だが夏江はその返事に気を良くして、体のあちこちを揉ませたり、指圧させたりして、自分の体を少年に触れさせるのであった。
洋一は、その母の言葉がもつ誘惑の意味に気付かず、また、それらを行うことの恥ずかしさも忘れて、命じられるままに母の言葉に従う。初めて触れた熟女の肉体美が放つ刺激に、知らず知らずのうちに冷静な判断を失わせていった。
その夜、継母の巧みな誘惑の手順に沿って、洋一は何の疑問の余地もないままに甘美な世界に吸い込まれていった。
ついに、二人は自然の成り行きの様に結ばれた。
夏江は久々のセックスに喜びの声をあげる。
一方、洋一は何の抵抗もなく、女体の持つ魅力に引き込まれて初めてのセックスを経験した。
童貞を失ったと言うよりも、夫婦のように二人はお互いの体を貪り合って結ばれた、といえるほどの無意識で自然な愛の成行きだった。
共にしたその床の中で、洋一は自然に喜びと愛の囁きを告げる。
「母さん好きだよ・・・」と甘えるような声で言う。
「母さんなんて、色気ないわねえ、夏江と呼んでごらん」
「夏江さん好きだ・・・夏江!」と強く言う。
「私も洋一が大好き、愛している。もう私一人のものよ」力を入れて抱きしめ続ける。
第五章 保護のお礼
翌朝の土曜日は、前夜の母子の交歓が嘘のように、いつもの日常の生活が戻っていた。
ただ当事者二人の体内には、強い繋がりによる痺れるような快感が残っていた。しかし、それを忘れるように、敢えて意識的に平常心を保ちつつ、振り返るような言葉を避けていた。それ故に、返って無口にはなっていた。
それでも二人だけの朝は、いつもより新鮮で、二人は夫婦になったような錯覚に心の中では幸福感が漂っていた。
ご挨拶
夏江は昨夜の秘め事の事実を避けるように、洋一に敢えて声をかけることもなく、早々に家を出て行った。
その後ろ姿を見ていた洋一は、いつもの元気なかけ声もなく飛び出して行った夏江に、一抹の不安を覚える。
だが、これまでとは明らかに違う日々が、これから始まることに身と心が静かに燃えている。それは愛しさという恋心であった。
洋一は、昼の間は何もすることがない。昼前にはいつものように、うたた寝の時間に入っていた。今日も蒸し暑く、上半身は裸で下は短パンひとつですごすつもり。ダイニングの椅子に寄りかかり、テーブルの上に足を投げ出して寝入っていた。
高木家の玄関チャイムが鳴った。何時頃になったのであろうか。
四階までの長い階段を登ってくるセールスなどの関係者はほとんどいない。
大概は親戚か、小荷物の配達業者だ。
続けて二度目もチャイムが鳴った。
(誰だろう・・・)
しかたなく、洋一は立ち上がり起きた。
眠っていた間に、その若い股間には血流が集結して、その溜まりでそこが膨らんでいたことに少年は気づいていない。
すぐに玄関まで飛んで行き「どなたですか?」と声を出す。
すると甲高くか細い女性の声が聞こえる。
それは玄関前の踊り場に響いている。
「あの石田と申します。昨日、迷子の息子を保護していただいた母親の石田久美です。昨日は大変失礼をしてしまいました。御礼も申し上あげずに、すいませんでした」と言う。
少年は、ドアの覗き穴から声の主を見る。水色のノースリーブのブラウスに、紺色のクロップパンツを穿き、女学生のような軽装をしている。
確かに昨日の迷子の母親である。
確か幼子の名前は「そら」、そらちゃんと呼んでいた。
今日はその子を連れずに一人でやって来た。
洋一は昨日の迷子の件には、正直もう関わりたくなかった。
誘拐犯に疑われてしまい、昨晩は、母にそのことをうち開けてやさしく癒された。しかし、その心の傷は未だに残っている。
その真昼の突然の訪問者を訝しげに覗き見ている。
「何か用事ですか」ぶっきら棒に言う。
「あのう~突然で申し訳ありませんが、昨日息子を助けていただいた御礼の品をお持ちしました。是非ともお受け取りいただきたいのです」と、低姿勢な言葉遣いで話す。
しかたなく、洋一はチェーン・ロックを外して玄関ドアを開けた。
すると、女はすぐに身を入れて玄関に立った。
ショート・カットの髪に薄化粧をした痩身の若い女性。
間違いなく昨日の迷子の母親だった。
女は改めて、洋一の顔と体を食い入るように見つめる。
少年の若い上半身の肉体と、短パンの股間が盛り上がっていることに驚くも冷静に話しをする。
「本当に昨日はゴメンナサイ、もう気が動転してしまい、息子を助けていただいたお礼を申し上げずに、立ち去ってしまいました。主人からも警察の方からもお叱りを受けました」
「もういいですよ。ボクはもう忘れました」
「でも怒っているのでしょう。私がいけないことをしてしまったの、どうぞお許し下さい」と、深々と頭を下げる。
さらに「今日は取り急ぎの御礼で来ました。また落ち着きましたら、主人とともに参り、お母さまにも御礼のご挨拶をさせていただきます。今日はとりあえず、ケーキを持参しましたので、これをどうぞお受け取り下さい」
そう言うと、ケーキの入った四角い紙箱を洋一に手渡そうとする。
彼は意固地になって「要りません」と冷たい口調で言う。
すると女は困惑し泣きそうな顔を作り、菓子の箱を持ったままその場にフラフラと体を崩してしまった。
女は謝罪を拒否されたしまったショックと、男の若々しい裸体を目の当たりにしたことで卒倒しかけていた。ナーバスな女性なのであろうか?
洋一もその様子に驚き、すぐさま手を伸ばして女性を抱きかかえ支えた。
どうしてよいのか分からず、しばらくその姿勢で立っていた。
女は少年の胸に泣きそうな顔を寄せて、抱きかかえられていた。
男の汗の匂いが鼻をつく。
すると女は、突然「あのう、お水を飲まして下さい。私フラフラして気絶しそうなのです」少年に抱かれたまま弱々しく言う。
さらに、間髪入れずに「一人では立っていられません」甘えるように囁く。
驚いた洋一は「わかりました」と言うと、小柄で痩せた女性を抱きかかえたまま、ダイニングに向かって歩き出した。
そして椅子にすぐ座らせると、冷えた水を冷蔵庫から取り出しコップに入れた。
うな垂れて座っている女性の前にそのコップを差し出す。
「ありがとう」と小さな声で言って、すぐに冷たい水を口に運んだ。
一息入れて休んだ女性は、おみやげのケーキの紙箱を手にして
「これケーキです。ご家族の人数が分からなかったので、取り敢えず五人分を買ってきました」と言う。
洋一は観念して、そのケーキの入った紙箱を受け取った。
すると女は「あのう忘れていました。私、コーラやジュースも買ってきたのです。重いので玄関に置いてあるのですが、取りに行っていただけますか?」と、遠慮なくまたしても甘える。
「分かりました」と言うと、すぐに玄関に行き外の踊り場に出た。
半ダース分の瓶の飲み物が紙ケースに収まって置かれていた。
それを抱えてダイニングに戻ると、女は他人の家にも拘らず、冷蔵庫を開けていた。どうやらケーキを冷蔵庫に入れてくれていたようだった。
それにしても、ちょっと図々しい気がした。
洋一が戻ったのを知ると「飲み物の二本は箱から取り出して、テーブルに置いて頂戴。後は冷蔵庫にすぐ入れてね」と、上から目線で指示する。
仕方なく洋一は女の言うとおりにした。
「それではコーラでも飲みましょうか」
そう言うと、勝手に台所に行き栓抜きを探し出して戻る。
女はすぐさま一人でコーラをラッパ飲みする。
驚いている洋一に「飲んでよ」と言う。
女の豹変した大きな態度に彼は驚いた。
先ほどの弱った素振りは嘘のように消えている。
洋一も喉が渇いていたので、立ったままコーラを手に取り一気飲みする。
「あら~すごい一気飲みね。頼もしい、やはり若さね」初めて笑顔をみせる。
お礼の行為
「それにしても暑すぎないこの部屋、エアコンが故障しているのかしら?」
「うちは貧乏ですから、エアコンがないのです」と正直に答えた。
「あれまあ、本当なの。それにしても今日は暑すぎ」
すぐにワンピースの前ボタンをすべて外す。
開いたその胸元にはブラジャーがなかった。
小さな蕾がお椀型の乳房に咲いて覗く。
コーラを飲み干して落ち着いたのか、女は少年の姿をマジマジと見つめながら言う。
「気が付かなかったけど、ずっと君は上半身裸だったのね。今ビックリした」とわざとらしく言う。
すぐさま自分もワンピース脱いでしまう。
洋一は呆気にとられた。度胸の良さとふてぶてしい図々しさがある。
痩せた上半身にあって、その乳房は意外にもこんもりと盛り上がり瑞々しい白桃が輝く。ウエストは細くも上半身全体のバランスがとれている。
夏江の豊満な上半身とは全く違う、皮膚の薄さが肌を美しくみせている。
その裸身に身震いした。
すると、女はやおら立ち上がり、洋一のすぐ目前に立って彼の裸の胸前に手をあてて摩る。
「けっこう逞しい胸板をしているわね」
と言って、さらに両手で勝手に触り続ける。
「やめておばさん」思わず言ってしまった。
するとすぐに「何よ、おばさんはないでしょう。お姉様でしょう」
と反発して見せる。勝気な面を示す。
そして次には一転して、やさしい言葉で誘惑の意味を解く。
「あなた自身にお礼をしたいのよ、よこしまな気持ちじゃないわ。私の気持ちと体で誠心誠意の感謝がしたいの、いいでしょう?」
返事を聞くこともなく、すぐに顔を上げて自分よりも背の高い少年の唇に近づく。
すばやく少年の唇が奪われた。
抵抗することもなく、彼もその口付けを受け入れてしまった。
女の舌は細く短い。昨夜の夏江の濃厚な口吸いとは明らかに異なる。
少年はしかたなく、薄く可愛い唇と短い舌を吸い上げる。
豊潤な味わいはない。
だが、さっぱりとした果実のような酸味の味わいがあった。
爽やかなその小さな舌を吸い続けた。
「ううっ」と女は口ごもる。
女は男の徐々に激しくなる口吸いから逃れようとする。
しかし、その舌は強く引っ張られて放れない。女は苦しさしさに悶え、手足をバタバタさせる。
ようやく女の唇と舌を解放した。
「ハァハァ、苦しい。ひどい拷問のキスね」と目を吊り上げる。
もう洋一は決めた。
この女は、抱かれない限り帰ろうとはしないだろう。
彼は間髪入れずに、女を抱き上げて持ち上げた。
そして、その軽い体を椅子に座らせた。
すぐにアンクルパンツとショーツを同時に、かつ一気に引き下げて脱がした。
少女のような痩せた裸体が椅子に座っている。
女に覆いかぶさると熱い口付けを交わす。今度は遠慮なく唾をその口に流す。女もそれを受けて動物のように飲み込んだ。
すると今度は、女の舌が少年の舌を巻き上げ、思い切り吸い込んでくる。
女の両腕が少年の首に巻きつく。
その後、二人は蒸し暑いリビングの中で大汗をかきつつ肉体を結んだ。
女は満足した。
若い男との激情的な快楽を得るとともに、迷子のお礼もたっぷりとできた。
すぐに帰り支度を整えると、女体に沁みついた少年の汗と体臭を消すために、香水を身にふりかけた。強い芳香が室内に流れていた。
「今日もありがとう。今度、お母様がいらっしゃる時に、改めて御挨拶にお邪魔します。それで洋一君は、何か欲しい食べ物などがあるのかしら?次回に買ってきてあげるけど。今日は甘いケーキにしたけれど、例えば、パンとご飯と麺類ではどれが好きなの?」
「パンです」
「それでは、肉と野菜と魚では何が好きかな?」
「肉です」
「じゃ次回は、ハンバーガーでも買ってこようかな、飲み物は何が好きかな?」
「コーラ」
「それじゃ、Wチーズハンバーガーをコーラセットで買ってきましょうね」
「ところでご家族は何人いらっしゃるの?」
「四人家族です」
「分かったわ。次に私と会える日を楽しみにしていてね」
と、笑顔を洋一にふりかける。
そう言うと、少年の頬に軽いキスをして颯爽と帰って行った。
身体検査
洋一は石田久美が帰ると、すぐに風呂場に行きシャワーを浴びた。
夏江に若い女とのセックスの形跡を消すためだった。
昨夜、夏江に初めて抱かれて童貞を失った。
妖艶な熟女との濃厚な情交に、女体のすばらしさと恋心も知った。
その感激が冷めない翌日、予期もせずご近所の若い主婦と結ばれてしまった。
だが、少年には継母の夏江のことしか頭にない。
起きてしまった不貞に反省し、その罪を覆い隠そうと必死にあれこれと考え込んだ。
そうこうしている内に、夏江の帰宅時刻の四時半が過ぎた。
身も心も清めて母を待った。
やがていつものように鍵が開き、愛しの夏江が戻ってきた。
「ただいま」と声がする。
だが、いつもよりもトーンが低い気がする。
洋一は不安気に玄関に迎えに行く。
顔に汗を滲ませて笑顔で立っている。
夏江は今朝と同様に、昨夜の愛の交歓のことを隠すように、大人としての冷静さを保っている。
「母さん・・・」
洋一は寂しさと甘えが交えた声をあげる。
夏江はすぐに自分のことを愛おしく思っていると感じ、その息子をすぐに抱擁してあげたいと母性愛を募らせる。
「おいで・・・」
立ち尽くす洋一に、その距離を詰めるように言う。
彼は吸い込まれるように、母が立つドアの傍に進む。女の腕が少年を抱きしめる。すぐに熱い口付けが交わされた。
昨夜の濃厚なキスシーンを思い出し、二人の熱い抱擁がしばらく続いた。
ようやく二人は体を離し、落ち着きを取り戻してダイニング入る。
その時、女の鼻に香水の匂いが触れた。女の直感は鋭い。
(女が来ていた。・・・まさか、洋一が初めて私に抱かれた翌日に、もう女と戯れていたの?)
女はただちに問い詰めることは止めた。簡単に嫉妬心を知られたくない。
それと冷静にその事実を聞き出したかった。
「洋一、母さんは汗かいて気持ち悪いから、すぐシャワー浴びるね」
「わかった」
「それから母さんが呼んだら、風呂場に来て私の背中を流してくれる?」
「いいとも」
嬉しい気持ちとためらう気持ちが交錯した。
複雑な気持ちが入り混じっていた。
夏江は自分の部屋に行き服を脱ぐと、その裸体を息子に見せつけながら風呂場へと向かった。
しばらくすると、洋一は夏江に呼ばれた。
自分も、短パン、下穿き、Tシャツを脱ぎ捨てて風呂場へと向かう。
もうすでに夏江はシャワーを浴び終え、バスチェアに腰をかけていた。
肉質の美しいその背中を見せていた。
「石鹸をぬって手洗いでいいわよ」と言われた。
すぐに母の背中にボディ・シャンプーを塗りたくる。
その艶やかな美しい肌と肉付きの良さに目がくらむ。
先程の石田久美さんの裸体とは明らかに違う。
手で大きな背中をゆっくりと撫でるように洗う。
向こう側にあるはずの、見えない豊かな乳房に触れたい衝動に駆られてしまう。
女はそのままバスチェアから立ち上がり、後ろを振り向き洋一の正面に立つ。少年を立たせるとすぐに抱き寄せる。
濃厚な口付けをした。
その後は長い二人の抱擁が続く。
それが終わると、いきなり女の強い命令が飛んだ。
「これから身体検査するから!」
(ええっ!) 洋一は驚いた。
(母さんはボクを疑っている!?)
