第四話 事件

 学校で、瑠奈を呼び出して二人きりにさせる。はっきりさせたいことが一つある。


 浩美「麗美のことは......妹はさ、どうするの......」


 瑠奈「?Ωなんだから小作りの道具でしょ?」


 やっと決意した。私は瑠奈とその両親を問い詰めて事の真相を明らかにする。警察に通報してやる。そして人質にされないように先に麗美を家にかくまう。それだけだ。たったそれだけだ。やれる、やろう。やるしかない。


 

 放課後、一年生の麗美のいる教室に行く。


 麗美「あ、ひろみ~どうしたの?こっちの教室に来て。」


 何も知らなそうだ。大丈夫。私が守る。


 浩美「麗美、私と一緒に帰ろう。」


 周りの一年がきゃーきゃー言ってるがそれはどうでもいい。女子高だしこうなる。手を握って急いで下駄箱に向かい、学校の校舎を出て、家へ帰る。


 麗美「あれ?今日一緒に遊ぶ感じ?姉ちゃんは誘わないの?」


 瑠奈のことは言わないでくれ。辛い。


 浩美「私の家にいてくれ。絶対に出るなよ。」


 そう言って外に出て、えっと、110に通報。実の姉が犯罪者なんて妹に聞かせるのはまずいだろうし。


 しかし結果は至極単純なものだった。


 何をおかしなことを言ってるんだという対応であった。


 一瞬戸惑う。そうだ。大規模な事件になってるはずだからどこか別にあるはずだ。専用の電話番号が。


 調べてそこに電話をかける。何かしら知ってるかもしれない。


 

 混線?回線が込み合ってて出れない?


 何度かかけ直したが同じだ。クソっ


 何か起こっているのか、例の事件について最新の情報はどうなってるのか調べてみる。SNSを見てみた。







 浩美「え、な、どういうこと......」



 絶望的な状況。


 スマホを手から落としてしまった。私の行動が遅すぎたのか、悟られたのか?


 さっきまで、やっと警察に通報してやるぞと決意したばかりなのに予想外のことが起こってしまってそれどころじゃなくなった。あまりにもうまくいかない、不運、ついてない。一応私αのはずなんだけどな。


 麗美「あ、浩美どうしたの?なんか慌ててるようだけど.......」


 浩美「ちょっとリビング来てくれ。母さんもこっち来て!!!」



 私が家の前でスマホの画面越しに目にしたものが事実なら既にメディアは大困惑になってるはずだ。


 2023年にもなって辛うじて残ってるがほとんど使われることのないテレビを久しぶりにつける。チャンネルはとりあえずNHKにしとく。


 速報。世界各地で同時多発的に殺人と強姦事件。外見が人間の正体不明の......私はおおよそ知ってるが、それが同時に、世界中で?!海外?!


 母「一昨日、県内で起こった事件と似てる.......よね......」



 母の言う通りだ。主要各国いくつかで発生し、対応が困難な状況だと報道されている......


 それと私だけが驚いてることがある......


 男性の被害者が、いる?


 女性だけとは限らない?


 けど、男の被害者が出てる事件には女性の情報がない。被害にあった人は全員男か、全員女のどっちかのみ。


 邪魔するものは殺すと瑠奈が言ってた。そこまでか?警察だろうと、確かに邪魔をしているわけだから、殺しているわけか?


 今思い返すと、瑠奈は発言の内容がおかしかったが振る舞いがいつも通りすぎて不気味だった。


 

 こちらから何かしなければこっちに危害を与えてこないということ?


 だから対処しようと警官とかが駆け付ければ駆けつけるほど、余計自体は悪化する。そもそも銃持った人相手に優位なのかよ。そんなに強いのか......


 麗美「え、まじなのこのニュース......」


 リモコンを取ってチャンネルを変える。国内は今どうなってる?


 麗美「浩美!私らの通ってる高校で......」


 浩美「どこの情報だ。」


 麗美「SNSの.......」


 まずい。どうすればいい。考えろ。海外だって?私と瑠奈だけじゃない?無茶苦茶だよ。


 ネットの情報でパニックになる可能性がある。そしてまず国内がどうなってるか。島国だから海外から...いや、知能があるんだ。”邪魔”がなければ普段通りなんだ。だからやろうと思えば......


 浩美「麗美、今はまずテレビの情報を見ろ。パニックになるな。私と一緒にいろ。」


 つい最近まで一人で悩みまくってた私が言うのもあれだが、今のところ、一般人の中で一番事情を知ってる......はずだ。


 日本国内だと、東京、大阪、仙台、福岡、神戸で現在進行形で殺人と強姦が起こってる最中......それと私たちが住んでる県の複数箇所。男女どっちの被害かは、混合してる。以上の情報がテレビから得られたこと。


 瑠奈とそれ以外男女関係なく複数人で?同時に事件が起こるってことは、連携してる?何が目的なんだよ。


 私と瑠奈以外にも、バケモンを増やせる”特別なやつ”が何人も、それも日本国内とは限らない?自体が想像以上にでかすぎる。規模が大きすぎる。

 

 ひとまず、国内の状況はなんとか落ち着いて脳内に入った。


 そして、私たちの近くの状況。それはネットに頼るしかない。あるいは学校の、同級生のクラスLINEとか。


 浩美「麗美、クラスLINEとか学年LINEで学校のこと教えて。」


 麗美「あ、うんわかった......」


 私も同級生に聞こうとしたが、どうやら既に話題に上がっていた。


 放課後になってから部活などで学校に残っている人が大勢、被害の対象......らしい。



 何人かが死亡、何人かが凶変、何人かが強姦され、現在進行形で事が起こっている。


 今、この瞬間に。


 浩美「麗美、学校の状況は?」


 麗美「あ、え、えっと、大変なことになってる......嘘でしょこれ.....本当?人が死んだって......」


 浩美「麗美、今日は私の部屋に泊まれ。」


 今私ができること、学校に行って怪物を......全員元同級生で、同じ学校の人たちじゃないか。いやでもこれ以上被害を防ぐには、けどいくらなんでも......


