どうしても守りたい理由

取調室に戻ってから私はとあることを捜査官に頼んだ。


それは十数年顔を合わせていなかったアメリアとウィルを対面させようという作戦だった。


アメリアとウィルが顔をあわせるたった数秒間で、うまくいけばアメリアが20人殺しにどこまで関与しているかが分かる。

二人の関係性を読み解くのだ。

二人が残すボディーランゲージから推理するしかもはや手は無かった。


アメリアを面接室へと移動させるルートの途中でウィルの牢獄の前をわざと通る。


無言でもいい。少しの機微も見逃さない。


この数秒が全ての鍵だ。


念の為、カメラも一台設置する。


「アメリア立って。移動よ。」


警察官一名と私とアメリアが同じ歩幅でゆっくりと歩く。


ウィルの監獄へ徐々に近づく。


アメリアもさっきと違うルートに、少し疑問を抱く。

これでいい。

意識すればするほど挙動に出る。


いよいよウィルの視界にアメリアが映った時、ウィルは、ふうと嬉しそうに深呼吸をした後に、こう言った。「やぁ、久しいな。」と。


その声にアメリアは思わず足を止め、チラリとウィルを見た。

そして、その声には反応せず、また真っ直ぐと前を向き歩き出した。


アメリアの目には恐怖の感情は一切なく、むしろウィルのことを見下しているような、汚いものを見るような、そんな目だった。

ウィルに対して怯えているような情を入れているようなそんな目や態度は一切受け取れなかったのだ。



私は確信した。



この事件は「ウィルがアメリアを洗脳し殺人に加担させていた」とそう思っていたが、それは誤りだ。


おそらくアメリアは何もしていない。むしろ殺人なんか知らなかったのではないか?


離れからアメリアのDNAが出なかったことも、アメリアがウィルを怯えていないことも、シーラが殺されたことを知らなかったことにも説明がつく。



この仮説はかなり正しい自信がある。

しかしこの仮説が正しかった時、2つの疑問が浮かぶ。

それはアメリアが無実を訴えないことと、アメリアの娘の存在についてだった。


ーーーーーーーーーーーーーー


「ウィル。この事件にアメリアは関与してない。そうなんでしょ?アメリアは無実だ。残念だったわね。」


「何を言っている。アメリアは俺に獲物を連れてきてくれた。FBIはこんなこともわからないのか?殺人鬼の無実を訴えるたぁ、質が悪くなったもんだな。」


「アメリアをお前の最後の被害者にしようっていう魂胆はお見通しよ。なに?一人で死ぬのは寂しいの?」


「俺から感情を引き出そうったって無駄だ。物事には証拠が必要だ。仮説だけじゃあ、上のお偉いさんは納得しねぇなぁ。」


「いいわ。この仮説が真実なら、証拠は勝手にやってくる。あなたは今、私の仮説に対してYESといったようなものよ。」


「待てよ、もう少し雑談しようぜ。俺はお前に興味があるんだ。」


「私は時間を無駄にしない主義なの。」


「連れねぇなあ。まるで俺の娘みたいだ。そうだ、思い出した。アメリアは自分の娘を殺したと自白した。この罪はどうなる?」


「殺した証拠もない。」


「ああそうだな。でも殺していないという証拠もない。」


悔しいが、その通りだった。殺しに関与しているという証拠も関与していないという証拠もない。どちらの証拠もないなら、シリアルキラーの妻は死刑になる。

しかし、ウィルの言った言葉の通りだと、アメリアが娘を殺した場面をウィルは直接見ていないと、そういうふうに聞こえる。

もしウィルの前でアメリアは娘を殺したなら、証拠のありかやそれを脅しに使うなどなんらかで悪用するはずだ。


ウィルも不確定なのだ。娘がどうなったか。


ーーーーーーーーーー



「アメリア。あなたは本当は無実だったんじゃないの?この事件に何も関与していなくて、本当は殺しが起きていることも知らなかったのではないの?」


「…そうね。何も知らなかったのかもしれない。でも実の娘を殺したのは本当よ。」


「どうして無罪なのにそれを主張せずに娘を殺したことだけ自白したの?」


「罪は罪なの。真実を告げるのが我々の生きている上での使命なの。」


「ならなんで20人殺しに関与してないことを言わず、娘を殺したことをだけを言う?どちらも真実ならどちらもいうべきよ。」


「良い加減にして。回りくどいわ。私から言えることは「私は確実に娘を殺した。」今更何が…何が知りたいの?!」


「あなたの娘のこと。」


「娘のことが知りたいのね!じゃあ教えてあげるわよ!教えればいいんでしょ?」


「…。」


「そうね。引っ込み思案でピアノと歌が上手いの。コンクールにだって出たのよ。いつも笑ってるような、天使のような子よ!」


「…」


「教えたわよ。これをどう捜査に活かすの?無駄な時間を過ごすのはやめたら?」


「分かりました。もう、大丈夫です。」



「なによ!なんなのよ!」


大きな声で何かを必死に隠している姿に私は母親を感じた。

そして、一つ大きな確信をまた持つことができた。



アメリアの娘は生きている。


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