夏江は彼を立たせたまま、彼の股間の前にしゃがみ込むと、少年の肉体のあちらこちらを真剣に検査を行う。
眼で隅々まで目視検査をしつつ、手と指で触れながら接触検査も行う。
そして長い身体検査の結果に安堵の笑みを浮かべるのだった。
風呂場を出た二人は、それぞれの部屋に戻り着替えた。
すぐに洋一はダイニングに行き、冷蔵庫から冷えたコーラを取り出して椅子に腰かけた。
「母さん冷たいコーラあるけど飲む?」
「ええ、いいわね。飲むわよ」と返答した。
そしてすぐに「コーラ買いに行ったのかい?」と聞かれた。
「違うよ、もらったの。昨日、助けてあげた迷子のお母さんが来て、お礼にケーキと飲み物をくれた」と言った。
「何よ、そんな大事なこと、すぐに言いなさいよ!」
そう言いながらダイニングに出て来た。
「だって、言う暇もなくキスされて、背中を流したりして・・・何も言えなかった」
(そうなの、あの香水の残り香は迷子のお母さんのもの。でも、なおさら疑ってもいいはず)
夏江は珍しくゆかたを着込んできた。
暑いので、その胸元はリラックスするように広げられている。
夏江は冷蔵庫を開けてその中を覗き込む。
確かにケーキと飲み物が置かれていた。
御礼の挨拶に、迷子の母親が訊ねてきたのは間違いない。
それでも嫉妬心は消えない。
「その迷子のお母さんは、家にあがってきたの?」
「家には入らないで、玄関で応対したよ」
「ああ、そうなの」
(まさかうちの息子にちょっかいを出さなかっただろうね)
女は嫉妬心が消えず、完璧なアリバイを求めた。
夏江は夕食の支度も忘れて、身体検査をもう一度試みようと決めた。
椅子に腰かけて胸をより広げた。さらに、帯をつけたまま裾を捲って広げた。そこにはスキャンティがなかった。
濃厚で妖艶な秘密の園がすでに燃えている。
「母さん」
驚いて洋一が呼んでも夏江は黙ったまま。
続けて「夏江さん、セックスしたいの?」と尋ねるも返事はない。
二人はこの後、昨夜に続きお互いの体を貪り合った。
ダイニング・ルームでの愛の交歓が終わると、少年は女が虚ろな意識にある中で、その耳元にそっと囁いた。
「浮気なんてしていないよ、母さんだけだ。夏江さん一人だ」
女は笑みを浮かべて納得の顔を作った。
第六章 お盆
迷子の母親の石田久美が、突然、高木家を訪ねて来た翌日の日曜日。
ようやく迷子の一件が片付いたと思い、洋一は久々にゆっくりとその心を休めると考えた。
朝食後は、自分の部屋で本格的に寝入っていた。正直に言えば、平凡な毎日からハードな連続に一変してしまい、その体は疲れ神経もすり減っていた。
継母の夏江に十七歳の童貞を奪われただけでなく、何度もそのセックスの媚薬に歓びすぎて、若き肉体はすっかり熟女の虜になっていた。
それに続き、昨日は予期せぬ突然の訪問者に、抵抗する隙も与えられず、通り魔のような速さで子持ちの若き主婦と二人目の性交交渉を経験してしまった。
そして、その日帰宅した夏江には、若い女豹が残したわずかな香水の匂いに浮気を疑われ、徹底的に身体検査を受けた。
その後は、二度と浮気ができないようにと楔を打たれた。
洋一も懸命に継母の愛の鞭に応えた。
攻め立てられるだけではなく、精気を失った女をこれでもかと抱き、その試練に耐え続けた。
すべてを捧げる覚悟で、夏江への肉欲と愛に没頭するのであった。
さすがに疲れていた。
「今日は夕方まで寝まくる」と決めていた。
仏壇
その予定通り、昼食も忘れて上半身裸のままにその眠りを貪っていた。
だがその昼下がり、今日もドアホンが鳴り響いた。
それは二度も三度も休みなく鳴り響く。
むっと、しつつもインターホンに出る。
「洋一!!何やっているの!すぐに出て頂戴よ、おばさんの千恵子よ」と、聞き覚えのある女性の声だ。
(ええっ、阿佐ヶ谷のおばさん?!)
洋一は慌てて、短パンのまま玄関に駆け出す。
チェーン・ロックを素早く解いて、ドアを開けた。
そこには屋内に入っても、まだ日傘を差したままの女が立っていた。
シルクのノースリーブのツーピースを着込んでいる。
目鼻立ちが整った、貴婦人のような色白の美人が立っていた。
「早く出て来てよ、もう暑くてしょうがないわ、上がるわよ」
と、ハンカチを扇子代わりに振りながら、玄関へと足を踏み入れる。
日傘を置くと、立ち尽くす少年の横を風切って、家の中へと駆け上がりダイニングに進む。
「あれ?何なのエアコンが効いてないわよ!」声を高めて言う。
「うちにはエアコンがありません」
「ええっ!まさか、そんなこと」
「すいません」と小さな声で言う。
「あんたが謝ることではないわ、しかたない洋一、うちわがあったらおばさんのことを扇いで頂戴!」
洋一はすぐにうちわを持ってくると、おばさんの正面に立って扇ぎ出した。
彼女は、ツーピースの胸元を両手で広げると顎をあげる。
その顔、首筋、胸に、洋一が風を送り易いようにとポーズをとる。
それを察した彼は、彼女の目の前に立って、腕を強めに振って風を送る。
「ああ~気持ちいいわ、うちわの風もすてたものじゃないわね」
穏やかな表情をみせる。続いて「ところで扇風機はどうしたの?」
「故障中です」
「あれまあ・・・」
しばらくして、そのうちわの風の心地よさに気持ちが落ち着くと、その面前に立っている甥っ子が上半身裸であることに気が付く。
そのうちわを扇ぐ腕の筋肉が昔とは違って、成長した男らしい躍動をみせているではないか。
その腕から胸に視線を移すと、僅かだが逞しい男の胸割れた筋肉が露出している。
(子供だと思っていたら、いつの間にか青年のような体づきになっている・・・)
「洋一大きくなったね。いくつになったの?」
「十七歳になりました。身長は一メートル七十センチあります」
「ビックリね、そう言えば、会うのは何年振りかしら。確か中学に入学した頃だったかしら?」
「そうだと思います」と答えた。
叔母は何も言わず、少年の体をまじまじと見つめている。
その鋭い視線に魅入られ、緊張なのか洋一の短パンの股間がむくりと膨らんでしまった。
(あれまあ!何を動かしているのよ、イヤらしい子)
女は驚くも、目線がその若い肉体に釘付けにされていた。
すると急に、女の子宮の奥がグラグラと揺れた。
千恵子は突然、自分の下半身の異変に驚いてトイレへと駆け込む。
そして放尿を済ませると、すぐさま風呂場に入り込む。
汗ばんだ全身と、蒸れ肉の奥にも冷たいシャワーを浴びせた。
その叔母の様子に驚き、呆気にとられていた洋一は心配になる。
すぐに風呂場に行くと声をかけた。
だが返事がない。
叔母のことが心配になった彼は、風呂場の戸を静かに開けて叔母の裸体を見てしまった。
全身真っ白な裸体は、意外なことに肉付きが良いことが一目で分かる。
夏江と似た肉付きのよい体をしている。
けれどもより色白で骨太体形。
肩幅もあり長身ではないので、ややスマートさには欠ける。
だが、夏江に似た熟女の色気が漂っている。
母の夏江よりも、四歳年下の三十二歳の女盛り。
洋一は一旦戸を閉めると、改めて室外から声をかける。
「おばさん、大丈夫ですか?」
「何ともない。暑いからシャワーを浴びさせてもらったわ」
「よかったです」と言って、彼はすぐにダイニングに戻った。
しばらくすると、キャミソール一枚の姿になって千恵子が風呂場から出て来た。
いきなり「洋一、ところで仏壇はどこなの?」と尋ねる。
少年は驚いた。
仏壇のことを聞かれたのは初めてのことだった。
「うちには仏壇はありません」と答えた。
「ええっ!仏壇がないの?今日はお盆だから、死んだ貴方のお父さんの仏壇にお線香をあげに、わざわざ阿佐ヶ谷から来たのよ」
「そうなのですか?・・・」
「まあ、そうは言ったけれども、阿佐ヶ谷からの直行ではなくて、鷺沼のおばあさんの家に行って、親子三人で孫たちを連れて、おじいちゃんのお墓参りに行ってきたのよ。その後にここに寄った、と言うわけ」
「雪子ねえさんもお墓参りに行ったのですか?」
これまで慕い続けてきた三女の叔母のことを尋ねた。
「そうよ。おばあちゃんも妹の雪子も、高木家に仏壇がないなんて、一言も教えてくれなかったわ。まあ二人には、何も言わずに黙ってここへ寄ったからね」
「うちのお母さんには、連絡しなかったのですか?」
「慌てて出て来たのよ、姉さんは日曜日でも仕事でしょう。それで留守も覚悟で来てしまったの」
(何よ、細かなことを聞いて、私が予告なしに来たらいけないの。来られたら何か困ることでもあるのかしら?)
詰問と口止め料
「ところで、洋一はお盆だと言うのに、どうして鷺沼の実家に来なかったの?下の孫たちは泊りがけで来ているのに?」
「留守番です」
「留守番をする必要はないでしょう。姉さんは仕事だし、洋一も夏休みで暇でしょうに」
「・・・」
叔母の鋭い追及に、困惑し黙ってしまった。
すぐに千恵子は、その少年の戸惑いを察知して、次には鋭い指摘をする。
「あくまでも私の推察だけど、夏江姉さんは、あんたと二人きりになれる夜が欲しかったのじゃないの?・・・変な意味ではなくてよ。姉さんは、あんたとは血が繋がっていない親子だから、その息子が年頃になって、そろそろ進路とか進学問題を二人だけになって、ゆっくりと相談したかったのよ、違うかしら?」
「そうかも知れません・・・」顔を下向きにして小さく答えた。
だが、その洋一の弱気な態度に、男女間の機微に鋭い感受性をみせる熟女の直感がもう一つの理由を探し出して言う。
「まさかとは思うけど。夏江姉さんは大人になってきた洋一に興味を持って、二人だけの時間を作って、束の間のランデブーを楽しむつもりじゃないのかしら?」
「そんなことありません」今度ははっきりと言った。
だが、その口調が逆に追及を強められることになってしまう。
「そんなことはない、という事は、これからはあるかもしれない、という事よね、どっちなの?」乱暴な誘導質問をする。
「これまでもありません。これからもありません」と、むきになった口調で言う。これも次の詰問を呼び込んでしまった。
「嘘を言うのは止めなさい。これからのことなんて分からないでしょう。それでは、この二日間に姉さんとエッチをしていないと、言い切れるの?身体検査をするわよ」
(ええっ、また身体検査されるの!?)
「怪しいでしょうに。世間では同じ屋根の下で、血の繋がらない健康体の男女が二日間も一緒にいたら、何も起こらないはずがないのよ。それが男と女の性と言うもの」
「・・・」反発する言葉を失った。
叔母の美しい顔が微笑みながら、今度はやさしく語り出す。
「叔母さんは叱りに来た訳ではないのよ。お前のことが心配でしょうがないから、誰にも分からなうように、突然寄ったのよ」
「・・・」洋一はうな垂れて、叔母の次の言葉を待つ。
「仮に、まだ姉さんと愛し合っていないなら、私が今日、お前を男にしてあげる。夏江姉さんと洋一は戸籍上の親子なのよ。それが男女の仲だと、親戚や兄弟、世間に知られたら大変なことになるわ。この袖ケ浦では、二人は一緒に生活していけなくなる。その前に私を抱いて、そのリスクを回避するべきだとは思わない?」
洋一は、叔母の千恵子が言うことが、正しいようにも聞こえてきた。
でも内実は、既に二人の母子は愛し合っている。
再び千恵子が言う。
「たけど、既に二人が愛と性の深みに入っていたら、解決の道が遠のくわね。その場合は二人の秘密を守り続けるしかない。二人のことを知っているのは、この私だけという事になる」
「どうしたらいいのですか?」
「そうね、先ほども言ったわ。私の体を抱いて口止めさせることね。つまり、二人の秘密の愛は、私の胸にしまって誰にも口外しないという約束になる。そうすれば世間にバレることはない」
「本当にそれで良いのですか、叔母さんを一度だけ抱いたら、秘密を守ってくれるのですか」
「そう言うことよ、だけど私を抱くことも秘密になる。だから私たち二人は、二つの秘密を守る者同士になる。いいわね」
「よく分かりました」
洋一は安堵した。涙がこぼれそうになるほど嬉しかった。
「洋一、私のハンドバック持ってきて頂戴。洗面所の横に置いてあるはず」と言う。
すぐに取りに行った。
叔母は、そのハンドバックを彼から受け取ると、財布を取り出して紙幣を数枚手に取った。
「これ洋一にあげる、私を抱く口止め料よ。それに、これまでお年玉もお小遣いもあげてこなかった。そのことのお詫びの印でもあるわ」
既に、叔母には頭が上がらないほどに、その理屈に縛られていた。
その上、お小遣いまでもらってしまった。
「ありがとうございます。こんなに本当にいいのですか?」
その紙幣は、一万円札が五枚もあった。
千恵子もやさしい笑顔を作って甥っ子を見つめる。
しばらく二人は、ダイニングで飲み物を飲んで休んでいた。
落ち着くと、やおら叔母が声をかけてきた。
「ところでお父さんの遺影ぐらいはあるのでしょう?」
「ボクは分かりませんけど。あるとすればお母さんの部屋かもしれないけど」
すると、千恵子は勝手に母の部屋に行こうとするが、間違えて洋一の部屋へ入ってしまった。彼は黙って勝手にさせた。
そのうち彼の部屋から、大きな声が響く。
「洋一こっちへ来て頂戴!!」少年を呼びつけている。
しかたなく自分の部屋に行くと、彼の敷布団の上に座っていた。
真白なキャミソール姿のままであった。
ただ、すでに肩紐が外れた状態で、二つの白い乳房が飛び出しそうになっている。
洋一は、叔母の色っぽく座る女らしい姿に生唾を飲んでしまった。
まじまじと、叔母の顔とその肉体に見とれる。
美人で骨格がしっかりとしている中肉中背のボディ。
小顔ではなく目鼻立ちがしっかりとした上、一重の目は切れ長で女優のような整った顔をしている。
一方、母の夏江は純白な肌ではなく、どちらかと言うと健康的な肌をしている。二重の目が大きく、野性的でエキゾチックな雰囲気がある。
姉と妹で良く似ている所も多いが、夏江は健康的な筋肉質。
妹の智恵子は柔らかな肉質。
二人は骨格が細くない所が似ている。
「ここは洋一の部屋ね。ずいぶん汗臭いふとん」
そう言って、その敷布団に鼻をつけて臭いを嗅いでいる。さらに鼻ばかりか唇までも這わせている。
「たまんない若い男の臭い。生きの良い肌の匂いがプンプンするわ」
顔を上げて洋一を凝視する。
洋一は女の欲望を察する。
もうこうなったら、流れに任せようと覚悟を決めた。
女はキャミソールを下半身に残したまま、その上半身をあらわに晒している。
彼女の上半身に体を寄せ、唇をすぼめて相手の唇の中心だけに触れるフレンチキスをした。
きちんと閉じられた唇は、薄くて清潔感があった。
ただ冷たい唇だった。
彼は改めて気持ちを込めた口付けをした。
舌を絡めて強く吸い、自分の口に引っ張り込む。
そして舌を絡める。しつこくこれを繰り返した。
二人の口からヨダレが溢れ流れる。
少年が口を放し「ふう~っ」と、ため息をついた。
女の両腕が伸びて男の頭を巻いた。
二人は抱き合ったまま倒れ込んだ。
下から少年の顔を自分の顔に引きつけ、自ら口を大きく開き、鼻までも食べてしまう勢いで唇全体を吸い込んだ。
そして女は、愛おしそうにヨダレに濡れていた彼の唇の周りや鼻の頭までも舌で舐めて吸い取る。
激しく舌を入れてきた。
二人の、いや二匹の蛇が互いを喰いちぎるように強く絡みつき、舌を交互に引っ張り込んでいた。
長く激しい口吸いが続いた。
その後、二人は激しく抱き合いしっかりと結ばれた。
その日の夕方、洋一は帰宅した夏江から再び身体検査を受けた。
彼女は、お盆休みで妹の千恵子が東京から実家に来ていることを知っていた。
母と自分の子供二人と妹の雪子の五人が集まって、父親の墓参りに行く予定。
ただ、息子の洋一は行かせなかった。
しかし、昨日の迷子の母親のように一人留守番をする洋一を訪ねて来た例もある。
同じように千恵子や雪子が来る可能性もある。
昨日はたまたまの偶然だが、妹の二人はそのエアーポケットの間隙をぬって、意識的に洋一を訪ねる可能性が十分あると考えていた。
それは妹達の性格を良く知っていることと、焼きもちの心が強いことの表れでもあった。
千恵子は、美人で昔から異性にモテていた。
それが次第に男好きにもなっている。
一方、雪子は叔母ではあったが、洋一を実の弟のように可愛がり、彼も姉のように慕っている。
いずれにしても、真夏の暑い日に男女二人だけの時間ができれば、ちょっとした切っ掛けで肉体を貪り合うことは十分あり得る。
今回、洋一を留守番にした理由は、勿論最愛の息子と初めての二人の時間を作るため。