 麗美「あ、い、いいけど、何そのムーブ。アニメの主人公感あるね。」


 浩美「ふざけてる場合か。人が死んでる。わかってるのか?」


 麗美「あ、はい.......」


 イライラする。やめてくれこんなときに。なんで私がこんな役回りにならなきゃいけないんだ。


 浩美「......ごめん、だが人が死んでるんだ。君の同級生、先輩も何人もだ。強姦被害が起こってる。意味はわかるよな。」


 瑠奈と麗美を接触させない、じゃなくてα女性は全員可能性がある。麗美と接触させない。麗美は家にいてもらう。


 そうだ、だからうちの父も可能性が.......


 α女性だから、可能性がある。最悪だ。そんなことになったらどうするんだよ。なんで私が考えなきゃいけない。


 浩美「母さん、父さんが帰ってきたら麗美のことは秘密に。これは絶対だ。麗美、夕飯までに帰ってくる。万が一私が帰ってこなかったら一晩くらいは我慢してくれ。」


 母「は、はあ.......」


 麗美「い、一応そうするけどさあ......」


 先走って言ってしまった。失言。。私が食い止める流れじゃないか。


 とりあえず、とりあえずだ。まずは、そうだ、外出の前に服装。


 制服のまま紛れ込むか、そうでないか。


 両方にしよう。


 念のため普段使ってない私服をバックに詰める。それでいく。学校に向かう。


__________________









 高校に着いたけど、これはどう言い表せば。



 吐いた。


 死体がそこら中にある。見たことある顔の人がいる。学校で話したことがある人がいる。名前を知ってる人がいる。仲がいい人も......


 もしここに瑠奈がいたら、私はどうすれば。


 戦う?戦うって、どうやって?


 話し合いでどうにかなる可能性は、想像できない。


 そもそも、私は何かできる?


 無理、こんなの耐えられない。


 じゃあなぜここに来た?私ならできると思ったから?


 どうしたいんだよ私は。全部明るみにしてやろうと思ったのに先にそっちが正体を表したも同然だ。世界各地で事件が起こってるのは、瑠奈の両親が研究職で海外に行ってるのと関連があるんだろ。何人もの人が裏で何かやってる。そして当然、日本だけでなくいろんなところで捜査が行われて明るみになることが増える。


 

 そんな中、私がやることって、何。


 元同級生のバケモンを殺す。本当にできる?


 校舎内へ入る。血が大量にある。大勢死んでるって程でもない。一人当たりの出血量が多いんだ。派手に肉片が飛び散ってる。荒っぽい。


 

 Ωの女子生徒がいる。


 「あ、ごめん、近寄らないで、お願い」


 浩美「私は襲わない。大丈夫。安心して。」


 「あいつら、何人も来て、もうとっくに......私......妊娠してる......」


 これでもう私があの怪物を殺すのを躊躇う理由、ないだろ。ないに決まってる。人が死んでて、人がレイプされて、それも大勢。

 

 私には荷が重すぎる。けど、ああもう最悪。やらなきゃいけない。

 

 一階を走り回る。目に入る。生きて、立ち歩いてるやつら。


 体の一部が変わってるやつが複数人いる。全員、目に入るあいつら全員殺す。殺す殺す。


 左手の触手を防御に使い、右手で首やら胴体を引き裂く。


 顔は見ちゃだめだ。見たら、おそらく心が持たない。


 二階へ行く。さっきまでとは違う。攻撃を交わされた。気づかれたか?


 違う。それよりも、顔が目に入った。人間の顔をしている。人間の顔をしてるのは、ずるいだろ。卑怯だろ。


 躊躇してしまうじゃないか、私が人殺しをしてるみたいで。



 なんで殺し合ってるんだよ。嫌だよもう。私には感じるんだ。この怪物が私と同じだって。


 人間よりもこっちのほうが私にとって”近い”と感じてしまう。なんと言えばいいんだろう。本能的なものだ。


 仲間を殺してる。


 罪悪感がある。私は人間なんだから、人間の見た目をしてるやつを殺してるっていう意味で罪悪感があるはずなんだ、本来は。


 けど同種を殺してるという感情だ、これは。私は人間ではなく怪物で、同じ怪物を殺している。裏切者。異端。


 相手がこっちに殺意があることを知っていても私のほうが有利。


 数でごり押せてしまう。正直、案外なんとかなるんだなと思ってしまった。思ってたより簡単に殺せるんだな。脆いし、相手の攻撃を弾くのは簡単だし。


 二階を一層した。


 次は三階。顔見知りどころか二年間一緒にいる相手の顔をした、同類を殺さなきゃいけない。


 


 もう目が慣れた。別にあいつらの”攻撃”とやらは早いわけじゃない。


 両手で、一斉に”二人”殺す。


 なんかやけに体が軽いな。


 普通こんなにジャンプできない。命がかかってる状況とはいえ、α性とはいえ、限度があるでしょ。


 足元の攻撃を回避して床と天井のど真ん中を基準に我が手で薙ぎ払う。


 必中だねこれは。


 向こうが同じことをしてきてもなぜか避けれてしまう。こっちは二つ武器があるんだよ。


 あ、




 左足が、めっちゃ痛い。


 

 

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