第1話 引きこもりの日々(Side結音)
「……」
ちゅんちゅん、と可愛らしい雀の声。
何となく眩しくてうっすら目を開ける。
あくびをしながら起き上がると、カーテンから光が差し込んでいた。
朝、だ。
時間は8時ちょっと。
パジャマから適当な服——パーカーと短パンに着替えて、リビングへ。
いつものニュースが聞こえる。
キッチンにはお母さん、ソファにはお父さんがいた。
ダイニングにはトーストと牛乳がテーブルの上にある。
「「おはよう」」
「おはよ」
こんな私にも両親は挨拶をしてくれる。
当たり前のことかもしれないけど、私にとっては申し訳ないと思ってしまう。
「いただきます」
椅子に座り、トーストをかじる。
焼きたての香ばしい音とバターの味がする。
冷たい牛乳も飲む。
「ごちそうさま」
キッチンのカウンターに皿とコップを運び、歯を磨いてから部屋に戻る。
……暇だ。
学校は通信制だからまだ始まらないし、やることがない。
趣味なんてないし、遊ぶ友達もいない。
寂しいかって聞かれたら寂しくない。
これが当たり前だから。
――私に友達なんかいらない。
いたって邪魔だ。
お互いを知らない間に傷つけ、つまらないことで盛り上がったり喧嘩したり。
相手の気持ちも考えようとしない。
それは他人にも自分にも当てはまる。
だから学校なんて行かない。
勉強は大人に教えてもらったり、自分で予習復習しとけば何とか。
行事も楽しくないし、わざわざ40人で授業をする意味も分からない。
学校の先生は教えるだけで良いと思ってて生徒が理解することなんて考えてない。
今の時代は「問いを見つけて仲間と研究する力が求められている」とか何とか言ってるけどそれも理解できない。
主体的な態度ならまだわかるけど。
昔の私はこれが好き、というものがあった。
けどもう……嫌だ。
あれはもう必要ない。
2度と開くことはないあの扉。
しっかり鍵を閉めた。
……思い出したくない。
人を不幸にしたあの思い出なんていらない。
心が重くなった。
何だか部屋が眩しく感じる。
仕方ない、カーテンを閉めよう。
一気に暗くなる自分の部屋。
「……こんな感じだっけ」
机と椅子とベッド、本棚、クローゼットだけ。
……他に何を置いてたっけ。
真っ暗で、からっぽで、じめじめしていて。
まるで今の私の心みたいだ。
空っぽで何もないはずなのに重くて、暗い。
なぜか涙が滲む。
ああ、もう、死んじゃいたい。
何もしたくない。
私なんかさえいなければこんなことにならなかっただろうな。
――それはダメ、だ。
私には両親がいる。
大切な家族。
唯一の味方。
不登校になって、中学をやめて、高校を通信制にするって決めた時はびっくりしてたけど、「自分の人生だから自分で決めるんだよ」ってあたたかく言ってくれた。
わがまま言っているんだから生きないといけない。
……両親のために。
悲しませたくない。
今の時点で悲しませてるけど、これ以上は悲しませたくない。
それだけを言い聞かせて、私は生きる。
最悪の手段—―自殺なんてしない。
「鬱」になっちゃったけど、それだけはしないって決めて、約束したから。
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