従って、外すことができない絶好の機会だったのだ。
逃せば下の子供達が寝起きする中で、たくましく成長した息子との激しい交歓はできない。
それは回避したかった。
下の二人は、小学六年生の女の子と二年生の男の子。
まだまだ子供とは言え、母親と熟女の違いは、そう簡単には理解だきないだろう。そのギリギリの判断の結果ではあった。
それでも来週の火曜日には、その子供達が戻ってくる。
それからは、どのようにして愛する息子と逢引きを重ねるのか、決めかねていた。
とにかく、洋一を男として抱き、息子を愛玩する気持ちを押さえることができなかったのだ。
一度結ばれた肉体は、独占することでますます夢中になる。嫉妬心も強い。
特に、妹の千恵子は美人で若い時から男にモテていた。
だからこそ、その妹が留守に訊ねて来て一人でいる息子を横取りしないか、と不安になっていたのだが。
今日は息子の体を点検するのではなく、衣類と寝具などの臭いや、形跡のチエックを念入りに行なった。
風呂場に行って、女の髪の毛や陰毛が落ちた形跡を調べる。
だが、浮気の証拠は何一つ出てこなかった。
女はそのことに安堵する。
この夜は夏江の部屋で、二人は丸裸になって朝までお互いの体を狂ったように貪り会った。
第七章 競争心
松下家の二女の千恵子が訪れた翌日の月曜日。
洋一は珍しく寝坊した。
それも継母の夏江が起こしに来たにも拘らず、疲労困憊(こんぱい)で床から立ち上がることができなかった。
十七歳の若さを持ってしても、連続三日間に及ぶ性行為の連続には精気を失っていた。
それも母に童貞を奪われてから、迷子の若い母親、母の妹と、性経験の豊かな既婚者達との過激な情交。
その前後では夏江の嫉妬心から浮気を疑われ、身体検査と称して執拗に肉体を貪られ、昼夜に及ぶ性行為が続いていた。
来訪者の予感
さすがに心身ともに疲れ果て爆睡した。
それでも空腹と喉の渇きに、午前十一時頃には目が覚めた。
しかし、すぐには立ち上がることができなかった。
それで、しばらくは呆然としていたが、頭の中にはこの三日間の出来事が蘇ってくる。
恋愛経験も性体験もなかった洋一。
それが初めて互いの肉体を貪った継母に、身も心も奪われてしまった。
血の繋がりがないとは言え、これまで夏江を母として慕ってきた。
異母兄弟と分け隔たりなく扱い、実子のようにその長男として育てられてきた。
それが女としての思惑によって、二人は心身ともに結ばれた。
少年は初めて知る女体。それも豊満な肉体に宿る熟女の妖艶さに魅了されて、その純真な心ゆえ精神までも強く奪われていった。
愛とは何か。そんなことも知らない少年だが、確かに言えることは「ボクは母さんが好きだ、夏江さんが大好きになって、今こよなく愛している」という事だった。
二人は、その年の差が十九歳もあることに、何の疑問の余地を抱いていない。一過性で一時的に貪り合う肉欲のワーンシーンにすぎないかも知れないが、今はそれに止まることができないほど、愛欲の嵐の中を暴走している。
そんな想いを巡らせていると、ふと今日も真夏の一日が始まっていることに気が付く。そして、これからの訪問者は誰かと想像してみる。
それはすぐに思い当たった。
松下家の三女の雪子である。
この夏の前までは、ほのぼのとした想いを寄せてきた叔母である。
今は二十六歳で夏江よりも十歳も年下。
そのこともあって、洋一は姉のように雪子を慕い、彼女も洋一を弟のように可愛がってきた。
その心根は真っすぐで、活発な面もある勝気な性格だ。
背丈は三人姉妹の中で最も低いが中肉中背に入る。
まだあどけなさも顔に少々残っている。
うりざね顔をした色白の可憐さが印象的。
決して美人とは言えないが、笑顔が可愛く年よりも若く見える。
洋一が小学生の頃には、一緒に風呂にも入って少年の体をすみずみまで丁寧に洗ってくれた。その時には、彼は雪子の輝く白い肌をみて、心がときめいて体が硬直したことを覚えている。
そんな想い出に耽っていたが、今日の訪問者の予感にすぐに飛び起きた。
母が用意してくれた朝食を食べにダイニングに向かった。
空腹に素早く食事を済ませると、今度は風呂場に行き朝シャンをする。
疑念と嫉妬
その真夏の訪問者は、まさに昼過ぎにやって来た。
「洋一いるの?雪子よ」
いつもの聞きなれた声がドアホンに響いた。
洋一は母からプレゼントされた舶来のTシャツとスポーツパンツに着替えていた。おもむろに玄関に彼女を迎えに出る。
「一人で留守番しているのでしょう。これ買ってきたわ」
菓子がいろいろと入った紙袋を差し出す。
涼しそうなマリンブルーのノースリーブのワンピースを着こんでいた。
ただ、その丈は短くミニタイプだった。
膝が出たその両足は、十代の女学生に見えるほど、清らかで細くて白い。
ダイニングに入ると、雪子は慣れた仕草で買ってきた菓子を、バスケットに入れるとテーブルに置く。
そして冷蔵庫を開けて冷えた麦茶を出すと二つのコップに注ぐ。
二人は椅子に座って、笑みを浮かべながらお互いの顔を見つめ合っている。
「毎日一人で留守番なのでしょう。外に遊びには行かないの?」
「退屈だけど、外に行くのも面倒だし、友達もいないから家にいる」
「まあ、それでもあと一日の辛抱よ。明日には、おばあちゃんが孫二人を連れて帰って来るわ」
「そうだね、母さんから聞いている。お姉さんは今日会社休んでいるの?」
「ええ、そうよ。お盆休みにしてもらって、今日までお休み。明日からまたラッシュ・アワーの中を通勤よ」
続いて、不審に思っていた姉の千恵子のことを切り出す。
「昨日はじいちゃんのお墓参りに皆で行ったでしょう。阿佐ヶ谷の姉さんも来ていたのよ」
「母さんから聞いています」
雪子が怪訝そうな瞳を向ける。
「だって、夏江母さんがそう言っていたよ。ボクと母さんは、パートの休みの日に二人で墓参りに行くと聞いています」
「まあ、仲のいい親子。それはそうと、昨日は千恵子姉さんがここに来なかった?」
少年は内心驚くも、平静を装いながらすぐに返答する。
「阿佐ヶ谷の叔母さんは来ていないよ。もう、長い間会っていない」
「あら、そう。昨日は墓参りが終わったら、さっさと帰り支度をして出て行ってしまったの。せっかく、久々に妹と孫達も集まっていたのに、夕食も食べずに実家を後にしたのよ。一体どこに寄るつもりだったのかしら?夏江姉さんがパートの仕事だという事は知っていたから、袖ケ浦のここの家には寄ることはないけれども・・・」
「・・・」
「ただね、どうも解せないのよ。いつもだと帰宅するには、JR津田沼駅まではタクシーを呼んで帰るはずなのに、昨日はあの暑さの中を一人歩いて帰ったのよ」と言うと、洋一の顔を鋭く凝視する
「僕は何も知らないよ、雪子ねえさん」
「ああゴメン、洋一。あのね、千恵子姉さんは美人でしょう。だから昔から男にモテたのよ。自分が誘いの声をかけたら、どんな男でも自分になびくと考えているの。もしも、洋一が留守番をしていることを知って、ここを訪問して家に上って来たら、お前を誘惑するかもしれないと、私は心配していたの。すぐに来ればよかったけど、子供達を盆踊りや縁日に連れて行く約束だったので、来ることができなかったの」
と言うと、顔を伏せて小さな涙をほろりと流す。
「泣かないで雪子ねえちゃん。千恵子叔母さんは来ていないから安心して。ボクは雪子さんのこと好きだから、他の女の人には全然関心がないから安心して」と、相手をきづかって嘘をついた。
しばらく二人の沈黙の時がすぎた。
やがて女は顔をあげて起き上がる。
「洋一、昔の様に二人でお風呂に入ろう。暑いし汗もかいているから、私がお前を久しぶりに洗ってあげる・・・」
そう言うと少年の顔をきつく見つめ、彼の瞳に女の秋波を送る。
偽装の童貞
洋一に異論はなかった。
だがそれは、同時に四日も続く情交を意味するとともに、愛しの母を裏切る行為にも繋がる。そして、その相手こそは、幼い頃から憧れていた姉のように慕っていた淡い初恋の人。
彼は考えた。
雪子さんは、二人のこれからのセックスを秘密にしてくれるはず。
さらに、千恵子叔母さんがこの家に寄って、僕とセックスしたことも当然秘密にしなければならない。そのためには、今日は性体験ゼロの童貞になって、雪子姉さんと結ばれる必要がある。夏江との愛を守るためにも、性の経験者であってはならない、決意する。
性知識ゼロの童貞として、秘密裏に雪子とのセックスをしなければならなかった。
二人は洋一の部屋に入り、着ているものをすべて脱いだ。
そして、裸になって手をつないで風呂場に向かった。
バスタブに水を張った。
ただお湯にはせずに冷たい水のまま。
最初に冷たいシャワーを浴びてから浅い水風呂に入る。
白く透き通るような女の柔肌。
その乳房は、二人の姉よりも小ぶりの青リンゴ。
形の良い小さなお椀の乳房。その乳頭は淡いピンク色で、乳首は可愛い蕾のまま。その恥毛は薄く少女のような僅かな薄絹。
洋一は雪子の透きとおるようなシミひとつない柔肌を見て、これまでの数少ない経験ではあったが、雪子は性経験が少ないのではと想像した。
すぐに雪子の腕が伸びて少年を抱きしめる。少年はなされるままに立っている。
「洋一も、腕を私に巻きつけて抱きしめるのよ」黙ってその言葉に従う。
二人の胸がきつく接する。
すぐに女の口が彼の唇に触れる。
女の舌が少年の口をこじ開けてその中に侵入する。
舌は口中をさ迷うが、少年は口を半開きにしたまま何もしない。
女の舌が少年の舌を巻き付けて自分の口中に引っ張り込む。
少年の手がバランスを取るために、女の臀部の肉を両手に掴んだ。
しばらく二人の口吸いが続く。洋一は女のリードになされるままに従う。
口吸いに満足した女は、冷たく浅い水の中に浸かることを命じる。
二人の下半身だけが水にもぐる。
足を投げ出した彼の両脚の付け根あたりに、女の軽い体が跨って乗る。
二人の上半身が近づく。
風呂場で二人は、その昔二人で湯に浸かって戯れ楽しんだ頃を思い出していた
成長した二人は、今その風呂の中で男と女になって戯れた。
「そろそろ出ましょう、洋一の部屋で体を拭きましょう」
二人が揃って風呂場を出ると、バスタオルを雪子の白い肌に巻いてあげる。
「ありがとう」と、その言葉も聞くと、洋一はいきなり雪子を抱き上げた。
お姫様抱っこをして自分の部屋まで運ぶ。
万年床の上に雪子を寝かした。
少年は濡れたままの体で覆いかぶさった。
すぐに熱いキスをした。
女も黙ってそれに応じた。
唇が触れ合う度に激しい口吸いになってくる。
彼女はその慣れた口吸いに疑うこともなく、夢中になって甘美な口吸いに酔っていく。
「雪子姉さん、もう抱きたい・・・」
女は下から少年の顔を見ながら言う。
「まだドッキングは早い感じもするけど、ペッティングの段階で放出されても困るから、もう初体験しましょうかねえ」と、お姉さん言葉で言う。
その後、その昔から互いに淡く慕い合っていた二人は結ばれた。
しかし、この日の晩も洋一は夏江から身体検査を受けて、激しくその体をむさぼり合った。
彼は十七歳にして、女の嫉妬心を強くその胸に焼き付けるのであった。
第八章 団欒(だんらん)
松下家の三女の雪子が洋一のもとを去った翌日の午後。
雪子と入れ替わるように、母の実家である松下家に四日間ほど泊りがけに行っていた妹と弟が戻ってきた。
浴衣姿(ゆかた)の祖母に連れられて、嬉しそうに久しぶりの我が家に足を踏み入れる。
祖母が高木家を訪れるのも久しい。
やはり三姉妹の実家だけに、娘達や孫が鷺沼の実家を訪れることの方が圧倒的に多い。
洋一も笑顔で三人を迎える。
子供たちは早々に、子供雑誌、虫籠、お菓子などを抱えて、自分たちの部屋へと駆け込んで行った。
「洋一には、何も買ってこれなかったのよ、少しだけどこれお小遣い」と、祖母は財布から紙幣をとり出す。
「ありがとう、おばあちゃん」
祖母に近寄って手を伸ばすと、祖母は紙幣を指に挟みながら、洋一の手をその柔らかな両手でやさしく掴む。
その手の感触が夏江のそれと同じだったので、一瞬、彼の手には小さな電流が走った。
「怪我してアルバイトを休んでいるのだろう、小遣いが足りなくなったら、いつでもおばあちゃんに遠慮なく言うのよ」と、いつもように優しい笑みを浮かべて言う。
祖母の引率で妹弟が帰宅したことで、四日ほど続いていた継母との夜の情事から解放されるものと少年は考えていた。その間には、継母の二人の妹達などとも性交を重ねてしまった。若い肉体には少しばかりの余裕があった。
ただ、女達の貪欲な性欲と支配力には、精神的な圧迫感が強く残っていた。
特に、育ての母としか考えていなかった夏江の熟女としての肉体には、これまで感じていなかった女としての深い艶美に魅入られてしまった。
彼女の母性愛をより強く感じるとともに、一人の女性としての愛欲が入り混じった複雑な愛が注がれている。
その彼女を愛する男として、洋一も若い肉体とその心で女を独占しようとしている。若い男も継母のその強すぎる愛の決意をひしひしと感じている。
こんなにも心が動揺し、胸が圧迫されるのは生まれて初めてのこと。
それでも、今夜は久しぶりに、普段の家庭に戻れるという安堵感があった。
夏江がパートから帰宅すると、家庭の中は一気に明るくなり、いつもの賑やかさが戻ってきた。それに今夜は祖母の幸恵も泊りがけで来ている。
親子三代が揃い夕食の団欒は、特別に明るいものだった。
妹と弟は、祖母の家で起きた夏休みの小さな出来事を笑顔で話す。
蝉や虫採りの話、夜の盆踊りから屋台での買い食いなどを屈託のない笑顔で喋る。祖母も母も相好を崩してそれらの話に耳を傾ける。
ただ、最後には夏休みの宿題の話になり、全く宿題には手を付けていないことが判明する。夏江は洋一に、食事が済んだら子供部屋で宿題をみてあげるようにと指示する。
食事が済むと、兄弟三人が子供部屋に移った。
ダイニングに残った祖母と母は、久しぶりに親子水入らずの会話に弾んでいた。
就寝
やがて、宿題と連泊の疲れで妹弟は入浴も忘れて、二段ベッドに飛び込んで寝入ってしまった。
ダイニングに戻った洋一は、テレビを一人で見ていた。
祖母が食事の後片付け、母は洗濯機を回して子供たちの服などを洗う。
そうしたいつもの家庭内の日課が終わったのは、夜の十時をすぎた頃であった。
夏江が祖母と洋一に風呂に入るように言う。
祖母が先に風呂場に向かう。
祖母が風呂に入るのを確認した夏江は、テレビを見ている洋一に近づき、小声で耳打ちをする。
「今夜は、洋一の部屋でおばあちゃんと寝て頂戴ね。私の部屋でお前と寝るわけにはいかないからね」
「うん、わかった」
洋一は予想していたように、今夜は母とのセックスはないと思った。
だが、それは違っていた。さらに母の耳打ちが続いた。
「おばあちゃんが寝入ったら、静かに部屋を抜け出して、私の部屋においで」
「ええっ」と驚いてみせた。
「私、もう明日には生理になりそうなの、教えたでしょう。女は生理の前が、一番セックスをしたいのよ」
「わかりました」と頷いてみせた。
期待してはいなかったのに、心のどこかに小さな炎がちろちろと燃えていた。
「明日からしばらくは、私を抱けないからね」とも言われ、コックリと頷いた。
最後に夏江が彼の頬に口付けをすると、同時に手が伸びて男の股間をまさぐった。
悶絶
夏江の部屋と洋一の部屋は、ダイニングを挟んだ両脇にある。
西側の夏江の部屋はドアで出入りする。
一方、洋一の部屋は三枚の唐紙の戸で出入りができる。
両部屋とも畳敷きの和室で、ともに南側のベランダに出られるガラス戸がある。
つまり、そのガラス戸を通じてベランダに出れば、隣のダイニングにも、一方の和室にも行き交うことができる。
やがて、祖母の幸恵は風呂から出てくると、小太りの体をバスタオルで拭きながら二人に声をかける。
ダイニングにいた二人に「もう寝るわね、長い間の孫の世話で疲れたわ・・・おやすみなさい」と言って、すぐに洋一の部屋に消えていった。
その裸身の後ろ姿は夏江とよく似ている。
ひと廻り小さいが小太りで肉付きがいい。
臀部も、いくらか垂れた乳房も膨らみが十分にある。
五十八歳になった今も、大きく肉が落ちておらず、まだ女としての色香も秘めていた。
部屋に入る幸恵を確認した夏江は、目配せで洋一に「すぐに風呂に入って」と指示を送った。いそいそと彼は、命じられるままに風呂場へと向かった。
シャワーで済ませようとしたが、祖母が浴槽に湯を沸かしていたので、久しぶりに熱い風呂に浸かった。
いつもよりも長い入浴になった。風呂を出ると入れ替わりに、すぐに夏江が風呂場に向かう。
洋一は一人、ダイニングで体が冷めるのを待っていた。
やがて、夏江が風呂から上がってきた。
バスタオルを豊満な体にまとい、息子に近づく。
女の柔肌の香しい匂いが洋一の鼻を突いた。
息を吐きながら再び耳打ちする。
「お前も、もう寝なさい。おばあさんが寝入ったのを確認したら、そっとベランダから出て、私の部屋においで、分からないように静かに抜け出すのよ」
彼女の荒い呼吸が耳に振動する。
彼は黙って頷いた。
自分の部屋に入ると、電燈を薄明りに灯して祖母が寝そべっていた。
ふとんと夏掛けが用意されていた。
しかし、スキャンティ一枚の裸で寝ているようだ。
声を押さえて「おばあちゃん寝たの?」と声をかけたが、何の反応もなかった。
彼女の隣に敷かれた自分のふとんに寝ころんだ。
頭の後ろに手をあてて、仰向けに寝そべった。
しばらくすると、小さな寝息が洩れてきた。
それを聞いた洋一は、逸る気持ちを抑えるように静かに起き上がる。
ベランダへと歩を進めた。
開けっ放しの戸を抜けて、ベランダを渡って夏江の部屋に入った。
夏江も薄明りの中で、大の字に長い脚を広げてふとんの上に寝ていた。
ただ素っ裸だ。
少年はすぐにそのみごとな裸体にのしかかった。
いつものクッションの良いボディに弾んだ。
二人は、おもむろに激しい口吸いを行う。ねっちりと長いキス。
口を離すと、すでに二人は欲望が湧きたって、荒い呼吸をしていた。
これから始まる、性の饗宴に期待する心臓の鼓動が互いの胸に伝わる。
その後二人は、ダイニングを隔てたその向こうの部屋で、祖母の夏江が聞き耳を立てているとも知らず、激しくお互いの体を貪の合うのだった。
少年の耳に女の荒い呼吸とともに、喜びの嗚咽が聞こえ出す度に、彼は声を押し殺して囁いた。
「母さん、声を押さえて。喘ぎ声をあげちゃダメ。我慢して」と諭す。
女は答える代わりに、手で自分の口を押えていた。
聞き耳
洋一は継母の額にお休みのキスをして、彼女の部屋を後にした。
足を忍ばせて、ベランダから自分に部屋に戻った。
そして自分のふとんに大の字に寝た。愛する母という女を征服した充実感があった。身も心も満たされ、すぐに眠りに入れそうだった。
寝入った直後、少年の股間に触れる気配に起き上がった。
誰かが股間のものを手にしていた。彼は無言でこの成行きを見守った。
しばらくして小さな声で「おばあちゃん、こっちに来て」と呼んでみた。
その孫の声に、すぐ手を休めた祖母が彼の枕元にやってきて、その横に寝そべった。
祖母の幸恵が小声で囁いた。
「私にも頂戴」
「ええっ、何を?」
「とぼけてもダメ、ずっと聞こえていたのよ。二人の激しいセックス」
「・・・」
「振動はね。体の動きだけで伝わるわけではないのよ。声だって音だろう。音を出せば空気に伝わって、かすかに振動するもの。だから小さな喘ぎ声でも、腰の突き上げでも、音として伝わって振動するものなのよ」
「バレバレだったの」
「特に私は聞き耳立てていたから、よけいによく聞こえたのよ。もう寝られやしない」
「起こしてゴメンね」
「まあいいさ、二人は思い切り楽しんだのだろう。今度は私を喜ばしておくれ、もうムズムズして、久しぶりに自分でいじって悶えてしまった」
「わかったよ、おばあちゃんを可愛がるから許して」
一呼吸おいてから、幸恵が洋一に質問をする。
「ところで、一体いつ頃から、夏江とそんな関係になったの?」
「・・・」
「黙っていないで、正直に言いなさい」
物静かな口調だが、松下家の長としての祖母らしい威厳がある。
観念して洋一が重い口を開く。
「先週の金曜日に初めて母さんと結ばれた」
「ええっ金曜日!」と驚く。
「ばあちゃん、声がでかいよ。母さんに聞こえちゃうよ。確かに金曜の夜だよ」
「大丈夫だ。夏江はお前に何度もイカサレテ、死んだのも同然。今は神経も麻痺しているさ」
「そう・・・でも母さんに、これからのおばあちゃんとのエッチは知られたくない」
「うんまあ、そんなに母親を気遣って。愛してしまったのかい。すっかり翻弄されて、お前いくつになったの?」
「十七歳」
「十七歳か、まあいい。年頃の男になっていたのだね」続けて言う。
「夏江もやるものだね。子供達を私の家に遊びに行かせて、それも連泊させた。その間にできた二人だけの空白の時間を使って、お前を自分のモノにした。大した娘だ」
「・・・最初は肩揉みだけだったけど、いつのまにか・・・繋がり結ばれた」
「母と子とは言え、血の繋がらない男と女だ。夏江も再婚もせず、男も作らず、あんたたち子供を育てることに懸命だった。・・・まあ女の性だ。仕方ないことではある」
「・・・」
「おばあちゃんはお前達二人の事を怒らない。許すよ。だけどこれは、松下家にとっても、高木家にとっても大事な秘密になる。絶対に誰にも口外しないこと、いいわね。約束だ」
「うん、わかっているよ」
「それに、これから私を抱くことも秘密。特に、夏江には絶対の秘密だ、いいね」
「二人だけの秘密にするから、おばあちゃんも母さんに言わないでよ。約束して」
「いいとも、けな気なげだ。夏江に惚れたのね。了解さ、お前とおばあちゃんだけの二人の秘め事にしようね」
すると祖母の幸恵は孫の少年に体を寄せると、その大きな胸を彼の顔に突き出した。乳房を吸えという仕草。
すると男は左手で女の肩を抱き、おもむろに口吸いを始める。
予期せぬキスに驚くも、女は忘れていた久々の甘い口吸いに痺れた。
その後、二人は我を忘れて長時間抱き合い、繋がったまま朝を迎えた。
主婦で、パートで働く夏江の起床は早い。
二人が抱き合ったまま眠る部屋の戸を開く暇さえない。
それが幸いして、血の繋がらない祖母と孫の二人の秘密の情事を知られることはなかった。
第九章 実家
水曜日の朝。祖母と三人の子供達が、揃ってダイニングで朝食をともにした。夏江が早朝から起き出して準備を整えてくれていた。
その母の夏江は、毎夜続いた疲れを知らない若い男との激しい愛の交歓に、彼女の体は明らかに疲労していた。
しかし、愛し愛された精神的な充実感と、刺激的に突き抜かれた女体の芯から溢れ出る肉の喜びとが相まって、これからも続く、多忙な勤めさえも意欲が湧き出ていた。
朝食はいつもと同じ。
トースト、ハム・エッグに少々のサラダ。
飲み物は、祖母の紅茶、洋一のためのコーラと子供達には牛乳が整えられている。
自転車
残った四人の食事が終わると、祖母の幸恵が後片づけと食器洗いをする。
妹弟達は、すぐに自分たちの部屋へと戻って行った。
ただ、後片付けをしているときの祖母の歩き方がぎこちなかった。
気になった洋一は、食器洗いをしている祖母に問いかけた。
「おばあちゃん、なんか歩き方がおかしくない?引きずるように歩いていたよ・・・」
「そうかい、何か腰が少し重い気がする。気のせいだと思うけどね」と、軽く答えて仕事を続けた。そして、ようやく後片付けが済み、洋一の部屋へ着替えに行こうする。すると歩行が怪しくなり、引きずりながら歩幅を小さくして歩いた。
「やっぱし、おばあちゃんおかしいよ」洋一が心配する。
祖母のそばに寄って、抱きかかえて部屋に連れて行った。祖母は部屋に入ると、手をついてしゃがみ込んだ。
「腰をやられたみたいだね。でもたいしたことはないはず。格別、重労働もしていないし、お前に乗られても、腰は動かさず何も無理はしていなかった。そうだろう洋一」
「確かに、おばあちゃんは、ほとんど受け身で静かにしていた。動いていたのはボクだけだった」
「まあ年よりだからね。十数年ぶりに男に組み敷かれたから、興奮してしまい疲れが出たのかもね」
「僕も乱暴にはしないでいたけど、ただ長い時間、同じ姿勢のままで僕の重みに耐えていたから、その蓄積疲労かも知れない・・・」
「そうかもね、確かお前は柔道部だったものね。その元気な若者に組み伏せられたのだから、そりゃ疲れるわね。悪いことはできないわねえ」
洋一は思い立った。
「おばあちゃん、オレ鷺沼まで自転車で送っていくよ。その腰じゃ二十分も歩けそうもないもの」
「そうかい、そうしてくれるかい。優しい孫だね、洋一は」。
祖母の幸恵は、昨日来宅したときのゆかた姿に着替えた。
洋一は妹と弟に「おばあちゃんを送ってくるから」と伝えた。
昼食は自分たちで適当に食べるようにとも言った。
ただ祖母は心配して、孫たちにお小遣いを与えながら、昼食の食べ物についてあれこれと指示をしていた。
「いい子で留守番するのよ」最後に一言付け加えた。
エレベーターのない団地の四階から、一階までの長い階段は普段でもきつい。今の祖母の腰の具合では、とても一人で降りることはできそうもない。
そこで洋一は、祖母を背負って階段を降りることにした。
祖母は娘の夏江ほど大きな体ではないが、小太りで老人にしては骨太でもあり肉付きもよい。ブヨブヨ感はそれほどない。
つまり、骨ばかりのやせ細った老体ではなかった。
深夜の夜伽でも、女豹のような鋭い研ぎ澄まされた女の魅力は薄いが、性体験の浅い洋一とっては、熟女としての十分すぎる性的な魔力を備えていた。
その重たい体を背負った。
一階に出ると、祖母を背中からそっと降した。その場に立たせると、すぐに自転車を取りに走った。自転車を引っ張り出した洋一は、祖母を抱き上げて後部席に乗せた。
ゆかた姿なので横向きに座らせた。洋一もまたがるとハンドルを握った。
「おばあちゃん、オレの胴に腕を回して、しっかり抱きついてね。手を離しちゃダメだよ!」
「あいよ、わかったよ。お前を離さないから」
涼の割烹着(かっぽうぎ)
農家ではないが、和風の庄屋作りで二階建ての松下家に着いた。
洋一は久々に松下家を訪れる。
朝晩はいくらか気温が低いとはいえ、真夏の朝に二人乗りして、十五分近くも自転車を走らせると、汗がたまのように噴き出す。
祖母を抱きかかえて自転車から降ろすと、そのまま広い玄関に入った。
磨かれて黒光りする廊下に幸恵を立たせた。
「あら~、洋一すごい汗よ!すぐシャワーを浴びてきなさい」と言う。
「ありがとう、じゃあシャワー浴びてきます」と言って、そこで祖母と別れて廊下を真っすぐ進んだ。
風呂場は一階の一番奥にある。和室の大広間の横を通り、さらにリビンクとダイニングが併設された洋間を通りすぎると、奥に台所と風呂場がある。
洋一は、汗をかいた半袖Tシャツ、スエット・パンツと下穿きを脱ぎ棄て、風呂場に入った。いつもより大きく立派なシャワーヘッドを握って、冷たいシャワーを熱い体全体に降り注いだ。気持ちがいい。
昨夜は朝方まで継母と祖母の二人を、連続的に抱くことになってしまった。
成熟した二人の女体から放された媚薬的な匂いが、若い男の体に沁み込んでいた。シャワーを全身に流し、体についた匂いを嗅いでみた。
自分の汗の匂いも残ってはいたが、その男臭に混じるように、熟女の香しい匂いが鼻をつく。二人の女の体臭が混じった残り香。
風呂場を出ると、洋一は和室の大広間に向かった。
部屋の中央には、一枚板で天然目の大きな座卓が鎮座している。
檜で作られた日光彫の和風テーブル。
その周りに用意された座椅子の一つに腰かけると、そばにあった団扇で仰ぐ。エアコンは設置されていたが、意外にもこの大きな座敷は涼しい。縁側の向こうのガラス戸が大きく開け放されていた。
祖母がすぐに開けていたのだろう。
縁側の先にある広い庭には、大小の庭木の青々とした葉や形の良い枝がそよ風にゆっくりと揺れている。その風が部屋にもゆっくりと流れ込んでいた。
その心地よさと昨夜の疲れから、洋一は座椅子に座ったまま眠り込んでしまう。深い睡魔の中で、二階の部屋を電気掃除機で清掃する音が頭の中で遠く響いていた。
(おばあちゃんが掃除機をかけている。腰はだいじょうぶかなあ、と思いながらも深い眠りに陥っていた)
夏の割烹着(かっぽうぎ)
どの位の時間が経っていたのだろうか、洋一は隣のリビイング・ダイニングの先にある台所から食器を洗う水音で目が覚めた。
この大広間からも襖や扉をすべて開け放つと、風通しも良く、台所の物音さえも小さく響いてくる。
洋一は立ち上がると、和室から隣のリビングに向かいそこにあるソファーに横たわった。
「おばあちゃん、腰はどうなの大丈夫?」と、祖母の背に声をかけた。
幸恵はその孫の声に、顔をそむけることもなく口を開いた。
「大丈夫だよ、もう治ったみたい。掃除をして、少しずつ体を動かしたら、腰が解れたみたいなのよ」
「よかったね。おばあちゃん」と洋一は安堵した声をあげた。彼は自分が祖母の腰痛の原因だったかもしれないと、気がきではなかったので安心した。
「今から、お昼の冷やし中華そばを作るから、もう少し待っていてね」
「ええっ!もうお昼なの!?」
「ええ、そうだよ。よっぽど疲れていたのだね。お前はグッスリと寝ていたよ」
両腕に頭を乗せソファーに寝そべりながら、調理を始めた祖母の後ろ姿を眺めていた。
薄地で背中が大きく割れた和風の麻作りの割烹着を着ていた。それは祖母の夏の仕事着で涼しそうな百草色(もぐさいろ)。
二階の掃除をしていた時も、その恰好で働いていたのだろう。
その割れた背中を二つの結び目が割烹着を繋いでいた。
それは割烹着がズレ落ちないようにする結びなのだが、背中の柔肌をほどよく露出して艶やか。背中を隠すものではなく、むしろ女の魅惑的な柔肌を演出している。
よく見ると、割れた背中の下には白いスキャンティが、大きな尻に形ばかりに張り付いている。
結果、幸恵はスキャンティ一枚を穿いただけの裸体に、夏用の割烹着を羽織っているだけなのだ。後ろから見るその臀部と足は、夏江とよく似ている。
祖母の方がひと廻り小さいサイズだが、年の割には肉感美をとどめている。
昨夜、吸い上げては揉みほごした乳房が向こう側に隠れている。
今その感触が脳裏に蘇ってくる。
少年はいけないと思いつつも、熱くなった胸の血潮を押さえ切れずに、祖母の立つ台所に忍び足で近づく。頭に近い結び目の上にある襟足に唇をつけた。
少しだけ舌を出して首筋をなぞった。
プルンと女の体が震えた。女は黙ってされるままに、手を動かして調理を続ける。
大きく割れている割烹着の後ろから手を伸ばして、向こう側にある白桃をきつく掴んで揉み始める。背中にある下の二つ目の結び目を解いて、背中を大きく露出させた。
大きな尻を撫でながら、スキャンティを足下へと降ろす。
それを察した女は、自らの足でその布を取り払った。少年は立ったまま覆いかぶさって、後ろから女を抱きしめた。
女が振り向きキスを求めた。
二人は熱い口付けを交わした。
舌を入れ合い、絡め、お互いの唾を吸い合った。
その後、二人は立ったままで結ばれた。
体を離した二人の体に汗が流れていた。
洋一は、疲れ果て伏せている小太りの裸体を、お姫様抱っこで抱きかかえると風呂場へと向かった。
風呂場に立たせると、彼女は立っているのも辛い様子で、ヘタヘタと風呂場の床に座り込んだ。
少年はやさしく祖母の体をいたわり、石鹸液を手のひらに乗せて、女の全身を手洗いしてあげた。
「ありがとう洋一、やさしい私の孫だ。養子にしたいねえ・・・」
洋一は黙って祖母の体を丁寧に洗った。
洗い終えるとシャワーで全身を流した。
祖母の養子
縁側の先に見える和風の庭木が風に揺れている。
二人は座卓に乗せられた昼食の冷やし中華そばを食べる。
そばには、冷たい麦茶が入ったガラスのコップが置かれている。
蝉の泣き声が庭先から聞こえてくる。
幸恵は新しくて薄い浴衣(ゆかた)に着替えている。
風呂上がりの姿を示すように、女の首筋にほぐれた髪がしっとりと短く流れている。
高木家を訪ねて来宅したときの浴衣とは違っていた。
家庭用の浴衣なのか、寝間着のような薄い生地で織られた浴衣。
朝顔の花と水玉模様が涼しさを醸し出している。
小太りの体がゆったりとした浴衣に包まれ、先程よりもずっと若く色っぽく見える。
食べ終えた洋一は「ご馳走様!おいしかったよ。おばあちゃん」と言うと、一気に冷たい麦茶を飲み干した。
彼は、座椅子を抱えて縁側まで運ぶとそこに置いた。
ゆったりと座り両脚を投げ出した。
それにしてもこの家は広い。3DKの公団住宅に四人家族で住んでいるが、この家は祖母と若い叔母の雪子の二人住まい。
和風の二階家で庭もある。のんびりできる。
洋一はこの静寂さとゆとりの空間を暫し楽しむ。
「洋一、コーラでも飲むかい?」台所から祖母が大きな声をあげた。
「いただきます!」
しばらくすると、木製のお盆に氷の入ったグラスに注がれたコーラを二つ乗せて、縁側に運んでくれた。
「私も一休みしよう。ようやく落ち着く二人の時間ができたわ」と言って、膝を斜めにした女座りで腰を下ろした。
「エアコンでも付けようか?」
「いらないよ。今のままでも気持ちがいいよ」と言いながら、氷が入った冷たいコーラを飲み始めた。そして一気に飲み干した。
「あ~ら、一気飲み、男らしいじゃないか」と祖母が笑う。
少年は真面目な顔をして祖母に訊ねた。
「おばあちゃん、さっき風呂場で話していた養子の話は本気なの?」
「勿論、本気よ。以前あんたを養子にする話があったけど、すぐに夏江に男の子が生まれて絶ち切れになった。今は私も高齢になり、三女の雪子も独身のまま。私としては、死ぬ前に是非とも養子を決めておきたいのよ。知っての通り、雪子は結婚してこの家を出てゆくつもり。お前と雪子が結婚するには年の差がありすぎ。さらに、お前の異母弟も血筋は松下家だがまだ幼い。だから今のうちに、お前を養子としてこの家に入ってもらいたいのよ。私も年だし、生きている間はずっと可愛がってきたお前と暮らしたい。何としても松下家を継いでもらいたいの。真面目に考えているのよ」
「でもボクは松下家の血筋ではないし、このまま養子になれば、おばあちゃんと夫婦のように暮らすことになって、雪子叔母さんにどう思われるのか。それに母さんだって、ボクを子供というよりも、今は恋人のように接するようになっている。ボクもこれまで母さんと慕ってきたけど、母さんと結ばれてしまい、恋人のように愛するようになってしまった。そして、おばあちゃんとも深い関係になった。ボクは一体どうしたらいいの?」
正直な若者の気持ちだった。
松下家の女系家族の人々は皆やさしい。
誰一人として憎めるものではない。
でもこの数日で、予期せぬ肉体関係をもってしまった。
女性から迫られた結果ではあったが、女体を知ればそれぞれに情愛を持ってしまう。
だが、身も心も最も魅かれたのは、やはり継母の夏江だ。
毎日のように汗を流して働き、子育てをしてきた母に、肉体を交歓するまでは異性としての愛情を感じたことは一度もなかった。
それまで大人の異性としての魅力には全く気付いていなかった。
むしろ、姉のように慕っていた三女の雪子には憧れる気持ちがあった。
年の差がなければ、きっと初恋の女性になっていたと思う。
ただ、それぞれ肉欲に溺れた仲にはなったが、はっきりと今は夏江に身も心も奪われている。それでも洋一には恋愛の経験が足りなかった。
恋人の良し悪しを判断できない。やはり十七歳の少年である。
だから、どうしても男女の肉欲から生ずるその場の情愛に頼りすぎる。
例えば、祖母の幸恵には夏江の分身として魅かれるところがある。
不思議なことだが、セックスの相手としては、幸恵の女体には溺れてしまいそうな深い魔力がある。
だから、松下家の養子となって、共に暮らすことになれば、必ずその愛欲に溺れることになる。そのことを、彼は本能的に予知している。
だから、養子になった場合、愛する夏江との関係が遠のくことにも不安が隠せないのだ。
老練な幸恵には、そんな少年の心理が透けて見える。
ただの孫とは見ていないが、夏江のように恋心を抱き続ける立場にはない。
その気も実際にない。ひたすら家長としての冷静な判断を持ち続けている。ひょんなことから、久しぶりに女として孫と悦楽の境地に陥ったが、それはそれとして、心中に埋めてしまう理性を失ってはいない。
従って、養子に迎えた洋一を夜伽の相手にするつもりもない。
祖母としての話が始まった。
「よく分かるよ。お前の苦しい悩み。でもはっきり言っておくよ。先ず、おばあちゃんとの関係は、養子の話が決まれば終わりだ。祖母と孫。そして、その孫が私の養子になるだけのこと」
幸恵は、そこまで答えると、喉が渇きコーラのグラスを手に取り口をつけた。一口飲むと再び話を続ける。
「いいかい、夏江とお前もあくまでも母と子供。それでも親戚の連中は、二人に血の繋がりがないことを十分知っている。だから、高木家をお前が出ることに何の違和感も持たない。むしろ松下家の養子に出たとなれば「ああそうか」と頷くことが多い。そして、夏江とお前は私よりずっと若い。私が死んだら、高木家の家族全員がこの実家に戻っても、何の不都合もない。この家で夏江とお前がどう結ばれようが、私の知ったことではない」
洋一が重たい口を開く。
「ボクが養子になって、その後、母さんがこの家に入ったらどうなるの?」
「形式的には姉と弟だよ。もう親子ではない。お前が私の養子という子供で、戸籍上は義理の長男になる。夏江も私の長女なのだよ。だから姉と弟になるわけ」
「そうなの、なんだか親子だったのが、急に兄弟になるって不思議だね。でも母さんのことを愛し続けてもいいの?」
「好きにすればいいさ。もともと二人は本当の親子ではなく、血のつながりもない。私はその頃にはあの世だ。せいぜい好きにしていいよ。今だって二人の仲に焼きもちもない。二人にもしも子供ができれば、その子が次の松下家の後継ぎになる、法律的にもお前たちは夫婦になれる」
かげろう
祖母は一息入れると、ぽつりと言う。
「洋一『かげろう』と言いう言葉を知っているかい?」
「知らないよ」
「あのね、夏江とお前の恋とか愛は、一時的な迷いの性愛でもあるのよ。二人が互いに愛し合っていると信じても、それは『かげろう』と言って、すぐに消えてしまう運命にあるもの。
『かげろう」は大量発生することもあるけど、成虫になって産卵すると、すぐに死ぬ運命にある虫なの。要するに恋愛は日常的によくあるが、中には短くはかない恋もある。
特に、夏江と洋一は血が繋がらないとはいえ、親と子であり年の差も離れている。おばあちゃんは、二人の愛は『かげろう』だと思うけどね。いずれ分かれる日が来るよ』
「難しくてよく分からない。いけない恋の気がするけど、僕も母さんもその愛する気持ちを止められない。でも、何か松下家の中でいろいろと複雑な関係になりそう」
「あまり深く悩まないこと。お前たちは、すぐに忘れてしまうほどの短命の恋だと言うことなの。二人のことを私は理解できる。ただ、いずれ別れはくる。だから、今は夏江の言うことを良く聞いていれば問題がない。いずれ、あの娘は大人の判断ができるはず。ましてや私が夏江を押しのけて、お前を自分の男にすることなんてあり得ない。今、こうして抱いてもらえるひと時があればうれしいだけ。年寄りの冷や水と笑ってもいいけど、ひと夏の二人だけの秘密のお楽しみだよ」と言って、洋一の傍ににじり寄った。
少年は少し安心した。
その一方で、自分が養子話で玩具にように扱われて、憤慨していることにも少し気づいていた。
自分の意志がどこにあることさえ分からず、女系家族の中で弄ばれている気もした。
今も祖母が女となって、艶やかに、にじり寄る姿にやりきれない気持ちになる。密かに反発心も芽生える。
だが、その心とは裏腹に、女を蹂躙して征服して従属させたいと、男の野性も燃え広がってくる。
洋一はにじり寄る祖母の前に無言で立った。
もう彼女の浴衣はいつの間にか、帯の部分が身についているだけで、上半身も下半身も半分以上むき出ている。
幸恵の目がキラリと光る。
すると、すばやく男のショートパンツと下穿きを剥ぎ取った。
蝉の鳴き声
女の体は次の刺激を求めている。
だが、彼女はそれ以上の行為を言い出せなかった。
先程の養子話が止まらせていた。
だが女の膣は疼いている。
それを必死に堪えている祖母が哀れでもあった。
少年はうな垂れている女の顔を上げさせると、その前に膝をついて屈んだ。
顎を掴み上げると、上向いた唇に口付けをした。
五十八歳と十七歳との口吸い。だが、もう二人には何のためらいもなかった。お互いの口内に甘美が走り、二つの舌が絡み合った。
再び、静かな縁側で二人はその体を貪り合った。
その後、暫く放心していた幸恵が目を覚ました。
意識を取り戻した祖母は、うつ伏せた体のまま顔を横に向けて「男だわねえ、洋一は、死ぬほどイカされたよ」そう言って起き上がろうとした。
しかし、立ち上がることができなかった。
「まあ、また腰が抜けたようだ。悪い孫だね。女の体を芯まで食い尽くして、立てやしない。抱き上げておくれ」
女の体に手を回し、反転させてから抱き上げ立たせた。
女は体を寄せてきた。
そして少年の首に手を回すと口付けをしてきた。
受け止めて口を吸った。やさしく抱いた。
「こんな腰じゃ、しばらくは抱いてもらえそうもないねえ」と、甘えるような声で囁いた。
その言葉を聴き終わると洋一は囁くように言った。
「幸恵さんありがとう。大好きだよ、おばあちゃん」
第十章 瞼の母
祖母の幸恵と激しい情交を繰り返した洋一は、夕方になって自転車で自宅へ戻った。
母の夏江は、子供達から「お兄ちゃんは自転車で、おばあちゃんを鷺沼の家に送った」と、聞かされていたので心配はしていなかった。
苦悩の闇
洋一が戻ると、夏江は玄関に出迎えることもなく「夕ご飯食べたの?」と落ち着いた声で話しかける。どうやら家族はすでに夕食を済ませたらしい。
すでに幸恵からの伝言メールも受け取っていた。
それには「雪子の帰宅を待って、たまには三人で夕食をしようと誘ったが、洋一は自宅で食べると言って、自転車で帰った」とあった。
夏江は妹の雪子と洋一とが、出会うことがなかったことに安堵する。
一人で夕飯を食べ終わった洋一は「母さん、疲れたからもう寝ていいかな?」
「どうかしたの、具合でも悪いのかい?」
「昨夜の疲れが出たみたい、寝不足だと思う」
「そりゃそうだろうね。母さんもヘトヘトだったよ、初めて失神しちゃったの。これまでで一番愛された夜だったわ。よく寝て英気を養うようにしなさい」と笑顔で答える。
「うん、母さんも今夜はゆっくりと休みなよ」
「やさしい母思いの息子ね」と言って、洋一の前に立つとすばやくその唇を奪った。
唇が触れると二人は気が入ってしまう。狂ったようにお互いの舌を貪り合った。
長く激しいキスが終わると、体を離した二人はどちらからでもなく「お休み」と囁いた。
少年はゆっくりと自分の部屋へ入っていった。
すぐふとんの上で横になった。
昨夜から今日にかけて行われた、親子である二人の女性との激しすぎた情交。その男女の絡みと二人の魅惑の女体が蘇る。
それらには、紛れもなく、自分自身の能動的な意思が働いていた。
母として祖母として慕いつつも、交歓するたびに女としての深い魔力に吸い込まれる。
その結果、その二人を女性として愛するとともに、こよなく慕うようになってしまった。
あまりあった若い男のエネルギーの全てが吸い取られ、その肉体と精神までもが骨抜きにされた。
特に、継母の夏江との親子という関係の中での異常で激しい性の営みと恋愛の問題。
さらに、それに伴って祖母が話す『かげろう』の悲哀と養子話には大きな衝撃を受けた。
これまで淡々と平凡な生活を送ってきたことが嘘のように、己の肉体と精神が劇的に変化してしまった。
そして、これらの事はこれからも続き、このままでは元の生活には戻れることはないように思える。
これはすべてがリアルな現実。
それも、今後は予想もつかないほどの未知の展開も横たわっている。
そこには、男としての秘めた欲望とともに、自分を追い求めてくる女豹たちの嫉妬などの、果てしない貪欲の炎が燃えている。
彼女達の前に立てば、メラメラと燃えてくる自分も制御できない。
愛欲の乱れに自分への戒めを含め、その運命の迷い道に漂う深い悲憤に耐えられなかった。
これらの矛盾する苦悩を避けて通るには、この一週間ほどで起きてしまった今の環境から逃げ出すしかないだろうと、そこに考えが行き着く。
だが、果たしてそんなことが自分にできるはずもない、と再び深い闇に陥ってしまう。
肉体的な疲労よりも精神的な苦脳が上回り、この夜は熟睡することができなかった。
とうとう悶々とした気持ちのままに朝を迎えるのだった。
戸籍の附表
それでも翌木曜日は、平常通りの高木家の朝が始まっていた。
夏江は母として、朝食の準備に追われるとともに、忙しく子供たちの世話をやいていた。洋一には、下の子供達の昼食や宿題の面倒をみることを告げる。
下の子供たちには、外で遊ぶのは公園だけにして、宿題を忘れずにやることをきつく言う。
彼女は、パンを口に頬張ったまま玄関に走った。
今日はノースリーブのワンピースを着て、その腕の長さが強調されている。
踵の高いカジュアル・シューズを履いている。
スカー丈がミニなので臀部が一層のヒップアップでボデコン。
それでも着やせするタイプなのか、モデルのようにバランスのとれたスタイルと若さがある。
「洋一!行ってくるよ、ちょっと来て頂戴」と、ダイニングにいる洋一を呼ぶ。
彼はすぐに椅子から立ち上がり速足で玄関に行く。
「母さん、何?」と言った瞬間、女に抱きつかれた。
その腕は、自分の豊かな胸に男の顔を引き寄せた。
胸元が広げられている。
それもノーブラ。女の手が男の頭の後を押さえて、自分の胸元にきつく引き寄せる。乳房を吸えと言わんばかり。
察した洋一は、口を使って胸元をさらに広げ、溢れ出た乳房に吸い付いた。
空いている片方の乳房を揉む。女が快感に反り返りそうになると、彼は女の腰に腕を回して支える。
次に反対側の乳房を吸い、先に吸いつくした乳房を揉み解す。
「ああっ」と小さな喘ぎを漏らした。
女は落ち着きを取り戻し「ありがとう洋一」と言ってすばやく胸元を元に戻す。
「もう行くわ」名残り惜しいのか、寂しげに後ろ姿を見せて言う。
少年は思わず後ろから母に飛びついた。
肩を掴んで強引に振り向かせると、すばやくその唇を奪った。
短いが激しい口吸いが玄関で行われた。
先程まで食べていたパンの甘味が二人の口中に残った。
二人は、子供達がふいに玄関に現れることを心配しつつ、貪り合い抱き合った。実際には短い時間のキスだった。
けれども二人のこの口付けは、永遠の別れにつながるディープなキスになった。
「じゃ~行ってくるわ」と、夏江は静かにドアを開けて外へと足を踏み出した。
三人の子供たちの朝食が終わると、下の子は洗面所で歯磨をして顔を洗う。
それが済むと自分達の部屋に入り、さっそく宿題にとりかかった。
洋一はダイニングから見える南の空をぼんやりと見ていた。
その空の果てに、微笑む見知らぬ女性の顔が浮かんできた。
「あれっ、あの人は誰だろう・・・」
しばらく物思いに耽っていた。すると突然、閃くものがあった。
それは実の母、生みの母親のことだった。
「本当のお母さんに会いたい!」
予期せぬ突然の衝動だった。
これまで一度も思い浮かべたことのない思慕の思いが不意に湧き出てきた。
昨夜は没頭できるものを求め、さらに何とか今の現実を逃避することを懸命に考えた。
異性との愛欲以外の新しい環境を求めていたのは確かなこと。
これまで生みの母親の存在を真剣に考えたことはなかった。
それは止むを得ないことでもあった。
洋一が四歳の幼な子の頃に両親は離婚していた。
それ以来、実の母に会う機会もその必然性もなかった。
さらに、彼は母親の顔も容姿も全く記憶がなかった。
その名前や年齢さえも知らない。
まして、今どこに暮らしているのか、その生死の事実さえも知らない。
ただ、実の母と再会することができれば、あらぬ方向に事態が展開し、新しい環境が生まれるかもしれないと、淡いまぼろしのような期待を抱く。
会いたさ見たさに、母に対する愛おしい気持ちが沸々と湧いてきた。
「そうだ、ボクを生んでくれた母に会ってみよう!」
全くの突然の閃きだった。
その閃きに今の環境から抜け出せることを期待した。
すぐにスマホを手にして、習志野市役所のホームページにアクセスした。
それは自分の戸籍を調べれば、離婚後の実母の戸籍も判るのではと考えた。
彼のその閃きの直感は、若さのままの素早い行動を促す。
九時をすぎると、すぐに市役所の戸籍係に電話を入れた。
「実の母親の住まいの現住所を知りたいので、自分の戸籍の附表の謄本を申請したい」と訊ねた。
「実の親子であることが判れば、その申請は可能ですから、先ず貴方の身分を証明するものを呈示して、戸籍の附票を申請してください。こちらで、実の親子関係であることが確認できれば、その附票を発行いたします」と説明を受けた。
戸籍の附表を見れば、過去の戸籍の移動の足跡が判明する。
そこには、母の現在の戸籍地が記されているはず。
職員は「貴方のお母さんの今の戸籍地は、ここ習志野市の附票で分かります。ただ、現住所を知るためには、お母さんの新たな本籍地の役所に出向いて、そこで改めて戸籍と附票を申請して下さい。そうすれば現在の住所が判ると思います」と言う。親切で丁寧なアドバイスを受けた。
洋一は小躍りし、勇んで習志野市役所に行くことにした。
妹弟に自分が出かけることを伝え、さらに留守番と昼食の要領を指示した。
そして夏江には「友達の家に遊びに行く」とメールを送信した。
夕方には戻ることも付け加えた。
すぐに、ジーンズと半袖Tシャツに着替え、市役所へ歩いて向かった。習志野市役所は鷺沼にある祖母の家から近い所にある。
その市役所では、免許書を呈示して身分を証明した上で、印鑑を押した申請書を提出した。職員は何やら実務処理をして、実母の子息であることを確認した上で、実母の現在の本籍地を記す附票の複写をくれた。
その費用を支払うと、すぐに母の戸籍の附票を見た。
母の現在の本籍地は、東京都の江東区にあった。
ただ、それが現住所とは限らない。
そこで江東区役所に出向いて、改めて母の戸籍と附票を申請し、現在の住まいを探す必要があった。
ネットで江東区役所の場所を調べた結果、東西線の東陽町駅がその最寄りの駅であることが判った。
洋一は、習志野市役所を後にしてJR津田駅に徒歩で向かった。
そこから地下鉄の東西線直通の電車に乗った。
三十分ほど乗ると東陽町駅に着いた。
江東区役所に徒歩で向かった。
申請の手続きには、それほど時間がかからなかった。
すぐに母の戸籍謄本と附票を手にすることができた。
実の母は、江東区の南砂町に住んでいることが判明。
洋一はすぐさま、東西線の南砂町駅へと向かうのであった。
涙の再会
戸籍によれば、母の名前は『菜七子(ななこ)』。
名字は父との結婚当初からの『高木』のままだった。
つまり再婚はしておらず、今も独身を続けているようだ。
年齢は三十七歳。継母の夏江よりも一歳年上になる。
マンションに一人住まいのようだ。
実母は働きに出ていて留守の可能性も高かったが、はやる気持ちを抑えることができず、南砂町の母が住むというマンションへ向かう。
そのマンションは七階建ての古い建物。
エレベーターはあったが、出入り口の正面玄関は、オートロックではなく24時間誰でも自由に出入りができる。
いわゆる『下駄履マンション』と言われる古い建造物だった。
洋一は、臆することなくマンションの玄関に入った。
郵便ポストの名札に母の名前を探した。すぐに702号室と判明。
「七階の702号室だ」心は小躍りしていた。
留守の可能性も高いが、構わず七階へと向かった。
勇んでエレベーターに乗り込んだものの、不安も頭を過ぎる。
果たして実の息子と分かっても、突然の訪問を歓迎してもらえるものだろうか。
十三年もの長い間、音信不通にあった二人が、スムーズな対面ができるものなのか。その心配に武者震いする。アッと言う間に七階に到着した。
わけなく702号室の前に立っていた。
そこは部屋の番号だけで、表札は掲げられていない。
平日なので働きに出ていて留守かもと思いつつも、試しにそっとインターホンを押してみた。応答はない。
逸る気持ちがすぐにもう一度押させる。
すると女性の甲高い声で「どなたあ?」と応答があった。
母の年頃の女性の声だ。
洋一は、緊張と予期せぬその応答で慌ててしまった。
「あのう、あのう・・・」と口ごもる。
不審に思った女性は、ドアの小さな覗穴から不審な真夏の訪問者を見とどける。
見知らぬ不審者に、いきなり「警察に通報するわよ!」と、早口で怒りを交えた声を飛ばしてきた。彼は、怒りの口調で不審者扱いの罵声に驚いた。
気を取り直して再び口を開いた。
「あのう、僕は高木洋一です。・・・あなたの息子です。会いに来ました」と、震えるようなか細い声で何とか口を開いた。
予期せぬ突然の真夏の訪問者の言葉に菜七子は我が耳を疑った。
すぐに返事はなかった。
母の菜七子は、その予想外の衝撃的な場面に動揺した。
一瞬、気が遠くなりかけた。
ドアの内と外で二人の呼吸が止まっていた。しばらくの沈黙が続く。
息子は不安に立ち尽くしたまま。
一方、母親は動揺に立っていらないほど、体とその心が震えていた。
二人ともその呼吸が平常に落ち着くのを待った。
ようやく母の菜七子がもう一度、覗穴から息子と名乗る訪問者の姿をじっくりと確認する。確かに若い。
それもよく見ると犯罪者のようには見えない。
私の息子だとしたらと、年齢を計算してみる。十七歳頃になっているはず。
確かにその年齢には見える。
もう一度その顔を覗き見た。冷静になって、まじまじと観察してみる。
夫だった高木義彦に似ているような気もする。しかし私には似ていない。
新手のオレオレ詐欺かもしれない。
「本当に洋一なの? 突然どうしたことなの、お父さんはこのことを知っているのかい?」
ドア越しに質問を投げかける。
「父は八年前に、急性肺炎で亡くなりました」と返答する。
「・・・」
すると、しばらくしてからチェーン・ロックの鎖が静かに外された。
外される音が消えると小さくドアが開いた。
落ち着いた声で彼女は「お入り」と言って、その隙間から我が息子の全身を見上げた。
洋一は、ゆっくりと玄関の中に身を入れた。
母は玄関から引き下がって、室内の板の間に立った。
二人は改めて、まじまじと相手の容姿を見つめ合った。
それはお見合いの時のように、静かで長い時間に思えた。
やがて実母の菜七子から口火を開いた。
「大きくなったね」
「はい・・・」
「いくつになったの?」
「十七歳です」
「背は大きい方かい?」
「はい、一メートル七十センチを少し超えていますが、平均です」
「あら、義彦よりも高いのね・・・」と前夫と比較する。
「あのう上がってもいいですか?」
「ああごめんね。すっかり動揺してしまって」と、言って後さずりする。
洋一は靴を脱ぐと、母が立っている正面に立った。
実母の背丈は継母の夏江よりも低い。体も小柄で痩せている。
そしてその顔は色白で、予想外の細面の美人。
年よりも若いいで立ち。
その息子を見つめる彼女の瞳からは、静かに涙が流れ始めていた。
洋一も胸が熱くなってきた。
咄嗟の思いで「お母さん」と言った。
すぐ無意識のままに、実母をその胸に強く抱きしめた。
母の菜七子が嗚咽を漏らしつつ、母子再会の感激に体を震わせている。
大きく成長した息子にきつく抱きしめられたまま、ようやくその顔をあげて口を開く。
「夢じゃないよね。洋一に会えるなんて、信じられない。どんなに会いたかったことか・・・」
「僕も母さんに会いたかった」
二人は十三年ぶりの再会に心を震わせ感激していた。
そして、熱い抱擁を解いた親子は、リビングのロー・テーブルを囲んで座っていた。
部屋はエアコンが効いていて涼しい。
そこには冷たい麦茶が置かれ、二人はそれを舐めるように少しずつ飲みながら、これまでのそれぞれの境遇について短く語り合う。
その話の際に、洋一は市役所で発行された戸籍謄本と附票の写しを母に手渡し、母子の証明を明らかにしてみせた。
やがて菜七子が初めて質問をした。
「それでどうして今日、初めて私を訪ねてくれたの?あなたは私の血の繋がった本当の親子だと判ったけど。事情があって離れ離れでした。いつかは会いたいと思うのが親子の情。でも、どうしてそれが今日だったのかしら? 何かあったのかい。例えば、困ったことが起こってしまったとか?」
「・・・」
「何か言えない事情でもあるの?それなら無理して言わなくてもいいのよ」
「言えない事情なんて何もない。金持ちの家ではないけど、学費やお小遣いに困ったこともなかった、家族ともうまくいっている」
「じゃ偶然なの。たまたま突発的に私に会いたくなったの?」
「たぶんそれに近いと思う。今朝起きて、ダイニングから青い空を見ていたら、女の人の顔が急に浮かんできた。それで、衝動的に僕を生んでくれた人に会いたくなった」
「それって私の顔かい?」
「違うと思う。僕は幼い頃に母さんと別れていたから、顔や声を覚えていない」
「まあ、そうなの。別れたのは確か四歳の頃、母の顔が記憶になかったのかい?」
「ごめんなさい。正直、記憶がなくて・・・それで多分、これまでお母さんにどうしても会いたい、という思いが湧かなかった。幼い頃の記憶が止まったままだった」
「うんまあ、可哀そうな子。私はいつでも、どんな境遇でも我が子のことは一時も忘れなかった。不自由なく暮らしているか、病気はしていないかと、一日だって忘れる日はなかった」
そう言うと菜七子は涙を流して、テーブルの上に体を伏せて大泣きを始める。
「母さんごめんよ。薄情なことを言って、ボクはバカな息子だ、許して」
洋一ももらい泣きで涙を流した。
長い時間二人は、お互いに涙ぐんで口を閉ざしていた。
菜七子は年に似合わず、水玉模様のミニワンピースを着ていた。
娘のようないで立ちで、年よりも若い感じ。
「母さんは働いているの?」
洋一が突然質問をぶつける。
伏せていた菜七子が上体を起こす。涙を手で拭いながら言う。
「勿論、働いているわよ。お前の父さんと別れてから、ずっと一人暮らし。生きるために働いてきた。たまたま、今日は会社がお盆休みなの。東京のお盆は七月だけれど、会社の都合で八月の今の時期に会社全体でお盆休みにしているよ。明日もお休みよ」
「そうなの。急に訪ねても、今日は勤めに出ていて留守かと思いながらも、突然会いたくなって来てしまった」
「いいのよ、長い間会えなかった二人だもの、親子の再会にアポなんて必要ないものね」
小さな笑みを浮かべた。
母が初めて微笑んだ。息子は少しほっとした。
「母さん、若くて美人だね。ビックリしたよ。二十代と言われても信じそうだ」
明るい声で言い放った。再び菜七子が笑顔を見せる。
「僕と二人で歩いていたら恋人に見えるかも」
「まあ、何とお世辞のうまいこと。あんたはお父さんと似ているのかな?」
「ええ、父さんに?」
「そうよ、あんたの父さんは、口が達者で女たらし。若い女とよく浮気していたもの」
「えっ、そうだったの」
「そうよ、今のあなたの継母になった人も、その一人だわね」
(男女の話はすべきではなかった。夏江母さんのことは悪く言わないで欲しい・・・)
洋一は、実母と実子が真の親子であることを実感したかった。
先程は涙の対面をしたのに、その母につらい過去を思い出させてしまった。
「ゴメン母さん、変なこと言ってしまって」
「何を?若く見えることって、女としては嬉しいことよ」と笑う。
少し安心する。
しかし、洋一は母の容姿に改めて驚いた。自分には似ていない。
想像していた母親像とは、あまりにも違う印象だった。
年よりも若く見え小柄で清楚な美人。
記憶にはないものの、母を訪ねる直前までは、何となく夏江と同じ年頃にあり、その連想で、姿は肉付きの良い背丈もある熟女だと先入観を持っていた。
それに反して、実の母は小柄で痩せていた。
夏江がグラマーで筋肉質の体形ならば、菜七子はチャーミングでキュート。
そのこともあって、よけいに生みの母親としてのイメージや記憶が思い出せないでいた。
自分の勝手な思い込みや錯覚による違和感ではあったのだが。
赤子のように
こうして現実に涙の再会を果たしものの、その直後でもあり、洋一にはまだ菜七子に実母の実感が湧いてこない。
二人の会話は紛れもない親子のそれだが、母としての実像がまだ生まれてこない。しかし、十三年間の長い空白では、しかたのないことではあった。
ただ洋一は、何とか幼い頃の母の記憶を呼び戻してみようと考えていた。
それには幼い頃の母子の触れ合いを思い出すことが必要に思えた。
「母さん、ボクは幼い頃の母さんを思い出したい」
「そんなこと、簡単には思い出せないわよ、長い年月が通り過ぎているのだもの」
間髪入れずに言う。
「あのう、それで一つお願いがあります。貴方のオッパイを吸わせてください。赤ちゃんになったつもりで、お母さんのオッパイを吸いたいのです、ダメですか?」
菜七子は驚いて、すぐに返答ができなかった。
一呼吸おくと「何を馬鹿なことを言っているの、そんなことできるはずもない。ダメに決まっているわ!」と、そのリクエストを突き放す。
うな垂れて見せるも、少年はすぐにもう一度哀願する。
「母としての貴方をどうしても思い出したい。赤ちゃんの頃、ボクは母さんのオッパイを吸っていたのでしょう?」
「そりゃ吸っていたわよ。昔は先ず母乳を与え、それからミルクに切り替えるのよ」
「だったら母さんもボクも、その頃の授乳の記憶をより戻すことができるかも知れないよ」
「ダメそんなこと、できっこない!」
「お願い母さん!!」と言うと、身を乗り出して菜七子に近づいた。
その強い言葉が響いたのか、菜七子は母親の眼差しになって、若き頃の母親としての、あり日の自分の姿を思い浮かべていた。
(ああそうだわ、確かに、あの子は私のオッパイを夢中になって飲んでいた)
赤子の頃の洋一の顔が菜七子の脳裏に浮かんできた。
(しかたないのかしら、駄々っ子なのね。私の赤ちゃん・・・)
在りし日の幼子と今の息子が、頭の中で錯綜する。
少年は募る想いに胸を熱くして待っていた。
その母も母性本能から、胸を焦がし始めるのであった。
「しかたのない我が儘な坊やね」
そう、つぶやくとワンピースの両肩の紐を解き、上半身を晒した。ノーブラの胸に輝く白桃がくっきりと、その可愛らしさと清潔感をみせる。
ミニスカートの膝を斜めに揃えて座り直す。
痩せて透き通るような真っ白な肌。
それをはにかむこともなく、我が息子に晒して見せる。
茶碗型の白桃はほどよく隆起し、可憐なほどに輝いている。
「洋一、一度だけよ。絶対に」
「うん分かっている。母さんを思い出すようにする」と、自分の膝を母の前に進めた。
二人が座った姿勢で対面し、お互いをしっかりと見つめ合う。
それぞれの視線が緊張にするどく光る。
母親は息子の顔を凝視し、息子は母の胸を食い入るように見つめていた。
「始めるよ」
洋一が号令をかけ、乳吸いを始める。
膝立ちの姿勢で母の胸前に屈むと、すぐさま左の乳頭を口に含んだ。
やさしく舌で舐めた後、その乳首に吸い付いた。
チュルチュルと小さな音を立てて、吸い付きを小さく繰り返す。
乳首が少し尖りを示した。それを確認すると、今度は右側の乳房に唇をよせる。同じように、チュルチュルと音を立てて、小さな吸い付きを繰り返す。
洋一は下から母の表情を盗み見た。
眼を閉じて平静さを保っている。嫌悪感はないようだ。
少し安堵した。
少年は赤子になった気持ちになって、出ることのない乳を期待して喉を鳴らす。
もしかしたら、この行為を続けている内に、突然に乳が出るかも知れない。
現実にはあり得ないことを連想する。
母の乳が飲みたい、とせがむ赤子の気持ちになっていた。
しばし清潔そうな左右の乳首に吸い付くのであった。
そのうちに、母はしばらく続いた同じ姿勢に疲れたのか、上半身を後ろに倒すと両脚を投げ出した。
その動きにもかかわらず、少年は乳首に吸い付いたまま、彼女の上体に柔らかく覆いかさぶった。
少年は乳がこぼれ出ることのないことを悟りつつも、それを期待するように両乳房を掴んで揉み施す。
続いて、片方ずつ乳房を手で握り乳首に吸い付いた。それを何度か繰り返す。でも乳は出ない。
当然の事だが、それでも少年は赤子になったつもりで、その演技を続けた。
「出ないよ、オッパイ」と、子供のように甘えた声で母の耳元に囁いた。
「疲れただろう。どうだい昔の私を思い出したかい?」
「うん、少しだけどお母さんだと感じてきた」
「じゃ、もうそろそろいいだろう」と虚ろな瞳で言う。
それでも少年は母の体に取り付いて離れようとしない。
「母さん、もう少し続けてみたい。我慢してくれる?」幼子のように甘える。
「仕方ない子、もう母さん・・・」
その駄々っ子のような言い分を聴くと、静かに眼を閉じて再び赤子の吸い付きを受け入れる。
しかし、自分でも赤子を生んだ直後の母親になっていることには気が付かない。
少年は徐々に乳房の握りを強くした。
夏江に教えてもらった乳揉みのやり方を試してみる。
乳房全体を強く揉んでは乳頭を口に含み、舌で捏ね回した。
さらに、乳頭を吸い込んだまま、乳首を噛んで強く引っ張り上げた。
両の乳房に等しくそれらを執拗に繰り返した。
この行為を長く続けると、女への愛撫になってしまうことを二人は気が付いていた。
でも、そのことを口に出さないようにする。
続けたい行為と続けられることも否定せずに、二人はその営みが静かに流れ続けることを期待する。
親子の狭間(はざま)
最初に動いたのは息子だった。
乳房に纏わり付くことに飽きたのか、口を女の胸元から離し、その顔を覗き見た。女は口を半開きにして、虚ろな目で天井を見ている。
彼は生みの母の体内の奥深くに、うねりくるものが動き出していると直感する。母はそれにじっと堪えている。
この後に起こることが怖くて、言葉を発することができないでいた。
洋一は、母が幼い頃の息子を想い出して、夢の中にいるのではないと思う。
女としての秘めた欲望の炎が静かに胎内で蠢動(しゅんどう)しつつあり、それを懸命に耐えている。長い間に忘れてしまった肉の喜びの嗚咽(おえつ)をがまんし続けている。身を悶えて声をあげてしまえば、愛欲の嵐に襲われ禁断の淵に自分を失ってしまう。
今は時がゆっくりと流れ、この体に宿りつつある熱き疼きが静まるのをじっと待っている。
少年は、湧き出ようとする欲望の炎を懸命に抑えている母の姿が哀れに思えた。母は、実の息子とともに、地獄の淵に陥る過ちを犯すことはできないと苦しんでいる。
自分はどうしたら、いいのか。
継母の夏江の場合とは明らかに違う。
自分を生んだ実母の菜七子である。
静かにその女の顔を見入る。
その美しく可憐な顔が、彼を見つめて小さく微笑んだ。
その吹き寄せようとする愛欲の嵐は去ったのであろうか。
否、違っていた。
女の瞳はすでに虚ろ。おそらく自分でも、その笑みにさえ気が付いていないはず。すでに自分の体と心がコントロールできていない状態にある。
十七歳の少年はそれほど理知的ではない。
それでも常識や社会のルールを守ることを身に着けている。
迷う。
継母とは肉体的な関係を結んだが、実母とは全く違う次元の壁がある。
ただ継母と結ばれたその経験は、逆にその禁断の意識をやわらげてしまう流れがある。
今の二人は、それぞれその狭間にあった。
女はその冷静な判断ができない状態にあって、無意識のうちにその判断を少年に委ねてしまっている。
おそらく女は、少年のどちらの判断でも受け入れられる状態にある。
だが少年はそのことを知らいない。女が苦悩している様子は分かっている。
その判断は、単に母の悶え苦しむことを救うのか、それとも救わないままにするのかにあった。
それは、少年らしい母に対するやさしさにあって、その判断を決めかねている。人間の道としての在り様よりも、今どうしたら母のためになるのかを真剣に考えている。実の母は本当に、どちらを望んでいるのかを見極めている。
若い洋一は熟慮することなく決断した。
夏江を始めとする身内の女性達との愛欲の経験から、女が最終的に望むのはやはり肉欲だった。
今の母も口には出していないが、肉欲を望んでいるはずと確信するのであった。
(可哀そうな母さん・・・ボクが母の体に炎を灯してしまった。今すぐ楽にしてあげる。いけないことだけれど、きっと母さんは許してくれて、むしろ喜んでくれるはず)
正直に言えば、さきほど会ったばかりの母には、その実母としての実感がないままだ。
美しく可憐にみせる女性が、白い柔肌を晒して静かに待っている。
二人は、禁じられた近親者との愛欲の濁流に飲まれていく。
少年は早く、母の身と心を楽にしてあげたいと逸る。
再び、すぐに輝く白桃に唇を這わせた。
その唇と舌は、女の首筋を這い耳朶にも届く。
その耳の穴に舌を捻じ込む。
「ああっ」と声が漏れた。片方の耳にも舌を捻じ込んだ。
再び「ああっ」と漏れる。
女の顎を手で少し上げ、ついにその可憐な薄い唇を奪った。
堰を切ったように二人の激しい口吸いが始まった。
少年の舌が女の口内を動き回り、舌を絡ませた。
より強く吸い寄せたのは女の方だった。女の両腕が少年の首に巻き付く。
二人の唾液が溢れ出る。
長く舌を絡み合わせた。
苦しくて女が先に舌を放した。
「ハァ、ハァ~」と苦し紛れに呼吸も乱れる。
もう目は完全に虚ろな状態で、少年の顔も歪んで見える。
精神状態が混迷の霧に陥っている。
久しぶりの愛欲のキスなのだろう。
とうとう、もう止めることができない肉欲の火ぶたが切られていた。
禁じられた母子の愛欲の行為。
この二人を誰も止めることができない。
彼方遠くにある、人が踏み入れることのない桃源郷の世界に迷い込んでしまった。
禁断の愛
「母さん」と少年は女に声をかける。
「どうしたの?」女は顔をあげて、下方にある少年の様子を覗き見る。
「母さんこれから始めるよ、いいね」
女は辛抱強く欲望の嵐を押さえていただけに、少年のその言葉に安堵するとともに、体の中が一気に熱くなった。
同時にその身も心もノンストップ状態に切り替えられていった。
「待っていたの、よく決心してくれたね。私も覚悟できた」と言う。
女の体にゆっくりと覆いかさぶった。
挿入の前に、女の顔に寄せてその唇を貪る。
先ほどよりも、長くしつこい濃厚な口吸い。
女は再びのキスに喜び勇んで、舌に巻いた少年の舌を放そうとはしない。
彼は自由にさせる。
やがて女の口から唾液が零れ落ち、顎の下まで流れ落ちた。
愛されることの喜びに小躍りする女が主導する長い口付けだった。
落ち着くと、女は次のステージに移ることに気が付く。
「キスがうまいわね」急に言う。
「・・・」
洋一の顔を見て口を開く。
「女を抱いた経験があるのかい?大丈夫よ、心配なら母さんの言うとおりにやってみなさい」
と言う。もう女も吹っ切れて腹を括っていた。
「もう洋一じゃない。私の可愛いただの男だよ」
禁じられた肉欲の解禁を宣言する。
二人は近親相姦の禁を破って激しくその体を求め合った。
女の額に汗が拭き出し、虚ろな目で天井を見ている。
「母さん」と呼びかける。
「母さんなんて言わないで、愛し合う時は菜七子と呼んで!」
女は動かない。いや動けない。
久しぶりのアクメに達しただけでなく、予想に反して息子が女を攻め立てるうまさに驚きを隠せない。正直、童貞で女の体を知らない初な男だろうと、思い込んでいた。
今はその予想が外れて、その男にまるで生娘のように肉体の喜びを味いわされてしまった。
それは、この息子にこれからも蹂躙されてしまうという恐怖感でもあった。
お金の無心
親子の体が離れた。
「洋一、一休みさせて頂戴。母さん久しぶりのセックスでクタクタ。シャワーを浴びさせてね、お前も流してあげようか?」
「ああ、でも少し休んでから、浴びさせてもらうね」
菜七子は裸のまま立ち上がると、風呂場へと歩きを進める。
その背中はしみが一つもない白い肌。
余分な肉は一切なく、と言って骨ばかりのガリガリの体でもなかった。
臀部も太腿も柔らかな肉がついている。
何一つ無駄のない完璧な柔肌を備えていた
洋一が驚いたのは、その母の痩身で研ぎ澄まされた肢体だけではなかった。
男を魅了する艶めかしい腰つきで歩く姿だった。
しとやかで、なまめかしく柔らかな腰を僅かに揺らして歩く。
楚々(そそ)として奥ゆかしさと気品がある。
腰は誰でも五つの骨で構成されている。
彼女はそれらの全てが同時に起動して、クネクネと歩くたびに腰を柔らかく動かしている。そのような歩き方は、窈窕(ようちょう)と呼ばれている。
それは上品な色気をたっぷりと際立てさせている。
息子と結ばれ熱く火照った体を、シャワーの冷たい水で洗い流す。
何年ぶりのセックスだろうか。
すぐに記憶が戻せないほど久々の愛の交歓だった。
その男は自分が腹を痛めて生んだ一人息子。
まだ十七歳の少年だが、性経験が十分にありそうだった。
この先にある息子との成行きに一抹の不安が過ぎった。
しかし、今得たばかりの肉体の喜びが冷静な判断を拒んでいた。
考えても答えが浮かばない。本当はそれほど尋常ではないことが起きている。しかし、それに気が付かない。否、気が付きたくなかったのだ。
菜七子が風呂場から出て来ると、入れ替わって洋一がシャワーを浴びに行く。
彼はいつものように、頭と全身に液体石鹸を塗りシャワーで洗い流した。
洋一は、今朝からの自分の行動を脳裏に蘇らせていた。
昨夜には全く考えていなかったことが、現実として動いたことに自分自身でも不思議さを感じる。新しい行動は新たな現実を作れる。
結果的によかったどうかは、自分自身では分からない。
しかし、行動する勇気や意志があれば、これまでとは異なる、新しい環境が作れることを知った。
でもこれから、どうするかも重要に思えた。
それは、実母とのこと、継母との愛のゆくえのこと。
袖ケ浦の団地での家庭生活、学生生活やバイトのことなど。
さらには、祖母との肉体関係と養子の件。
叔母達との戯れなど、どう決着させるのか自分自身では明快な答えが浮かばない。もうなる様に成れとは、いかないことだけは確か。
具体的な思案が必要だった。
さらに、今は実母に再会しその美貌の女を抱いてしまった。
そのインパクトは強烈なものがあった。
初めて、このままではいけないと悟った。
これまでの自分ではいけないのだと強く確信した。
すると自然に涙が零れた。
それに伴って、いつかテレビで見た『星屑の町』の映像が頭の中に蘇る。
それは長野県の佐久にあった。
その満天の星空の夜景には、いわれようのない感動を受けた。
それを見たときに「あの星空の下で生きてみたい」と素朴な夢をみたことが蘇った。
そして今、改めてあの無数の星が夜空に輝く町で、生きてみたいと胸がときめいた。
もう、これからは一人で生きていく。
このままズルズルと溺れるような生き方はサヨナラしよう。
みんないい人でやさしい。それ故に離れがたいのだ。
でも、いつかはケジメが必要になる。それは今しかないと判断した。
出来る自信はないが、やるしか自分の道は開けない、と男の決心をする。
母の使ったバスタオルをそのまま使って、腰に巻いて部屋に戻った。
気持ちは晴々としていた。もう迷いはない。
部屋のテーブルの上に冷やした蕎麦が二つザルに乗っていた。
「量が少し足りないけど食べましょう」菜七子が言う。
二人は、これまでの緊張と興奮の連続で昼食のことを忘れていた。
「ごめんね。気が付かなくて、お腹空いていたでしょう」
「母さんに会うことに夢中で、忘れていたよ」
風呂から出た格好でそこに座った。
二人は顔を見合わせて笑みを浮かべる。食事をしながら、菜七子が訊ねる。
「今日は当然帰るわよね」
「うん帰る」
「何時ごろに帰る?」
「夕方前に帰る、夕食までに帰らないと心配のコールが入る」
「まあそうだろうね、でも少し寂しいわね母さん」
もう親心になって、息子を手放したくない気持ちがつい出てしまう。
「また来るよ、いいでしょう?」
「勿論。母さんは洋一にいつでも来て欲しいわ」
アッと言う間に軽い昼食を終えた。
そのタイミングを逃すことなく、いきなり洋一は母に話しかける。
「母さん、お金貸してくれる?」
菜七子は息子の唐突な申し出に驚き、すぐに答えることができなかった。
(・・・)
しばらくして落ち着いた声で話す。
「何よ、いきなりお金の話しをして」
少し、怒った顔をしてみせる。
「ごめんなさい。黙って十万円貸してくれませんか?」
「洋一、本当はお前、最初からそのお金のことで私に会いに来たの?」
「違う、たった今風呂場で突然思いついた」
「まあ、何と単純な。でもそのお前の言葉を信じるわ。洋一は嘘つけない人間に思える。今日の短い出会いだけど、母さんには母としての直感で良く分かる。でも、その使い道だけは教えて頂戴。それがお金を貸す条件よ」
「分かりました。言います。ボク家出をしたいのです」
「ええっ!家出。次から次に母さんを本当にビックリさせる子ね」
「ゴメンナサイ」
「本当に、今日は何という日なの。突然会いに来て、オッパイ吸わせろと言ったと思ったら、年増の女の体をいとも簡単に翻弄する。それも実の母親を」
続けて言う。
「家出してどこに行くつもりなの?」
「今は言えないけど、落ち着いたら連絡します」
「・・・」(若い娘と同棲でもするのかしら)
「必ず連絡を入れます。働いて金が貯まったら返却します」
しばし考える。
「わかった。いいわ、お金は貸します」
約束してしまった。母性の弱みでもある。
「ありがとう母さん、無理言ってばかりでゴメン、今日会ったばかりだけど、母さんだから貸してと言える」
一呼吸をおいてから、菜七子は提案を試みた。
「ねえ洋一・・・お母さんと一緒に住むことでは、いけないのかしら。それも家出の一つの選択肢にならない?」
洋一はうな垂れた。それもいいかもと、一瞬、同意してしまうところだった。
「母さんゴメン。それはできない。一人になって生きてみたい」と語調を強めた。
「母さんと暮らすことが何故ダメなの?私達親子でしょう。それも血を分けた本物の親子、長い間、離れ離れで暮らしてきた空間と時間を二人で埋めましょう」
「母さん、その血を分けた親子だからこそ、一緒に暮らせない」
「ええっ、何故?」
「何故って、朝も晩も一緒に同じ屋根の下に住んでいたら、今日の様に愛し合う男と女になって、それが続いてしまう。ボクは今、母さんが愛おしい女になりつつある。共に暮らしていたら、この想いはますます強くなる。その先がどうなるのか・・・ボクはまだしもそうなる母さんのことを一番心配している」
「そうなるのかしら、なら言うわ。お前と暮らせたら、私はお前に抱かれないと約束する。男と女にならず、血を分けた親子として一生それを通す。それならいいだろう」
「お母さんは、本当にそれができると思う? ボクはできない。これまでの二人の長い空間が、貴方を魅力ある一人の女としか思えなくしている」
そこまで息子に言われて、菜七子は一緒に暮らすことを断念するしかなかった。
確かにその言い分は正しかった。
二人の再会は親子ではなく、成長した男とまだ男を受け入れることのできる生身の熟女だった。
幼い頃から一緒に住んで、長年その子供を育てていれば、それはどこまでも母と子なのに。
「分かった。もう何も言わない、お金は明日用意しておくから、いつでも取りにおいで。明日も母さんはお休みの日。家にいるからね」
「ありがとう菜七子さん。否、母さん」
いつの間に溢れ出ていた涙を手で拭った。
窈窕 (ようちょう)
「さあ食事も話も終わり、これから戦闘開始するよ。いいね、私をすぐにお抱き、私の可愛い色男」
息子は何の抵抗も示さない。
「はい、母さん待っていたよ」と言って、体からバスタオルをとり、若い肉体を母に見せつけた。
女も慌ててすぐ裸になる。哀しみに堪えながらも立ち上がる。
腰に両手を当てて誘惑のポーズをとる。すぐに腰を突き出して、その清楚な恥毛と秘密の肉の扉をみせつける。
すぐに抱き合った。激しく口を吸い合う。
女は抱き合ったままで少年を床に倒す。
少年は驚いた。
女はすぐに馬乗りになって、息子の胸板に手をついた。
すぐに再び激しい口吸いが始まった。
その直後、二人は再び、近親相姦という禁断の性愛の中をさ迷った。
二人はこれ以上ない男女の喜びの世界に陶酔する。
そこには、母も子もないむき出しの愛欲だけが漂う。
実の母の中にたっぷりと蒼き飛沫を流し込んだ。
実母のなまめかしい柳腰を愛おしく感じるとともに、罪深い愛の激震の中で背中に冷たい汗が流れていた。
菜七子は二度目の愛欲に、女としての喜びと悪魔の美徳に酔いしれていた。
これまで一日たりとも忘れることがなかった我が子との突然に起きた涙の再会。その息子が逞しい一人の男となって、母の私の肉体を攻め立ててくれた。
もう息子ではなくなった。
愛おしい一人の男になったと感じた。
これまで閉じていた女の性と、持ち続けてきた母性愛とが、絡み合った不思議で魅惑的な出来事だった。
実直な少年のその若き肉体は、想像を越えた逞しさと未知の刺激を隠し持っていた。
これほど巧みに、女の体を喜ばせる技巧を秘めていたとは予期していなかった。その男としての魅力に驚くばかりだった。
この新鮮な肉体を味わい続けることには、女として何の罪悪感もない。
むしろ、今与えられた肉体と精神の喜びが、当然あって然るべきとも考える。
魔性
火照った体に再び、冷たいシャワーを浴びさせた。
今まで男を受け入れていた魔性の穴倉にも流し入れる。
永年、静かに眠っていた陰肉が自分の息子によって、蒸れた奥肉になってしまった。もう今の私は母親ではない。
離婚後に男女の関係になったことはあった。
だが、結婚に至るような恋愛関係には発展しなかった。
それは一人息子と会うための決意でもなかったものの、心のどこかで息子の行く末を母として案じていたのも事実ある。
でもそのことは、再婚の障害でもなかったはず。
一人になった風呂場で、突然、嵐のように起きた半日を振り返る。
十三年ぶりの突然の実の息子との再会。
それは何の前振れもなく衝撃的な出会いだった。
何が起こっているか分からないほど、夢の世界からの訪問者だった。
まさに青天の霹靂(へきれき)。
その突然の再会の衝撃よりも、さらに予想を遥かに上回る異常ともいえる親子の交わり。遠いその昔の赤子と乳を与える母を思い出すために、十七歳の少年が私の乳首を吸って、女の体内に永く眠っていた肉房と桜の蕾に快感を呼び戻した。
その後は、自制心を失った男と女になって禁断の世界に陥った。
そこまでは近親相姦という罪悪感があった。
しかし、親子で男と女となっても、先行きには夢にしてもいいと思うほどの新しい世界がそびえていた。
だがそれは、儚い一瞬の思い込みだった。
私の肉体にこれからも刺激を与え、母としての夢を与えてくれるはずのその男は、育ての親とその家族をも捨てて、今日晴れて涙の再会を果たした生みの母までも置き去りにしてまで、一人旅立つと言う。
「何なのよ、私の母心を無視して・・・」
思わず不満の嗚咽(おえつ)を漏らしてしまう。
落胆したせいもあり、風呂イスに腰かけてもう一度洋一の家出の深層について冷静に考えてみた。
今日初めて私を訪ねて、思いも寄らず実母の私を抱いてしまった。
それだけならば、何も今暮らす継母の家庭まで捨てて家出をする必要はない。私との関係で罪悪感があるならば、二度と私を訪ねて来なければいいはず。
何故今も暮らしている習志野の家族まで捨てて家出をするのかしら。
女は、そこに大きな疑問を抱いていた。
大学受験などの悩みや金銭問題は、家出の理由ではなさそう。
若いガールフレンドとの駆け落ちでもなさそう。
(じゃあ、家出する本当の理由は何なの?・・・)
しばらく裸のまま冷静に推理する。
やがて、一つの結論が浮上した。
(・・・そうなのね。やはり、それしかないわね、と結論付けた)
立ち上がると、もう一度シャワーを浴びる。
(そうだったのね、継母の女と肉体関係ができていたのよ。男と女の愛欲の世界が続いていて嫌気がさした。それが家出の直因に違いない。継母との肉体関係のせいで、洋一は性経験を積んで、十七歳の若者にしては性技が豊富で技巧に長けている。継母にいいようにオモチャにされていたのよ)
家出の直因を導き出すと、自分の取るべき行動と決意を考える。
(分かったわ、それならば、あの子の気持ちがよく理解できる。私との今日起きた愛欲だけに、罪悪感を抱いたわけじゃない。継母と切れない肉体関係が続き、その家族との生活から逃避したかったのよ。それであるならば、あの子の家出を母としては支援しなくてはいけない。それが母としての努め、私と暮らせないのであれば、継母の女にあの子をこれ以上預けるわけにはいかない)
そう悟った菜七子には、母親としての母性愛、そして、女としての嫉妬の競争心も働いていた。
そこに結論が落ち着くと、彼女はすぐさま風呂場を出て少年の居る部屋へと速足で行く。
第十一章 星屑の町
生みの母を訪ね、十三年振りの涙の再会を果たした洋一は、複雑な気持ちで自宅に戻った。しかし、この家を出て行く決意はできていた。
すでに継母の夏江は仕事から帰宅していた。
彼女には、メールで友達の家に遊びに行くと伝えてあった
「ずいぶんと遅いじゃないの、こんな時間まで何していたの?」と、柔らかく訊ねる。
「友達の家で、だべって過ごした、昼からはゲームセンターに出かけて遊んでいた」
「あら~珍しいこともあるのね。久しぶりに少年に戻ってストレス解消してきたのね」
「ああ、面白かったよ」
「夕ご飯を食べるでしょう?下の子たちは食べ終わったけど」
「お腹すいているよ」
「じゃ母さんと二人でいただきましょう」
二人だけで食事をする。
洋一はその時、食事をする母の姿を柔らかな眼差しで見入っていた。
(これが母さんとの最後の夕食・・・)
そのことを知らず、母は愛おしい我が子、いや恋しい男の顔を見つめては微笑む。
少年はその母の視線を感じ、後ろめたい気持ちになって俯き加減で食事をした。
二人の静かな食事が終わった。
洋一は「疲れたので風呂に入ったらすぐに寝たい」と告げた。
「さぞかし疲れたのだろう。汗もかいている。シャワーで流してすぐに寝なさい。それとも、母さんが体を流してあげようか?」
(それはまずい、菜七子母さんの女の匂いが肌に残っているかもしれない)
「自分で洗うからいいよ。母さんに触られたら欲しくなっちゃう」
作り笑いを浮かべる。
夏江も笑って「母さんは生理中だからできない。まあ一人で洗いなさい」と言った。
その夜、洋一は何も考えずに爆睡した。
別れの朝
翌日の金曜日。高木家ではいつもの朝が始まっていた。
家族四人のささやかな朝食のひととき。
それは、いつもと変わらぬ平穏な食事の風景だった。
ただ洋一は、一人だけ感傷的な気持ちに襲われていた。
食事も喉に通らないほど、緊張と不安に襲われていた。
母と妹弟の姿を瞼にしっかりと焼き付けている。
「どうしたの?洋一食欲がないのかい?」
夏江が心配してやさしい声をかける。
その声を聴いただけで、少年の胸はきつく締めつけられてしまう。
泣き出しそうだった。
「そんなことない。心配ないよ、母さん」何とか答えた。
「そうかい、ならいいけど。ちょっと心配ね」
こうして洋一の高木家における最後の団欒の朝食は終わった。
いつものように下の子供は自分たちの部屋へと戻り、夏江も急ぎ身支度を整える。洋一は悟られないように、お別れの視線を送り続ける。
「洋一、出かけてくるわ!」
いつもの明るい夏江の声が玄関から響く。別れの時がきた。
彼は急ぎ玄関へと走る。
夏江が笑みを浮かべて立っている。おでかけのキスを待って体をよじっている。すぐに思い切り母を抱きしめた。
それは強く、強く抱きしめ続ける。
あまりの腕の強さに抱きしめられて女は口吸いもできない。
ようやく女をきつく抱きしめる少年の腕が和らぐ。
すると、すぐさま夏江は唇を奪われた。
激しく燃えるような口付け。
まさに愛し合う男と女の激しくも愛おしいキス。永遠の別れになる最後の口付け。
(サラナラ母さん、愛おしいボクの夏江さん・・・)
心の中で叫び続けていた。
熱い抱擁が解けると、夏江は笑顔になって玄関を飛び出して行った。
最後に見る母の、いや女の後ろ姿が悲しかった。
準備
自分の部屋に戻ると、すぐに家出の準備に取りかかる。
先ずは短パンを脱いで、ジーンズとTシャツに着替えた。
ディバックを取り出すと、下着とパンツ、夏江にプレゼントされたスタンドカラーの半袖Tシャツとスエット・パンツを詰め込んだ。
着るものは全て夏物だけにする。
さらに、アルバイトで貯めた金と、祖母や叔母の千恵子からもらったお小遣いを財布に入れた。そこには免許書と印鑑も入れる。
それから、急ぎ書置きを残す。ボールペンで走り書きをする。
<家出します。探さないで下さい。遠い田舎町で働き一人で暮らしていきます。母さん、これまで育ててくれてありがとう。実の子供の様に愛してくれて感謝しています。サヨナラ夏江さん、愛おしいボクの母さん>
ダイニングの食器戸棚の上にそのメモ置き、自分のスマホも静かに置いた。
家族の安否探しや警察の家出人捜索を拒絶するために、自分の今のスマホは携帯しないことにした。
最後に子供部屋を開き二人の妹弟に、昼食のことと自分が出かけるので仲良く留守番をするように言った。そばに寄って、二人を抱きしめてやりたかった。しかし止まった。
踵を返すと、ディバックを抱えて急ぎ家を出た。
振り返ることもなく、一目散に走り出した。JR津田沼駅まで足早に歩いた。すぐに東西線に乗り南砂町駅に向かう。
もう頭の中は実母の住むマンションに変わっていた。
目的は一つ、お金を借りて別れの挨拶をすること。
惜別
昨日に続き、若い真夏の訪問者は呼び出しのインターホンを押す。すぐに返答がないまま、静かにドアが開いた。
「お入り」落ち着いた声で母の菜七子が言う。
洋一も挨拶の言葉をすることもなく室内に入り込んだ。
「待っていたよ、お前の言う通りにお金を用意してあるから安心しなさい」
「ありがとう母さん」と、立っている夏江の前に近づき、そのスレンダーな体を抱きかかえようとする。
ところが、彼女はそれをするりとかわしてリビングへと向かった。
ロー・テーブルの上に白い封筒が置いてあった。
二人が座ると母が口火を切る。
「足りないといけないので、二十万円用意しました。それでも足りない時には、遠慮なく私に甘えなさい。もう二度と習志野の家に戻ってはダメ。お前の事情が変わったり、気が変わったりしたら、遠慮なく私に相談しなさい。勿論、私と暮らしたいと気持ちが変わっても、私はいつでもお前を受け入れるからね、いいわね」
「はい、もしそのようになったら甘えるかもしれません。こんなに大金を用意してもらって申し訳ありません」
「大金だなんて、アパートの敷金と家賃、それに当座の食事代ですぐ消えてしまうわ」
「お金が無くなる前に、必ず仕事を探します。住まいは佐久で探します。そこには新幹線の駅もあります。ただ、お店や会社は少ないようなので、仕事は近隣の軽井沢町で探します。そこは冬でも観光客が多いので、バイトなら探すことができると思います」
「わかった。そこまでよく考えたね。でも十七歳のお前は未成年だから、アパートもバイトも簡単には事が運ばないこともある。困ったらすぐに私に連絡するのよ。昨日、私のスマホの番号を教えたわよね」
「聞いたよ、ただボクのスマホは家出捜索を拒むために、家に置いてきた」
「まあ~、それじゃ私から連絡できないじゃないの」
「そうしないと家出にならない。断ち切れない」
「じゃ新しいスマホを買ったら、必ず連絡しなさいよ」
「わかりました」
「それから、これを持って行きなさい」と、ミニワンピースのポケットから一つの指輪を取り出した。
「これは貴方の父親が私にプレゼントとしてくれたもの。けっこう無理して高い物を買ってくれたみたい。プラチナの貴金属に小さなダイヤが乗っているわ、私の形見にしてもいいし、お金に困ったら処分してお金にしてもいいのよ」
「ありがとう、お母さんのこと忘れない。これ大事にする」
「今日は何時に行くの?」
「すぐに住まいを探したいから、午後には長野県に入りたい」
「じゃ、あまりゆっくりと、名残を惜しんでいる暇はないわね」
「そうだね」
しばらく沈黙が続いた。
二人の気持ちはすでに一つに繋がっていた。
十三年振りの涙の再会と血の繋がりを越えた愛欲の激震が二人の体に蘇る。
その肉欲の蠢動を振り切るように、菜七子は気を静めて我が子に訊ねる。
「昨日お前は、風呂場で急に家出することを思いついた、と母さんに言ったわね」
「確かに言ったけど」
「母さんは、それは違うと思う。お前は隠して誤魔化していることがある。私を訪ねて来た時には、既に家出することを決心していた。おそらく習志野の家を出て、私を訪ねる動機になったのは、はっきり言うけど、継母の女と深い関係に陥っていたからでしょう。その続く愛欲の日々にケジメをつけたかった。それで、瞼の母を訪ねて、その悪夢を忘れようとした。それとは知らずに、私もお前に魅了されてしまい、禁断の世界に陥ってしまった。とにかく私との関係は罪深いことだけれど、それは貴方の家出を最後に少し押しただけだったのよ」
少し涙ぐんでいた。しかし、堪えてさらに話を続ける。
「その結果、お前は私のことまで忘れようとした。それでも私は、継母の女も恨んではいない。私もいけない同じ女豹なのよ。若い男を貪る(むさぼる)熟女に変わりはない。でも、継母の人は忘れて頂戴。けれども、私を忘れては絶対ダメなのよ。私は貴方を生んだ母。そのことは永遠の事実。例えば、貴方には、私が老いてしまったら、法律で私を扶養する義務があるの。だから、永遠に惜別することはダメ。法律上の親子の血筋として生きている限り、永遠の別れは適わないこと」はっきりと言い切る。
「じゃボクはどうしたらいいの?」
確かに、魅惑の裸体で誘惑する彼女達の前に立てば、メラメラと燃えてくる自分も制御できない。
愛欲の乱れに自分への戒めを含め、その運命の迷い道の悲憤に耐えられなかったのは事実。
それで逃避するための家出を決めた。
そこで、実母との再会にその解決の糸口を求めて訪ねて来た。
でもその母は、想像を遥かに超えた美しい女。
儚くも(はかなくも)、それは一層罪深い禁断の道への契機になってしまった。であれば、全て関わり合った女達の前から消え去り、遠い彼方の地で、一人で生きていくことしか残されていないと思う。
それでも、老いた実母には会いに来て親子の絆を繋げと言う。
(それならばできそうだ。生みの母を忘れてはいけないのだ。だったら再会を果たしたことは悪くない。いつかは果たすべきことだったのだ)
菜七子は、腹を痛めた自分の子供に重ねて言う。
「今は家出してもいい。でもいつかは、再び私に会いに来て頂戴。継母と今の家族のことは忘れてもいいもの。だから家出を許す。遠い彼方に出奔していい。そして、私と今から暮らすこともしなくていい。但し、いつかは私の所に戻って来て欲しい。この私の子宮からお前は生まれた。この私の母体こそがお前の帰るべきふる里なのよ・・・」
「ボクの全てをお見通しだったの・・・よく分かったよお母さん」
「私も継母の女も、身近にいる若いお前が放つ男の魔力に魅了されてしまった同じ女。似ているのかしらね。二人の母のうち、どっちが好きかなんて馬鹿な事は聞かないよ。もういいの。もう女の私は忘れて頂戴」
少し投げやりに、かつ酔ったような捨て鉢な言葉を吐く。
最期の禁断
そして、涙を流し大泣きを始めた。
そこには、すぐに別れしまうことの寂しさや悲しみが漂っている。
洋一も悲しかった。この人を悲しませてはいけない。
でも別れなければ、いけないのだ。
少年は泣き崩れる母の背中に手をおいて、苦しみを和らげようと片手でゆっくりと摩ってあげる。
「母さん、ゴメンね。こんなに苦しませて」
すぐに両手に切り替えて、再び背中をやさしく摩る。
菜七子は伏せたまま、顔だけを後ろにいる洋一に向けて言う。
「やさしすぎるよ、お前は」と言う。
そして、体をひっくり返して、座っている少年の顔を涙で潤んだ美しい瞳できつく見つめる。
すると、涙顔のままに言い放つ。
「私を抱いてから、好きな所に勝手にお行き!」大声で言い放つ。
少年は、驚くこともなく拒むこともせず、すぐさま母の体に覆いかぶさる。
「こんなに母さんを苦しませてごめんなさい。今のボクはこれでしか、親孝行ができない。許して」少年も震える声で言う。
急ぎ女の顔に顔寄せると、彼女の髪を両手で掴み押さえ込む。
と同時に、額に唇を這わせる。
さらにその唇は、額、瞼、鼻筋、頬へと進む。
次に舌を両の耳朶、耳の穴、首筋へと這わせる。少年は堰を切ったように暴走列車となった。
女の体からミニワンピースをすばやく剥ぎ取る。
白い清潔なスキャンティも両手で脱がす。
真白な痩身の上体に白桃が眩しく輝いている。
口吸いをしながら、女の恥骨に牡肉を擦りつけていた。
次に、女の黒髪を左手で掴み、後ろに引きつけ顔を仰向けにする。
再び激しく口を吸った。
しばらくすると、女は全身を息子に晒して見せた。
痩せて柔らかな白い肌が、足を開脚させ受け入れる姿勢を整えていた。
両の乳房は小さいが、お椀型の形状が崩れず、しっかりと隆起を示している。くびれたウエストの下に僅かな恥毛がある。
その毛はないのに等しいほどで、少女のような清潔感が漂っていた。
すばやく少年も全裸になった。
すぐに女に覆いかぶさると、二人は激しくその肉体を貪り合った。
最後に、女の喉の奥からは、野獣のような唸り声で咆哮が何度も放された。
洋一は母の背中にどっと倒れ込んだ。
星屑の町へ
母は絶頂に失神したのか、口を開けてその目も虚ろにして、放心状態のままに天井を見上げている。
生まれてこのかた経験したことのない女の喜びに、体内の全ての臓腑が痺れていた。
自分を抱いた男が息子であることも、すでにその脳裏にはなかった。
その身も心も遠い宇宙の果てにあった。
「母さんもう行くね」
我が子のその声も聞こえてはいない。
少年は裸のまま、母の額と唇に軽くキスをする。
そして立ち上がった。
「サヨナラ」心の中で言う。
マンションを出た。
真夏の訪問者は、長野県佐久にある星屑の町を目指して東京駅に向かった。
完
作者;ガンリイ・ジョンジー
真夏の訪問者 @12036512
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